血の束縛   作:アークナイツと東方にドはまり

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事の始まり

 

 

『命以上に大切なもの』

 

俺がそれに気づいたのは、彼女とある約束をしたときだった

 

彼女とは何をするにも一緒だった

 

苦しむ時も、休む時も、泣く時も、笑う時も、俺と彼女は必ず一緒にいた

 

長い時間を過ごしたはずだ

 

体が内側から書き換えられる中、彼女も同様、二人の時間を苦しみに耐える全てにしていた

 

今思えば、彼女がいなければ俺に明日なんてなかっただろう

 

そう確信できるほどに、彼女との日々は俺を満たしてくれた

 

可愛らしいその笑みを、愛に満ち溢れたその性格を、真っ直ぐで歪みのないその生き様を…

 

生きる意味に、死にゆく意味に、戦いつづける理由に、俺はすることが出来ていた

 

だからこそ俺は、彼女のために生きた

 

得る知識も、変化する体も、耐え難い苦痛を堪えるのも、全ては彼女を苦しみから解放するために受け入れた

 

だがしかし、突如として、俺たちを取り巻く環境が激変した

 

彼女の体は無惨に犯され始めた

 

彼女の心は無情に蝕まれ続けた

 

無数の針、積み重なったメス、流れ落ち床にたまる血の池

 

彼女の体は意図も簡単に、玩ばれ弄られ、さらには呪われてしまった

 

彼女は生きたかったはずだ、でもそれは許されなかった

彼女は願いたかったはずなのだ、でもそれは許されなかった

 

そうだ、彼女はただ、愛したかったのだ

 

だから俺に縋ったんだ

 

「お願いっ」

 

その涙は溢れていた

 

「お願いっ、」

 

その手には血が滲んでいた

 

「私が止まれなかったらっ!」

 

その嗚咽はあまりにも弱々しかった

 

「私をっ…殺して…っ!」

 

だからその約束を期に、俺は決意した

 

『何時になろうと必ず、彼女を縛る楔は絶ち切ってみせる』と。

 

これは、俺が彼女を救う物語だ

 

 

 

ーーーーーー

 

『ヘルサレムズロット』

 

そこはかつての紐育(ニューヨーク)

 

一夜にして崩落・再構成されたこの街は異次元の租界となり、異界を臨む境界点、地球上で最も剣呑な緊張地帯となった

 

謎の霧に包まれたその街に蠢くのは、奇怪生物・神秘現象・魔導犯罪・超常科学、その他エトセトラ。

 

一歩間違えれば人界は侵食不可逆の混沌に呑まれてしまう

 

そこで世界の均衡を維持するために暗躍する秘密結社が存在した。

 

その名も『秘密結社ライブラ』

 

「星詠みの子、救出作戦?」

 

ある日の早朝

ライブラの事務所にて精鋭の一人、神々の義眼保有者『レオナルド・ウォッチ』こと僕は、今日の仕事に疑問符を浮かべていた。

 

「星詠みの子ってなんすか?」

 

聞きなれない単語、文字にしても意味が理解できないことからこれは十中八九、非常識界の言葉だろう

 

「ん?少年は知らないのか?…そうだな…」

 

目の前で考える様子をみせるのは、スーツを着た顔に傷のある僕の上司『スティーヴン・A・スターフェイズ』

 

「ツェッドとザップは星詠みの子についてどう認識している?」

 

スティーブンさんは僕の隣にいる斗流と言う血を自在に操る血法の精鋭、人間で度し難いグズの『ザップ・レンフロ』と魚人で真面目な『ツェッド・オブライエン』へと言葉を向けた

 

「あー、え~っと、そ~ですねぇ~?」

 

見るからに視線を泳がし始めるザップさん

これには事務者にいる全員が"知らないな"とが理解したが、対称的にザップさんの弟弟子に当たるツェッドさんがすらすらと話し始める

 

「確か、世界に一人しかいない星の寵愛を受けた人間、でしたか?

