起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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感想、ブクマ登録、評価点、ここすき。高評価いただきありがとうございます。いつも励みになってます。不定期更新なのが申し訳ないです。

というわけで書き上がっているので次出しますね。
今回はいつもより大分長いです。(と言っても倍もない)

タイトル出オチ感が半端ないですが……果たしてどう決着するのか。


美浦寮食オープン競走 わんこ杯

 

「で、どうしてこういうことになるんですか……」

『ぎゅぎゅきゅぃ?』

 

 お盆のようなサイズのカレー皿を前に、俺は呟く。腹の虫も呟く。

 

「仕方がないよ。ドーロちゃんの食べる量をいっぺんに盛れるお皿がないって言うし」

「ドーロちゃんのペースに付いていけるか心配ですけど……がんばりますねえ」

 

 場所はおなじみ美浦寮食、テーブルも昨日と同じ場所。そしていつもより人数が少ないとは言うものの、見た感じそんなに減ってないんじゃないかとしか思えない数で俺たちを取り囲むギャラリー。学園カフェテリアでは落ち着いて食事を取れる場所を得られたが、寮にそんな便利な場所はなく……さらに普段と違ってルジェさんとリズちゃんが給仕をしようと俺の両サイドでその時を待ち構えている。となれば俺の食事風景にそろそろ慣れてきたはずの美浦寮生も、これから何が始まるのかと興味津々になるのは頷けるわけで。

 しかしその給仕の内容というのに問題があった。

 

 俺の右側に立つのはリズちゃんだ。今朝も握っていたやや大ぶりなしゃもじを右手に、そして山盛りのご飯で蓋が閉まっていないお櫃を左脇に抱え込んで準備万端の構え。対する左側で踏み台の上に立つのはルジェさん。こちらは大ぶりなおたまを右手に持ち、テーブルの上には鈍く光る寸胴鍋。鍋の中身は今日のメインディッシュ、カレーだ。

 対する俺の方は首から紙エプロンをぶら下げてカレールウからの防御態勢を整えてある。腕カバーも嵌めていて完全防御の構えだ。

 

「今日のカレーはベーシックにポークカレーですけど、具にはにんじんがたっぷり入ってとっても濃厚に仕上がっていますよ。早速始めましょうかあと言いたいところなのですが……」

「なのですが?」『きゅう?』

「ドーロちゃんは一度食べ始めると食べ物が無くなるまで止まらないのでえ、今日は最初にサラダを一山食べておいて下さいねえ。栄養バランスは大切ですからね」

『ぎゅぎゅ』

 

 そう言ってルジェさんが寸胴の陰から取り出してきたのは、大鉢に山盛りのサラダと一口大にカットされたトンカツの山だった。

 

「トンカツの方はこちらに置いておきますから、ドーロちゃんはカレーと一緒に戴いちゃって下さいねえ」

『きゅっきゅ』

 

 要するに今日の晩ご飯はカツカレー、ということのようだ。

 

 衆人環視の中、差し出されたサラダにそっとフォークを差し込むと、あとはまたいつもの通り一心不乱に目の前の全てを掻き込む光景が広がる。

 美味(うま)い。

 ドレッシングが掛かっているとはいってもそんなものは表面だけで、大鉢の中身はひたすら味のない生野菜の塊のはず。だが、そのみずみずしさとしゃきしゃきとした歯ごたえと、そしてなによりも噛むたびに立ち上る自然な甘味と青い香りが堪らなく美味(うま)い。生の野菜がこんなに美味く感じるのは初めての体験だ。

 その一方で薄らとした記憶の底が、俺は元々野菜が好きな方ではなかったはずだと囁く。ウマ娘になって味覚が変わってしまったのか、それとも元々ドーロが野菜好きなのか。

 

 そういえば昼に初めて東京レース場の芝で覆われたトラックを目の当たりにしたとき、風に乗って香る芝の青い匂いをとても心地よく感じていたことを思い出す。さらに言えば一昨日の検査の時、夢の世界で見た一面の草原に対して出た最初の感想だってそうだ。あの時は青々と茂る草を見て、事もあろうに『おいしそう』と感じてしまったのだから。

 

 自分の身体がウマ娘のそれであろうとも、地面に生えた草を美味しそうだと感じたのはさすがに変だと気がつく。だがそれもそこまでだった、大鉢は俺の見ている前でその時ちょうど空っぽになった。しかし、まだ食べ足りない。

 

