起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
みんなの朝食も無事終わり、それぞれが自室へと向かう。俺は着替えたらルジェさんと共に彼女のトレーナーのところへと赴く事になっているのだが。
「ルジェさん。トレーナーさんに会うのに何を着ていけば良いと思います?」
話をするだけなら制服でも良いだろうが、走りを見たいと言われそうならジャージが良いのだろうし。それならジャージで行けばどちらにも対応できて良いようにも思えるが、何かトレーナー欲しさにがっついてるように見えてしまうのも癪に感じる。なかなか面倒くさい思考回路に嵌まってしまったと自分でも感じていると、一足早く着替えを終えたルジェさんがスポーツバッグ片手に答えてくれた。
「そうですねえ、今日は大雨ですから走りを見せて欲しいとは言われないと思いますけど……、チームハウスに行くまでで濡れちゃいそうですから制服というのも……。
結局、ジャージで良いのではないでしょうか」
という、現実的な答えが返ってきた。なるほど、濡れるからジャージという理由は腑に落ちた。
§
傘を片手に寮の昇降口を出た。朝目覚めた時ほどの激しい降りではなかったが、それでもしっかりと雨音の立つ降りが続いている。水たまりを避けながら、3色の傘が舗道を歩く。
「こんな大雨なのに、リズちゃんまで来ていただかなくても」
「ううん、大丈夫だよ。リズはドーロちゃんのお世話係だからね」
「ルジェさん。リズちゃんが一緒でも良かったんでしょうか?」
「問題ないと思いますよう」
「ですか」
悩んでいたのは俺だけ、ということで結論が出てしまった。なんとなくまだ釈然としないが、ルジェさんが良いと言うのなら多分良いのだろう。
先頭を歩くルジェさんにくっついて進んでいくと、校舎の裏手でトラックからもほど近いエリアに鉄筋コンクリートの建物群が見えてきた。ルジェさんは迷うことなくその一つに進む。昇降口を土足のまま入り、階段を上がって2階へ。そこには『カペラ』と書かれた引き戸があった。
「ここがチーム<カペラ>のチームハウスですよ。いつもはチームメイトの人たちや他のトレーナーさん方もいて活気があるのですけど。
今日は雨のせいか、まだどなたもいらっしゃらないみたいですねえ」
戸の前で簡単に説明してくれたルジェさんだったが、特にノックもないままどんどん中へと進んでいく。俺とリズちゃんは初めて目にするチームハウスの様子に目を奪われたまま、おずおずと踏み込んでいった。入り口は前室になっていて奥にもう一つ引き戸がある、思っていたよりも重厚な造りだ。リズちゃんが2つめの戸を閉めると、外の雨音は聞こえなくなった。
「このお部屋はミーティングルームですねえ。チームメイトは普段このお部屋に集まって、お話ししたり打ち合わせをしたり。時にはパーティーを開いたりもするんですよ」
「パーティ、ですか?」
「そうです。先輩方の祝勝会ですとか。あとは、クリスマスパーティーとか」
「クリスマスまで」
「いいなぁ、楽しそう」
「楽しいですよ」
説明をしてくれながらニコニコと笑顔を見せるルジェさんは本当に楽しそうで、チーム<カペラ>は普段からとても良い雰囲気で仲良くやっている様子なのが感じられた。
そのミーティングルームの片隅には優勝トロフィーやレース名を記した大きなタペストリーが所狭しと掲げられたガラス戸棚があって、このチームに所属してきた
手近なイスの上に持っていたスポーツバッグを置いて、ルジェさんが奥のドアの前へと進んだ。
「この奥がトレーナーさんのお部屋ですよ」
ルジェさんがドアをコンコンとノックする。
「ルジェです。
ルジェさんの落ち着いた声が俺たちしかいない室内に響く。すると少し間があって、ドアの向こうからややくぐもった声がする。
「どうぞ、みんな入って下さい」
失礼しますとドアを開けてトレーナー室に入る。事務机が壁際に5つ並ぶ中、真ん中の席でその人は俺たちが来るのを待っていた。
「朝早くからお役目すまないね、ルジェント」
「いえいえ、トレーナーさんもきちんとお休みになって下さいね? 夜明けと同時のLANEなんて、
「ははは、相変わらず厳しいね。いや、今朝は雨音で目が覚めてしまってね」
「まあ、トレーナーさんもですか」
「大雨だと慌てて屋内練習場を抑えて……」
「……それで、その尾花の
「そうです。彼女がお話しした……」
ルジェさんの小言に苦笑いを返す横顔。白埜と呼ばれたその男性に対して、俺はなぜか既視感を覚えた。しかし、どこで見かけたのか。
どこかで会った? いや、少なくともこの3日の間でこの人を見たこともない。
ドーロの記憶? それはもっとないだろう。この人よりももっと身近なルジェさんのことすら思い出せなかったのだし。
「……ちゃん? ドーロちゃん!」
「うぇっ!?」
ルジェさんの呼び声でハッと我に返った。どうやら思案に暮れてしまって、トレーナーさんの呼びかけに答えられなかったようだ。
「す、すみません。少し考え事をしていました」
頭を掻きつつ首を垂れる。
トレーナーさんは優しく眼を細めたままこちらを向いていた。
「チームハウスとかトレーナーとか初めてだろうからね。少し緊張してしまったかな?」
「い、いえ。そんな事もないのですけど」
「なら良かった。
改めて自己紹介しようか。私は
白埜和良と自ら名乗ったトレーナー。
フルネームを聞いてやはり思う。この人とはどこかで
だが、それがいつどこでなのか思い出せないまま、俺は挨拶を交わす。
「ヴェントドーロと言います。今回はお忙しい中お時間を作っていただいてありがとうございます」
改めてぺこりと頭を下げる。
「その後にいる黒鹿毛の方は……」
「あ、あのっ。リーゾアラチェートです……。ドーロちゃんの付き添いをしてます」
「そうですか。これも何かの縁かな。よろしく」
こうして、俺と白埜トレーナーとのファーストコンタクトは果たされた。
次回、一緒じゃダメですか。