起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
もしかするとプリ子の口調が合ってないかも。見逃していただけると幸い。
「まぁ一応授業中ではあるからな、レースの距離とかはそれに倣うことにする。ゴールラインは3コーナー出口の400ハロン棒な。但しそこまではアタシとアンタのタイマン勝負だ。スタートからゴールまで全力で頼むわ」
「プリ子ー、うちら後方組はどうしたら良いのさー?」
「あァ? 悪いが今回は後方待機で頼むわ。そりゃ最終局面で絡んできてもらっても構わねえけどさ、トドとアタシに追いつければの話だけどな?」
打ち合わせというほどでもない打ち合わせが終わって、また先ほどと同じように枠順をじゃんけんで決める。今回は1枠にプリ子ちゃん、5枠に俺となった。そしていよいよ2班の走行順が回ってくる。
「ドーロちゃん、いいですか?」
それまで静かに様子を見ているだけだったルジェさんから声が掛かった。
「わたしはドーロちゃんが負けるとは欠片も思っていませんけれど、一つだけ。1200メートルもない短距離ですから、スタートが遅れたら取り返すのは大変です。だから集中して、前だけを見て。
わたしはいつだってドーロちゃんの味方ですからね。気負いすぎずに今出せる全てを出したら、あなたは勝ちます、きっと」
ポンと背中を軽く押されて、俺はスタートラインに並ぶ。
ダートを掻き、足場を固める。視線は最短ルートを示す、第1コーナー。聴覚を研ぎ澄まし、集中を高める。世界の音が、薄れる。かすかに漏れる副教官の呼吸だけを捉え、発せられるスタートの息、今。
今できる最高の飛び出しをこなせた手応えはあった。スターターとの呼吸も多分合った。プリ子ちゃんの出足は気になるが、今は自分の走りに集中する方が先だ。
1コーナーの角に向かって一直線、遮二無二脚を回転させる。1400のハロン棒を突き抜けて間もなくコーナー、そこでようやく視線を左に寄せた。
隣に、真横に、鬼の形相で走る
そのまま並んでコーナーに入る。前に行かせたら俺の負けが確定してしまう。プリ子より半歩でも前へ出るべく脚に力をさらに込めて回転させる。今日3度目となる本気の走りで既に疲れはピークに近いが、それでもやらねばならなかった。しかしなかなか前に出られない。確定的なリードは得られず一進一退の攻防が続く。
2コーナーに入っても横並びのまま駆ける。膠着状態の二人、お互いに全く譲らないまま全速で駆け続けついに直線へと躍り出た。スタートから既に600メートル、ここまで全力を維持したまま駆けてきた。正直なところ既に息が上がって意地だけで前に進む力を維持しているが、隣を走るプリ子もそれは似たようなものなのか、彼女の表情には俺と同様焦燥感溢れた疲れが見て取れる。
無理もない、お互いにこのコースをもう何周かしている。俺はこれで全力の3回目、彼女は何回走ったのか知らないが午後になってずっと走っていたはずだ。
800のハロン棒を通過。脚は回しているはずだが、さっき走った時のように後ろへ飛び去っていく速さは見えない。それでもプリ子が相変わらず俺の横にいるということは、つまり二人とも既に一杯一杯だった。客観的にはまだまだ結構なスピードが出ているであろう辺り、お互いさすがはウマ娘と言えそうだが、3コーナーに至ってついに変化が訪れる。
後方から複数の足音が響いてくる。
気配に気づいて二人同時に振り返る。すぐ背後に後方組4人が団子になって猛追していた。
このままでは彼女たちが先着してしまう。
既に上がらなくなった脚に活を入れて無理矢理前に出ようともがく。プリ子も同じで必死に脚を漕ぐが、お互い速度は全く乗らない。既に酸素不足で意識も怪しくなってきた中、狭まる視界に400のハロン棒が映る。そこで気が抜けたのか彼女がズルッと後方に下がり、勝負ありと思った束の間、外から赤い髪が一気に捲って先頭を駆け抜けた。続く3人にも相次いで追い抜かれ、そこで脚が続かなくなった俺は身を投げ出すようにダートを転がった。
§
気が付くと白い天井だった。目の焦点が合わないせいではっきりとは分からないが、見覚えのあるような、ないような天井。そして目の前にはルジェさんの悲しそうな表情と、これまた今にも泣き出しそうなリズちゃんの顔が頭を突き合わせた格好で並んでいた。
「気がついた?」
「目は開きましたね。ドーロちゃん、聞こえていますか?」
ルジェさんの問いかけに肯定を返すべく、ゆっくりと1回瞬きをする。顔に温かい水滴がポタポタッと落ちた。
「ドーロちゃん……、無茶、しすぎだよ」
リズちゃんはまだ何か言いたげだったが、それきり口を
どうやらまたベッドの上らしかった。徐々に視力が戻ってきて周りの物もはっきりと見えるようになると、今度こそ見覚えのある天井。ここは間違いなく医務室の病室だ。横たわった俺を左右から覗き込むように二人が付き添っていてくれた。
「……すみません。また転んだんですね、私」
「……謝らなければならないのはわたしの方ですよ。わたしがレースの直前にあんなことを言って煽らなければ」
努めて抑制した声と苦悩を額に刻み耳を大きく下げる様子から、静かな猛りを隠せていないルジェさんの自責の念が痛いほど伝わってくる。でも勝負に乗ってしまったのは俺の責任。決してルジェさんのせいではない。
「……ルジェさん、それは違います。プリ子ちゃんの挑発に乗って勝負を受けてしまった私が先ですから。ルジェさんはそんな私にアドバイスをくれた……、ただ、それだけなんです。
あのアドバイスは嬉しかったですよ。あれがあったから頑張れたようなものです」
そう伝えて薄く笑みを浮かべてみたが、却ってそれが心の重石となってしまったのか、彼女は俺から顔を背けてしまった。
3人沈黙する時間が束の間、流れた。
その沈黙を破ったのは病室のドアが開く音。カーテンで遮られていて見えないが、誰が入ってきたのかはすぐに知れた。
「ドーロさん? 大丈夫ですか?」
織田先生の声がした。
次回、抱っこは回避。