起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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なんでもそうですけど人に合わせて物事進めるのってストレスですよね。


先んずれば制す

 

 さんざん道に迷いつつ、やっとの事でジムにたどり着いた。ガラスのドアからこっそり様子を窺ってみると、大勢のウマ娘達がそれぞれトレーニングマシンに張り付いて運動している。どうやら入り口に入ってすぐ右手が更衣室のようなので、なるべく静かにドアを開けて忍び込……めなかった。

 

「ヴェントドーロ。もう体の方は大丈夫なのか?」

 

 ドアを閉めようと後ろを向いたところを背後から声を掛けられた。遅刻を叱られるかもと冷や汗を浮かべながらゆっくりと振り向くと、そこには俺より背の高い、筋肉質なヒトの女性がバインダー片手に立っていた。多分トレーニングの教官だろうと直感する。

 

「あ、はい。ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です……その、午後の準備に手間取ってしまいまして遅刻してしまいました、申し訳ございません」

 

 隙を与えず頭を深々と下げて最敬礼。そして一気にお詫びの言葉を吐き出す。こういう時はこうすべきと脳裏に浮かんだ瞬間に、ドーロの身体は見事な反応をして見せた。流れるような体幹の動作に淀みない滑舌の良さだ。この身体、ルジェさんが言っていた内容から想像していたとおりのハイスペックさだった。

 そんな戸口での様子にトレーニング中のウマ娘達が何人か気づいたらしい。ざわざわと話し声が聞こえてきた。

 

「わかったわかった。もう君が大丈夫なのは十分わかったから顔を上げてくれヴェントドーロ。こんな様子を見せつけられては他の生徒たちが落ち着かない。

 それにもうこんな時間だ、そろそろ基礎トレの時間も終了するし、最後の片付けだけ手伝ってくれるか?」

 

 壁の時計は2時15分を過ぎていた。基礎トレの時間は20分までで、なるほどもう終了の時間だ。

 持ち物を適当にそこら辺の床に置いてどこを手伝おうかとジムの中を見回していたら、近寄ってきた黒髪のウマ娘に声を掛けられた。

 

「ドーロちゃん、倒れたって聞いて心配したよ。もう平気なの?」

 

 例によって見覚えのない娘だ。

 相手がそうであるように、俺も慣れた態度で対応する。

 

「はい。医務室の先生によると何も問題ないと」

「そうなんだ。良かったあ。クラスのみんな朝からずっと心配しててねー。LANEも鳴りっぱなしでね」

「そうだったんですね……皆さんにはご心配おかけしました」

 

 そう言って俺は目の前の彼女にぺこりと頭を下げた。

 

「そんなに畏まらなくってもいいってドーロちゃん。無事でなによりだからね。ほら、他のみんなも同じ」

 

 彼女が手を向けた方を見れば、少し先で固まっていたウマ娘数人がこちらに微笑みを向けている。目立たないくらいに軽く手を振る娘もいた。

 どうやらあれがドーロと仲の良かった一団になるらしい。

 

「次の授業にも出るんだよね?」

「そうですね、もう回復してますしそのつもり」

「良かった。

 あ、授業終わりの礼だね並びに行こ?」

 

 片付けを終えたウマ娘達がジムの中央に集まる。教官へ向け一斉に礼をして基礎トレ授業が終わった。先ほどの黒髪のウマ娘がまた寄ってきて、一緒にトラックへ向かうことになった。

 

「ドーロちゃん、ここの更衣室で着替えちゃえば良いんじゃない?」

 

 制服姿のままジムを後にしようとした俺に、黒髪の彼女が言った。

 

「トラックに出ちゃうと更衣室まで行くの面倒だし。制服入れとくスポーツバッグとかは?」

「あぁ……慌ててたからバッグ置いてきてしまいました……」

「あれ、そうなんだ。んーと私なにか袋とか持ってきてたかなあ」

「あの、寮に戻って着替えてきますよ」

「今からだと間に合わないよ? コンビニ袋で良かったらこれ、使ってよ」

 

 きれいな三角に折りたたまれた白いビニール袋が彼女の手から差し出される。俺はひと言お礼をして、ジムの更衣室で着替え始めた。

 着る時に大変苦労したトレセン制服は脱ぐ時もやっぱり大変だったのだけれど、彼女の手伝いもあってなんとか次の授業時間に間に合った。

 

 トラックの中心には芝で覆われた広場と、本コースよりはかなり小さい楕円形のトラックが備えられていて、本コースを占領するほどでない小規模のトレーニングや特殊なトレーニングをするためのスペースとして用意されている。地下道を通ってそのスペースにたどり着いた俺たちは、灰色の鉄パイプで組み上げられた大きな檻のような建造物と対面した。3メートルはあろうかという高さと10メートル以上はある横幅を持った無機質で非人間的な造形を持つそれに、俺は言い知れない威圧感と恐怖感を持つ。

 多少の恐慌と共に、隣にいるはずの黒髪の娘の様子を窺う。彼女もまた恐怖感を持っているんじゃないかと。だが、俺の予想はあっさり裏切られた。隣にいた彼女は至って平静なたたずまいを見せていたからだ。それがなぜなのかはこの後すぐに分かった。

 

「それでは今からゲート練習をします。前にもやったわね?

 前回の練習後に評価を渡しておいたと思いますが、A評価を貰っていた人のゲート練習は最初の1回だけ。ゲート慣れはしていると判定されているので、あとはスタートダッシュの練習をショートトラックの方で行うこと。B評価だった人はゲート慣れがまだの人なので、A評価組のゲートが終わってから順次練習に入ります」

 

 教官の話を聞いて、そこで気がついた。ドーロのゲート評価はどちらだったのだろうか。

 

 




次回、もし本番なら120単位相当。
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