起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
シチーさんでダートG1蹂躙して育成進めるのすごく楽しい、栗毛専門トレーナーです。
ルジェさんが考えにふけっている間、俺は改めて周りの様子を見回す。時刻はまだ早朝6時過ぎだというのに、熱心な生徒たちが数人、所によっては十人ほど集まってそれぞれにトレーニングに励んでいた。ウマ娘だけの集まりで大人の姿がないところを見るに、いわゆる自主トレってやつか。ルジェさんもそうだが、ウマ娘というのは本当に走ることがなにより優先するようだ。
翻って俺はどうかというと、彼女みたいになにがなんでも走るという考えにはなっていない。この身体の持ち主、ヴェントドーロがどういう性分だったのかは分からないが、自分の走りに対する感覚は生粋のウマ娘ほどではないと既に自覚できた。
「よし、それじゃこうしましょう。まずはドーロちゃんにもう一回走ってもらって、横からそのフォームをわたしがウマホで撮影しますよ。それから今度はドーロちゃんがわたしのフォームを横から撮ってみて?
見比べたらどこがどう違うか多分分かると思うので」
「あの、撮ってとは言われますけど私、たぶんルジェさんの走るスピードに付いていけないと思いますよ」
「ああ、そうかもしれませんねえ……どうしましょうか」
「だから代わりに走らないで撮りますよ。走ってる横からこうカメラを横に振ればちゃんと撮れると思うし」
「なるほどお。ドーロちゃん頭いいですねえ。それじゃあそういうことでよろしくお願いします」
そうして俺はもう一度彼女の前でへたっぴな走りを披露することに。対する彼女の方は滑るような歩様を見せて、俺とは段違いのスピードで目の前を横切っていった。流し撮りでその姿を追うのも結構大変だ。
「撮れました?」
「撮れました。こんな感じですかね」
俺と彼女のビデオを交互に再生して違いを見比べる。スピードの違いもさることながら、スピードの出ている彼女の方が土の巻き上げが少ないことに気がついた。それに全体のフォームも俺よりずっと前傾姿勢が強い。
「やっぱりヒトの走り方みたいに見えますね。足の出し方が全然違いますし」
「どこが違います?」
「全部でしょうか」
「あう」
「それじゃ分からないですよね。細かい話になるけれど……」
「聞かせてもらっても?」
「……うーんとですねえ、まず前に出した足の着地が違うくて。ほら、ドーロちゃんはかかとから行ってるでしょう?」
「はい」
「わたしはこう。どちらかと言うと爪先から行くんですよ。そうしないとせっかく蹴りで出したスピードが全部死んじゃうので」
「そうなんですね」
「そうです。だからシューズの蹄鉄も爪先寄りしか付いてないでしょう?」
「ほんとですね。そうか、なんだか走りにくいシューズだなって思ってました」
「かかとを最初にデンと置いちゃうから、そこで土が上がるんですね。それから、最後の蹴りの掛かりが浅いんです、ドーロちゃんは。
足裏で土を掴むみたいに掻きながら、後ろに蹴り出してみたらいいと思いますよ」
「……わかった、やってみます。っと、ちょっとフォームの練習してみますから、横で見ててもらえます?」
彼女の前で片足ずつ足運びの練習をする。つま先気味に入って着地、そこから蹴りに持って行こうと動かすと、そんなに力は入っていないはずなのにグンッと体が前に持って行かれる。ウマ娘の本当の脚力、その片鱗を体感した瞬間だった。
イメージとしては片足ずつ前に
数回繰り返して足運びのイメージを固める。改めてその様子を撮った動画を彼女に見せてもらうと、なるほど自分で思っているよりも身体は前に傾いていた。
「なんとなく掴めた気がします」
「それじゃもう一回走ってみましょうか」
「うん、そうします。時間大丈夫ですか?」
「もうすぐ7時ですね。そろそろ朝食の時間になるので、1本走ったら終わりでしょうか」
周りにいた他のウマ娘達もいつの間にかその数を減らしていた。
がら空きになったウッドチップコースのスタート地点。先ほどよりも前傾姿勢に構えて、自分のタイミングで駆け出す。最初の蹴りで身体が前に跳ぶ。それを支えるため反対の足を前へ。もちろん、集中は足先に。すっと抵抗なく刺さる蹄鉄の感触から、足首を後方へ返すように次の蹴りへ。足運びの練習の時よりもずっと強い力が体を前に、さらに跳ばす。加速感が凄い。前に出す足が早々に間に合わなくなって、数歩も進まないうちに俺の体は宙を飛んだ。
「ドーロちゃん!」
ウッドチップの上で受け身を取って、何度か前転したあと止まった場所でそのまま仰向けになっていたら、すぐさま彼女がすっ飛んできた。
「頭から行ったけど怪我してませんか?」
「ああ、だいじょうぶだいじょうぶです。ちょっと足が間に合わなかっただけ」
本当は少し目が回っててすぐに立てそうになかったけど、彼女に心配を掛けるわけにも行かず強がった。心配そうに目を向けて来る中、俺はゆっくりと起き上がった。
「ほら大丈夫、立てますよ」
自分では大丈夫と思っていたけれど、体は正直だった。一度は立ったと思った俺の脚だったが、最後背筋を伸ばしたところでふらっと来た。
「大丈夫じゃないですよそれ。医務室行きますよお」
彼女は言うが早いか、再び土の上に座り込んでしまった俺の肩と膝を抱え込み、あっという間に校舎に向けて走り始める。
姫だっこされながら浴びる朝の風は、目の前にある彼女の不安そうな表情とはうらはらに、とても清々しく心地よかった。
自分の脚でこの風を浴びたいと、そのとき俺は柄にもなくそう思った。
それはそれとして
「あの……ルジェさん、お姫様だっこは恥ずかしいんですけど……」
「だめですよ。
おんぶするよりこの方が揺れないし、運びやすいから辛抱して下さいね」
ルジェさんが駆け抜ける後ろから時々黄色い歓声が湧いて出る。それ、明らかに俺たちに向けて掛けられてるよな。
次回、腹減った。
([20220719]ドーロちゃんの口調を中心に多少修正を入れました。物語に影響はありません)