起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
リッキーちゃんお迎えできました。やはり必要なのは不退転の決意だったよ。そんなことは17年前アリンに惚れた時に分かっていたはずだったのですが。
長い一日が終わってようやく帰寮の途に就いた。
正直身も心もクタクタなのだがそれはまだ良い。それはまだ良いのだが、波瀾万丈すぎてもうこれ以上大変な日は来ないだろうと思ってた昨日の自分を責めたい。2日目は初日以上に大変になるとか普通思わないよなあ。なにより想定外だったのは2日連続で医務室のお世話になったこと。おかげで看護師さんたちにも顔をしっかり覚えられてしまったような気がする。明日からはお世話にならないようにしたい、とは思うもののこればっかりは何が起こるか分からないし。せめてこれ以上ケガのないように過ごしたいものだ。本気で。
二人に両脇から支えられるように歩を進めながらそんな事をつらつらと思ったりしていたら、いつの間にか寮の昇降口に到着していた。
「それじゃ大浴場で集合だね。ドーロちゃん、ルジェ先輩、またあとでね」
寮の昇降口で別れてリズちゃんは自室へと急いで行った。俺たちも自室へと向かう。
学校の荷物を片付けて、お風呂セットの用意をする。
「ルジェさん、お風呂上がりは何を着たら良いでしょうか?」
「今日は晩ご飯の前にお風呂へ入りますからねえ。お風呂上がりは汗も残りますし、部屋着で良いと思いますよ」
「昨日少し気になっていたんですけど、寮にいる時の衣服になにか決まり事とかあるんですか?」
「いいえ、特に決まりはありませんよ。でも学園で寮以外の敷地に入る時は決まりがありますねえ。そこでは制服か指定のジャージか体操服、もしくは勝負服を着る決まりですから」
「ということは、学園の敷地に出向く予定のないときは何を着ていても良いと?」
「そういうことになりますね。でも学園の外に外出するときにも制服を着て出かける人は多いです。レース観戦や参加で移動する時は制服指定が決まりですし、決まりはなくても近所に買い物に行くときとか。
トレセン生は制服が身分証明みたいな部分はありますから。着ていた方が色々便利といいますか、お得な場面が多いといいますか」
「そういうものなんですね。制服が身分証の代わりですか……」
確かにこんな特徴のある外観を持った制服なんて、他にあるとは思えない。
有り余るパワーを受け止めつつ走る妨げをしないしなやかな生地、お腹いっぱい食べてもはち切れない伸縮性、それでいてウマ娘の可愛さを十二分に表現するための配色や小物パーツの見え方にまでこだわったデザイン。ハンガーに掛けた自分の制服を改めてしげしげと観察してみると、ウマ娘の存在も不思議だが、それに負けず劣らずこの制服も相当に不思議なシロモノだと思えてくる。
「そろそろ行きましょうかあ」
ルジェさんに促されて大浴場へ向かう。かなり傾いてきたとはいえまだ陽の残る時間帯、授業は終わっても生徒の多くはまだまだトレーニング中のせいか、更衣室はガラガラに空いていた。
「さすがにまだガラガラですね」
「そうですねえ」
「あっドーロちゃん、ルジェ先輩、こっちだよ」
リズちゃんが先に来ていた。
3人並んで砂で汚れたジャージ、体操服、下着と順番に脱いでいって、浴室に入る準備を万端整える。昨日から脱衣所、更衣室、寮室と何回も人前で服の脱ぎ着をしているので、早くも裸に対する抵抗感がなくなっている。そうでなくてもトレセン生は忙しいのだ、いちいちい恥ずかしがっていては詰まりに詰まったスケジュールが進まない。
服を脱ぐとき何気なくしっぽが体の前に回り込んだ。なんとなく昨日よりも毛がキラキラしているような?
その様子が気になったので回したしっぽを手に持って顔に近づける。
「しっぽの毛になにかキラキラした物が?」
キラキラを摘まむように指をしっぽの上で滑らせる。指を開いて見てみると、キラキラは細かな砂粒だった。
「ダートの砂粒ですよそれ。あんまり強く摘まんで引っ張ると、毛が傷んでしまいますねえ」
「今日は午後の間中コースに出てたし、ドーロちゃんお砂思いっきり被ってたもんね。しっぽもだけど、髪も肌も砂まみれだからしっかり流しておかないとダメだよ?」
言われてみれば顔も腕もなんとなくざらついた感じだ。見ると腕の肌にもキラキラがこびり付いていた。
これは毎日きちんとお風呂に入らないといけないヤツだ。
「外での活動が多いですからねえ。あっという間にあちこち砂埃まみれになってしまいます」
「砂汚れが残ってると、そこから毛玉ができちゃったりするんだよ。毛玉の処理を後からするのは大変だから、ならないようにする方が大事だね」
そんな感じで始まった今日のお風呂タイム。最初に手を付けたのはしっぽの櫛梳きだった。もちろん自分でやるのではなく、ルジェさんがご自慢の櫛を持ち出して丁寧にしっぽの先から解してくれる。時々軽く引っかかっては引っ張られる感覚はするものの、ほとんど汚れていないのか、それともルジェさんの手さばきが上手なのか痛みを感じる瞬間はなかった。
「そう言えばですよルジェさん」
「どうしました? ドーロちゃん」
「昨日もこんな風に洗いっこしていましたし、周りでお風呂に入っていた他の子も洗いっこしていましたよね。ウマ娘って洗いっこが好きなんでしょうか?」
「そうですねえ。言われてみれば今までお風呂に一人で入った事は数えるほどしかなかったかも知れません」
「そうなんですか……、あれ? 実家ではどうしていたんです?」
「自宅にいるときは母親とか妹と一緒に入りますよ。小さい頃から母と一緒に入るのが普通でしたから、妹とも自然に……。誰かと一緒を特に疑問に思ったことはないですねえ」
「ウマ娘が他の娘のしっぽを洗ったりするのは親愛の表れだって、リズは昔、ママから聞いたことがあるよ」
「ああ、確かにそうかも知れませんねえ。それなりに好いている方相手でないと、しようという気にはなりませんし」
「……そういうものなんですね」
結論としては、ウマ娘は洗いっこをするものらしい。むしろ洗いっこをさせて下さいレベルになることもあるそうだ。翻って自分にそこまでの気持ちが芽生えているかといえば……、まだお返しにやってあげるレベルを脱していないような気がした。
いや、ルジェさんのこともリズちゃんのことも好きには違いないのだが。そういう根底の部分で俺はウマ娘ではないように感じる。今後時間が経つにつれて変わっていくのだろうとは思うが。
ルジェさんの櫛が徐々に尻尾の付け根の方に近づいてきた。今まではしっぽの毛だけの部分を梳いてもらっていたが、いよいよしっぽ本体のある部分にまで届きつつある。そのせいか昨日感じていたようなむずむずした感じが背中を伝って頭に届くようになってきた。このまま進むとまたまずいのでは?
次回、限界に挑む。