血法の使い手の一人と聞いています」

 

「流石はツェッド、ザップと違いちゃんと勉強しているな、正解だ。」

 

ヘルサレムズ・ロットでの居住は僕の方が長いと言うのに、もう僕の方が知識が少ないのはご愛好である

 

今では先輩である僕とザップさんより為になっていた

 

「てめぇ、なんでんなこと知ってんだ、魚類!」

 

それが気にくわないのか食って掛かるザップさん

 

「あなたこそなんで知ってないんですか?吸血鬼の専門家なら知ってて当然のことでしょうに」

 

「んだと生意気なっ!?」

 

「こら~、静まれ~馬鹿ども」

 

スティーブンさんの言葉でしゅんと大人しくなる

影で番長と呼ぶ以上、逆らったら駄目なのだと身に染みているらしい

 

なんとも頼りないが、一応戦闘面では頼りにはなる人である

 

本当に

 

「この際だ、全員の認識を改めるためにも一から説明するぞ」

 

「ツェッドさんの言った内容に間違いがあるんですか?」

 

「いや、ない、強いて言うなら足りないが正しいな。

人界において星詠みの子とは、特定の条件を満たす者達の総称のことだ。

これは過去の文献からだが、ツェッドの言った星の寵愛がその条件にあたる。」

 

「星の寵愛とは?」

 

「言い換えれば地球における大地などの自然の他、動物などの生物が星詠みの子にとって都合よく働くと言うことだ。」

 

「?どんな風に?」

 

「これは一例だが、星詠みの子は雨や雪などの天候を自由に操れるらしい。

先代がよく自前の畑を潤すためにと雨を降らしていたのが記録されている。」

 

一気に胡散臭い話になるが、あくまでこれは記録上

 

誰も文句を言わない辺り、取りあえず本当であると仮定して、任務に支障がでないようにするらしい。

 

「なんだ少年、信じられないって顔をしているな」

 

僕もそうしようとは思ったが、流石はスティーブンさん。

僕の表情から心情を読み取られてしまった

 

「まぁ、気持ちは分かるが、これは本部が寄越した確かな情報だ。

実際にも日本と言う島国で生まれた先々代が過去に四度、台風や津波などの災害にあったが、どれも星詠みの子の体を害すには至ってないと記録がある。」

 

「本当ですかそれ?」

 

倍増した胡散臭さに不信感を覚えるが、信頼のあるツェッドさんが僕を諭してくれた

 

「レオ君、僕たちからしたらそんな都合のいいことあるわけないって思ってしまいますが、こればかりは裏家業に勤めるものなら結構有名な話ですよ。

その災害で星詠みの子を害そうとした巨大な組織が丸々1つ壊滅しています」

 

「マジっすか!?」

 

「ツェッドの言う通り、星詠みの子を直接狙った組織は悉く壊滅しているぞ。

それどころか手助けをしたものでさえ、なんの因果か破滅の運命を辿ったらしい。

軍事的事故、経済的危機、内部的反乱etc...

その事実から界隈では暗黙の了解として不可侵領域にまでされたことがある」

 

それはなんともまぁ、凄まじい…

僕があまりの事実に驚いていると、ザップさんが気になることがあるらしかった

 

「スティーブンさん、逆に星詠みの子を味方に率いれた場合の御利益とかないんすか?」

 

珍しく人を思うような質問

 

「ザップ良いところをつくな、星詠みの子は動物がお金を運んできたりと側におけば商売繁盛の御利益があると有名だ

牙狩り本部はそのお陰で先代を率いれた時期は大繁盛だったからな」

 

「救出したらライブラに勧誘しましょうそうしましょう!」

 

なるほど、目的は金か

珍しくまともな質問をしたからと感心したのが間違いだった

 

「まぁ、それは仕事の後に考えることだな。

説明を続けるが、星詠みの子には一説では動物と実際言葉でコミュニケーションが取れるという話がある」

 

「それは…諜報活動にはうってつけの能力ですね」

 

「そうだ、あくまで一説でしかないが、そうでなくとも存在するだけでその便利さは一級品。

不可侵と言えど裏の業界では長年重宝されていた人材だ。

それこそ牙狩りでは発見次第、最低でも保護または教育が義務付けられている。」

 

「あ、だからさっきツェッドさんが『吸血鬼の専門家なら知ってて当然』って言ったんですか?」

 

僕の閃きにスティーブンさんは首を振る。

 

「いや、違う。牙狩りにおいて星詠みの子が特別視されるのは別の理由からだ」

 

一拍おいた後、その表情は苦虫を噛み潰したような感情を写し出した

 

