起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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おひさし、待った?

更新が止まっている間に評価が爆増しまして、おかげさまで安心できる圏内に届きました。好評価戴きありがとうございます。


トレーナーを凌ぐ

 

 着替えてクラスメイト達の後を追うようにトラックへ出る。隣にはリズちゃんが付き従う。

 

 周りからは昨日よりもやや距離を置かれているような感じがする。昼間あれだけの大コケをして、その上寮の夕食ではあり得ないほどのドカ食いを見せつけてしまえば、そのハチャメチャぶりに危険信号も灯るというものか。

 ただ距離を置かれつつも、俺を見る目には怯えや侮りといったものは感じられない。そこにあるのはむしろ敵意に近い。聞いた話で元々ドーロは実力者だったことへの警戒と、さらにウマ娘2人を常に侍らせて傍目には余裕に映るその態度への妬み。それらが複合して感情を滾らせているように映る。俺としてはそんなに買いかぶられても何も出せませんよ、という心情でしかないのだが。なにせ昔のドーロと今の俺とでは競走能力にとてつもなく差がある。それが世間に知られていないだけで。

 

 コースへ出る前に観客スタンドで練習のミーティングが始まる。昨日と同じウマ娘の教官が声を張り上げている。他にも数人ウマ娘教官達が前で並んでいたが、その並びから少し離れるように立つトレーニングウェア姿の男性も。

 

「え? 織田先生……どうして」

「ドーロちゃん、知ってる男の人?」

「昨日、今日とお世話になった医務室の先生ですよ」

 

 どういうわけか織田先生がいた。ウマ娘ばかりの中に一人だけいる男性はさすがに目立つ。気がついた生徒達から発せられるひそひそ話が漏れ伝わってきた。

 

「……それから……ヴェントドーロ、いますか?」

 

 教官の呼ぶ声がした。

 

「は、はい!?」

 

 まさか呼ばれるとは思っておらず、驚きと共に返事する。

 

「そこにいたわね。このミーティングが終わったら少し残ってちょうだい」

「わ、わかりました」

 

 生徒達の集団がコースに降りていく。俺がリズちゃんと共に留まっていると、教官の方から手招きされた。織田先生もそこで合流する。

 

「リーゾアラチェートは通常練習に入ってもらって構わないのだけど」

 

 俺の傍を離れずにいるリズちゃんを見過ごさず、教官がやんわりと注意する。だが彼女がそんな程度で動くわけはなく、顔をしかめただけだった。いや、教官に向かってそんな態度を臆面もなく見せるのもどうかと思うけど……。ともあれ話を切り替えることにして、最大の疑問点をぶつけてみることにした。

 

「それで、織田先生がここにいるのはどうしてですか?」

「疑問に思うのももっともだね。僕は君の走行フォーム指導をするためここに来たんだよ、ヴェントドーロさん」

 

 え、トレーナーでもない織田先生が俺のフォーム指導とは?

 その疑念が俺の顔に出てしまったのだろう、教官がすかさずフォローを入れた。

 

「実は織田先生はウマ娘の運動器研究では日本でも屈指の方なのよ。ウマ娘スポーツ医学専門医資格も所持していらっしゃるけど、ご専門はウマ娘の走行フォームについて、でしたよね、先生?」

「はは、面と向かってそんな紹介を受けると少し恥ずかしいけどね。確かに、専門はウマ娘の走行フォームと脚部故障との関係性についてですね」

 

 本来であればウマ娘のトレーニングは資格を持った教官かトレーナーが専任するのだが、今回は俺の治療を兼ねるという名目を付けて織田先生が担当することになったという。

 

「学園はご存じの通り人手不足で、手の空いたトレーナーも教官もいないんだ。でもヴェントドーロ君の治療と指導は僕が責任を持ってさせてもらうから、心配しないで欲しい」

 

 そう言って眼鏡の奥が優しく笑った。

 その自然なかっこよさに俺は一瞬フリーズしてしまう。

 

 ……いや、これ純粋なウマ娘なら一発で沈んでしまうんじゃないか? 今の俺はまだ男としての自意識が多少残っているので事なきを得たようだが……。そう思って視線を配ると、先生の横にいた教官が挙動不審になりかかっていた……。選りに選って教官がですか、ダメじゃん。……リズちゃんは……、ちょっと目を見張っていたがなんとか無事だったようだ、さすが。

 

 ともあれ、俺は織田先生監督の下でクラスメイトとは別メニューで練習を始めることになった。ちなみにリズちゃんはやっぱり俺の方にくっついている。

 

『ドーロちゃんはまだちょっと普段の生活も危なっかしいところがあるんだよ。だからリズがお世話しないとダメなの』

 

 そんなことを言ったら織田先生がOKを出してしまったからだ。先生も大概チョロかったよ……。

 俺たち3人はコースではなく内フィールドへと向かった。昨日ゲート練習をした場所のさらに隣で、小さく柵で囲われていた。

 

「さて、ヴェントドーロ君。聞くところによると朝練で多少走ってはいるそうだね。今どんな感じになっているか、見せてもらっても?」

「分かりました。柵に沿って軽く走れば良いですか?」

「そうだね、お願いするよ」

 

 いきなり走ろうとするところをリズちゃんに止められて、ウォーミングアップから始める。いくら毎日のように走っていて体がある程度できてると言っても、準備運動もなしでは故障の元だよと(たしな)められた。

 先生もまったく同意見らしく

 

「基礎的な部分もごっそり抜け落ちているようだね……記憶障害は考えていたよりも重篤かもしれない。リズさんに付いてきてもらって正解だったようだ」

 

 柔和だった先生の表情が厳しくなる。それと共に纏う雰囲気ががらりと変わって、何事も見逃すまいとする刺すような視線を感じるようになった。

 ピリッと引き締まった雰囲気の中、リズちゃんの手を借りつつ粛々とアップを行っていく。そろそろ良いかなという彼女の声で、いよいよ走りを見せることになった。

 

 今日のフィールドは昨日のゲート練習の場所よりも二回りは狭く、スピードが出せない。そこで俺は先生の指示の下、フィールド柵のすぐ内側を周回しながらスタートダッシュだけを繰り返す。

 自分でも意外だったが、今朝よりも地面を掴むことができているように感じた。狭い場所なのでこれ以上前には出られないが、遮るもののないコース上であればもっともっとできそうな手応えを感じる。

 

 そんなことを考えつつ数度回ったところで先生からストップが掛かった。

 

「そうですね。言われていたほど乱れてはいないのかな、という印象です。思った以上に地面を掴めている様子ですし。ヴェントドーロさん自身はどう感じていますか?」

「私のことはドーロでいいですよ、先生。

 ……それでどういう感じか、ですか……昨日、それから今朝と比べてもかなり走れそうな感じです。こうなる前の元々がどんな走りだったか私には分からないので、元通りになったかどうかまでは分からないですけど」

 

 もっと広いところで試してみたいですね。と先生がコースを見回す。ちょうど内側のダートコースが空いていたようで、俺たちはそちらへ移動することになった。

 




次回、望外の出来。
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