起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

44 / 83
更新が一回飛んでしまいました。割烹にも書きましたが、主にモデルナのせい。
今回のお話もお腹の虫が主役。


プラチナシート

 

 4限目の授業開始と共にプリ子は自席に戻っていき、その後は何事もなく授業の最後まで進んだ、かに見えたが。

 

『く~~~~ん。きゅるきゅるきゅる。く~~~~ん』

 

 例によって腹の虫だ。

 

「誰かが盛大にお腹を空かせていますね。あと10分だからがんばって。ほら、ざわつかないで授業に集中!」

 

 先生は誰の虫が鳴いているのかまでは判別できないようだったが、クラスのみんなにはバレバレだ。後ろの方の席に陣取る俺からは、ちらちらとこちらの様子を窺う他の生徒達の様子が丸見えだった。

 

『キーンコンカーンコー……』

『きゅ~んきゅんぎゅ~んぎゅん♪』

 

 チャイムに合わせて鳴く我が腹の虫。(しま)いには先生まで失笑しつつ教室を後にする始末だ。今度はさすがに出所が分かったらしい。

 本当に俺の腹の中には別の生き物が入ってるんじゃないだろうか。織田先生やタキオン氏あたりがこのことを知ったらまた食いついてきそうなネタではある。

 

「ドーロちゃん、お昼ご飯行こ?」

『ぎゅんぎゅんっ』

「……はいはい」

 

 パタパタと速歩(はやあし)でカフェテリアに向かうE2組御一行の群れ。当然他のクラスの面々もどんどん合流してくるわけで。目的地はまだ遙か先だというのに前に進めなくなってしまった。

 

「わぁ、今日は混んでるね」

「そうですねえ」

 

 昨日に比べると相当手前で渋滞に巻き込まれてしまった。カフェテリアの入り口が全く見えない位置で、あとどれぐらいでたどり着けるのか見当も付かない。仕方がないので列の流れに身を任せ、隣のリズちゃんとお話ししながら徐々に前へと進んでいく。時折腹の虫がご飯はまだかと声を上げるものの、周りは皆同じクラスの生徒ばかりなので動じる者がいない。時間は掛かったものの昨日と比べればずっと平穏無事にカフェテリアへ到達できた。

 

『きゅん♪ きゅん♪ きゅん♪ きゅん♪』

 

「お腹の虫さん、絶好調だね」

「ようやくご飯にありつけますからね」

「そういえば今日はルジェ先輩がいないね」

「まあ学年が違うわけですし、そうそうタイミングが合うものでもないでしょう」

 

 トレーを片手に料理のコーナーに入ろうとする。

 

「あ! あなた! 今トレーを取った尾花栗毛のお嬢さん! あなたヴェントドーロさんで良かった?」

 

 するとそこで厨房の方から突然声を掛けられた。

 驚いてそちらに振り向くと、調理係のお姉さん(おばちゃん)が手招きしている。

 

「私がヴェントドーロですけれど……何か?」

 

 呼びつけてきた彼女に近づく。

 

「右耳に緑の飾りよね、ああ良かったやっと見つけたわ。実はあなたのトレーは特別なものを使うようにって上から言われててね」

 

 そう言って彼女が取り出したのは昨晩寮でも見た二段重ねの特別トレーだった。

 

「すごくたくさん食べるから、ちょっとでも取りに動く回数を減らせるようにって」

「はあ……どうも、ありがとうございます……」

「おかわりもたくさんしてもらって構わないから、いっぱい食べてちょうだいね。ウマ娘は食べないと!」

 

 そう言って目を細めて軽くガッツポーズを見せるお姉さん(おばちゃん)。その福々しいお顔に、俺の方も少しばかり気分が晴れやかになる。

 その後はいつものように料理を山盛りに取っていく。こんな時にウマ娘パワーはありがたいが、前が見えないほど山積みになった食事を載せてもビクともしないこの特別トレーの強度も相当なものだ。そして例によって周りの生徒達の視線が痛い。

 食事を取れるだけ取って席を探しに行こうとしたら、先ほどのお姉さん(おばちゃん)がまた出てきて声を掛けてきた。

 

 「あのね、度々(たびたび)で申し訳ないんだけど、お席の方も指定があるのよ。隣の黒鹿毛のお嬢さんはお友達? ならご一緒についてきてもらえる?」

 

 リズちゃんと顔を見合わせて不思議に思いつつ、ウマ娘で混み合うカフェテリアの中をお姉さん(おばちゃん)の後を付いて縫って進む。やって来たのは配膳エリアからもそんなに遠くないが、柱の陰に隠れて静けさを保った窓際で景色の良い席だ。テーブルの真ん中には予約席と書いた金属製の銀色をした札が陣取っていた。よく見るとテーブルもここだけは特別なようだ。他の席と比べて頑丈そうな作りに見える。

 

「ここですよ」

「こんな良い場所があったなんて、リズ初めて知ったよ」

「私もですよ。料理からも近いし、でも周りからは本当に目立ちませんね」

「そうでしょうとも。この席はね、昔オグリキャップさんのために用意した特別な席なの」

「えっ? あのオグリキャップさんに?」

「オグリさんはとてもたくさん食べるので有名だったでしょう? 初めは他の生徒さんと同じ席で食べていたのだけど、そのうちに料理の重みでテーブルにガタが出るようになっちゃって」

 

 思ってもみなかった話に、リズちゃんと二人再び顔を見合わせた。

 

「オグリさんが卒業されてからはこの席も一般開放していたのだけど、今日からはヴェントドーロさん専用よ。もちろんお友達と一緒に使ってもらうのは一向に構わないから」

 

 予約席の札は置いたままにしておいてと最後に言い残して、お姉さん(おばちゃん)は業務に戻っていった。

 

「驚いたね、あのオグリさん専用のテーブルだなんて」

「それを私に使わせてくれるというのは……。ありがたいことですけど、なんだか複雑な気持ちです。

 それじゃいただきましょうか」

「いただきます」

 

 軽く言葉を交わしたら、二人とも無言になって食事に集中する。喋っていては時間内に食べ終わらないのと、一度食べ始めると食べ切るまで止まらない俺の食欲のせいだ。

 とはいえ既に3日目、ガツガツと口を動かしつつも周りの気配に耳を向ける余裕は少し出てきていて、途中でリズちゃんがおかわりを取りに行くのが分かったし、これまでのように遠巻きにするギャラリーがほぼいない事も分かる。

 ウマ耳の聴覚ひとつで他との距離感まで測れるというのは驚きつつも、人気(ひとけ)のない静けさの中、今までで一番落ち着いて食事をいただくことができた。

 

 食べ終えてもルジェさんは結局現れなかったが、その代わりいつの間にかLANEにメッセージが届いていた。

 

<ドーロちゃん、どこでお昼食べてるんですかあ? )

[カフェテリアの隅まで捜しても見つかりませんよう )

<もう諦めて今日は一人で食べますねえ。しくしく )

 

 ルジェさんもカフェテリアに来ていたようだが、とうとう俺を見つけることはできなかったようだ。どうやらこのテーブルの目立たなさは格別らしい。

 




次回、雌伏していた者たち。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。