「こと血界の眷属において、彼彼女らの血肉は何者にも変えがたい最高級食材となっている」

 

渡された書類に載っているのは、美しくも残虐な1つの写真

それは白い花が咲き乱れる花畑の上で、血界の眷属により血を吸われて死ぬ行く少年の姿であった

だがこれは僕の目があってこその見えるもの

ザップさんやツェッドさんには宙に浮き、独りでに血を流して死んでいる姿しか写っていないだろう

 

「しかもこれには彼彼女らの体質が関係しているんだろうな。

あろうことか血を吸われたら最後、下級の眷属が長老級になるほどの力をつけたという事実が確認されている。」

 

「「「っ!?」」」

 

しかし、いくら情報が最低限であろうとここに揃うのは血界の眷属の専門家

1つの写真と信頼できる情報からここにいる全員が認識を改めた。

 

「…よし、全員がことの重大さを理解したところで、そろそろ本題に入ろう、クラウス」

 

スティーブンさんの呼び掛けに、事務所の一角で先ほどまでコンピューター作業に勤しんでいた、ライブラメンバーの一人が動き出した。

見ただけでも獅子を彷彿とされる強靭な肉体を持つ彼こそ、我がライブラの実質的リーダー『クラウス・V・ラインヘルツ』

クラウスさんが立ち上がると同時に、クラウスさんの執事『ギルベルト・フランケ・アルトシュタイン』こと、ギルベルトさんが壁のディスプレイの電源を入れた

 

ディスプレイに写るのは任務の詳細

 

一人の少女に関する情報だった

 

「今回行う我々の任務は『星詠みの子』であるこの少女の救出である!」

 

対象の名は『ティアマト・フェザーライト』

 

異界が交わる約10年前、痕跡もなく消息不明となった少女である

 

 

 

☆☆☆

 

「しっかしこう言っちゃなんですけど、そのティアマトって人はちゃんと生きてるんですかね?」

 

それは夕方になりそうな時間帯のこと

 

僕たちは救出対象がいるであろうとある研究所へと向かっていた

 

「あ~?どういうことだ?陰毛糸目」

 

「いや、彼女が消息不明になったのは13年も前のことじゃないですか?

その間あらゆる組織を虱潰しに捜索・調査をしたんですよね?」

 

僕の乗る原付の運転手にはザップさん

横にはツェッドさんがスケボーで、クラウスさんとスティーブンさんは車で平行している

 

「それでも見つからなかったってことは、彼女を誘拐拉致監禁したのは相当な組織ってことじゃないですか?

詳しいことは分かりませんが、拘束期間とか力の差を考えると...」

 

「安否の不安なら予想でしかありませんが、大丈夫だと思いますよレオ君。

ただの人材確保のいう名目での誘拐なら、当人には生きてもらわないとその意味がなくなりますから」

 

「そう言うもん...なんすかね?...でも案の定、彼女を見つけた先が黒い噂が耐えない人体実験場ですよ?」

 

僕の言葉に実際に人体実験の経験があるツェッドさんは言葉が詰まる

 

「救出には賛同しますし全力で助力しますけど、彼女が洗脳なんかされていたりしたら難易度は高くなるんじゃ?」

 

経験上なにかを救う時、対象に救われたい意思がないとその行為は無駄となることが多い。

それどころか、救った対象が裏切るなんてこともある。

これはしたいしたくないと言う話ではない。出来るか出来ないかと言う話なのだ

 

だが、そんな僕の不安も上司には想定内だったようで…

 

『少年の考えも最もだが、確保・保護自体はそこまで難しいことじゃない』

 

耳に付けたイヤホンの向こうからスティーブンさんの声が聞こえてきた

 

「そうなんですか?」

 

『チェインの調査によると、星詠みの子は実験のためと数日間寝たきりになっているらしい。

勿論作戦中に覚醒する可能性はあるが、今回は警察の協力の元、中枢制御室の制圧後に実験施設へと強襲。

作戦通りに行けば問題なく保護できるはずだ』

 

「作戦通りに...」

 

『まぁ、どちらにしろ油断はしないに越したことはない。

全員何があっても気を抜くなよ』

 

微かな声でザップさんから"うちが作戦通りに進んだ試しがねぇな"と苦笑いするのが聞こえた

 

あぁ、今日もぶっつけ本番の対応をしなければならないのか

 

