起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
最後に生徒会長が見せた寂しげな表情を気にしつつ、生徒会室から辞去した。来た時と同じように静かに走って自分の教室へ。当然まだ授業中で、俺は後ろ扉からこっそりと席に戻りたかったのだが。
「ヴェントドーロさん、授業が終わったら事情を」
「はい、わかりました……」
まあ普通に先生に見つかるわけで。
授業が終わってから改めて、帰り際の先生に呼ばれて教壇へと上がる。正直に生徒会長に呼ばれた事を話したら、何のお咎めもなく即刻解放された。というか生徒会長だから仕方ない、みたいな言われ方をしたのには内心驚く。おかげで面倒なことにはならずに済んだとはいえ、生徒会長の立場が学園の中では相当高い、もしかすると先生よりも高い位置づけなのかもと思えた。
「ドーロちゃん、生徒会長さんに呼ばれて何話してきたの?」
リズちゃんが傍に寄ってきた。
「記憶喪失のこととか、走れるようになったこととか。あと、ゲート難のことですね。
現状の確認がしたかったみたいです」
「そうなんだ。ドーロちゃんのこと、もう会長さんにまで伝わってるんだね」
「一昨日のうちから聞こえていたみたいですよ? それで色々と調べていたらしいです」
あまりに早い噂話の伝わり具合に、リズちゃんも少々驚き気味だ。
「会長さんってあのシンボリルドルフさんだよね?
入学式の時にお話ししてたの見たぐらいだけど、なんだか怖そうな人だなぁって。ドーロちゃん、怖くなかった?」
「最初は……少し。でも話してみたら怖いというよりも全てに真面目で、どうしても硬い話し方になってしまうようです。
あと、生徒会長をするぐらいだからレースも強いんでしょうけれど、そのせいか気迫が常に漏れていると言いますか。多分そのせいで恐ろしく感じてしまうのかと」
「うーん、強いのは強いよね。無敗でクラシック三冠取ったとか、シニア1年目が終わるまでに7冠取ったとか聞いたよ」
「無敗で……ですか。それは凄いです」
これは俺の方が驚いた。シービー先輩のクラシック三冠には多少すごいと思ったが、さらに上がすぐ傍にいた。
なるほど、ルドルフ会長がシービー先輩を使い走りに寄こすわけだ。とはいえ会長と先輩双方の態度はお互いが仲の良い友達みたいな感じだったが。
そのままリズちゃんと話していたら、横から割り込む声があった。
「なあトド。生徒会長に呼ばれてなに言われたのさ、騒ぎを起こすなとか?」
プリ子だった。喋り方がえらく乱暴に聞こえる。昨日のタイマン勝負の直前からその話し口は治っていないままだ。
「……そんな事は言われていませんよ。ただ私の状況確認をされただけです、記憶喪失とか、走れるのかとか、ゲート難とか」
「そっかぁ……で、それだけか?」
「それだけですよ」
実際には支援をすると明言されたわけだがプリ子に教える筋合いはないし、変な漏れ方をして会長に迷惑が掛かるのも困る。それに話をしただけで実際に何かが動き出しているわけではないのだし。
それで話が終わって離れていくのかと思っていたら、まだ何か喋り足りなさそうにしている。様子を窺っていたらボソボソと言葉が聞こえてきた。
「……あとはゲート難だよなぁ……。
……なぁ、そっちの方は見込みあんのか?」
意外な問いかけだった。無茶な勝負をふっかけてきた彼女から、心配されるように尋ねられるとは思ってもみなかった。単純に気にしてくれているのか、それとも何か裏があるのか。
「うーん。治る見込みは……ない、ですね。治し方が分かりませんし。でもどうしてそんな事を?」
「いやぁ、トドがちゃんと走れてくれないとアタシが困るからさ」
どういうことだろう?
