起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
なんかもうちょっと前書きに書こうと思ってたことがあったはずなんですが忘れちゃいましたね。よくある。
「さぁトドちゃん、いつもの脚、見せておくれよ」
プリ子ちゃんが声を掛けてすぐ、副教官の合図で練習レースは始まった。
声かけに気を取られた。ほんの僅かとはいえ出遅れる。時間にしたらコンマ1桁とかだろうけどウマ娘の能力を舐めてはいけない、スタート直後の差は10メートル近い最後方となった。
和気藹々、なんて思っていた自分が甘かった。まだトレーナーも付いていない者同士ドングリの背比べかも知れないが、来たるべきその時に自らが真っ先に選ばれるため、既に激しい競争は始まっていた。
気を引き締めて前に注目する。駆け引きとか俺にできるとは思わないが、それでも事前にあれだけ煽りとも取れる期待を向けられていた事実は揺るがない。ドーロの能力は決して低くない、それはこの2日間で俺が一番実感しているし、周りから受ける評価もそうだ。だから、ともかく前方5人に追いつくところから始める。レースは未だ1コーナー中間、まだまだこれから。
2コーナーに入るところで差し追込の4人に追いついた。先行得意と言っていたプリ子ちゃんはそのさらに前、かなり突出した位置取りでもうすぐ2コーナー出口が近い。直線からは全員総力戦、だからここでこの4人の前には出たい。だけど。
その4人がほぼ横並びで、目の前に壁を作っていたとしたら。
正直ここまでされるか、という悔しさが湧いた。逆に言えばそれだけ警戒されているということでもある。それはそれで光栄なことだが今ここでやられるのは正直参ってしまう。ともあれコーナー途中で大外から壁を乗り越えるのはいくらなんでもキツすぎる。それに、他人から一目置かれる立場であるなら能力は遜色ないということ。追いかけてくる差し追込の娘たち相手に、ドーロはゴール前でも互角に競えるということだ。だから、今はこの壁の後ろで臥薪嘗胆を決め込むしかない。とりあえずそう腹を据えて4人の直後を追走していく。
2コーナー出口、一足先にコーナーを切り抜けたプリ子ちゃんの蹴り飛ばす砂煙が高く上がる。それを合図に後ろ4人も動き出す。目の前でドッと砂が上がり、それを全身に浴びながら前進する。顔に直撃こそしなかったが吸い込む空気は一気に砂臭くなった。
さて内から抜けるか外から巻くか、それとも真ん中を突っ切るか、前4人の動きを見ながら追走を続ける。脚はまだまだ余裕あり、負担にならない程度に左右のブレを作って隙間を探す。人数は少ないから突破さえできればあとは最大加速で抜ければOK、そこまで予定を組み立て隙を窺う。
とにかくプリ子ちゃんには追いつきたい。なぜだかそんな意気だけはある。視界の左をカッ飛んでいく残り800ハロン棒、そこでテトラちゃんが前に出て後ろ3人もやや崩れ、壁が2人並びに小さくなった。
ここしかなかった。
脚を一気に入れしんがり外側リアちゃんを最短距離で捕まえて、そのまま回転を上げて抜き去る。完全に正攻法のやり方だが、ドーロの脚は俺の意思通りの働きを見せる。プリ子ちゃんはもう3コーナー入り口目前だ、ここで追いつかなければもう間に合わない!
それは焦りかそれとも負けず嫌いか、先行する目標に向けて全速の脚。一段と低く、低く跳ぶ。残り600メートルを超え最高速のままアウトからコーナー突入、目指すはプリ子ちゃんのイン側へ。強まる遠心力相手につま先が、くるぶしが、膝が限界を叫ぶ。だが、ここで追いつけなくては。
「おおおおおおおおおっ!」
人間、必死になると自然と声が出る。その声に気づいたのだろう、プリ子ちゃんの顔が俺を振り向いて、そしてにやっと笑った。そのまま彼女のスピードが緩んで、そしてあっという間に右側後方へ飛び去った。
なにが起きたか、分からなかった。彼女がわざと力を抜いたようにしか見えなかった。頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くさんとした時に、4コーナーの終わりが見えてようやく気がついた。
(ああ、スピード緩めなきゃ……。そうか、追い抜く直前が3コーナー終わりだった)
脚から力を抜くとスピードは一気に落ちる。そしてそのままコーナー出口で停まってしまった。溜めていた息が大きく吐き出される。
「っひゅ~~~~~~っ。んっかっはっ、はっ、はっ……ごふ」
膝に手を置いて息を整える。口の中がジャリ付いた。
2班のみんなが歩きでぼちぼちと追い越していくのが分かるが、切れた息がなかなか戻らず前へと踏み出せない。そこへ肩にポンと手が置かれた。
「ナイスファイト。トドちゃん」
プリ子ちゃんの声だった。そこにあったのは蔑むような意思ではなく、ただ素直な賛辞。
「肩貸しなよ、連れてってあげるよ」
返事のできないまま肩を担がれてコースから出た。通路の両側をクラスメイトが埋める中、2班の待機位置までそのまま歩く。途中出走間際のリズちゃんが心配していたので、にっこりスマイルを返して軽く手を振っておいた。
待機場所では他の4人が待っていた。みんなが柔らかい表情を見せる様は、さっき紹介を受けた時とまるで同じ。
「いやー、一気にぶち抜かれちゃった。トドちゃんはやっぱトドちゃんだわー」
「前より切れ味良くなってない? 誰よ、今なら大スランプだから一泡吹かせられるはずとか言ってたの」
「はいー、それテトラでーす。だってさー、あんな大コケ見せられちゃーそー思うのも無理ないよねー?」
「同意はするけど納得いかないし。ねえトドちゃん、昨日の大コケって演技じゃないんだよね?」
5人の視線が集まった。うぇ、みんなやっぱり真剣になると目力が怖い。半端なく気圧されながらもどうにかこうにか答えた。
「あの、昨日のは演技なんかじゃないです。
……本当に本気でゲートが怖くて……。今日はゲートがなかったから大丈夫でしたけど、……あったらおそらく走れませんでした」
俺に集まった10の瞳が点になった。
次回、凛と響く。