起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
ルジェさんのG1レース参加歴の話が出て少しばかり騒がしくなった3人。ここで目立つのもどうかということで続きのお話はお互い寮室でと、リズちゃんも混ざって消灯時刻まで俺の寮室で過ごすことになった。
「それにしてもG1を3回も……ですか」
「えへへ……実はあ、そうなんですよう。あ、でもでもまだ勝ててはいませんからね? やっぱりなかなか難しいです。G1レースで勝つのは」
いやいや、出走できるだけで十分すぎると思うのだが。でも出走できるようになったらなったで是非にも勝ちたいとなる気持ちはこの俺でも分かるようになりつつある。そして難しいですと零したルジェさんの表情はいつになく真剣だ。そんな表情もリズちゃんからの問い掛けにすぐ柔らかく戻るのだが。
「先輩はティアラ路線だよね?」
「そうですねえ、今年のティアラ路線は有力なウマ娘がわたしの他にも3人いて激戦です。実は美浦寮長をしてるイソノルーブルさんもその一人なんですよう」
「ルジェさん含めて4人ですか……多いですね」
「寮長さんが頭ひとつ抜けていますかねえ。あとはスカーレットブーケちゃんとシスタートウショウちゃんですね。ブーケちゃんとシスターちゃんはどちらも中等部なのですけど……パワフルなレースをしますよ」
「……中等部……、ということは私より2年くらいは年下なんですよね。でもルジェさんと肩を並べてG1で競えるんですか……この年齢で1年違えば体力とかかなり違うと思うんですけど、本当にウマ娘って不思議です」
「ブーケちゃんとかわたしより背が高いですからねえ、ドーロちゃんぐらいあるのかなあ?」
「それで中等部なの? すごいなぁ……身長少し分けてくれないかなぁ……」
何かリズちゃんの心の叫びが聞こえたような気もする。けど、彼女の背丈はそんなやたらと低くないと思う。もっと小さい娘が高等部にだっていたのは見かけたし。
その一方でルジェさんは女子としては普通の背丈だろうか、胸のボリュームは結構良い方だと思うが。
ルジェさんが言うには今名前が上がったウマ娘の他にも今後競り合いそうなライバルはまだまだいるそうで、ティアラ路線の最終戦、10月の秋華賞に向けてしっかりトレーニングを積まなければと言葉にも力が籠もる。さらにこの夏は合宿での特訓を予定しているのだとか。
「去年はチームに加入してすぐだったので参加できなかったんですよね。なんでもトレセン学園から離れて海の近くに宿舎を借りて、チームのみんなで泊まり込みして特訓するのだそうです……。
楽しみにはしていたのですけれど……でも……今はドーロちゃんがいますし……行かなくてもいいかなって」
そう言って心底残念そうに俺のことを見つめてくる。いや、そこはトレーニング優先でしょうと心の中でツッコミを入れるが、どうもルジェさんとしては俺から離れたくはないらしい。
彼女をそこまで思い切らせるだけの何が俺にあるのか分からないが、そこはちゃんとトレーニングに向かって欲しい。そこであまり気は乗らなかったが、
「ルジェさん。合宿よりも私と一緒の方が良いのは分からなくもないですけど、私はルジェさんが秋華賞を勝つところを見たいです」
そう言って
「……見たい、ですか?」
「見たい、です」
俺も負けじと真剣な表情を繕って畳み掛ける。
しばらくの間にらめっこが続いたが、そのうちにルジェさんの目線が外れ、天井を見たり、俺を見たり、壁を見たりとせわしなく動く。どうやら相当悩んでいるらしい。そしてとうとう、
「だめですう、選べませえん……ドーロちゃんのお願いには全身全霊で応えたいのですけど……離れたくない気持ちも同じぐらい強くてえ……」
と、泣きそうな声を漏らして膝を抱えて突っ伏してしまった。
リズちゃんがその背中を柔らかな手つきであやしてくれていたが、復活してくる様子が全く現れない。消灯時間が刻一刻と近づく中、やや強引だがここで話すはずだったもう一つの話題に持ち込んだ。
「それでですね、話は変わるんですけど私のゲート難のことです。
教官に選抜レースの事を
さすがにこの話題は予想していなかったのか、二人の視線が集まる。
「変に話が広まって
「それは、そうだよね。トレーナーも付いていないのに一人だけ特別メニューなんて」
「しかも選抜レース対策ですからね。ゲートが苦手な
「でも教官は手一杯のはずですから……誰が指導に付いてくれるんでしょうか? まさかドーロちゃん一人だけで練習するはずもないでしょうし……」
「それはですね、昨日走法を見てもらっていた医務室の織田先生です。走法を見てもらったときもそうだったのですが、治療という名目でゲート特訓をするということに」
「織田先生かぁ。うん、あの人なら大丈夫じゃないかな」
「医務室の織田先生? あれ? なんだか聞き覚えがありますねえ……んーと」
ルジェさんと織田先生には直接の面識は俺の知る範囲ではまだないはずだ。
昨日の練習の時にリズちゃんがルジェさんのことを先生に伝えていたのは知っているが、この様子だとまだ連絡は取っていなかったようだった。
まだ悩んでいる様子を見せるルジェさんを尻目に、教官から聞いた特訓に至った経緯を二人にも話していく。
リズちゃんからは、「それだけ期待されてるってすごいね」なんてお褒めの言葉をいただいてしまったし、ルジェさんからも、「早くシニアに上がってきて欲しいですう」などと期待の眼差しを向けられた。いやルジェさん、あなたまだクラシック級ですよね、再来年の話を夏の前から話してたら鬼が笑いますよ?
と、そのとき、ルジェさんが声を上げた。
「あっ、思い出しましたあ!」
寮室なので隣近所に響かないように控えめではあったが、周りが静かな分それでも十分に響き渡って、リズちゃんと俺のしっぽがビクンと跳ね上がる。
「ルジェさん? 何を思いだしたんです?」
「織田先生ですよ、ドーロちゃん」
「へ?」
「どこかで聞いた名前だなって考えてたんですよう。そしたら今思い出しました。その先生、わたしのトレーナーさんとお知り合いです」
「うぇぇ?」
なんでそこが繋がるのか分からなかったが、トレセン学園の中は広いようで狭いと思った。
次回、なれそめ。