起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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話の成り行きでドーロちゃんに降りかかった災厄……まさかこんな事になるとは思ってもみず。


ウマ耳にMRIって軽く地獄だよね

 

「やあ、おはようございますヴェントドーロさん。よく来て下さいました」

 

 診察室のチェアに座り、メタルフレームメガネの奥から柔和な目で見つめてくる相手。えんじ色のVネックアンダーシャツ(?)の上に白衣を纏って腕まくりをしている好青年。昨日俺がここに運び込まれた時に診察してくれた医務室の先生。胸元で揺れるネームストラップにはこう書いてあった。

 

 織田優翔(ゆうと)

 日本トレーニングセンター学園医務課医長

 医師

 整形外科専門医

 ウマ娘スポーツ医学専門医

 

 俺は先生の前に座り、話を進める。

 

「昨日はありがとうございました。朝早かったのに診察していただきまして」

「いやいや、ウマ娘の肉体のケガは場合によっては一生残る心のケガにもなりかねないからね。そういうことにさせないため、僕たち医務室スタッフがいるので。気軽に訪ねてきてもらって良いんですよ。

 それで、体の方はあれからどこか不調があったとか、そういうことはなかったですか?」

「はい、体の方は順調です。ただ、食欲が凄いことになってます」

「というと?」

「食べ始めると止まらないんです。満腹になるか、ご飯が尽きるかしませんと」

「……それは、ウマ娘なら良くあることでしょう」

「それが、食べる量が異常なほど多いんですよ。普通のウマ娘がどれほど食べるものか分かりませんけど、昨夜の夕ご飯はおかずとご飯合わせて6キロは下りませんでした」

「6キロ以上……ヒトの大人10人前ぐらいを越えてですか……それは確かにウマ娘としても多めだ。それも昨日からですか?」

「昨日からですね。同室の子によると、以前はその彼女よりも食が細かったと聞きました」

「ふむ。そういえば教務スタッフから聞きましたが、君は記憶喪失になったと」

「……そう、ですね。そうなんだろうと思います」

「その言い方ですと自覚はある、と。いつからですか?」

「昨日の朝起きた時からです。目を覚ましたら知らない部屋で、隣に知らない人が寝ていて、その人の頭の上に耳があるので驚いて。そして自分の名前が思い出せませんでした」

「なるほど。自分のいるところが分からない、自分が誰か分からなかった、そういうことですね?

 隣人の頭の上に耳がある事に驚いた、とはどういう事だったのでしょう?」

「その、そんな人間を見た記憶がありませんでしたから」

「つまり、『ウマ娘』を見た記憶がなかった、ウマ娘を知らなかった、ということ?」

「そうですね。ウマ娘とは何か、それすら知りませんでした」

「そうだったんですね」

 

 質問はそこからも続いた。ゲート難を起こした時の状況、走り方を忘れたこと、勉強についてはどうか、他に気になったことはないか、等々。

 根掘り葉掘り聞かれはするのだが、訊き方が上手いのかこちらもスラスラと淀みなく答えていける。

 

「大体のところは分かりました。それでは改めて検査に入らさせてもらいますね。

 昨日はCT撮影でしたが、今日は脳の状態を詳しく見るためMRIで調べます。身体に金属体やペースメーカーとか……って、記憶がないから分からないか。若い競走ウマ娘にペースメーカーはあり得ないだろうし……、少し口の中を見せてもらいますね」

 

 そう言って先生は木のヘラと懐中電灯を使って口の中を見ていく。

 

「歯の治療に金属はないようですね、これなら大丈夫でしょう。

 すみませんがこの書類のここにサインを貰えますか。君は未成年者だから本当なら保護者のサインも必要だけれど、今回は仕方がない」

 

 カタカナでヴェントドーロとサインする。書類を受け取った先生は後ろで控えていたウマ娘看護師さんにそれを渡していた。

 そういえばドーロには親がいるはずだ。だが、それも全く思い出せない。学園にいる間に会う機会は果たしてやってくるのだろうか。会ってどういう反応をされるのか、それを想像すると少し心が痛む。

 

「それでは看護師がMRIに案内するから、ヴェントドーロさんは外の待合でしばらく待っていてもらえるかな」

 

 MRIは昨日入ったCT室の隣だった。強い磁気のため金属パーツのある制服のままでは撮影できないため、更衣ブースで検査着に着替える。終わったらまた制服に替えなければならないが……、一人できちんと着られるだろうか?

 着替えて撮影室に入ると、CTと違って時間がかなり掛かるのと音が凄いのでということで、ウマ耳に耳栓をいくつも詰められる。体も撮影台にがっちりとベルトで固定されて、少々力を入れたくらいでは動けそうになかった。頭も枠のようなもので固定されて準備万端整ったようだ。

 MRIのドーナツ型の本体に押し込められる。圧迫感がすごく、それはCTでも同じ。だがゲート練習の時のような恐慌状態には至らなかった。狭いのは同じだと思うのだが、どうやらあれはゲートだけの問題であるらしかった。

 

 それでは始めますとスピーカーから声が聞こえて、いよいよ撮影に入ったのだが……。

 

『ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ。――』

『――カツン――』

『カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ』

『ビィーン、……ビィーン、……ビィーン、……ビィーン、……ビィーン、……ビィーン、……ビィーン……』

『――』

 

 耳栓をあれだけ詰められていてもウマ耳の感度の前にはほぼ無力。MRIから発せられるブザーのような音が容赦なく脳に突き刺さる。

 しかしそれもちょっと止んだかと思っていたら、本当の地獄はその先だった。

 

『ズドドドドドドドドドドドドドドドヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァガガガガガガガガガガガガガガ!!!』

 

 思わず叫びそうになるところを辛うじて堪える。冗談でなく鼓膜が破れそうだ、いやむしろここで破れてもらった方が楽になれるかもとかイケナイ考えに染まりそうになる。体に力が入って胴体と腕と脚をそれぞれ固定しているベルトがミシミシ軋む。

 もう止めて! 俺のライフはゼロよ! そんな考えが脳裏をよぎる。どこから出てきたセリフか分からないが。

 

 責め苦は永遠に続くんじゃないかという勢いだったが、突如音が止んだ。そして

 

『おつかれさまでした。検査終わりましたのでもうしばらく待って下さいね』

 

 スピーカーから声がすると共に、検査室に人の足音。

 MRIから引き抜かれて拘束が解かれる。耳栓も取り除かれた。看護師さんの声がはっきりと聞こえる。

 

「本当におつかれさまでした。大変でしたね、お耳、大丈夫でした?」

 

 いや大丈夫じゃないが、とは言えず僅かに微笑みを返す。多分それは微笑みではなく疲れ切った表情だったとは思う。

 




次回、ヤバい奴。
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