起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
そうだね、すごくすごく待たせていたね。それに関してはお詫びするより他ない。
更新が遅れて本当に申し訳ない。
さて話の続きだ。引きつづきドーロちゃんのゲート特訓の模様をお贈りするよ。
今話と、次話はゲートのお話を……あまり間を開けずに公開しよう。それが終わると毎度おなじみが待っているのだけれどね……そこは、どうなるかねぇ……
むくれてしまったルジェさんをなんとか宥めた夜は普段通りに更けていき、雨も止んだ翌日の木曜日午後からは再びゲート特訓が織田先生とスタッフさん立ち会いの下で始まった。
§
「今日はスタートを切れるところまで進むと良いのですが……ドーロさん、準備は良いですか」
「あ、はい。大丈夫です」
一昨日と同じように角バ場に立つ。ゲートは既に配置されていて、俺が来るのを待ち構えていた、のだが。
「あれ……?」
「どうかしましたか?」
ゲートまでの距離は20メートルほど、いつもならこの距離で既にプレッシャーを感じているのだが、今日はそれがない。
いや、数歩近づくとやはり怖さが頭をもたげてくる。くるのだが、夢でその理由を知ったせいか、今までのような得体の知れない恐怖感は湧き起こってこなかった。
『今のアンタならできるさ』
黒鹿毛さんの言葉が背中をそっと支えてくれる。
目隠しを付けず、織田先生に手を引かれることもなく、しっかりと前を見て一歩、また一歩と前へ進む。
織田先生と研究所スタッフの面々が驚きの表情を見せる中、俺はゲート側面に手を触れた。
ひんやりとした鉄の柵が身体の熱を奪い取る。今までのような恐怖感こそ感じないが、やはりなんとなく緊張感はある。鉄柵の冷たさがその感覚を増幅させている、そんな風にも感じた。
「ドーロさん、平気なんですか?」
隣を離れず付いてきていた織田先生が問いかけてくる。俺は鉄柵を右手で軽く握ったまま、先生の方へゆっくりと顔を向けた。
「はい。なんとか大丈夫なようです」
「急ですね……、何かきっかけとかありましたか?」
先生の問い掛けにどう答えたら良いか逡巡する。
ゲートに触れても平気でいられる理由、それは昨日先生には伝えることのなかった、黒鹿毛さんの励ましによるところが大きいのは確かだからだ。
「昨日の検査中に見た夢のせいでしょうか?」
答えられないまま先生の顔を見つめていたら探りを入れられた。それ以上深入りされるのは面倒事になりそうだったから、俺は先生の言葉尻に乗るように無言で頷き返すだけだった。
§
前後共に開け放たれたゲートをくぐる。そのついででゲートを掴んで動かしてみる。手を放せばガシャンと音が響く。その音はやはり鋭く不快で、思わず耳が引き絞られた。
直ってくれない両耳をそれぞれ両手で優しく撫でながらゲートから離れると、織田先生が近づいてきて声を掛けてきた。
「本当に大丈夫なんですか?」
「はい。ちょっと緊張してドキドキしますけど。でも、長くはいられないような気がします。
あとやっぱり音がダメかもしれません」
頭を先生の方に傾けて、引き絞られてしまって元に戻らない耳を見せる。
力が入ったまま抜けないんですと伝えると、先生の右手がスッと伸びてきて両耳の間を梳くように撫で始めた。
急に触られたせいでピクッと耳が振れたが、思っていたより大きなその手からは段々と温かさが伝わってきて、それと共に耳の緊張がほぐれてくるのを感じる。ゆっくりと撫でられているうちに心の緊張も薄れてきて幸せで満たされてくる。なんだかこのまま眠りに落ちてしまいそうだ。
なんとなくうっとりとした気分に浸っていたらポンポンと軽く頭の天辺を二度叩かれて、その大きくて温かな手は引き上げていった。
「落ち着いたようですね」
そう言われて思いだしたように自分の耳に触れると、あれほど強く引き絞られていて直らなかったのがウソのように、対になった耳はしゃんと空の天辺を差して立っていた。
「あ、ありがとうございました。……その、自分じゃ直らなかったのに、どうして」
「絞り耳は気が張ってるせいですからね、リラックスさせればすぐですよ」
「そ、そうなんですね……勉強になります」
先生の言を借りれば、つまり俺は先生の手による『なでなで』でリラックスしていたということで。確かになんだか安らかな眠りに就きそうな感覚ではあったけれど、それを思い出すと今度は恥ずかしさがこみ上げてきた。頭を撫でられて良い気分になったとか、まるで小さい子供みたいじゃないか。とはいえ、
(撫でられてる間すごく気持ちよかったんですよね。あのまま先生に身を委ねてもいいと思えるぐらい……、って!?)
なにかとんでもない考えに呑まれてしまいそうになって、慌ててかぶりを振る。
小さい子供みたいなと最初思ったが、今のアレは明らかに違う考えだ。いい大人の男に撫でられてうっとりするとか乙女か俺は? いや、ウマ娘だから乙女か。いやいや問題はそこじゃないだろう。だいたい俺は男の自覚があってだな。
などと一瞬で考えを巡らせた途端、ボッと恥ずかしさに染まる俺の顔。それを見咎めた先生が心配して声を掛けてくれたが近寄られると余計におかしくなりそうだったので、なんでもないですと言い残し、慌てて距離を取った。
俺の方から距離を取ったことで先生も何かを察したのか、そこから先の特訓はお互い少々ぎこちない雰囲気で進んだ。とはいえ訓練自体は順調に進み、何度かゲートに入ってはしばらく留まるといったことを繰り返しているうちに、とうとうゲートの扉を前後ともに閉じることができるようになった。
「なんとかゲートに収まるところまでこぎ着けましたね。ドーロさん」
「は、はい。……でもやっぱり落ち着きません」
ゲートに収まったとはいえ、やはりなんとなく恐怖感はある。
今こうやって俺というウマ娘の力で軽く押しても引いても、きしみ音のひとつも立たないスターティングゲート。だが気を抜いた瞬間に俺を飲み込んでペシャッと潰れるんじゃないかという妄念が脳裏から離れない。耳は後方いっぱいに引き絞られたまま、その上わずかながら震えていた。
「それじゃあ一度スタートしてみましょう。良いですか?」
先生の声が響く。
俺は返事の代わりに先生へと目を配り、そして一呼吸置いてスタートの体勢を取った。
首、肩、腕、腿、あちこちに力が入ってガチガチなまま、呼吸も十分整わないうちにその瞬間が来た。
『ッシャアァァン!!』
ゲートの開く音が絞られた耳をこじ開けて頭の中を蹴り倒す。
そのけたたましさに思わず目を瞑ってしまい。
脚に力が入った時は既に1/3テンポ遅れで。
結果明らかな出遅れタイミングで俺の体は前に出た。
たたらを踏みそうになりながら、つんのめるように数歩で脚を止める。
振り返ると先生の視線が鋭くゲートを見据えていて、この状況をどう解決すれば良いか早くも思考を回している様子が見えた。
夏至の近づく太陽はまだ天高くあった。
次回 布を持ってパシる