『その通りだスティーブン、いくら入念な準備を行おうとここはヘルサレムズ・ロット。

最悪な事態に陥る可能性は常に考慮されていないといけない』

 

通信内容からも分かる通り、流石はクラウスさんと言う他ない

 

敵からしたら溜まったものじゃないだろうが、クラウスさんのこの精神性には油断も隙もないのだ

 

『それに当然だが懸念も存在している』

 

「星詠みの子って言う女が血法の使い手って所っすよね?旦那」

 

今回においては救出対象が血法を使えると言う情報が一抹の不安をライブラ各員に与えていた

 

血法についてだが…

僕たちライブラは代々、牙狩りと言う吸血鬼の対策専門家として活動してきた。

吸血鬼とは知っての通り存在そのものが異常

その力は人間など足元にも及ばないほど強力で、科学が発達した今でも一人の血界の眷属に対し、何百人もの精鋭が命を落としているほど化け物染みている。

そこで人間である我々は、その吸血鬼に対抗するべく、真似事ではあるものの血を使って戦う血法を産み出した。

 

その詳細は僕の持つ神々の義眼をもってしても分からないが、聞いた話によるとそれには『属性』なるものが備わっているらしい

 

「作戦会議でも聞かされましたが、水と大地の二属性持ちでしたか、凄まじいですね」

 

『あくま今代の星詠みの子が先代と同じならば、だがな。

が、我々が呼ばれたのもその危険性を考慮してのもの。

もし星詠みの子が敵対してきたときは頼むぞ二人とも』

 

「俺が知ってる二属性持ちはあの妖怪しかいないっすからねぇ~、未だにただの人間がってのは信じられないっすよ」

 

「師匠ですらも相当の研鑽を重ねて取得したとのことです」

 

「え?なら相当強いんじゃあ... 」

 

僕嫌ですよ!目がいいだけの一般人なんですから!

そんな僕の焦った心情を読み取ったからか、阿保とザップんさんが馬鹿にしてくる

 

「なに怯えてんだ馬鹿、お前は現地でのルートを考えるだけなんだから戦闘に混じるわけネェだろ」

 

「で、ですよね!」

 

『安心したまえ、レオナルド。

戦闘時には我々が全力で対処する、君は君の職務を全うするといい』

 

「あ、ありがとうございます!クラウスさん!」

 

リーダーからの激励に僕の不安も軽くなる

経験上、作戦は前向きになればなるほど上手く行くと言うもの

不安がなくなることはないが"こんなのはいつものこと"と僕は大丈夫だと開き直ることにした

 

「しかし、彼女は一体なんの実験台になっているのでしょうか?」

 

だが、どうもツェッドさんには気になることがある模様

 

「仮にも血法使いとも噂される人材です、僕なら訓練を施して味方に率いれます。

そのメリットを潰してまで捕らえた者は彼女に何を求めたのか」

 

「「『『ん~、、、』』」」

 

「もしかしたら血法を軍事的に「あ、見えてきました!」」

 

だがそれも目の前に迫る施設に中断される

 

『よし、丁度よく警部補からも連絡が入った!

少数精鋭だが向こうはもう準備万端のようだ!

全員!到着次第、作戦を開始するぞ!』

 

これから始まるであろう命のやり取り

 

これから目にするであろう非人道的な行為

 

これから起こるであろうここでは当たり前となった予想外な現象

 

各員がそれぞれに想いを馳せる

 

『気を引き締めろ!』

 

「「「はい(おう)!」」」

 

日も沈み始める時間帯

 

僕は僕に出来ることを...

 

ライブラはまた今日も世界の均衡を守る

 

 

 

 

 

が、まだ、僕たちは想像すらできてはいなかった

 

これが引き金となってあんな悲劇が起きるとは

 

 

 

 

☆☆☆

 

「貴様ら!こんなことしてただで済むと思うなよ!」

 

実験施設における制御区画の監視室

 

そこでは警備されていたであろう武装された異形と人間に加え、研究に加担していた者全員が拘束して集められていた

 

中でも相当独自の研究に熱意を持っているのか、白衣を着た60歳後半のおじいさんが顔を真っ赤にして怒鳴っている

 

「すげぇなここ、軽く数えただけでも50は収容されてるぞ」

 

