起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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大変お待たせいたしました。
1年以上ぶりに投稿再開です。

今のところストックは10話分ほどあります。各話の分量は3000文字弱。
本当は選抜レースの終わりまで書いてから出したかったのですが、それを待っていると年を越してしまいそうでしたので……

お話は寮食の夕食でわんこカレーが終わったあと。3人が寮の談話室でお話を始めるところからリスタートです。


鏡の向こう

「今後カレーの時はあらかじめ何杯出すか決めてからにしましょう」

 

 ルジェさんとリズちゃん2人の晩ご飯も終わり、談話室で3人車座になってのんびりと食後のひとときを過ごしていた。

 そこで提案したのは俺だ。食べ残しはいけない事と言っても、2人に残りを処分してもらうのは心が痛む。今日は仕方がなかったとしても、今後再びあんなことをしてもらうわけには行かなかった。

 

「でもドーロちゃんがどれだけ食べるか分からないよね?」

「この4日の間でも食べる量が徐々に増えてる気はするんですよねえ。いえ、本当に気のせいかもしれませんけど」

「足りてなかったらその時改めておかわりすれば良いだけの話ですし、なによりお二人に食べ残しを処理してもらうのはさすがに心が痛みます」

「えっ? リズは全然問題ないよ?」

「わたしもですよう。ドーロちゃんのものなら全然平気ですから」

 

 ケロッとした顔で言い放つ2人。いや何てことを言うんだふたりとも。周りで聞き耳立ててる他の娘たちが凍り付いてますよ?

 

「いえあの。お二人は良いかもしれませんけれど……その、私が気にするので……。それに」

「それに……なんでしょうか?」

 

 きょとんとする2人に向けて、耳を貸して欲しいとジェスチャーする。俺の口元に寄ってきた2人の耳に極々小さな声を届ける。

 

「私の食べ残し処理って、それ他の人から見たら……、か、間接キスってやつじゃないですか?」

 

 こしょこしょと囁いて、そのまま元の体勢にゆるりと戻る。恥ずかしさのあまり頬が火照るのを感じつつ、2人に目配せした。したのだが。

 2人とも、『何言ってるのかわからない』とでも言いたげにきょとんとした表情を返してくるだけだった。

 

「……どうしてそこでリアクションがないんですか……」

 

 あまりの塩い様子にこちらまで真顔になってしまう。そんな俺を見て何か思い当たったのか2人が顔を見合わせると、お互いにクスッと笑ってルジェさんが口を開く。

 

「だってドーロちゃんなら間接でも直接でも……、良いんですよ?」

 

 ルジェさんの横で頷きを返すリズちゃん。あきらかに2人とも意見一致を見ている様子だが、それを見た俺は宇宙猫に陥ってしまった。

 いや、遠巻きにこちらの様子を伺っていた他の娘たちも固まっていたから大体同じか。とにかく目の前のダメな2人以外、この場にいたウマ娘はそのとき全員宇宙猫だった、と思う。

 

 そのままこの場にいても辺りの雰囲気がどんどん妙になる未来しか見えなかった。俺は2人に声を掛けて、早々に寮室へと戻ることにした。

 3人連れ立って寮室へと歩いて戻る。

 

 お風呂は済んだ、晩ご飯も済んだ、明日は日曜日で授業もトレーニングもない、その前夜。てんやわんやの大騒ぎが続いた今週が終わりを告げようとしている。

 

「……なんだか、一気に疲れが襲ってきました」

 

 俺はそう零して、寮室へ戻ってきた勢いのまま自分のベッドへ身を投げ出した。

 そのまましばらく伏せっていたが、そんな俺の様子をお向かいのベッドからじっと見ていたルジェさんと、すぐ横のデスクチェアからはリズちゃんの声がかかる。

 

「……今週は、色々起こりすぎましたからねえ。

 いいんですよ? そのまま眠ってしまっても。後のことはわたしがやっておきますからあ」

「リズもいるからね。ドーロちゃんはなにも気にしなくて良いんだよ」

 

 優しく語りかけてくれるルジェさんの声。なんとなく癒やしの波動みたいなものをそこに感じつつウトウトするうちに、俺の意識は闇に沈んだ。

 

 §

 

 気がつくと辺りの景色は一変していた、しかし見覚えのある景色。なだらかに起伏する草原が一面に広がっていた。

 

(ここは? ああ、あの時の草原ですね。また、銀色の彼女に逢えるのでしょうか)

 

 そんなことを考えつつ、遥かに見えた見覚えのある湖に向かって歩き始めた。

 

 前と同じく、くるぶしまですっぽりと埋まる草丈の中を、今日は独り分け入って歩いて行く。ザクザクと響く草ずれの音に混じって、時折風の吹き抜けるノイズが耳を揺らす。どこかから彼女の足音が聞こえてくるんじゃないかと耳をそばだてるけれど、聞こえるのは自らが立てる草の音と、風の音だけ。

 

 前を向いて一歩一歩進む。けれど、湖が近づいてくる様子は一向に見られない。

 

(さっきからかなり歩いたと思うのですけど、湖が全然近づきませんね。そういえば、前の時は途中から走りましたっけ)

 

 今回は併走してくれる彼女はいない。そして、急いで湖に向かう理由もない。どれだけの時間がかかるか分からないけれど、ペースを崩さず歩き続けた。

 

 体感で30分以上歩いただろうか。俺はとうとう湖の畔にまでたどり着いた。遙かに見える対岸にはゴールの木が1本、すっくと立っている。

 ここで向きを変えて以前とは逆に、湖の岸に沿って水面を左手に見ながら歩き続けた。

 

(全体の形はきれいな楕円形なんですよね)

 

 ゴールの樹へと緩やかに左カーブして続く岸辺。そのラインは滑らかな弧線を描く。その弧線の頂点で立ち止まって、改めて全景を見渡した。

 自分の足音が消え、風の吹く音だけが耳に残る。だがその一方で湖には波紋ひとつ立たず、鏡のような水面が広がっていた。

 

 感じる明らかな違和感。

 

 それは夢の中だからという納得はあるものの、それでもさざ波ひとつ起きない水面には違和感が拭えなかった。

 俺は静かに水を湛える岸辺に、そろそろと近づいて膝を折る。

 そっと指先を水面に浸すと小さな波紋が広がり、ひんやりと感じたそれは普通の水に違いなかった。

 

 だが水面を覗き込んだ顔は、この数日ですっかり見慣れたヴェントドーロの顔ではなかった。

 

 金色に輝く(たてがみ)を靡かせた、栗毛の馬がこちらを見つめていた。

 

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