起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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大変長らくお待たせしました。ようやく61話の公開です。


汗も疲れも闘気も洗い流して

 

 すったもんだありながらも終わったお風呂タイム。リズちゃんの電撃発言が飛び出したそれは微妙な雰囲気を3人の間に残したままだ。特にルジェさんが心中穏やかではない様子で、今も無言のまましっぽ仕上げを俺から受けているが、なんとなく不穏な雰囲気がその身から滲み出ているように感じられる。

 その雰囲気に当てられてしまったのか、リズちゃんも無言のまま髪をドライヤーで乾かしているし、鏡の奥に映る他のウマ娘たちもどことなく動きがぎこちない。

 どういう訳かルジェさんから放たれる怒気は俺にはそれほど効いていないようで、周りのウマ娘に比べれば自由に動けている。

 

 そんなピリピリとした雰囲気の中、しっぽを仕上げつつルジェさんに声を掛けた。

 

「あの~……、ルジェさん?」

「はい。なんでしょうドーロちゃん」

「こんな事をお願いできるとも思えないんですけれど……、そろそろ怒気は引っ込めませんか?」

 

 俺がそうお願いすると、鏡に映ったルジェさんの眉根にしわが寄る。

 

「……そろそろ止めたいとは思っているのですけどお……」

「……けど?」

「お恥ずかしい話、実は止められなくてえ」

「えっ?」

 

 そう言ってルジェさんは両手で顔を覆って俯いてしまった。まさかのまさかな話で、思わず俺とリズちゃんは顔を見合わせてしまう。

 とにかくいつまでもこの怒気がダダ漏れでは周りが大迷惑なのは間違いない。今の話を聞いて動きが止まっていたリズちゃんにも声をかけて、超特急で3人のしっぽ仕上げを終わらせる事にした。

 

「リズがドーロちゃんのしっぽ仕上げやってあげるね。急がないとだねっ」

 

 先ほどまでの沈鬱な様子はどこかに吹っ飛んだようで、すっかり普段の調子を取り戻したリズちゃんがテキパキと俺のしっぽを仕上げにかかってくれる。対する俺の方はもう少しだけ残っていたルジェさんの仕上げを手早く済ませると、体勢を移してリズちゃんのしっぽ仕上げへと進んだ。

 

「襟を引き上げてきますね」

 

 しっぽ仕上げが終わってフリーになったルジェさんが洗濯場の方へと去って行く。すると周りで硬い表情をしていた他のウマ娘たちが皆一様に安堵した様子を見せるようになった。俺もそれまで感じていた軽いプレッシャーはいつの間にか消え去っていて、ルジェさんの怒気の強さを改めて認識する。やはりG1出走者ともなるとこうも違うのだと。

 

 リズちゃんのしっぽ仕上げが終わった頃合いで、ルジェさんが戻ってきた。手には3枚の襟もいっしょだ。

 

「おまたせしましたあ。襟もできましたしお部屋に戻りましょうかあ」

 

 普段通りのにこやかさを纏ったルジェさんからは、もうプレッシャーを感じることはなかった。

 

「襟のアイロンがけをしていたらだんだん落ち着いてきました。リズちゃん、さっきはすみませんでした。怖がらせてしまって」

「リズもごめんなさい、調子に乗り過ぎちゃったから。先輩にも、ドーロちゃんにも」

「私は大丈夫ですよリズちゃん。ルジェさんも落ち着いたみたいで良かったです」

 

 3人顔を寄せ合うと笑みがこぼれた。不穏な雰囲気になってしまって一時はどうなってしまうのかと不安だったが、なんとか元の平穏な雰囲気に戻ることができたようだ。

 元はと言えば俺のしっぽがいつもより敏感すぎたのが原因だが、今日はどういう訳かリズちゃんが暴走気味だったし、それに対するルジェさんの態度も過熱気味だった。3人ともが普段とは少しずつ違う状態だったせいで起きたこの事件、一体何がそうさせたのか。思い当たるのはレースを観戦している間、出走していたウマ娘の闘気に当たっていたことくらいだが。果たしてそれが答えなのかは、落ち着いた頃合いを見計らって2人ともに尋ねてみようと思った。

 

 それじゃお部屋に戻りましょうかとルジェさんが音頭を取って、俺たちは脱衣所を後にした。道すがらすれ違う()たちは皆お風呂セットを抱えていて、ここからが入浴タイムのピークを迎えるようだ。そして寮食の近くを通りかかると、そちらの方からは特徴のあるスパイシーで美味しそうな香りが漂ってきていた。

 

『きゅ?』

 

 香りに釣られて腹の虫が起きてきた。だがまだ自重しているらしく、それ以上騒ぐこともなく寮食前を通り過ぎる。

 

「今日の晩ご飯はカレーでしょうか?」

「確かそうだったと思いますよ。土曜日にカレーライスは割と多い献立ですねえ」

「そうなんですか」

「土曜日曜はレースがありますから、寮食で食べる()が少なめなんです。それもあってキッチン担当も平日より人数を減らしているんですよねえ。だから手間の掛からない献立が増えるんですよ。

 あっ、でも他のおかずもちゃんとありますよう。カレーだけじゃ栄養が偏っちゃいますし」

「今日はどんなカレーかなぁ。先々週のお野菜たっぷりシーフードカレーは美味しかったなぁ」

「あれは良かったですねえ。わたしは確か2回お替わりしちゃったんですよねえ」

「リズは4回かな。ホタテがいっぱい入っててお口が幸せだったなぁ」

 

 カレーの話を切っ掛けに、ルジェさんとリズちゃんが寮の献立談義に花を咲かせる。過去の記憶がないせいで話について行くことができない俺は、それを微笑ましく横から見ているだけだ。これから3人で過ごす時間が伸びるうち、こういった話にも自然に加わることができるようになっていくのだろう。

 

 弾んだ話し声が夕暮れの迫る廊下を寮室へと進んでいく。しかし次の角を曲がれば到着というところでそれはパタッと止んでしまった。

 なにかに気付いたリズちゃんが少し驚いた様子で辺りをきょろきょろと見回している。

 

「あれっ? こんな所まで来ちゃってた」

「ふふっ、お話が弾んでしまいましたねえ」

「自分のお部屋に戻らないとだけど……。このあとの予定は晩ご飯食べる、で良いんだよね?」

「そうですねえ……今何時でしたっけ」

 

 そう言いながら部屋着のポケットを探るルジェさん。それより早くリズちゃんがスマホを取り出した。

 

「えっと……6時40分過ぎだね」

「もう食堂が開いてますねえ。それでは荷物を置いたら食堂に集合ということで」

「わかった。それじゃ食堂でねドーロちゃん、ルジェ先輩、またあとで」

 

 軽く手を振って踵を返し、パタパタと軽快な足音を立ててリズちゃんは去って行った。

 

「さて、私たちもお部屋に戻って出直しましょうか」

 

 その問いに俺は黙って頷きを返す。すると。

 

『きゅいぃ~』

 

 今まで黙っていた腹の虫が返事をした。どうやら腹の虫は今日も絶好調。このあと食堂でどんな光景が待っているのか、今から心配になった。

 




次回、飲み物
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