起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
「ドーロちゃん、なんだか箸の進みが遅いね。何かあった?」
日曜日の寮食、朝食の時間。俺はもうすっかり日常になった2段重ね特別トレーを前に箸を動かしていた。
テーブルを挟んだ向かいではいつものようにリズちゃんがご飯を食べていて、俺に話しかけてくる。
そしてその隣では、普段の温和な表情とは打って変わってムスッとした雰囲気を隠そうとしていないルジェさんが、これまた無言のまま朝食を口に運んでいた。
事の顛末を話すとルジェさんに聞こえてしまって、また怖いことになってしまいそうだった。だからリズちゃんの問いかけにはあえて答えずに黙々と朝食を戴いていたのだが。
「ルジェ先輩も怖い顔したままだし、2人ともさっきから変だよ? もしかして……喧嘩しちゃった?」
リズちゃんの指摘が気に障ったのか、ルジェさんの箸がピタリと止まる。その剣呑な気配を感じて俺も箸を止め、トレーの陰に隠れて様子を伺った。次の瞬間、ルジェさんから放たれた怒気が俺のしっぽを逆立てる。それと同時にリズちゃんの尻尾も逆立ったが、すぐにそれは霧消して、後に残ったのは耳を垂らしてしゅんと萎んだ表情のルジェさん。
「……あの、先輩。だいじょうぶ?」
素早く立ち直ってきたリズちゃんがおそるおそるルジェさんに声を掛けた。
だがルジェさんは変わらず萎んだまま、それでもぽつりと漏らされた小さな声を俺のウマ耳は掴み取る。
「……わたしは、悲しいんです――」
怒っているのかと思ったらそうではないらしい。トレーの陰から出た俺も、リズちゃんも、次の一言を聞き漏らすまいと耳を澄ませる。
「あんなにお願いしたから、もう大丈夫だって信じていたんですよ? それなのに、目が覚めたらお部屋にだあれもいなくて、お布団もきちんと畳まれていて、まるでドーロちゃんがもう帰ってこないみたいな様子で――」
そこまで呟くと、ルジェさんの目から光る粒が落ちた。
それを見て咄嗟にルジェさんへと寄り添うリズちゃん。そして俺は向かいの席に座っていることもあって出遅れてしまい、座ったまま2人の様子を眺めていることしかできなかったのだが。
「ねぇねぇ、なんか泣いてない?」「泣いてる、よね? オンダルジェント先輩」「ヤバい、例の娘とうとうルジェント先輩のこと、泣かしちゃってる」「アカンねぇ、あれはアカンですよ」「なに? 別れ話とか?」「暴食の君がルジェント先輩と別れ話ってマジ?」「イヤイヤ、まだそうと決まったわけじゃないでしょ」
好き勝手漏らす外野の声。
俺は静かに席を立ってルジェさんの下へ近づくとそのまま床へ膝を突き、俯いているルジェさんに顔を近づけた。その行動に辺りがやや
静まった空間で、俯いたままでいるルジェさんの唇が言葉を紡ぎはじめる。
「ドーロちゃん?」
「は、はい」
「罪滅ぼし……という訳じゃありませんけれども、今日1日わたしと一緒にいてくれませんか?」
「それって」
「言葉どおりの意味ですよう。今日はこれから夜眠るまでの間、ドーロちゃんはわたしの目の届く場所にずっといて下さい。
それで今朝のことは水に流しますう。
あ、もちろん明日の朝いなくなってた、なんていうのはもうやめて下さいねえ」
いつの間にかルジェさんの顔はこちらを向いていた。普段どおりの、柔らかな笑みを湛えて。
だが、その瞳は笑ってなんかいなかった。
(あ、これ逆らったらヤバいヤツ)
§
その後いつものように衆人環視の中で朝食を無事(?)に済ませた俺たち3人。今は俺の寮室に集まっている状況になった。
というかルジェさん、リズちゃんが一緒にいるのは問題ないんですか? 問題ない? アッハイ。
「リズちゃんは恋敵と言うよりも恋仲間ですからねえ。それに2人ともドーロちゃんのお世話をしたいのが優先ですからあ」
「先輩の言う通りだよ。今はまずドーロちゃんのお世話が先だよね、恋もあるけどそれはあとで」
……ということらしい。
なにか釈然としないものを感じつつも、俺を巡って2人が仲違いすることはないようなのが安心材料か。
「それでルジェさん、今日は何か予定があるんでしょうか?」
「ん~、これと言ってないんですよねえ。そろそろお部屋のお掃除しようかななんて考えていましたけれど」
「普段も週末になるとお掃除するんでしょうか?」
「別に週末に限っているわけじゃありませんけれど、レースがなければ土日は結構時間がありますから。やっぱりその時にお掃除お洗濯を済ませちゃう事が多いですねえ」
聞くとリズちゃんのお部屋の掃除も今週はまだらしい。まず俺の寮室、その後はリズちゃんの寮室を順番に掃除して回ることになった。