起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

68 / 83
ある程度の書き貯めマージンを取って話を進めようとか、そういう感じなので不定期です。
どうも今話からしばらくの間は1話が短めらしい。


第68話 金色原(こんじきはら)に吹く風は

 

「なかなか戻ってこないからどうしたのかと思っちゃった」

「ごめんなさいねえリズちゃん。ドーロちゃんのお話を伺っていたものですからあ」

 

 こちらに近づいてきたリズちゃんがルジェさんに声を掛けたあと、そのまま俺の座っている長椅子のもう一方の端に腰掛けた。

 

「ん、この絵は何かなぁ?」

「それはドーロちゃんが。今朝の夢で見たんだそうですよう」

 

 リズちゃんが俺の描いた絵を手に取って眺めた。途端に緩む口元。

 

「なんだか愛嬌あるね。これ動物さんの顔だよね?」

「ウマって言うそうですよう」

「ウマ? ウマ娘じゃなくて?」

 

 頷くルジェさんを横目に、リズちゃんは俺の絵を改めてしげしげと見つめ始めた。

 

「見れば見るほど優しそうな雰囲気が伝わってくるね。まるでドーロちゃん本人みたい」

「うえぇ? まるで私みたいって、それ本気ですか」

 

 ニッコリと笑みを向けてこくりと頷くリズちゃんだった。

 

「こっちの絵は全身像なのかな? 耳がリズ達ウマ娘みたいなんだね、それから尻尾もだね。ドーロちゃんって絵、実は上手いんだね。

 ……で、この丸書いて棒は?」

 

 やはりリズちゃんは冷静だ、そこにツッコミが入るとは。その丸棒の正体を知っている俺とルジェさんは思わずグッと言い留まった。

 そんな事とはつゆも知らないリズちゃんは興味深そうに俺たちの答えを待っているのだが。

 

 ルジェさんと目が合った。やはりここはドーロちゃんが、とでも言いたげだ。

 確かに描いたのは俺だし、観念してぼそり呟いた。

 

「それ……一応人のつもりなんです」

 

 その時リズちゃんが見せた驚愕の表情、しばらく忘れられないものになった。

 

 §

 

「――で、この丸棒が人の大きさなんだね――」

「うぇぇっ、改めて声に出さないで下さい。馬の絵とレベルが違いすぎて恥ずかしいです」

「これだけ大きかったら足は速いだろうし、人を乗せて走れそうだよね。

 一度一緒に走ってみたいなぁ……、あっでもドーロちゃんの夢の中のお話だったよね」

 

 馬の絵を見ながら、割とポジティブな反応を返し続けているリズちゃんがそこにいた。顔に愛嬌があるだとか、走るのが速そうだとか、ウマ娘らしい感想が連なる。

 この絵を見せて2人から拒否感みたいな物は感じられず、俺としてはひとまずホッとした。

 

「でも、ドーロちゃんはどこでこんな動物を知ったんだろうね?」

「……」

 

 その理由は俺にも分かる訳がない。誰かに教わったとか、そんな記憶はまるで持っていないのだから。

 リズちゃんの疑問に答えられず俺が困っていると、ルジェさんが助け船を出してくれた。

 

「ドーロちゃん、あの朝に人の名前のような言葉を言っていましたよねえ」

「きんばらはやて、でしょうか?」

「それです。そのきんばらさんの事、何か思い出したりは」

「いえ、まだなにも」

「そうですかあ……」

 

 俺のすげない返答に、ルジェさんの耳もしょぼんと垂れ下がってしまった。

 

 やや沈痛な雰囲気になってしまったその場でまだ考えを巡らせていたのはリズちゃんだった。俺の頭をじーっと見ながら考えている。

 そして何かを思いついて、ぼそっと呟いた。

 

「きんばら……きん、ばら……、金色の……、原っぱ?」

「リズちゃん?」

「金色の……原っぱ」

 

 ルジェさんも俺の頭を見つめて言葉を繰り返す。

 双方から集中する視線を受けて俺はたじろいだ。

 

「わっ、私の頭で連想しないで下さいよ。

 ……確かに、髪の毛は明るい金色ですけれど」

 

 ワタワタと頭を手で隠しつつ長椅子の背に沈み込む。しかし2人の双眸はじっと俺の頭の天辺に注がれ続け、居たたまれなくなった俺は前にたたんだ耳と一緒に頭を抱えたまま、視線を避けるように身をよじることしかできなかった。

 

「先輩、金色の原っぱに……、はやてってなんだろう?」

「はやて……聞いたことはありますねえ。国語の時間……、それとも理科か社会でしたでしょうかあ」

「こういう時こそウマホで調べると良いんだよね。えーと」

 

 リズちゃんの手元からタタッとタップする音が聞こえた。

 

「はやて。急に速く吹く風のこと。はやてかぜ、はやち、とも言う。だって」

「風の名前なんですねえ。……金色の原っぱに急に吹く速い風……金色……風……金の風?

 ……って、あっ!」

 

 何かに気づいたらしいルジェさんの声に驚いて、俺はがばっと身を起こして彼女を見た。

 俺を凝視するルジェさんの瞳と目が合う。

 とても驚いた様子で目一杯見開かれたそれを、俺は初めて見た。

 

「……ヴェント・ドーロ」

「先輩? ドーロちゃんが何か?」

「ヴェントドーロですよリズちゃん。金の風って」

 

 まだ疑問符を浮かべた表情を見せるリズちゃんを余所に、ルジェさんが説明を始める。

 

「わたしが寮のお部屋で初めてドーロちゃんと会ったとき、彼女はこう言ったんです。『あたしはヴェントドーロって言います。名前の意味は、イタリア語で金の風って事らしいです』と」

「金の風……ヴェントドーロ。金色の原っぱと速く吹く風……、繋がってる、よね。それって」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。