起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
新幹線で『お医者様はいらっしゃいませんか』放送久しぶりに聞いたよ
「第2レース、芝1600メートルに出走する人は集まって下さい――」
第1レースの発走が始まる前に集合がかかった。第2レースは12人建て、2番にプリ子が呼ばれ、見知った黒くモサッとした髪が動く。彼女は俺の方を一瞥。口角を釣り上げ、不敵な笑みを見せてきた。対する俺の番号は10番。順に名前を呼ばれる中、ヴェントドーロの名も確かにあった。
「ドーロちゃん、呼ばれたね」
「そうですね。行ってきます」
「ジャージ預かっておくね」
リズちゃんが拳を出してきたので、俺もそれに応えて拳を突き合わせる。ジャージを片手に軽く手を振って見送ってくれた彼女の向こうには、同じくにこやかに手を振るルジェさんの姿もあった。
12人が固まってスタンドを降りる。校内放送は先ほどから第2レース出走者の紹介で
第1レースの発走時刻が来ていた。俺達はトラックに降りず、第1レースの去就をその場で見守ることになった。
『さぁ、いよいよ夏の選抜レースの発走です。第1レースはダートの1200メートル。9人のウマ娘が走ります』
ダート1200メートルのスタート地点は2コーナーの出口付近。ダートトラックの曲線途中外側寄りに据えられたスターティングゲートの後ろでウマ娘たちが次々とゲート入りしている。
『枠入りは順調です。全員が揃って――今! スタートしました!!』
ゲート開放の乾いた音が、聞き慣れた耳を震わせる。同時に9人のウマ娘が砂塵を蹴立てて飛び出した。出遅れはなし。横一線のきれいなスタートだった。
『9人のウマ娘が一線に揃ってスタート。先手を取ったのは9番デュンナ、続いて5番リボンバラード、1番クラヴァット、2番グリーンシュシュがそれに続きます』
数秒のうちに先頭はバックストレート中段へと差し掛かり全員の位置取りが決まる。隊列はそのまま第3コーナーへと突入していった。
『中間地点の600を過ぎて、レースは淀みなく進んでいます。一団のまま間もなく第4コーナー。
おっとここで後方から7番オンステージレビュが上がってくる! 続けて4番デュオタリカーが追います!! 早めの仕掛けが吉と出るか!?』
後方にいた黒いショートヘアのウマ娘が一団の外をスルスルと上がっていく。それを見て赤いポニーテールの娘がその後ろに従った。
4コーナー出口に差し掛かり集団がバラけて横に広がる。リードしている栗毛の9番と、そのすぐ斜め後ろに芦毛の5番。先行していた1番2番は徐々に置いて行かれつつあり、後ろから上がってきた7番4番がバ場の真ん中を5番に追いつく勢いで上がってきた。
『さぁ最終直線だ! 逃げた9番と5番が競り合いに入った! それを追う7番と4番、1番2番は苦しいか?』
トレセン学園のコースは東京レース場と違って、目立った坂がなくほぼフラットだ。だから最後は純粋に能力勝負になる。追い上げのスピードから見て7番4番が差し返しそうだが、9番が予想外に粘り込んでいた。
『あと100メートルで7番が迫る! 5番はここまでか、4番ももう少し伸びない。しかし9番が粘る粘る! 7番差しきれずにここでゴールイン! 勝ったのは9番、デュンナだ!!』
俺の背筋に少しばかりの寒さを残して、追い合っていた先頭2人がゴールを駆け抜ける。その後も次々とウマ娘が駆け抜けて行ったが、後方になった者たちはゴールする前から疲れた表情を見せていた。
ゴールを駆け抜けたウマ娘が1人また1人と1コーナーの向こうから戻って来る。彼女たちは係員に誘導されて内バ場の方へと進むが、そこにはいつの間にか大勢の大人たちが人垣を作って待ち構えていた。様子を見ていると、その大人たちの幾人かは戻ってきたウマ娘にポツポツと声をかけているようだった。あぁ、これがスカウトなんだとようやく気づいたが、それにしては集まった大人の人数と声を掛ける人数に差がありすぎる。
なんとなく腑に落ちないまま観察していたら、1着になった娘が戻ってきたときに大きな変化が起きた。
その娘がダートトラックの内ラチを潜ったときだ、大人たちが全員その方向へどっと走り寄った。彼女はあっという間に取り囲まれて人垣の向こう側で見えなくなると同時に、大人たちの姦しい声がトラックを跨いだこちら側まで届いてきた。そのあまりに落差のある二つの光景を続けざまに見せられて、それを見ていた第2レース出走者全員言葉もなかったが、誘導係の発声によって現実に引き戻された。
「第2レース出走者はこれよりコースに入場します。隊列のまま入場し外ラチ沿いに整列、号令とともにスタンドに向け一礼、返しウマに入ります。スタート地点は第2コーナーです。間違えないように」
第1レースの興奮も冷めないうちに、いよいよ俺達第2レース出走者が入場する時がやって来た。
スタンド最前列で手を振るルジェさんとリズちゃんが目に入る。
誘導係に言われたように、整列して一礼。パラパラと拍手の響く中、すぐに12人はターフに散って走り出す。
俺ももちろんその中の1人。芝の感触を確かめようと1歩1歩踏みしめて加速した。
次回 奇跡的に完璧