起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
あとがきにお知らせがあります。
「どうしてここに馬がいるんですか?」
馬から目を離せないままそう問いかけた。見つめる俺の目に、その馬もまた見つめ返してくる。
ふと、そこで気がつく。ああそうだ馬に人の言葉は通じないんだったと。
でもついさっきは通じるような気がしていた。ごく普通に隣人のような感覚で。
そのうち馬の方が顔を背けてしまった。それでも片方の瞳だけは変わらず俺を追い続けているのだが。
ゆっくりと馬に近づいて
「よしよし。おとなしいですねあなたは。すごく馴れてますけど、私とどこかで会ったことがあります?」
馬はそれには答えず目を細めるだけで、俺はひたすら頬からあごの下を撫で続けた。
そのうちに飽きてきたのか馬の方から手を避ける。もう終わりかなと思ったら、今度は近づいた俺の顔をベロベロと舐めてくる。
「うぷぷ。ちょ、ちょっといきなりそれは反則ですよ。嬉しいのは分かりますけど」
馬の大きな舌で舐められては、俺の顔もすぐに濡れてベタベタだ。だが不思議と嫌な気持ちにはならず、目の前の顔からは純粋な嬉しさだけが伝わってくる。
「なんとなく気持ちは分かるんですけど、本当になんとなくですね。もっとはっきり分かるようになれる気がしますけど」
ベロベロにも飽きたのか、馬はついに立ち上がる。立ち上がってもスキンシップは止まず、俺の顔、背中へと首を回してじゃれてきた。
「本当に懐っこいですねあなたは。あ、女の子だったんですね」
馬が体を返した時にそれと分かった。さらにくるっと旋回して再び頭が近づく。
俺のウマ耳と彼女のウマ耳が触れ合う。少し力を入れて頭でぐいっと押してきたりもするが、こちらも力負けしないで頭で押し返す。
「ウマ娘の力なら押し負けませんね。私もウマ耳持ちですから、もしかしたら仲間だと思ってくれているんでしょうか」
押し合いをしていたら、ぷいと離れた。背中を見せてこちらに顔だけ向けてくる。
「……移動します、って事です?」
軽く首が上下に揺れるその仕草はもしかして肯定なのか。言葉が通じてるのかと怪訝に感じつつ彼女の肩口にそっと近づくと、そのまま並んで歩く形になった。
ザクザクとくるぶしまで埋まる程度に伸びた草を分け入って歩く。一体どこに向かっているのか分からないが、緩やかな斜面を下りつつあるのは分かる。
そのうちに二人とも足早になってきて、とうとう軽く走る形になった。
すぐ隣からダッカッダッカッと重量感のある足音が響く。俺の方は相変わらずザッザッザッザッと草を分ける音。体格の差を強く感じる。走るスピードは互角なのだが。
そのうち前方に湖が見えてきた。このまま真っ直ぐ進めばすぐに水辺にたどり着いてしまうだろう。それもなんだか面白くないように感じる。
目配せすると彼女も同じ考えなのか、湖に向かっていた進路を左に変えていく。俺も追随して走る。スピードが上がって足音のテンポが変わった。正面から吹き抜ける風がさらに勢いを増すけれど、それは苦しくはなくむしろ心地よい。昨日ルジェさんに姫抱っこされて走った、あの時の感覚が蘇る。やっぱり俺は風を切って走るのが一等好きらしい。
並走する彼女は俺よりもずっと大きい体なのに、軽い自分よりももっと速く走れそうに感じる。それだけのパワーが大きな身体に満ちているのが分かる。このままどこまで出せるのか、彼女と俺自身の限界をちょっと見てみたくなった。
俺はグッと脚に力を込めて前に飛び出した。自然に脚が前に出せるようになっていた。転ぶこともなく加速が付いて、すぐに彼女の姿は視界の端へと飛ぶ。
俺が前に出たことに少し驚いたようだったが、すぐに彼女は付いてきた。むしろ本気を入れた俺のことを励ましてくれているような、そんな気持ちが伝わってくる。
二人とも大きく息を荒げつつ草原を駆け抜ける。俺にとってこのスピードは、今まで自分の脚では出したことのない領域。トレセン学園のトラックで俺のことを抜いていった彼女たち、そちらの速度域に達しているのが分かる。だが、足はもつれることなく前へと飛び、後ろへと蹴り上がる。隣の彼女もまた全身をバネにして駆ける、駆ける。どちらかが少し前に出れば、もう一人がすぐに追いつく。それを何度も繰り返すうちにどんどんと速度が上がっていって、ついに二人完全に並んだままこれ以上スピードを上げられないところまで来た。
湖の岸辺を右手に見たままそれに沿って駆けていくと、緩やかな右カーブの先に1本の樹が生えていた。あそこがゴールらしい。
俺も彼女も最後の力を振り絞って樹に向かって走る、跳ぶ、そして最高のスピードで駆け抜けた。
二人並んだままスピードを緩めて、大きな弧を描くようにその樹の根元へ。俺はそのまま草の上へ大の字で寝転がった。
「はッ!……はアッ……ぜッ!……カ、ヒュッ!……」
息が切れる。全身の細胞が酸素を欲して大暴れしている。
鼻からだけではとても足りず、口をこれでもかと開いて酸素を取り込むが追いつく気がしない。身体の要求量と口からの供給量とがちょうど拮抗していた。もちろん胸の動悸は今まで経験したことがないくらいのハイビートを保っている。人間のものとは思えないそれを感じつつ、それでもなお意識を保てているウマ娘の身体、その強靱さに舌を巻く。
むしろいっそ意識を手放せたなら楽になれたのだろうが、しかしこの身体はそれを許してくれない。
彼女もまた息が荒い。鼻が大きく開きブオンブオンと鳴る。だが四本脚で直立しているせいか俺よりもずっと余裕があるように見える。
しばらくそのまま立っていたが、一足早く落ち着いたのか彼女が俺の顔に鼻先をくっつけてきた。
「あなたはもう回復できたんですか。やっぱりお鼻が大きいと違いますね。
ウマ娘もパワーは馬並みですけど、少し違うんですね。こればっかりはヒト型だから仕方がないのでしょうけど」
俺も多少回復して息が整ってきた。身体を起こして彼女と差し向かう。その瞳から嬉しい気持ちが伝わってきた。
最初にしたように頬を撫でると、さらに嬉しい気持ちが漏れ溢れてくる。
「思ったんですけど、あなたはとっても可愛いですね」
果たしてその可愛いが伝わったのか、彼女はブヒンと一つ、鼻を鳴らして答えてくれた。
すっかり落ち着いた俺は立ち上がった。
いつの間にか冷たくなった風がまだ上気している頬を撫でる。ふと空を見上げるといつの間にかそれは明るさを失って、紺色へと装いを変えていた。楽しかった時間ももう終わりが近いようだ。
「もうお別れなんですね……。ねえ、また逢えますか?」
その答えは彼女から伝えられることのないまま、世界はどんどん暗転していき、やがて彼女の気配も闇に呑まれてしまった。
また、あのクラシック音楽が聞こえてくる。
世界はいきなり明るくなって、見覚えのある映像が目の前に映し出されていた。
次回、世間の反応。
お知らせ
ついにストックが尽きました。ですのでしばらく休載させていただきます。
構想はあるのでフィニッシュへの道筋は付いていますが、個別のイベントがなかなか出てきません。三人娘はどうやら三食一緒に食べてお風呂で洗いっこしてれば幸せらしく、三人の世界から外に出てきてくれないんですよね……。