起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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まさかカイチョーのありがたい締めの一言を頂くためだけにこれだけ時間がかかるとは……。


面談

 

 その部屋は学園の中央棟3階にあった。

 ノックもそこそこにシービー先輩がドアノブに手を掛ける。

 

「やっほールドルフー、おまちかねの彼女、連れてきたよ」

 

 先輩に右手を引かれて部屋に押し込められた。

 その部屋の窓辺に設えられた大きなデスクの向こう、景色が一望できる大きな窓の前に立つ影。

 

「シービー、ドアはノックして欲しいといつも言っているだろう?」

 

 ルドルフと呼ばれたその影から発せられた落ち着いて大人びた声が、俺と先輩を出迎えた。

 

「まあまあ。

 それじゃお使いのお役目は果たしたから、アタシはこれでね」

 

 そう言って先輩はウインクを一つ俺に向けて飛ばすと、あっという間にドアから出て行ってしまった。

 俺は一人取り残されて所在なく立ち(すく)む。

 窓の前に立つルドルフは逆光のせいでよく見えないが、シルエットから俺と同じくらいの背丈を持つウマ娘、髪はロングで、茶系だと分かる。

 

「ようこそヴェントドーロ。今日は急に呼び立てて申し訳なかったね」

「……」

「まあ、立ち話もなんだ。そちらのソファーに腰掛けてくれないか」

 

 彼女は窓辺から動き出し、3人掛けのソファーを俺に勧めてきた。そして自身はテーブルを挟んで俺の正面に座る。

 

「おそらくは初めましてだね、私の名前はシンボリルドルフ。ここトレセン学園の生徒会長を拝命している者だ」

 

 堂々とした態度に柔らかな物腰と礼儀正しい話し方。できるだけソフトな感じを装おうとしているのだが、シービー先輩と同じく内に滾る何かを隠すことができきっていないように感じられた。怒らせると怖そうだなと感じつつ、俺もできるだけ友好的な物腰で対応していく。

 

「そうですね。初めまして、シンボリルドルフ先輩。私は高等部1年E2組のヴェントドーロです。

 ……それで、その生徒会長さんが私にどんなご用なのですか?」

「いや、記憶喪失になってしまって走れなくなってしまったウマ娘がいると噂で聞いてね。それで教務に確認を取ったら君の名前が出てきた、ということだ。急にそんな事態に陥ってしまえば生活することも大変だろう? 生徒会として何かサポートできないものだろうかと考えているのだが、まずは本人の意見を聞くべきだろうと、そういう意図さ」

 

 なるほど、話の筋は分からないでもない。でもなぜ生徒会という生徒全体の利益を追求すべき組織が、俺という一生徒だけに肩入れしようとしているのか。

 

「……あの、どうして私一人にそこまでするのでしょう? 生徒会とは生徒全体の利益を考える組織ではないのですか?」

「……君の言うことは(もっと)もだ、生徒会が公平であるべきだということは理解しているよ。だが私はこうも考えているんだ、一人のウマ娘すら救えずに、ウマ娘誰もが幸福になる世界を作ることなどできないとね」

「ウマ娘誰もが幸福になる。……それはどういう意味なのでしょうか?」

 

 ルドルフはしばらくの間、目を窓に泳がせる。なにやら思案しているようだった。

 

「……言葉通り、の意味なのだがね。不安や悲しみ、怒りなどなく皆が安寧に過ごせるようにということ。

 無論、困難なことだとは重々承知しているよ。幸福の意味や形がそれぞれのウマ娘によって異なることも知悉している。……だが、それでも私はそれを希求して止まないんだ」

 

 それはやたらと崇高な理念だと思った。その一方で誰もが幸福になるなどというのは現実として無理だと思える。だがそれでもやろうとする気概を見せることが、この手の政治的な舞台では意味があるのだろう。

 

「これは単に私の自己満足なのかもしれない。しかし知ってしまった以上は手を差し伸べたいんだ。そんな理由だけでは不足かな?」

 

 おそらく彼女の申し出を今断ったとしても、彼女は他の形で俺への関わりを持とうとするだろう。そしてそれはもっと厄介な事態を招くのかもしれない。あっさりとそう思えるほど、彼女の瞳に宿る情念は強かった。

 

「……分かりました。ですが生徒会長ともあろうあなたが一生徒の私に直接関わるのはやはり少し問題があるのではないかと。

 えこひいきと捉えられてしまってはあなたにも、私にもあまり良い結果をもたらさないのでは?」

「そうだね。それは君の懸念するとおりだ。……ふむ、事は案外と慎重さを要求されるのかもしれないな」

「それに、私は既に学園の中で悪目立ちしています。そこにシンボリルドルフ会長が絡むとなれば、なおさら」

「悪目立ちか……。一体何をしでかしたんだ? 記憶喪失と走行不能になっただけではないのか?」

 

 そこで俺はこの2日で起きたことを簡潔に彼女に伝えた。並外れた大食いの部分ではさすがに驚いた風だったが、思ったよりも平静を保てていたようだ。

 

「つまり走る方についてはもうほぼ問題ないと理解して良いのだね」

「そうですね。人に伍して走ることはできているのでそこは大丈夫かと」

「しかし、ゲート難が酷い、と」

「まだ一度しか試していませんが、その後も記憶のフラッシュバックが起こるほどですから相当悪いのかと。どうすれば治るのか見当が付きません」

「……心の奥底から湧き起こる、抗えないほどの恐怖……か。

 ……わかった。私はそれの改善に力を尽くそう。治療目的とあれば異議を唱える者もいまい。それに君本人の努力だけではどうこうできない事柄のような予感もする」

「ありがとうございます」

 

 ソファーに座ったまま頭を垂れる。話ももうこれで終わりかなと思ったが、会長はまだ何かあるようだ。

 真剣な表情から一転、口元に笑みが含まれた。

 

「……ふふっ、それにしてもオグリキャップの再来とは。

 食べる姿がそれだけ異様だったのだろうし、君がどれほどの実力者として周りの目に映っているか分かるな」

「いえ、実力者だなんて。そんな事はないですよ」

「いやいや、模擬レースでは敵なしだったと耳にしている。君のメイクデビューが今から楽しみだよ。是非とも『行くで! メイクデビュー』と自信を持って臨んでほしいものだね」

「……はあ、できればそうありたいです」

 

 俺が抑えた調子で答えると、会長の目がどことなく寂しげに映った。




次回、伝説の指定席
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