起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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ウマ娘は神秘の存在ですけれど、トレセン制服もまた神秘の塊なのです。


神秘の詰まったおへそ山

 

 後顧の憂いがなくなった俺は料理のレーンを逆走して最初に戻ると、ポンポンと皿を取っていく。朝の時は大体大人の4倍くらいの量だった。それでも腹8分目には全然届かなかったから、俺の胃袋を満腹にしようと思えば少なくとも6倍、あるいは7倍くらいの量が必要になりそうだ。調整はご飯でするとしても、料理の数は10品以上必要になる。そしてトレーの上にピラミッドみたく3段に亘って積み上げられた料理を見たルジェさんは、俺のことをバケモノを見るような目で見てきた。解せぬ。

 

「ドーロちゃんってそんなにたくさん食べる子じゃなかったのに……やっぱり変わってしまったんですねえ……」

 

 テーブルの対面に座ったルジェさんが悲しそうな眼差しを向ける。その視線を気にしながらも俺は朝食の時のように食べ物を喉に流し込み続けていた。どうにも一旦食べ始めると止まらない。実は限界点なんて無いんじゃないかと徐々に心配を募らせながら黙々と口に運んでいたら、全体の9割ほどを食べ尽くしたところで突如箸が鈍った。

 

「……さすがに……ちょっと限界近し、みたいです」

 

 既に食後のお茶を啜るルジェさんに聞かせるでもなくひと言呟く。一応限界点はあったんだと一安心しつつ、箸を一旦置いた。

 

 朝食の時にはなかった満腹感。ここまで食べないとその感覚が起こらないのは自分の身体の事ながら驚異でしかなかった。これほどの量を食べられるということは、裏を返せばこの身体がそれだけ必要とする場面があるということ。それに今後トレーニングが激しくなってくれば、さらに要求量も上がってくるのだろうし。

 その一方で、これだけ食べても制服を着ているはずのお腹周りが窮屈になってこなかった。不思議に思って下を覗き込んでみると、なるほど着替えで悪戦苦闘した制服の謎構造はこのためにあったのかと合点がいく。

 そこにあったのは女の子としては文句なく落第点を貰えそうなボテ腹。トップの裾がまくれ上がり、スカートのゴムは伸びきって、その間の空間ではみ出たまん丸お腹がコンニチワしていた。もちろんおへそも飛び出したまま丸見えで、とてもじゃないけど人には見せられない姿だ。

 時間も押してるのに困った、食べすぎたかと焦っていると、今度は見る間にお腹が萎んで制服に辛うじて隠れるくらいになってしまった。

 

 ウマ娘の神秘をまた一つ実感した瞬間だった。というか、ほぼ一瞬でお腹が凹むとかいったいどうなってるんでしょうかね……。

 

 お腹が落ち着いて人心地付いたところで、さっきルジェさんの漏らした言葉を思い出す。それによると、元々ドーロはこんなに食べる娘ではなかったようだ。

 

「ルジェさん」

「はい、なんでしょうかあ?」

「先ほど私のことを、そんなにたくさん食べる子じゃなかったって言いましたよね?」

「そうですねえ」

「そんなに少なかったんですか? 今は多すぎて逆に困るぐらいなんですけど」

「昨日までのドーロちゃんは、わたしよりちょっと少ないくらいのお食事で満足していましたねえ。わたしが今おかず4品でしたけど、2品ぐらいでしたでしょうか」

「ルジェさんよりだいぶ少ない目ですね」

「ですねえ。でもウマ娘には本格化っていう時期があるんですよ」

「本格化って」

「競走ウマ娘としての成長期のことですねえ。それにさしかかるとトレーニングの効果が何倍にも増えて走力も上がるんですけれど、食欲も何倍にもなる、と」

「もしかすると私もそういう時期になったんじゃなかろうかと?」

「かもしれません」

「だとすると、なにか早めに手を打っておいた方が良いこととか」

「もう本格的なトレーニングを始めた方が良いのかもしれません。トレーナーさんに付くなり、チームに入るなりしてですよね。

 でもトレーナーさんに付いたりチームに入るには選抜レースを走らないといけなくて。ドーロちゃんはそれがまだこれからなので」

「その選抜レースっていつ行われるんでしょうか?」

「えーと、高等部入学の娘向けにはもうそろそろ始まるはずですよ。スケジュールアプリの方に通知が来てる頃じゃなかったでしょうか。

 ドーロちゃんは模擬レースの成績が良かったから、すぐに出走許可が下りると思います」

「許可なんて必要なんですね」

「今日この後の予定みたいに、授業の一環としてのトレーニングがある訳なんですけれど、その教官さんから許可が出ないと選抜レースに出られない決まりなんですよう。

 ある程度基礎的な実力がないとレースに出ても見どころがなく終わってしまって体力を失うだけですし、ケガの心配もありますしねえ」

「そうなんですね……」

「ああ、でもドーロちゃんは走る感覚を取り戻してからの方が良いかも知れませんねえ。今朝の様子だとまだちょっと本調子じゃなかったみたいですし」

「それは確かに。

 んー、どうしたら走れるようになるかなあ」

「練習あるのみでしょうか。わたしもお手伝いしますけれど、普段は早朝ぐらいしかお付き合いできませんし……。そうだ、トレーニングの教官さんに訳を話して見てもらうのが良いと思いますよ」

「個別指導もしてくれるんですか?」

「時間があれば多少ならですね。ずーっとは無理ですけど、ワンポイント程度なら。実際そうやってコツを掴んだ娘もいるんですし」

「ずいぶんと詳しいですね」

「それ、実はわたしもそうでしたので……。っと、いけないもうこんな時間です?」

 

 ルジェさんの驚いた声に壁時計を見ると、時計の針は既に2時前近くになっていた。

 いくら食事が優先と言っても30分以上授業に遅刻していては言い訳も難しいだろう。私は残っていた料理をガガッと掻き込んで食事を終わらせると、ルジェさんと共に食器を片付ける。

 またバケモノを見るような目で見られてしまったけれど。

 

「それじゃあわたしはチームの方でこれからトレーニングなのでえ。ドーロちゃん、また夜に寮で」

「はい、私はジムの授業に行きます。ルジェさん、今日はご迷惑いっぱいおかけして申し訳ありませんでした。大変助かりました」

 

 深々と頭を下げると、私は踵を返してジムへ向かおうと走り出す。

 

「ドーロちゃん! 学内では速歩ですよう!?」

 

 そうだった。

 私は静かに急ぎつつジムを目指す……。ジム……どこだっけ?

 




次回、第三のオンナ。
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