起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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1年ぶりにリスタートしまして不定期更新しますとお伝えしたものの、ストックの方10話ほどありますので読まれ具合を見つつ週1くらいで更新できればなどと殊勝なことを申しておりまして。


第64話 悲痛なさけび

 

「はっ、はっ、はァっ――」

 

 まだ心臓がバクバクとのたうち回っている。

 

 飛び跳ねるように目覚めた場所は普段どおりに静まる自分のベッドの上。カーテン越しに感じる外の明るさは、既に朝を迎えていることを教えてくれる。1日の始まる前、未だ静かに眠る寮の中で、ただ俺一人だけが息を荒げていた。

 

「はっ、はっ……、はぁ……」

 

 徐々に息が整ってくる。

 目を落とすといつもと変わらない自分の両手。それをじっと見ているうちに周りを見渡す余裕が生まれた。ゆっくりと顔を振れば、隣のベッドから覗くのは銀白の髪と耳、そしてしっぽ。

 

 いつもどおりそこに在るルジェさんを見つけて、ようやく俺の気持ちも落ち着いた。

 落ち着くにつれて、今後は夢の内容が気になり始める。

 

(あの、最後に見えた顔……、見た目は確かに馬でしたけど。あれは誰なんでしょう?)

 

 ちらっと見えただけの姿だったが鮮明に思い出されるそれ。水鏡に映っていても眩く輝いていた金色のたてがみ、明るい茶色の体毛、そして頭の天辺から伸びるウマ耳。

 

(なんとなく見覚えのあるような感じがするんですよね……)

 

 ベッドの上で考えを巡らせているうち目が冴えてくる。ふと目を向けた目覚まし時計は5時半を回っていた。今日も学園の1日が始まろうとしている。6時になったらトラックに出てひとっ走りして、考えをまとめようと思い立つ。

 俺は物音を立てないようにベッドから降りて身支度を始めた。

 

 6時5分前。普段通り寮玄関の鍵が開き、それとともに少なくない数のウマ娘がトラックへ向け駆け出す。俺もそれに混じって軽い足運びで駆ける。程なくトラックに到着すると、アップを始めた。

 

 6月も前半が終わろうとしている。昨日の雨こそ止んだが、梅雨まっただ中の空は曇。湿気を濃厚に帯びた空気が辺りを包み込む。

 一昨日リズちゃんに教えてもらった通り念入りに身体を解していたら、こちらを伺う視線を拾った。

 

 それは俺のことをやや遠巻きに見ているジャージ姿のウマ娘――シルバーグレイの髪を肩までの長さでサイド分けのボブカットにして、右の耳に赤い蝶結びの飾りを付けた――から発せられていた。昨日のお昼、カフェテリアでルジェさんが声を掛けたけど気付かれなかった2人連れのうち1人、その彼女だ。

 

 その彼女が歩み寄るなり俺の名を呼んだ。

 

「おはよう。あなたがヴェントドーロさん?」

「は、はい。そうですけど……あなたは?」

「あー、ごめんごめん。まずは名乗らなきゃね。私はハクタイセイ、あなたと寮で同室のルジェントと同じチームに所属してる」

「ハクタイセイさん……、白埜(しろの)トレーナーさんのチームですよね。お話はかねがね伺ってます」

「え、そうなの? ルジェントが何か変なこと喋ってない?」

「大丈夫ですよ、って。あっ、安田記念での掲示板復帰、おめでとうございます」

「ありゃぁ、もしかして脚のことまで伝わっちゃってる? そっかぁ……でも、うん、ありがとうね。ほんとは優勝したかったけどね。それでも、去年のことを思えば上々だよね」

 

 そう言って苦笑いを見せるハクタイセイさん。見たところはつらつとした雰囲気を持つ芦毛のウマ娘だ。だけど取り立てて俺とは関係がないはずなのに、どうして近づいてきたのか。

 

「あの、それで私になにか用事でしょうか?」

「あっいや、用事……ってほどじゃないんだけどね。たまたま見かけたから」

「たまたま?」

「そう……たまたまなんだけど……。いや、実は最近ルジェントがあなたのことばっかり話してるから、どんな()なんだろうって気にはなってたんだ」

「うぇぇ、ルジェ先輩が? いったい何を……」

 

 アップもそっちのけで話を聞いてみると、俺のことがすごく気になってとか、カッコいいんですよとか、放っておけなくてとか、そんな惚気話(のろけばなし)としか思えないような内容がポンポン飛び出てくる。黙って聞いているうちにこちらが恥ずかしくなってくる始末だ。

 

「……あの? 顔、赤いよ? だいじょうぶ? 熱あったりしない?」

「うぇっ!? あぇっ!? だっ、だいじょうぶでっしゅっ!」

 

 ……舌噛んだ。

 

 立ったまま俯いて悶絶している俺を心配して介抱してくれるハクタイセイさん。

 俺はといえば舌に受けたダメージが抜けずに、手を口元に当てたまま動けなくなった。

 

 それにしても、ルジェさんはハク先輩にいったい何をどれだけ吹き込んでいるんだか。

 

 これはあとでルジェさんを問い詰めないととか考えていると、ポケットに突っ込んだスマホからLANEの着信音が鳴った。

 ゴソゴソとスマホを取り出してロックを解除するや否や、目に飛び込んできたのは悲痛な心の叫び。

 

<ドーロちゃあああああん。どこですかあああああ。またいなくなるなんて聞いていませんよおおおおお)

 

 明らかにルジェさんからのメッセージ、しかも俺がいないせいでまたもや恐慌状態に陥っているらしかった。

 これは急いで寮に戻った方が良いのだろうかと考えあぐねていたら、ハク先輩の声が聞こえた。

 

「それ、ルジェントから?」

「え? あ、はい、そうですね」

 

 スマホをかざしてハク先輩に見せる。途端に彼女は表情を曇らせた。

 

「……ルジェントって、あなたの前だといつもこんな感じなの?」

「私が黙っていなくなるのが怖いみたいで……一緒にいるときはすごくしっかりした方なんですけど」

「私の前じゃ自立して実力もあるように見えるんだけど……人は見かけによらないって、この事かな。

 去年私がケガで苦しんでたときは率先して助けてくれたし。おかげで復帰も叶ったし。……なんか、クラシックに上がって変わっちゃったみたいだ」

「そうなんですね……。やっぱり、私のせいでルジェ先輩がおかしくなちゃってるんでしょうか」

「それは、どういう事?」

 

 それから俺はハク先輩に問われるまま、自分が記憶喪失だということや、ここ数日ルジェさんが面倒を良く見てくれる反面で、情緒不安定気味な事を話す。

 

「聞いた感じじゃ面倒見の良いところとか、私の時と全然変わらないみたいだ。ただ、あなたが見えなくなると、かぁ……、うーん?」

 

 二人で考え込んでいたら、またしてもLANEが鳴る。ハク先輩に急かされるように、俺はルジェさんの待つ寮室へと急いだ。

 

 §

 

「ルジェさん! ごめんなさい大丈夫ですか!?」

 

 俺は入室するなり彼女に向かって平身低頭するのみだった。

 

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