起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
評価をまた2件も入れていただいていました。好評価、ありがとうございます。
コース下の地下道をくぐって、2つあるうちで内側のダートコースへ向かう。3人連れ立って歩きながら先生がリズちゃんにも何か尋ねているようだ。初日の様子はルジェさんが詳しいです、とか会話している。地上へのスロープを上ればそこはもうコースのすぐ脇だ。
白い柵で区切られた幅10メートル以上はあるダートコース。コースの外側半分には所々進路を遮るようにハードルが設けられ、白く日差しを照り返す砂には規則正しい箒目がどこまでも続いていた。外側の柵を越えてすぐ隣のコースではクラスメイト達が時折駆け抜ける。あちらもダートコースのようで砂煙が上がっていた。
「15分ほど空き時間があったので予約を入れておきました。時間はあまりないですからちゃっちゃと見ていきましょう。
このコースは障害レース練習用でもあるので所々に障害が配置されていますが、内ラチ寄りの幅5メートルくらいはパスできるように障害がありません。今回ドーロさんに走ってもらうのはこの障害のない内ラチ沿いです」
コース全長は1200メートルもあっていきなり1周するのは大変なのと、あまり遠くに行かれても観察できないということで、直線部分の約300メートルを往復することになった。さらにリズちゃんが併走して、何かトラブルがあった時すぐ助けてもらうことに。
「最初からフルスピード出そうと思わないで下さい。まず最初の1往復は脚の調子を見つつ抜き気味に走ってもらえますか」
「リズがペース作ろうか?」
「そうですね、できるのならその方が良いでしょう。1000メートル90秒ぐらいからとして……300メートル直線で30秒切るくらいでしょうか?」
「すごく遅いね。でも、初めはそれぐらいで良いのかな?」
「ドーロさんの様子次第ですけどね。楽に付いて来られているようならペースは上げてもらっても構いませんよ」
こうして、俺にとって初めてのコース実走が始まった。俺とリズちゃんは4コーナー終わりの地点に立つ。先生は直線中ほどに陣取った。
「ドーロちゃん、リズが先行してペースを作るから付いてきてね。戻りの方は多少前に出ても良いよ。リズは一定のペースで走るから。
スタートはドーロちゃんにお願い」
分かりましたと一言返し、俺の方からカウントダウンしていよいよスタートする。
ゼロと同時、蹴り脚に力を入れて前に出る。先生に言われていたとおり最初は軽めにややゆっくりと。すぐにリズちゃんが右前に出て半歩先を行く。今回は彼女を抜かないようにスピードを合わせていく。
ややゆっくり、とは言ったが300メートルを30秒そこそこで走り抜くスピードだ。それは言い換えれば100メートル10秒弱ということでもあって、最速のヒトがようやく出せるスピードをウマ娘は軽いランニング程度の感覚で出してしまう。そして俺も今や
いや、遅く感じてしまう一番の原因は多分、あの夢の世界での出来事のせいだ。あそこで俺は何にも縛られることなく自らの最高速を出して駆けた確かな経験が、記憶がある。
脚捌き、上体の振り、しっぽのバランス、他無意識なまま行われた走りのための様々。ドーロの身体に染み込んでいたそれら走りの記憶が、あの限界に迫った併走によって俺の経験として刻まれた。だから先ほどのスタートダッシュも、そして今この併走も、今朝までとは比べものにならないほど身体が自然に動く。
それ故この程度のスピードなら、一定速度になってしまえばそれを維持する力は必要なかった。むしろ迂闊に蹴り足を強めると前に飛び出してしまう。既に気をつけなくても自然に踏み込みは入るけれど、その一方でつま先の掛かり具合に神経を使う。掛かりが深ければ蹴り足が強くなりすぎるからだ。一歩踏み出すたび深すぎず、浅すぎずの微妙なコントロールが要求されて、地味に頭を使う。
規則正しい歩調で先生の前を駆ける。ちらりと見えた顔つきは真剣そのものだが、困ったような表情はしていない。どうやら俺の走行フォームは今のところ問題ないようだ。
そんな事を考えつつ走っていたら、すぐに直線の終わりがやって来た。速度を緩めて揃って回れ右、再びスタートするため並んだところで、もっと速くても全然大丈夫そうだねとリズちゃんに言われる。俺は黙って頷き返した。
今度はリズちゃんが音頭を取って戻りがスタートした。先ほどよりもピッチが上がり、やや離される。だがこちらも走れるようになっているのですぐに追いついて並ぶ。真横に見えたリズちゃんの口元が嬉しそうだ。
1回目以上に早く直線が終わった。少し息が荒れたが大したことはなさそうだ。リズちゃんに至っては普段と全く変わりなく、本当に走り終えた直後なのか分からないほどだ。
「この調子ならコース一周しても大丈夫そうだね? それにドーロちゃん、もうすっかり走りを取り戻してるように見えるよ」
「そんなによく走れていますか?」
「うん。今朝と比べても見違えるぐらい良くなったと思う。だから、もっと走ってみよ?」
改めて先生の下へと向かい、コースを一周したいと申し出る。先生としてもこれだけ調子を戻しているのなら全力に近いところを見てみたいと思っていたらしく、あっさりと許可が下りた。
「ドーロちゃんはどこまで出せそう?」
スタート前の打合せ、リズちゃんが話を振ってきた。その問いは俺の考えの及ばなかったことで、どう答えたら良いか分からず口ごもる。
「コースが狭いから無茶すると危ないとは思うんだよ。でもね、リズはドーロちゃんの全力を一度見てみたいな」
「思い切り走ってみて欲しいということですか?」
「そう、そういうことだよ。でもコースに障害ハードルがあるから、4コーナー出口は外に膨らむと危ないと思う」
「じゃあそこだけ気をつけて走るとして、あとは……出せるだけ?」
「そうだね。リズも負けないように走るよ、だからドーロちゃんも本気でお願い。リズのわがままだけど……」
「良いんですよ。私もどこまで行けるか試してみたかったですし」
リズちゃんの表情はすごく嬉しそうだったが、その瞳には闘争の炎が確かに宿っていた。
次回、一騎打ち。