起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
いつもお読みいただき感想もいただき、そして好評価。本当にありがとうございます。
あとがきに少し状況報告があります。
【更新情報】
9月21日に今話の内容に追加しました。部分としては前半段落で教官とドーロちゃんが会話している辺りになります。
「あなたの適性?
ああ、そうね。記憶がないから自分がどれくらい走れているのか分からないものね」
プリ子ちゃんと話した後、俺はすぐさま運動系教官室へと向かった。そこで面倒を見てもらっているトラック練習の主任教官に話を聞いてもらった。
「えーと、あなたの今までの記録……記録……と」
教官は手元のノートパソコンでキーを打つ。画面が切り替わってなにやら細かな表が表示された。左上には俺の顔写真も貼り付けられている。どうやら俺の走行成績が一覧になっているようだった。
「えーと、入学したてだからまだあんまり記録らしい記録もないのよね……。入学の時の資料も見た方が良いかしらね」
さらにマウス操作で画面が変わる。今度は長文がずらずらと書き込まれていた。
教官は画面を読みつつそのまま固まってしまった。双方無言のまましばし時が経つ。
「……これを見るとあなたは一般中学出身だからあまり詳しい過去の記録はないわね。地元のクラブには入っていたようだけど……記録もマイルが1点……2点しか提出されていないし。ほとんど参考にはならないわね、これじゃ」
「選抜レースの登録、どうしたら良いでしょう?」
教官は表示された俺の情報を閉じて向き直る。
「入学した後すぐに行われた適性試走で、あなたは芝の中距離に適性があると判断されたわ。そしてその後の練習走行でも、2班や他のクラスの中距離班のウマ娘と比べて遜色ないタイムは出ているわね」
「つまり中距離で走ってみたら良いのではないかと?」
「そういうことね。具体的には普段一番よく走っている2000が良いのでは? もし他の距離が気になるのなら……そうね、マイルにも希望を出しておけば良いんじゃないかしら。同じ日とはいえ時間を置いて2本走る程度ならそこまで負担にはならないでしょうし」
例年複数の距離を走る子は多くいるという。もちろん選抜レース当日、体力や走力に不足を起こさないことが前提条件にはなるが。
それから、と教官は続けた。
「……芝かダートかと言われれば、やはり芝の方が良いでしょうね。それは足の使い方を見れば確定的なので迷うことはありませんよ。
……ただ、問題はゲートね」
「……やっぱり選抜レースではゲートを使うんですね?」
走ることはできるようになった。走力も同級生と比べて遜色はなくなった。なのでひとたび走り始めればボロ負けという恥ずべき事態にはならないだろう。
それは教官も同じ考えのようだったが、やはり問題はゲート難だ。
「実は、不安材料がなければ選抜レースでも上位に食い込めるだろうと教務の方では事前評価されていたの。その上で今回発症したゲート難と記憶喪失。これは不慮の事態だからあなたに責はないと教務では認識していて、だから医務と協働して治療と問題解決に当たっているのはあなたも知っている通りね。
これら二つの症状は関連しているのではないかとの見立てもあるから、積極的に対策を打って、できるだけ早く解決へと導けるようにする手はずになっているの。
でも織田先生からのレポートでは、記憶喪失については時間が掛かりそうだとの回答を得ているわ。一方でゲート難の方は情動をコントロールしつつ訓練を重ねれば、短期間である程度の改善が見られるのではないかと回答を得てもいる」
教官はそこで一息入れ、もう一度俺の顔を見ながら話を続ける。
「今回の選抜レースを逃すと次は9月の予定。そうなればメイクデビューはもっと遅れて秋の終わり頃になるかもしれない。あなたの実力から言って、それはあまりにも遅いと言わざるを得ないわね。
そこで授業日程としては選抜レースまで残り4日しかないけど、その間あなたにはゲート特訓をして貰うことになったわ。担当は織田先生。先だってと同じように治療名目で取り組んでもらう予定よ。完全に治るには至らないでしょうけど、出遅れ程度に収まればレースで成績を残すことも適うでしょう。
あとはあなた次第なのだけど、……やるわよね?」
一も二もなかった。ここまでお膳立てをしてもらってなお引き下がってしまっては、デビューすら遠のいた上に退学までちらつく。俺は間髪を入れずに頷いて承諾の意を表した。
正直不安は大いにあるが負けてはいられない、他人にも、自分にも。
応諾した俺に対して教官は満足げだ。そして芝の2000と1600、この場で申し込みを済ませても問題ないと教官は言ってくれたが。
「まだ時間があるので出走登録は週末、友達とも話して考えます」
と答えてその場を辞した。
§
思案をしつつ寮に戻ると、ルジェさんが先に帰ってきていた。でもなにやら様子がおかしい。