話の繋がりが読めずに困った顔を見せていると、彼女は続けていく。
「アタシさぁ、競り合ってくれる相手がいないとレースでイマイチ気が乗らないっていうかさ」
「テトラちゃんとかトスたんとかいるじゃないですか」
「アイツらは差しだろ? 最後でようやく競り合ってくるからさ、それじゃ遅いんだよなぁ。なんていうか、道中の競り合いがないとペースが掴めねえっていうか燃えねぇっていうか、な?」
「な? って言われても……はあ……、それで同じ先行型の私がいないとダメと」
「そうそう、そう言うこと。やっぱトドは話が早くて助かるわ。記憶喪失になったって言っても、そういうとこは変わんないんだな」
ルジェさんと一緒にいるとヤキモチを焼いて強引に絡みに来るくせに、練習の時は俺がいないとダメとか。
なんとなく面倒くさそうというか、調子が良いというか、これじゃ良いように使われてるだけみたいだなとかそんな事を考えつつ。向こうのペースに乗せられてまた変な方向に話が進むのは嫌なので、なるべく穏やかに話を進める。
「まあ同じ2班なんですから、練習に付き合うのは
「でも、なに?」
「昨日みたいによく分からない勝負に巻き込まれるのはあれきりにして欲しいです」
ここは強めに言っておいた方が良いだろう。俺はキッとプリ子を上目遣いに睨みつける。
さすがに昨日はやり過ぎたと思ってはいるのか、彼女は視線を外して多少はすまなさそうな表情を見せた。
「それからもう一つ」
「今度はなに」
「トドって呼ぶのは止めて欲しいです。大体なんでトドなんですか。私は海の動物じゃないんですから」
「…………」
「…………」
そうして再び睨み合った。だが今日はこちらが優勢のはずだ。
「……あー、うー……。そっか、記憶喪失だもんなぁ……」
そう零しながら軽く頭を掻くプリ子。記憶喪失とトド呼ばわりにどういう関係があるのか分からず首を傾げていると、想像も付かない方向に話が展開した。
「いやさ、トドっていうのは半分はアンタが言い出したことだったんだけどな」
「うぇ?」
「2班の最初の練習の時さ、ヴェントドーロとかドーロって呼ぶのは言いにくいからどうにかなんないかって話になってさ。
そしたらアンタが言い出したんだよ、二文字取って、トドでもドロでも好きなように呼べば良いって。だから2班の連中は皆アンタをトドって呼ぶだろ?」
あまりの展開に思わずリズちゃんと顔を見合わせた。アイコンタクトで『知ってた?』と送ると、ふるふると首が横に振られる。
「そりゃーリズは知らないさ、これは2班の中だけの決め事だしな。でもまぁアンタはこの事を覚えてなかったんだろ? だからトド呼びは嫌だって言うなら今からでも別のに変えるだけさ」
確かに思い起こせば昨日2班の皆は俺のことをトドと呼んでいた。皆にそう呼ばれて、なにか疎外感みたいなものすら感じていたが実態は逆だったのか。だとすれば自分が思い込みを捨てれば良いだけだ。
「どうする? なんて呼べばいい?」
プリ子が迫る。
だが俺としても由来を知ってしまえば何のことはない。答えはひとつ。
「トドで良いですよ。私がそれで呼ぶようにお願いしたわけですよね、昔に。でしたらそう呼んでもらうのが正しいと思います」
「でも、トドは嫌いなんだろ?」
「ついさっきまでは。今はもう好きになりました」
「ハァ?」
「2班の皆が一様にトドと呼ぶから、申し合わせてなにか企んでいたのかと思っていただけですよ。それは大きな誤解だったことがさっき分かったので。だからトドで良いです」
「何だよそれ、アタシらそんなに信用なかったのかよ」
「信用なくなったのはプリ子ちゃんだけですよ。それはあの訳の分からない勝負に巻き込んできたせいです」
「ぐッ……」
ギリッと歯の鳴る音が、プリ子の歪んだ口元から聞こえてきそうだった。
「……まぁ、トドがそれで良いって言うんならアタシも文句ねえよ。
……昨日は無茶な勝負仕掛けて悪かった」
目を逸らしつつボソリ呟いた謝罪の言葉、俺のウマ耳は漏らさず聞き取った。
まあ悪い娘じゃないと思うんだけどね、プリ子は。色々と掛かり気味なだけで。
次回こそ、伝説の指定席。