が、対称的に淡々と任務に勤しむライブラ各員

ザップさんは拘束した人たちの監視を、僕とツェッドさんは制御室のコンピューターから実験体とされている人達の情報を収集していた

 

「ん?あれ?すいませんツェッドさん、36号室、アップに出来ませんか?」

 

壁一杯に取り付けられたモニターに映るのは多くの監禁室

僕は見たことのある顔を見つけた

 

「彼は...」

 

「あ、こいつ、確か1週間前に行方不明になった...」

 

「僕たちが探していた捜索願を出された人の一人ですね。

他にも資料で見たことのある顔がちらほらとあります」

 

「なるほど、通りで普通に探しても見つからないわけだな。

旦那、やっぱりここはここ最近の神隠し事件に絡んでるっすよ」

 

今日の任務が始まる以前からあった神隠し事件

警察の要請から僕たちライブラは暇があれば捜索の当たっていた

しかしその成果はゼロ、神々の義眼から魔術的要因があるのはわかったが突然の消失に、僕たちは手も足も出せなかった

が、今日判明した一つの事実、方法は不明だがここは間違いなく犯罪組織の一部であることが分かった

 

「で、どうするんすか?作戦は変更で?」

 

広域の制圧に長けているスティーブさんとクラウスさんは、施設内の警備員の拘束へと出向いているためここにはいない。

ザップさんは遠隔小型通信機を通して映像と音声ともに全てを送り、どうすればいいか判断を求める。

 

『安心したまえザップ、もとより我々はここにいるであろう全員を救出する予定だった

勿論、作戦は修正するが大幅に変えることはない。我々はこのまま己の職務を全うしよう。

が、ここにいる人数は関係者含め100と想定を大きく上回る、流石に警察の増員が必要だ』

 

通信機越しに聞こえてきた僕たちへの指示におじいさんが怒鳴りを挙げた。

 

「ふざけるな!我々が今までどれだけの苦労を重ねてここまで研究を進めてきたか!それを全て台無しにすると言うのか!」

 

狂人とは会話を交わさないのが吉、僕たちはお爺さんを無視し、我らがリーダーの指示を聞く

 

『その間に三人は星詠みの子含め、監禁された者の詳細を調査をしてくれたまえ

そちらの状況は通信機を通して把握できている、何かあればこちらからも連絡をする』

「了解です」

「レオ君、手伝います。」

 

僕たちは本来の任務のために行動し始めた。

だが次には耳を疑うことになる、全てを知っているであろうお爺さんが気になることを言ったのだ

 

「星詠みの子...?ははっ!そうか!貴様らの狙いはあの化け物か!」

 

モニターを操作しようとする手が止まった

 

「愚か者共め!今さらあやつの状態に気づいて必死に奪還しようとは!もう遅いわ!あやつは兵器として完成しておる!」

 

兵器、それはヘルサレムズ・ロットおいて最も聞き逃せない単語

 

「おい、ジジィ、兵器だと?どう言うことだ?」

 

危機をいち早く察知したザップさんがおじいさんの首に血の刀を押し当てた

 

「なに...?まさか貴様ら何一つも知らんのか...?」

 

お爺さんの言葉に誰もなにも言わない、喋ればどんなボロが出るか分からないからだ

 

だが、沈黙は一種の肯定

 

「フハハハハ!これは滑稽だ!まさか何も知らぬとは!

その様子ならなぜあやつがここに移送されたかも知らぬな!」

 

お爺さんの精神的地位は一気に昇格してしまった

 

「じゃあ言えよ糞ジジイ、てめぇ、星詠みの子に何をしやがったんだ?」

 

「阿保め!我が教えるわけなかろう!だがこれだけは断言してやる!貴様らのような低能どもは理解できぬわ!」

 

「んだとっ!」

 

どうやら彼女は僕たちの想像を越えて非人道的な実験を

施されているらしい

ツェッドさんの手と僕の目の回転が無意識に早くなる

 

いち早く彼女を見つけて保護しなければ、と。

 

そして、見つけた

 

僕の瞳が彼女の面影を持った人を、見つけてしまった

 

「まさか…この人が...?」

 

「どうしました?レオ君?」

 

「ツェッドさん、4号室の人を...拡大...してもらえますか?」

 

成長していることを仮定して、骨格、瞳の色、耳の形etcと、あらゆる材料から救出対象かをどうかを判断する

 

