起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
巨大ボールにうずたかく山盛りになったニンジンとキャベツのサラダができあがり、寸胴鍋ではキノコスープがなみなみと満ちている。
サイドメニューがそうやって一通り仕上がった頃、炊飯器のスイッチがバチンと音を立てて切れた。どうやら炊きあがったようだ。
「ちょうどチキンライスも炊きあがりましたあ。お腹の虫ちゃん、お待たせしましたねえ。
それじゃドーロちゃん、配膳はわたしたちがしますからあ。ドーロちゃんはお席で待っていて下さいねえ……って、まあまあ。こんなにギャラリーが」
ルジェさんが驚いた声を上げた。何事かと思って見回せば、キッチンから食堂に面したカウンターで何人もの生徒が鈴生りになってこちらを伺っている。ちょっとの間カウンターを挟んで無言でお見合い状態になったが、時を待たずに生徒の一人が声を上げた。
「ねぇねぇルジェント、すごく良い匂いだけど何作ってんの?」
「ああ、カイゼルちゃんじゃないですかあ。実はお昼ご飯にチキンライスを炊いたんですよう」
「チキンライスを……炊くの? 炒めるんじゃなくて?」
「そうですう。ほら、見てみますかあ?」
そう言ってルジェさんが手招きすると、カイゼルと呼ばれた芦毛ロングの娘がキッチンに入ってきた。
ルジェさんが炊飯器の蓋を取ると、それまでも香っていたチキンライスの匂いがさらに強烈に広がる。
『うっはぁ、い~い匂い』『あ、ダメだこの香りはオレに効く』『しくったー、お昼少なめにしとけば良かった、食べてみたいけどもう入らんし』『ひとくち味見、できないかな?』『一口食べたら止まらない自信あるわ~あれ』
鈴生りになった生徒たちから溜息が漏れた。
『ヴ・ヴ・ヴ……』
腹の虫も今まで聞いたことのない鳴き声を漏らしている。
幸い周りに聞こえてはいないようなので、まだ自重しているようだ。いつまでこのお預け状態に耐えられるかまでは分からないが。
カイゼルさんを入れた俺たち4人で炊飯器を覗き込むと、湯気の底にはキラキラと艶やかな照りを纏ったオレンジ色のご飯……ではなく、それをびっしりと覆った具材が見えた。ご飯そのものは具材の隙間にチラチラと見えるだけだ。
いつの間にか特大しゃもじをその手に握りしめて踏み台に上ったリズちゃんが、「それじゃ混ぜちゃうね」と一言残してしゃもじをご飯の中に差し入れる。
リズちゃんの手によってテンポ良く返されていくチキンライスは、返されるたびにぼわっぼわっと湯気を吐き出す。吐き出された湯気が爆ぜる度、キッチンはさらに強烈なチキンライスの香りで満たされた。
『グギョォぉぉぉぉぉぉ……』
それと同時、ひときわ大きく腹の虫が雄叫びを上げた。
俺の意志とは無関係に視界が移動し始める。
一歩、また一歩と徐々に近づいてくる炊飯器。
その前に陣取るルジェさんとカイゼルさんを押しのけ、そのまま両手は炊飯器の中へ届こうとしていたその時。
眼前に飛んできた何かに当たって、俺はそのまま真後ろへもんどり打った。
§
【リズ視点】
おしゃもじを右手に構え、炊飯器一杯に炊きあがったチキンライスを底の方から返していく。湯気が当たっておでこが熱いけれど、同時に濃密な香りが鼻を満たしてくれる。
テンポ良くおしゃもじを動かしていたら、背後から獣の雄叫びが聞こえた。
『グギョォぉぉぉぉぉぉ……』
何が起こったのか分からないまま振り向いた途端おしゃもじに重い手応えが響いて、その先の床ではドーロちゃんが倒れ伏していた。
「ドーロちゃんっ、大丈夫っ!?」
そう声を出すのが精一杯だった。
§
【ルジェ視点】
「ドーロちゃんっ、大丈夫っ!?」
背後からなにかに押しのけられてよろめいたと思ったら、ガツンと鈍い音が大きく響いてリズちゃんの鋭い声が聞こえたんです。
咄嗟に声の出どころを見たら、踏み台の上にはおしゃもじ片手に
慌ててドーロちゃんを抱き起こすと意識はあるようでしたが、少しぼうっとしています。
それに額にはなにかが当たったようで、四角い形の赤い痕が残っています。でもそれ以上のケガをしている様子はありません。
間をおかずにリズちゃんも駆け寄ってきました。リズちゃんの顔は真っ青になっていました。
ギャラリーの誰かが呼んでくれたのでしょう、寮長のルーブルちゃんがそばまで来てくれました。
「どうしよう、リズのせいだ」
「大丈夫ですよ、ケガは無いようですし」
「でも、頭とか打ってるんじゃ……」
「ルジェント、ドーロのやつどうしたんだい?」
「どうやら顔になにかが当たって転んじゃったみたいでえ。ほら、額のところが赤くなっているでしょう?」
「ホントだ、こりゃぁ痛々しいねえ。それで頭とか脚とか大丈夫だったのかい?」
ルーブルちゃんはそのままドーロちゃんに声を掛けて正気を確かめようとしています。ギャラリーの娘から渡された濡れタオルを赤い額に宛がうと、ドーロちゃんのかわいい声が上がりました。
「うぇっ! 冷たっ!?」