「ルジェさん、ただいま帰りました……って、どこか体調でも悪いんですか?」
彼女は俺のベッドの上で制服を着たまま枕を抱えて丸まって横たわっていた。声を掛けても動きがなかったが、そっと近づいて覗き込んでみると起きているのは分かる。手を額に当ててみるが熱はなさそうだ。離れる手を追いかけるように、それまで焦点の合っていなかった視線が俺を捉えた。
その途端、ガバッと起き上がって俺の顔をじっと見つめてくる。
なんとなく目が潤んでいるようにも見えた。
ルジェさんの両手がぺたぺたわさわさと俺の顔を
「ドーロちゃん、いましたぁ~~~~~! 良かったですう~~~~~」
「うえぇぇ? ど、どうしちゃったんですかルジェさん!?」
ベッドの上から抱きつかれる形になって、しゃがんだ姿勢の俺にそのままルジェさんの体重が掛かる。普通だったら後ろに倒れるか腰が終わるところを支えきるのはさすがにウマ娘の体幹だった。
絶妙なバランスを保ったまま、首元ですんすん鼻を啜るルジェさんを支えて数分。ゆっくりとバランスをベッドの方に押し戻し、もう一度彼女をベッドの上に正座させる。でも彼女は抱きついたまま放してくれなかった。
「……どうしちゃったのかもう一度尋ねても?」
静かにそうお願いすると、ようやく首に回った力が緩んだ。そしてベッドの上と下からお互いお見合いになる。
「……どこかに消えちゃったのかと思いましたあ……。探しても探しても見つからなくてえ……、気配も感じられなくてえ……」
ぽつりぽつりと答えてくれる彼女の目はすっかり泣き腫らしてしまっていて、耳も今まで見たことのないほどしょんぼりと垂れてしまっている。
普段見せているお姉さん然とした風格はすっかりどこかに消えてしまっていて、今はなんだか親とはぐれた幼い女の子のようにしか見えなかった。
やはりLANEで送られてきていた通り、お昼ご飯時にやや遅れてカフェテリア入りした彼女は、トレー片手に俺を探してくれていたのだそうだ。でもいつもなら近くにいれば気配を感じられるのに、今日だけはそれもなくてカフェテリアの中をうろうろ
「どうしてあんなに淋しく悲しく感じたのかは分からないんですよね……。
おかしいですよねえ、『
『また』という部分に引っかかりを感じる。だが彼女の言う通り俺とルジェさんが出会ったのはこのトレセンが初めてのはずだ。考えても何かに思い当たる節はなく、彼女がそう思ったことは一旦置いておくことになった。
話をするうちにルジェさんも落ち着いてきて、いつものように耳がピンと立ってきた。
「……そのお話ですとLANEを送った時間、ドーロちゃんもカフェテリアにいたんですよねえ?」
「ルジェさんからのトークに気がついたのは食べ終えてからですけどね。リズちゃんと一緒にお昼を戴いていました。……そうだ、今日は特別なテーブルで食べていたんですよ」
「……特別な、テーブル、ですかあ?」
「なんでもオグリキャップさん専用だったテーブルとか聞きました。カフェテリアのお姉さんに案内されたんです、今日からここがあなたの専用席ですと言って」
「そんな席があったんですねえ……1年以上カフェテリアを使っていましたけど、気がつきませんでしたねえ」
「場所はカフェテリアの真ん中辺りの窓辺でした。窓際に柱が立っている所ですよ。柱の陰になっていたせいか、今日は静かに食事ができました」
「……うーん? その近くなら今日何度も探し歩いた場所ですけどねえ……、どうして分からなかったのでしょうか」
その時ルジェさんの学習机で着信音が鳴った。LANEのようだ。
ベッドから降りてスマホを手に取ったルジェさんが、何かに気づいたのか慌てて身だしなみを整え始める。
「今日は晩ご飯のお手伝いする日だったんですよう。少し遅刻してしまいましたあ。
用意ができたらドーロちゃんをお迎えに上がりますからねえ」
慌てつつもどこかのんびりとした物言い。ルジェさんはすっかり調子を戻したようだった。
次回、作戦会議。
前書きでも触れましたが、ここから年末に掛けて自分自身の予定のお話です。
ぶっちゃけますと、絵の方をそろそろ始めないといけない時期にさしかかりました。仕上げるのに案外時間がかかるんですよねぇ。まずアイデア出しから始まって、構図を練って線画を仕上げて、それを取り込んで色塗り……。
年末はイベントも多いです、ハロウィンにクリスマスそして年始と毎年定例の絵ネタイベント目白押し。特にクリスマスと年始は1週間も開いてないので両方用意するとなると地獄が待ってます。とはいえ今年もハロウィンはなしかな……この連載もありますしね。その代わりクリスマスを早めに仕上げて余裕を持って本命の年賀絵に取りかかりたい……。毎年同じこと言ってるのでそう上手くはいかないですが。
つまり何が言いたいかって、絵のせいで小説が遅れ気味になりますよ、ということです。毎回速攻でお読みいただいている方には大変申し訳ないのですが。