起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
ストックは10話分ほどありますが、また突然止まってしまうかもしれない
体に取り付けられていたセンサーを研究員の人たちに外してもらう間、今回の夢について考えていた。
前回とは違う黒鹿毛の馬の登場と、それとの会話。黒鹿毛さんが最後に残した『久しぶりに乗せたが、やっぱり上手いな』という言葉。
黒鹿毛さんは明らかに俺のことを知っている様子で、銀毛の彼女との時とは全く違う反応に戸惑うばかりだ。
黒鹿毛さんの言動から、俺を励ますために現れたことは分かるし、俺がいつかのどこかで黒鹿毛さんの背に乗っていたことがある事も分かる。
だが、いつどこで俺はそれに乗っていたのか。
馬の背に乗っていたということは、少なくともこのウマ娘の世界の話ではない。
俺に他の世界で人間だった時期があるということなのか。
そして、トラックとの衝突を、黒鹿毛さんの力によって回避した事。
あのトラックが現れた時、あっという間に迫り来るそのサイドバンパーに注意が向いた時感じたのは、今の俺がスターティングゲートと向き合った時に感じる恐怖と同じもの。
つまり俺の心のどこかにあれに類する経験が
ゲートを怖がる理由は多少理解できたが、それですぐに克服とはならないだろう。死にも近い記憶が少しだけとはいえ掘り起こされたことで、むしろもっと酷いことになるかもしれなかった。
そんなことを考えていたものだから、検査装置から立ち上がるのが遅くなってしまった。
不審を感じた織田先生が、今日も検査に立ち会っていたタキオン氏とともに俺の表情を覗き込む。
「ドーロさん、どうかされましたか?」
「あっ、いいえ。少し考え事を」
ハッと気がついて、焦った風に返事をした。
「ふぅン? なにかしらの精神的ショックを受けているように見受けられるが……。今回の検査中には何度か特異な反応が見られていたんだがね。ヴェントドーロ君、何か覚えていることはあるかい?」
タキオン氏の光ない瞳が俺の心の奥を抉りにかかる。だが、正直に全てを話して良いものか。特に馬の件はどういう捉えられ方をするか分かったものではなかった。
俺はおずおずと答えを紡ぎ始める。
「……その特異な反応が見られた時、それは多分事故の夢を見ていた時だと思います」
「ほぅ? それは興味深いねぇ。差し支えなければ詳しく聞かせてもらえるだろうか?」
タキオン氏に促されて、俺は言葉を選びながら話す。
馬の事はとりあえず完全に伏せ、自分だけで走り、自分だけでトラックとの事故を避けたように。
「目前に飛び出してきた大型トラックのサイドバンパー、それが口を開けて食らいついてくるように見えた、と」
「ええ、そうですね」
「そしてそれを回避するため、君は咄嗟にジャンプして回避したと。そう言うわけだねぇ……ふぅむ」
俺の話を聞いた上で、織田先生とタキオン氏がタブレット端末を覗き込みながらなにやら相談を始めた。漏れ聞こえる会話から察するに、得られたデータと俺の話した夢の内容を時系列で確認しているのだろう。
織田先生が顔を上げ、さらに問いかけてきた。
「それで、ドーロさんには交通事故に遭ったような記憶というのは残ってはいないのですか?」
「はい、そういう記憶はありません」
「なのに事故に遭遇しそうになった夢を見た、と」
「織田君、人間が過去の忌まわしい記憶を自ら封印してしまうことは良くある事さ。人間という種はそうやって自己の精神の保護をするようにできているからねぇ。
それがこの機械によって炙り出されたという可能性は非常に高いだろう。ゲート難に陥っているのも、その忘れ去られた記憶が根源にあるのだろうねぇ」
「すると、記憶が呼び出されたことでゲート難の症状に変化が現れる、と?」
「そうだねぇ、それはそうだろう。悪い方に転ぶのか、良い方向に転ぶのかはまだ分からないけどねぇ」