僕の目は判断し、その正体を暴く

 

「なんだこれ...黒い...泥?」

 

だからこそ、神々の義眼であるこの目を疑った

 

今見ている光景が本物であるかを疑った

 

「クラウスさん、確認しても良いですか...?」

 

声、滲み出る汗、彼女を視界に入れるだけで体の震えが止まらない

 

これは触れてはいけない何かだと本能が察する

 

「星詠みの子、ティアマトさんは人間のはずですよね...?」

 

僕の剣幕にザップさんとツェッドさんが視線をモニターに写る彼女へと向けた

 

『うむ、順当に年齢を重ねているのであれば今頃は18歳の若き女性になっているはずだ』

 

モニターに映るのは、肩まである羊のような角を持つ女性

 

「まさかこの人が?彼女は異形ですよ?人間じゃない」

 

「角が生えているだけで他は人間じゃねぇか、

細かいことはわからんけどここにいたんだから改造されてたとしてもおかしかねぇんじゃねえの?」

 

マスクで口を塞がれ、鎖で手足ごと1本の柱に拘束されていたその姿

本人かどうか疑わしい、が、人間ではなくなっている可能性だって十分にあり得る

 

本当はそんなこと、今気にする余裕なんてありはしないのに

 

「違うんです...!今は人間か人間じゃないかなんて重要じゃない!」

 

僕は全員の認識を改めるため伝える

 

『どう言うことだね?レオナルド?』

 

クラウスさんがいち早く僕の視界では彼女が全くの別物に写っていると理解してくれた

 

が、僕からしたらクラウスさん達が彼女の異常について何一つ気づかないのが不思議でならない

 

「見て分かりませんか...?」

 

言葉が見つからない、どう彼女について説明すれば良いのか

 

だが言わなければならない、見えてるものとして説明する義務がある

 

「ぼ、僕の目に幻術は通用しません、魔術によるものならその術式ごと僕の脳が捉えられる形で全てを見通すからです...っ!」

 

この目があらゆる事象を写すとき、魔術は光として、術式は形として、魔力は色として、僕の脳が捉えられる形で写す

 

その様相はまさに千差万別

 

「だからこそ血界の眷属ですら真っ赤に燃えるオーラとして詳細に捉えることが出来ます...っ!」

 

『まさか彼女から赤いオーラが!?』

 

「違うんです!血界の眷属どころの話じゃないんです!」

 

最悪の想定、これは牙狩りならではの想定だった

 

「言うなればこれは泥...あらゆるものを呑み込む黒!」

 

だから伝わらない、これは血界の眷属とは別の危険を孕んでる

 

それは世界の均衡を守るためなら絶対に見過ごせないもの

 

「彼女は呪詛の塊です!彼女を外に出してはいけない!!」

 

呪いで出来た彼女は厄災そのものだった

 

「あ!てめぇ!」

 

しかし、その危険性が伝わった同時に、全員の隙をついて全てを知っているであろう爺さんが飛び出してきた

 

行き先は僕たちがいる施設の制御盤

 

ザップさんはとっさに蹴りをいれ、特殊武装を施した警察は彼に向かって射撃した

 

だが、押されるひとつのボタン

 

「すまねぇ!旦那!こっちのミスだ!監禁されてる奴らの拘束が外された!」

 

カメラ越しには手足を拘束されたものは自由になっていた

 

困惑するもの、喜ぶもの、怯えるもの、色々な様子が見て取れる

 

だが救出対象である彼女だけ手足の拘束が取れてはいなかった

 

取れたのは顔を被っていた金属のマスク

 

「もしかしたら暴れる奴が出てくるかも...?」

 

ザップさんは途端にクラウスさん達へと異常を伝ようとする

 

が、それを遮るように、全員の耳に一つの声が聞こえてきた

 

Aaaaaaaaaaaaaaa~~~ーーー……

 

「「なんだ(ですか)、この声...?」」

 

淡い声色、霞み消えていきそうな弱々しい音

それは例えるなら、なにかを呼んでいるようで、なぜか僕たちの心筋をじかに撫でてきた

 

僕たちは咄嗟にモニターを見た

 

「フハハハハ...!ついにだ、ついに始まるぞ...!」

 

案の定、その声を発してちたのは星詠みの子であるティアマトさんだった

 

