起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
果たしてドーロちゃんは無事トレーナーのスカウトをもらうことができるのか。
しかし出番はまだちょっと先なのでした。
『――高等部入学の者にとっては初めての選抜レースの機会となる。よって意気軒昂に逸る気持ちもあるだろうが、今日はこのあと雨天の予報もある。足元には注意しつつも大胆に、怪我をせぬよう胆大心小を持ってレースに臨んで欲しい。皆の獅子奮迅たる活躍を期待している。それでは只今より夏季選抜レース大会を開催する』
シンボリルドルフ生徒会長が開会を告げた。練習トラック前の広場で行われた開会式にはジャージ姿でクラス別に整列した生徒たちと、それを制服姿で遠巻きに取り囲む数多くのウマ娘。
教官の先生や学園職員たちは開催の準備に忙しく立ち歩いていて、校内放送からはマイクチェックの声が響く。トラックの内外には所々仮設のお立ち台ができあがっていて、その上には仰々しく睨みを利かせるTVカメラや撮影スタッフの姿がてんこ盛りだ。
トレセン学園の選抜レース、それは俺が考えていた以上に
「ねぇドーロちゃん、カメラとかいっぱい並んでてすごいね」
「本当ですね。こんなに大々的に行われるものだとは知りませんでした」
「プリ子ぉー、こんな大変なイベントだなんて聞いてないよー。ほらあそこっ、あれテレビのカメラじゃんねー、もしかして全国放送?」
「がっちり抱きつくなテトラぁ。アタシだってこんな風だなんて聞いてないっ」
ぞろぞろとトラックの観客席へと向かうレース参加者の一団。その中には当然俺達の他、2班の連中もみんないる。そして誰もが周りを取り囲むこの異様な雰囲気に飲まれそうになっていた。
「ハッハッハ。いくら重い雰囲気だろうとバクシンあるのみです!」
中には全然気にしていない生徒もいるみたいだったが。
観客席へと向かう道すがら、ルジェさんが俺達2人を待ち構えていた。
「ドーロちゃん、リズちゃん。平常心、ですよう」
近づくと右腕で軽くガッツポーズを見せて檄を飛ばしてくれた。そしてそのまま付き添うように歩く。
肩には大きなクーラーボックスをぶら下げていた。
「今日はわたしが二人をサポートしますよ。なーんでも、頼って下さいねえ」
ルジェさんはそのクーラーボックスを軽く叩きながら自信たっぷりだ。聞くと
「蒸し暑いですし、雨も降りそうですからねえ。冷却用品に雨具のポンチョとか、あと当然補水補給の用意なんかも全部詰め込んできましたあ」
「ありがとうございます」
「先輩としてえ、これくらいの事はしませんとねえ 」
歩いて進むうちに集団はバラけてしまい、練習班同士、あるいは友達同士でグループを作ってはトラック脇のスタンドに各々が陣取った。
俺達も3人でスタンド前寄りへと進み陣取る。
「ドーロちゃんは第2レースからですよねえ」
「そうですね」
「ならそろそろアップ始めたほうがいいですよお。選抜レースはレース間隔が短いですから、あっという間に順番が回ってきますう」
「第2レースは9時半からだね」
「あと1時間ほどですか……。トラックは走っちゃだめなんですよね?」
「そうですね、内バ場含めてトラックは使えませんねえ。走るなら外周の土手上を軽くですう」
「ドーロちゃん、一緒にやろうか?」
リズちゃんに誘われるまま、トラック外側の空きスペースでアップを始めた。
周りでも俺達と同じようにアップを始める生徒たちが増え始める。顔を見たことはあるが普段あまり付き合いのない娘たちで、第1レースの短距離ダートに出走する一団のようだ。
緊張した面持ちの生徒たちが黙々とアップを続けている。その緊張感がピリピリと肌を刺してきた。
改めて周りを見渡せば、普段どこかのんびりとした空気の漂うトラック周りは雰囲気が一変していて。学園職員の大人たちが忙しそうに動き回り、プレスの腕章を付けた普段見かけない大人たちがあちらでもこちらでも群がっていて、そして大きなテレビカメラや、これまた大きな大きなレンズを抱えたカメラがずらり砲列を並べている。
その様子に居心地の悪さをひしと感じていたらいよいよ発走時刻が迫ってきたのか、係員が第1レース出走者を呼ぶために現れた。
「第1レース出走準備に入ります。出走予定者の名前を呼ぶので集合して下さい。辞退する者もこの場にいたら一旦集まるように」
次々と名前を呼ばれ集まっていく。辞退者はおらず、出走する9人全員が体操服姿でトラックへ向け移動し始める。校内放送は目敏くそれを見つけ、アナウンスに熱が籠もる。
『さぁ、夏の選抜レースもいよいよ始まりますここトレセン学園練習コース!
どうやら第1レースに出走するメンバーが早くも集まったようです。それでは順番に出走者をご紹介いたしましょう!――』
前に東京レース場で聞こえていたよりは幾分抑え気味な、でもやっぱり騒々しい口調で出走者の紹介が進んでいく。観客はレース場のそれとは比べ物にならないほど少ないが、熱気は感じられる。特に大人たち、とりわけ普段見かけない類の大人たちが食い入るように出走者たちを見つめているのは、一種異様な雰囲気を生み出しているように感じた。
あと数分もすれば今度は俺が同じように呼ばれる立場だ。アップのお陰で体は解れてきたが、精神は逆に緊張で硬度を増しつつあった。
次回 人垣の向こう側で