タキオン氏の推論はもっともらしく聞こえた。しかし俺の封印された事故の記憶があるとすれば、それはドーロ本人の記憶ではなく俺の方だろう。
「しかしだ。トラックと衝突するような事故では、いくら頑丈なウマ娘といえども無事ではいられまいよ。織田君、ヴェントドーロ君にそういった事故記録は残っていないのだろう?」
「そうですね。トレセン入学時の資料には、なにも」
「いったい誰の記憶なのだろうねぇ……それとも事象の記憶なんてものはなく妄想の一種であるのか……。
……いずれにしても結論を出すにはまだデータが足りないねぇ」
なにやら悩んだ様子のまま、タキオン氏は検査室から出て行ってしまった。
この日の特訓はそこで終了。俺は織田先生の車に乗って、しとしとと雨の降る中を学園に戻った。
「明日の予定ですが、午後に再びゲート特訓を行います。それから、調子が良いようならゲートを使ったスタートも見てみたいですね」
「わかりました」
「変更があればまたLANEでお伝えします。それじゃドーロさん、今日はお疲れさまでした」
寮の前で降りた俺は先生の車を見送ってから昇降口に向かう。下足箱で靴を脱いでいると、ルジェさんとリズちゃんの2人が奥から出てきた。
「ドーロちゃん。検査、大丈夫でしたかあ?」
「ルジェさん……そうですね、特に異常とかはありませんでした」
「研究所の方に行ってたんだよね、どんな検査してるの?」
「ゲート難の原因を探るために、深層心理の反応を調べるとかなんとか……。私自身はイスに座ってセンサーをいっぱい付けられて……眠っているのでしょうかね、あれは」
「意識がなくなっちゃうの?」
「夢は見るので、意識を失うのとは少々違うと思うのですけど……。この話はお部屋の方でした方が良いかもしれませんね」
俺の提案に2人とも頷いた。
§
「ええと……、検査はこれで2回目なんですけれど、内容をお話しした事ってなかったですよね」
「えっ、2回目だったんだ」
「最初はリズちゃんが医務室へ迎えに来てくれた日でしたよ。そういえば、お伝えしていなかったですね……すみません」
いつものように俺とルジェさんの寮室。デスクチェアとベッドにそれぞれ腰掛け、輪になって話を続けた。
俺は2回にわたる検査の時に見た夢の話を2人に伝えた。
1回目で現れた銀毛の雌馬のこと、そして2回目は黒鹿毛の馬のこと。
「ウマって先日絵に描いていただいた、あれですよねえ?」
「そうです、あれです」
「黒鹿毛の子に乗せてもらってたんだよね? スピードとか、どうだった?」
「普通にウマ娘ぐらいは楽に出てましたよ。でも、夢のお話ですからね」
ルジェさんはなんとなくまだ理解が追い付かない感じ、リズちゃんの方はなんとかして馬と一緒に走りたそうで、ワクワクと期待をかけている感じだ。
そのリズちゃんが何かに気づいた。
「そういえばドーロちゃん、日曜日に夢のお話ししてくれたよね」
「ええ、そうですね」
「その時もおウマさんが出てきたよね、確か……金色の。
これで3頭目だよね、銀色と、黒鹿毛と、金色……」
リズちゃんは銀黒金と呟きながら腕を組み、しばし考える素振りを見せる。
その様子を俺とルジェさんは黙って見つめていたが、リズちゃんは不意に顔を上げると、
「銀、
黒、
金」
3人それぞれを指差しながら確認するように口を開いた。銀はルジェさん、黒はリズちゃん、金が俺、ドーロだ。
「ちょっと待って下さいリズちゃん、わたしが銀色のおウマさんってことですか?」
「そういうわけじゃないけど、色がちょうど合ってるねって思って。
確か金色のおウマさんはドーロちゃんが水鏡に映った時に見えたんだよね。だったら金色さんはドーロちゃんかもしれなくて、黒鹿毛さんはリズで、残るのは先輩かなって」
「確かに毛色はその通りですけど、耳もしっぽもありますけれど、動物と一緒にされてしまうのは心外ですよう」
むーっと膨れてしまったルジェさん。その後は俺とリズちゃんで一生懸命なだめて、なんとか機嫌を直してもらうことに成功した。
次回
門に食われる