「これは蹂躙だ!あやつによる!我々が開発した混沌兵器による!あらゆる生命への死の宣告!」

 

その声を聞いたお爺さんは、数穴が空いているのに叫び出す

 

その様子はまさに狂喜

 

「本音をいえば臨床実験を行いたかったが、そうでなくとも、ここに運んだ時点で手回しは完璧だ!」

 

内容なんて一切理解できない、したくもない

 

「この街に!終焉が轟くぞ!」

 

目的なんて理解もできない、したくもない

 

だが僕たちはライブラ

 

ザップさんは聞き逃せないと、今度は本気でお爺さんに血の刀を突き立てた

 

「おいジジィ、あんた一体何を企んでやがる?」

 

しかし、今だ聞こえるどころか段々と強くなる声に、なにも分からない僕たちはただ聞くことしか出来ない

 

「フンッ!焦ったところでもう遅いわ!既にことは始まっておる!」

 

だからこそ、次に起こる状況を誰一人として予想できなかった

 

突然、何かの衝撃により、施設全体が大きく揺れたのだ

 

「な、なんだ!?」

 

制御室にいたザップとツェッドさん以外の全員が、その場で足を崩す

 

肉体的な訓練を行っていない僕も当然耐えられずに床へと手を付いた

 

しかし、その最中で見てしまう

 

「赤い...オーラ?」

 

上から、下から、横から…この部屋の壁の至るところから這い出てくる赤黒い何か

 

その液体のようにも、スライムのようにも、泥のようにも見えて、また、血界の眷属のオーラを纏っていた

 

「っ!?レオっ!」

 

僕は気づけなかったが頭上からそれが垂れていたらしい。

他にも視界の端では、警官も勿論のこと捕まえた人達にまでもそれは迫っていたが…

 

「「斗流シナトベ(カグツチ)、刃身の弐、空斬糸!」」

 

ザップさんが僕を蹴り飛ばし、ツェッドさんと協力して全員をなにもない壁際へと投げ飛ばしたことで、なんとか無事だった

 

「あ、ああ、ありがとうございます!ザップさん!!」

 

「たくっ、手間掛けさせんな陰毛頭!」

 

「すいません!だけどこれは...」

 

「二人とも!油断しないでください!まだ何かある!」

 

床に落ちた全ての赤黒い液体は、スライムのように蠢いて形を作り始める

 

その様相は色も相まってグロテスクで、だが人や獣などのように形容していく度に、これは危険なものだと本能が警笛を鳴らした

 

「「「「「AGYAriiiiiiiiiii!!!!」」」」」

 

そしてそれら全ては、突然、ここにいる者全員を襲い始めた

 

「「刃身の壱、突龍槍・焔丸!!!」」

 

だが、いち早くそれを悟ったザップさんとツェッドさんが、敵全員を貫き切り刻む

 

時間にしたら一瞬のこと、それでも僕たちの上司は状況を察知してくれたのだろう

 

『三人とも!無事か!』

 

そばに転がった通信機器からクラウスさんの声が聞こえてきた。

僕は直ぐ様それを掴み、状況を報告する前に伝えなければならないことを叫ぶ

 

「クラウスさん!赤です!黒い何かから!血界の眷属のオーラが見えました!」

 

クラウスさんなら事態が一瞬で理解できるはず

 

『総員に継ぐ!早急に施設から脱出を図るのだ!』

 

警官も含め、僕たちは直ぐ様制御室から出ようとした

 

が、動き出そうとする直前、死に絶えそうなお爺さんが言った

 

「フ、フハハハハ!やはり、やはりっ、我々は間違えてはいなかった!」

 

僕の足が止まる、聞き逃していけないと直感が働いたのだろう

 

「来る!来るぞ!厄災がっ!我々が歪め!あやつに産ませた...!」

 

視線はモニターに写る星詠みの子へと向き、僕は無意識に叫び出した

 

「クラウスさん!星詠みの子を!」

 

彼女が静かに、密かに、なにかに悲しんで泣いていた

 

「十一の厄災がっ!!!」

 

でも伝えきる前に、大きな衝撃と共に床は割れた

 

電気は止まり、壁は崩れ、天井は瓦礫として落ちてくる

 

僕の視界は暗転した

 

 

 

 

 

 

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