 大鉢が空っぽになると同時に俺の手も止まる。間髪を入れずにルジェさんの手が伸びてきたが、俺はその手から遠ざけるように大鉢を抱えて引き戻す。その先には驚いた表情のルジェさんがいた。

 

「野菜のおかわり、ありませんか?」

 

 大鉢を抱えたまま上目遣いにルジェさんに訴える。見開かれた彼女の瞳が縦に揺れた。

 抱えた大鉢をそっと彼女に向けて差し出した。

 

 §

 

 ルジェさんが新しい野菜サラダを持ってくるまでの間、カツを一口ずつ口に放り込みながら待つ。ふと見るとお櫃としゃもじを抱えたまま、リズちゃんがこちらを凝視して固まっていた。

 

「リズちゃん、どうしたんですか?」

「えっ? あっ、あのね、ドーロちゃんの様子がいつもと違うなって。

 食事中こんなに落ち着いて食べてるの初めてだなぁって」

「……言われてみればそうですね」

「自覚、無かったんだね……。でもどうしてだろう?」

「わかりません。もしかすると野菜を食べて底入れしたせいかも」

「おなかちゃんの様子はどうかなぁ?」

「おなかちゃん?……あぁ、腹の虫のことですか……。うーん、今のところ動く気配はないみたいですけれ『きゅぅん。きゅ~?』ど」

「そうなんだ、お野菜が入って少し落ち着いたんだね」

「うぇぇ? また会話して『きゅっきゅきゅ、ぎゅう』るっ?」

「お野菜おいしいからもっとちょうだい。だって」

「そうなんですか? 確かに私も野菜サラダがもっと欲しいとは思ってましたけど」

 

 そこにルジェさんが野菜で溢れそうになった大鉢を抱えて現れた。最初の量よりもさらにうずたかく盛られているように見えるのは気のせい……ではなさそうだ。

 

「お待たせしましたあ~。お野菜ですよう。最初のよりも多めに盛り上げてきましたあ」

『きゅっきゅっきゅぅ~♪』

「おなかの虫さん、よく待てましたねえ~。さあさあ召し上がれえ」

 

 ドカンと大鉢が目の前に据えられる。と同時に伸びたのは俺のフォークだ。

 

「――ドーロちゃんドレッシングは――、って、要らないみたいですねえ」

 

 2皿目のサラダをドレッシングなしで、もしゃもしゃしゃくしゃくと食べ進む。ルジェさんが何か言っていたような気もするがお構いなしだ。

 程なく2皿目のサラダも食べ尽くして、再び空っぽの大鉢が残された。

 

「それじゃあいよいよカレー本番に進みますよう」

 

 大鉢が片付けられてカレー皿が再び据えられる。フォークをスプーンに持ち替えてカレーがよそわれるのを待っていたが、リズちゃんの方からご飯がよそわれた途端、スプーンを持つ手が動いてしまった。

 それは明らかなフライングだった。俺自身もそうだが、ルジェさんとリズちゃん、そして周りを取り囲むギャラリーからも落胆の溜息が聞こえたような気がした。しかしそんな周囲の思いとは無関係に手は動く。しゃもじ1杯分のご飯は1口でかき消えてしまった。

 ゴックンと飲み込んで、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……あはは……、やってしまいました。手が勝手に動いてしまいました」

 

 空いた方の手で頭を掻きつつ照れ笑いを見せる。どういう訳だかギャラリーからぱらぱらと拍手を受けた。

 

「お腹の虫さんが待ちきれなかったですかあ……。どうしましょうねえ」

 

 ルジェさんが困り顔を見せ、リズちゃんはお櫃をテーブルに戻して急遽作戦会議になった。再びカツを一口ずつ放り込んでいる横で2人がこしょこしょと相談している。

 

「目の前に出しちゃうとすぐ食らいついちゃうね」

「ご飯とカレールウを同時に出せると良いのですけど……」

「ルウがドーロちゃんのお顔にかかっちゃわないかな?」

「お皿と顔が結構近いですよねえ。やっぱり少し危ないでしょうか」

「それにルウがお皿に残ったままご飯を投入できないよ。カレーが飛んで服が汚れちゃうかも」

「エプロンを着けていても不測の事態が起こるかもですねよえ。うううん、困りましたねえ……」 

「……うーん……そうだ、お皿ごと交換する手はどうかな?」

「あらかじめ別のお皿にご飯とルウを盛っておいて――」

「1つめのお皿が空いたらすぐ交換するの。それなら大盛りにできる分、時間稼ぎになるし――」

「お顔にルウがかかる心配も、服に飛ぶ心配もないというわけですねえ」

「そういうことだよ」

「良いアイデアですねえ。それじゃあお皿の追加を取ってきますねえ」

 

