起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
描いていただきましたのは、小説『どぼめじろう先生』でお馴染みの稗田之蛙さま。
なんでも直筆の絵とAI処理を幾度も重ねて完成されたそうです。小説に絵にAIと多芸であらせられますね。
大変結構なイラストを頂き、ありがとうございました。
「朝ご飯を食べた後準備を整えたら、わたしはトレーナーさんの所に向かいます。ドーロちゃんも一緒に来て下さいねえ、トレーナーさんに紹介しますので」
「『きゅぃっ』……わかりました」
真っ先に返事をしたのは腹の虫。外は大雨だが今日も美浦寮には朝食の時間がやって来た。
「あっ、ドーロちゃんおはよう~。えへへ……」
寮食への道中、リズちゃんが待っていた。朝からニコニコと上機嫌の様子だ。
寮食の入り口で列に並ぶ。今日は土曜日で授業がないせいか、平日よりもややのんびりした雰囲気だ。授業のある日は始業時間に合わせなければならなくて、ちょっとした戦争みたいになっていたのだが。
トレーを片手に配膳係の前にたどり着くと、例によって特製トレーのお出ましだ。いつものお姉さんに替わってお
「ヴェントドーロさんですよね。主任からの言付けで、今日から朝のご飯はお櫃で出させて欲しいと」
2段になったいつものトレー。上段にはお櫃がドンと乗っかって、その隣には空の丼とお新香とか海苔とか納豆とかが積み重なっていて、下段にはこれまた大きな丼鉢に山盛り野菜マシマシのお味噌汁。それから丸っと一本物の卵焼きが数本と焼き魚、さらに煮野菜の大鉢まで。
朝食なのでさすがにトレーは一つだが、ウマ娘分量でもたっぷり2~3人前はあるそれを掲げて歩く。リズちゃんを先頭に席を探すと例によって道が開いて行くが、混んでいないこともあってすんなりと席が決まった。いつものように3人並んで席に着こうとすると、今朝はそこに混ざってくる声。
「おはようさんだよ。お三方、元気にやってるかい?」
顔を上げるとそこにいたのは寮長のイソノルーブルさんだった。
「あらまあ寮長さん、おはようございますう。
「そうだねぇ。ルジェとはいつも
朝食のトレーを抱えた寮長さんは、ここ空いてるかいと尋ねて俺の前に陣取った。
「いやぁ~、たっぷり食べるのは聞いちゃいたけどさ、改めて間近で見るととんでもない量だねぇこりゃ。
そりゃルジェが目の色変えて調理に没頭するわけだよねえ。想い人には美味しい物いっぱい食べて欲しいもんなあ」
「寮長さあん。そのお話はしないでいただけますう?」
声に振り向くとルジェさんが少し頬を膨らませて抗議の姿勢だ。ただ本気で止めて欲しいようでもなかったが。そして背後からはリズちゃんからなにやら闘志めいたものがじわじわと届いてくるのを感じる。想い人と聞いてスイッチが入ってしまったのだろうか。
寮長とルジェさんの話は寮長がほぼ一方的にルジェさんをいじる形で進む。内容はまあ……俺とのことらしいがよく分からない。しかしそれと共に俺の両サイドからの
『ぐぉろろrrrr……』
「おっと。ヴェントドーロの腹の虫がそろそろ我慢しきれなくなってきた感じだねぇ。話し込んでしまって悪かったね、それじゃ食べようか」
「リズがご飯よそうね」
ルジェさんが手を伸ばしかけたお櫃にリズちゃんが機先を制して取り付いた。行き場をなくしたルジェさんの手が空を切るが、そこは1年先輩の余裕を見せてか素直に引き下がる。そして朝食が始まったのだが……。
白いご飯が山と盛られた丼、それを2口3口で空にしてテーブルへ。間髪入れずおかずに手が伸び、返す勢いで味噌汁を吸い込む。そして再び丼に手を掛けると綺麗になくなっていたはずのご飯は再び山盛りに。それと同時に隣のリズちゃんがなにやら大騒動になっている気配もするが、そっちの方まで気が回らずにひたすら食事を掻き込む作業は続く。
箸を付けるたびにゴソッゴソッと音を立てるように減っていくおかず。味噌汁の具も大根やにんじんと言った根野菜が汁の上に盛大に山盛りになっていたものが掻き消えていく。焼き魚は骨のない切り身なのが助かるが、これも一度に2切れ3切れと消え既に影もない。お新香だってご飯と共にいつの間にか消滅していって、とうとう丼に白いご飯がよそわれなくなったとき、俺の箸も止まった。
間髪を入れず控えめにコトリと目の前に置かれた湯飲みを手に取り、それまでとは打って変わってゆっくりとした動作で熱いお茶を啜り込む。『はぁぁ~~』と溜息を漏らして辺りを見回せば、ニコニコ顔で俺を見ているルジェさんと、逆側はすっかり空になったお櫃の前でしゃもじ片手にぐったりしているリズちゃんの姿。そして正面では座ったまま顔を引きつらせてドン引きになっている寮長。
「……なぁヴェントドーロ」
「なんでしょうか?」
「お前さんのその腹どうなってるんだい。あれだけあった食事の数々、10分そこらで全部平らげて全然膨れてこないじゃないか」
「いえ、膨れてますよ?」
寮長の疑問に答えるべく、その場で立ち上がって部屋着の裾を捲り上げようとする。
「! いやいや! 見せなくていい!
あたしが言いたいのは食べた分量に対してその様子は釣り合わないだろうと言うことさ」
「はあ……、私もよく分からないんですよねこれ。自分のお腹ですけれど」
なんとも間抜けな回答だが分からない物は仕方ない。やれやれといった風情で
『……ぎゅぎゅ?』
腹の虫が何かを訴えた。その声に反応して3人の箸が一斉に止まって、驚愕の色に染まった6つの視線が俺の腹に注がれる。
「……まだ、足りてないんでしょうか、ね?」
湯飲み片手に引きつった照れ笑いを披露する他なかった。
次回、未知ではない遭遇