起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
でも他にやりようもないから検査が必要ならやるしかないでしょう。ウマ娘受難の時代かも……。
『先生……MRIはできれば避けられませんか?』『できません』
そんな会話が日々そこかしこの病院で交わされてる気配。
誤字訂正いっぱいいただきました。ありがとうございます。あまりにもあるので穴があったら入りたい。
かなり消耗した様子に見える、とのことだったので昨日と同じ病室に案内されて検査着のままベッドで横になる。
正直もう二度とMRIはごめんだ。あれに掛かるくらいならまだゲートの方がマシかも知れない、そんな考えに落ちるほど耳へのダメージがすごい。まだ耳の奥でビンビンと響いている感覚がして辛い。自然と力が入ってきて、俺のウマ耳はさっきから絞れたり起きたりを繰り返していた。
……うーん?
これ、半分ぐらい自分の意志で動いてるような?
まさかと思い、まだ爆音の後遺症でクラクラして足取りもおぼつかない中ベッドから降り立ち、病室にある洗面台に両手を突いてもたれかかるように立った。大きな鏡に俺の姿がくっきりと映る。
金色の毛に包まれた頭の上のウマ耳は、左右にへにょりと垂れていた。
白い反射光が横から差してくる明るい病室、それに照らされた俺、ヴェントドーロの整った顔。
少しばかり吊り目だがくりっと開き奥二重、まつげが髪と同色に近いせいか目元の感じが少々柔らかく感じられる。瞳は青みがかった緑色で深みがあって、見るからに愛らしい目。髪の色は金色で長さは肩には掛からず丸みを帯びたシルエット、前髪は右手側から流すように分けられていて、これもまた反射光を浴びて柔らかく輝いている。身体の方はだぼっとした水色の検査着で色気もない姿。だがその後ろで上下左右、ふわんふわんとゆっくり揺れる、髪と同色に輝く長いしっぽ。
衣装はともかく他の部分は控えめに見ても我ながらかなりかわいい。最初に手鏡で見せてもらった時も思ったが、この顔立ちは俺としてはドストライクの美少女だ。
そしてそのドストライクな美少女が、今から自分の意志で耳を動かす。今までどうにも動かなかった俺の耳だが、なんとなく予感がしている。
今なら動かせるようになると。
へにょりと垂れた耳を両手でそっとつまんで伸ばしてみる。伸ばして垂らしてを何度か繰り返して、力の入る感覚を掴んでいった。次に手のサポートはそのままに、これと思った感覚で力を込める。すると垂れていた耳が少しだけだが伸びる様子が鏡に映った。
「うぇ? う、動いた?」
力を抜くとさらに伸びる。垂れると思ったが意外な方向性に少し戸惑う。
「うえぇ? 力を抜いたら垂れると思ったけどそうじゃないんですか。これは難しいかも」
少し怪訝な表情になって眉根が寄った。すると今度は前に向かって垂れてくる。そのままさらに眉をひそめて怒ったような顔つきに、すると耳はキレイに外向きの弧を描いて引き絞られた姿になった。
(表情に合わせて動く向きがあるみたいだな。これが基本の動き、ということで良いのか?)
百面相をしながらそれに釣られて動く耳。さらに片目だけ閉じたりして顔の半分だけ表情を変えつつ変顔を重ねる。すると片方の耳だけ別の動きを少し見せたりするので、今度は逆もやってみる。そんなことに熱中していたら、ふと鏡に他の人物が写り込んだ。
鏡の中の他人と目が合った。暗めの栗色の髪、それをショートにしたウマ娘がこちらを眠そうな目つきで窺っていた。鈍い紅色をした瞳には光がなく、何を考えているのか推し量ることはできないが、白衣を着ているので生徒ではなさそうだ。
しばらく目線を合わせていたが、口を開いたのは彼女の方だ。
「やぁ、君が……ヴェントドーロ君かい?」
「は、はい。そうですけど……あなたは?」
「私かい? 私はアグネスタキオン。URA総合研究所運動科学研究室所属の研究員をしている。
今日はなにやら走ることができなくなった上にゲート難を発症したウマ娘が出たと聞いてねぇ……。そこでこうして学園の方に出向いてきたというわけさ。
それで、君だねぇ? そのウマ娘というのは」
目が怖い。瞳の中に光がないのもそうだが、人の奥底までも見透かそうとする眼力が強い。しかもその視線には狂気すら含まれているように感じて、俺は鏡越しでありながら彼女に恐怖を感じた。
辛うじて頷くことで彼女の問いに肯定の意を返す。それがやっとだった。
「ふぅン、まぁ見た感じ普通のウマ娘のようだが?……いや待てよ。変だねぇ、君には何かウマ娘として決定的に足りていないものがあるような……いや、そうでもないな、単にそれが極小になっているだけか?」
アグネスタキオンと名乗った白衣のウマ娘。彼女は俺の真後ろで腕を組み、片肘で頬杖を突いて視線を外して何かを考え始めた。そんな怪しいウマ娘が真後ろに立ったせいで俺は動くに動けず膠着状態が続く、そのとき病室外の廊下から呼ぶ声がして俺の耳が向く。
「おーいタキオン君、どこにいる?」
織田先生の呼び声だった。
その声に反応してタキオン氏は廊下の方を一瞥する。病室の自動ドアが開いて織田先生が入ってきた。
「さっそくヴェントドーロさんと接触したのか」
「あァ、ナースに尋ねたらここだと教えてもらったのでねぇ。まぁ彼女とはちょっとばかり挨拶をしただけだよ。その割にえらく警戒されてしまっているようだ」
「彼女は記憶障害があって少々ナイーヴな状況下だからね。それについては先ほどレポートしておいただろう?」
「それは承知しているさ。今回は接触の手順に多少悪い偶然が重なってしまっただけのことだよ。
そんな訳だよヴェントドーロ君、急に背後に立ってしまい、申し訳なかったね。さぞかし驚いただろうが、どうか気を悪くしないでくれると助かる」
そう言ってタキオン氏は軽く頭を下げる。
俺も事を荒立てる気はないので、向き直って同じように頭を下げる。
「いえ、こちらこそ無礼な態度だったと思います。気がついたら後ろにおられて少々驚いてしまいました。申し訳ありません」
双方が頭を下げて一旦この件はおしまいになった。引き続き俺のベッドで3人、話し合いは続く。
「ヴェントドーロさんにはこのあとすぐURA研究所に私たちと向かってもらってですね、そこでさらなる検査をしたいと考えています」
「検査はこの私がすることになるが、織田君もいる。なぁに簡単な検査さ。だが機材がここにはないのでね、研究所の方に出向いてもらう必要があるというわけだ」
URA総合研究所はここトレセン学園の隣の敷地にあるという。広大な学園の敷地を横切ることになるため、俺とタキオン氏はともかくヒトである織田先生の足で移動するのは骨が折れる。そこで3人揃ってクルマで移動することになった。
次回、やっぱり怪しい。