 ルジェさんが再びキッチンへと向かう。リズちゃんが「待たせちゃってごめんね」と恐縮しているのに対して腹の虫がきゅっきゅと機嫌良く返事しているのを聞きながら、カツを一口ずつ放り込む手は止めない。

 ぽいぽいと調子よくカツを放り込んでいたら、ルジェさんがお皿を抱えて戻ってきた。

 

「2枚借りてきましたあ。最初のと合わせて3枚ありますから、これで給仕が間に合わないなんて事はないはずです」

 

 バンバンと大皿がテーブルの上に広げられ、カレーを盛り上げる作業が始まった。改めて強くなるカレーの香りを受けて、腹の虫が野太い声を上げ始める。俺の口の中も溢れた唾液でいっぱいだ。大盛りサラダを2皿平らげたばかりだというのに、まったくカレーの魔力は恐ろしい。

 山盛りカレーライスが3皿並んだところでこっちのカツがちょうど品切れになって、とうとう今日の晩ご飯第2ラウンドが始まった。

 

 よく“カレーは飲み物”などと揶揄して言う向きがあるが、今日の晩飯はまさにそんな感じだ。一応一口ずつスプーンで掬ってはいるのでそこまで飲み物感が強いわけではないが、おかずと違ってしっかり噛む必要のない分吸い込まれるように腹へと流れ込んでいく。皿を担ぎ上げればさらに速くはなるだろうが、それではさすがに年頃のウマ娘が見せて良い絵面にはならないだろうと、妙なところで理性を保ちつつどんどんカレーライスを流し込んでいく。

 思っていたよりも時間を掛けて1皿目を食べ終わる。間髪を入れずに次の皿に取り替えられて、またカレーを吸い込んでいく。

 2皿目になってスプーン運びのコツを掴めたようで、1皿目よりも早く食べ終わる。すかさず3皿目が目の前に出てくるが、次の皿は果たして間に合うのだろうか。すぐ隣でルジェさんとリズちゃんがお代わりの盛り上げに苦闘している様子がそれとなく伝わってきた。

 4皿目はなんとか間に合った。リズちゃんの手が皿を取り替えている間にも、ルジェさんが5皿目と格闘している。お皿だけでも相当な重量があるところに山盛りのご飯とカレールウだ、総重量が一体何キロになっているのか想像したくもない。しかしそんな馬鹿みたいな量にも関わらず俺の腹は全部吸い込んでいく。そしてとうとうその時はやって来た。

 

 ぎりぎり間に合った6皿目に突入して半分ほど食べ終わった辺りでスプーンがぴたりと止まる。

 その様子にギャラリーからは「おぉ」と嘆息が漏れ、リズちゃんがそれに気付き、そしてルジェさんも7皿目を盛り付ける手を止めた。

 

「ドーロちゃん、もう終わりですか?」

 

 ルジェさんが優しく尋ねるが、もう俺のスプーンはピクリとも動かないし腹の虫も沈黙を保ったままだ。どうやら今夜の食事はここまでのようだった。

 

「どうやら、げぷ、そうみたいですね……」

 

 大きく膨らんだ腹を見下ろしながらそう答えると、寮食は拍手の音で満たされる。

 

「あの……、残ってしまった分、どうしましょうか?」

「わたしがいただきますからドーロちゃんは心配しなくて良いんですよう?」

 

 そのセリフを耳敏く聞きつけたギャラリーから悲鳴が上がる。

 いやいやいや、食べ残しを出さないのは立派な心がけだがルジェさん。それ、俺の食べ残しですよ? 色々大丈夫? いや大丈夫じゃないが。

 と、そこへ違う方角からツッコミが入った。

 

「リズがいただくよ。食べ物は残しちゃいけないからね」

 

 そのセリフにさらなる悲鳴とどよめきが湧く。

 お風呂に続いてまたもやバトルになるのかと俺は緊張したが、直後2人同時に穏当な提案が発せられた。

 

「「それじゃ、半分こで」」

 

 バトルが起こらなかったのは良いが、この2人一体どこまで俺のことが大好きなのか。

 

 でもこれ、あきらかに間接キスってヤツでは? 違うのか?

 




次回、まったりのんびり。あと、いろいろ聞きたいこと
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