「ゲホッ…!!──あぁ……まだ生きてる……よな……」
朦朧とする意識の中で自身の生存を確認する。鬼のタックルによる衝撃と背中を強打したせいで全身がズキズキと痛む。
オレがしばらく動けないままでいると、遠くのほうからズシンズシンと足音が近づいてきていることに気付く。
「まったく……今の一撃でくたばっておけばこれ以上苦しまずに済んだのになぁ……!!」
どうやらオレにまだ息があることに気付いた鬼がトドメを刺しに来ようとしている様だ。
オレは痛みを我慢し、フラフラと体を揺らつかせながら立ち上がる。
「……あぁ悪いな、手を煩わしちまって……。オレは諦めの悪い性分でな……ごほっ」
「そうか、だかそんなボロボロの体で何ができんだァ??──確かにテメェは人間にしちゃいい線いってる。だが、そりゃあくまで人間の範疇ではって考えたらの話だ。──人間は鬼には勝てねぇ!!それが自然の摂理ってやつだ!!」
鬼は完全に勝利と生存を確信したのか、先程までとは打って変わって声高らかに笑い出した。
……そりゃそうか。鬼も生きてるんだ。死という恐怖の束縛から解放されればそりゃ大声で笑いたくもなるだろう。そこの感情心理に鬼も人も関係ない……生物なら皆一緒だ。
(──あ、一つだけあるな……アイツにダメージを与える方法。)
奴は今油断してる。オレの体もボロボロで先程までのような動きはできないだろうが……まぁなんとかなるか。もっとも、成功したところで勝利にやっと一歩前進できるだけの成果しか無いが………。
(まぁやっと可能性が見えてきたんだ……全然マシだろ。───さて)
オレはしゃがんで足元にあった木の枝を拾い上げる。……うん、これがあれば充分だろ。
そんなオレの様子を見ていた鬼が嬉々として話しかけてくる。
「なんだぁ?今度は武器を使うのかぁ…!あぁ賢い選択だと思うぜ?なんたって人間は非力だからなぁ……だが、そんな木の枝を武器と呼ぶにゃあ無理があるんじゃねぇかぁ??」
「げほっ………いいや、これがあればオレはお前を殺せると思うよ。だからちゃんと構えといたほうが身の為だぞ。」
それを聞いた鬼は一瞬驚いた表情を見せたが、『やれるものならやってみろ』と言わんばかりの笑みを浮かべ、手首をクイクイと動かしオレを挑発してきた。
オレは深呼吸をして集中力を極限まで高める。そして心と体が整ったところで、グッと力強く踏み込み、全速力で走り出した。
鬼は手のひらをこちらに向け、またもや大量の球体を撃ち始めた。
(さっきは初見で遅れをとったが二度はねぇぞ。)
オレは球体の軌道を全て読み取り、速度を緩めることなく球体の隙間を掻い潜り一気に鬼との距離詰める。
鬼は球体攻撃から接近戦に切り替え、オレの進行方向に合わせて顔面狙いの右ストレートを打ってくる。それをオレは素早く察知し、鬼の腕がギリギリ届く距離で急停止、首を後ろに引いてパンチの射程から外れる。
鬼が続けて一歩前に大きく踏み出し、左手でもう一度顔を狙ってきたので、パンチを繰り出すタイミングと合わせて姿勢を低く下げて鬼の懐へと潜り込んだ。
そしてオレは手持ちの木の枝をあたかもナイフの様に構えながら鬼の顔を見上げる───
───目一杯の殺意を込めて。
その瞬間、鬼の表情が一変した。
(──ッッ!!?何だこの殺気は…!?このオレが……こんなガキに殺されるわけ……!!)
先程までの余裕そうな表情が嘘だったかのように鬼の顔が恐怖と焦りの感情に覆い包まれた。
鬼は上半身を仰け反らせ、慌ててオレの肩を掴もうとしてきた。オレは体を左に回転させながら上に跳躍、鬼の顔の高さまで到達したら木の枝を逆手に持ち替え、鬼の顔に力強く振り抜いた。
「───グゥッッ!!?ガァアアァアッッ!!?!?」
オレが振り抜いた木の枝は見事に鬼の右目に深くぶっ刺さった。
鬼は大きく悲鳴を上げ、その巨躯を大きく振り回しながらもがき苦しみ出した。その際、振り回された鬼の手が偶然オレの左頬に直撃し弾き飛ばされてしまった。
「いっつ…………でも、作戦は成功だな。やっぱどれだけ頑丈な生物でも"目"だけは弱点になり得るよな。」
先程の『生物なら皆一緒』という言葉で気づくことが出来た。我ながら眼球を狙うなんて非人道的だとは思ったが背に腹はかえられないよな。
鬼は未だ右目を抑えながら地面を転がり回っている。
心は痛むがこの好機を逃すわけにはいかない。
「おいっっ!!」
オレが大声を出して呼び掛けると鬼は肩をビクッと震わしてこちらを向く。その後も鬼はガクガクと肩を震わしている。
(……?目をやられたのが相当効いたんだろうが……だとしても流石にビビりすぎじゃないか??そこまで萎縮されるほどのことはしてねぇぞ。)
鬼の予想以上のビビり具合に違和感を感じた。まるで蛇に睨まれた蛙のような、先程までの威圧感はもはや姿かたちも無くなっていた。まぁ、何でもいいが。
オレは構わず言葉を進める。
「まだ続けるか?次は左目も失うことになるぞ……いや、今度こそ本当に命も貰うことになるがどうする?──お前にも色々事情があるんだろうがオレもこんなところで死ぬ訳にはいかないんでな。悪いが容赦しねぇぞ。」
などと脅しをかけてみる。正直なところオレにも余裕はないから脅しというよりはハッタリに近いが……。
数秒たったのち、やっと鬼が口を開いた。
「わ、わかった…!!オレが悪かったから、オレはこのままどこかに消えるからこれ以上狙わないでくれッ……!!」
「──は?」
鬼は呆気なく投了宣言をするとオレに背を向けて逃げ出してしまった。
いや、そんなことされたらこの先気軽に外出できなくなるんだが…??
「おいちょっとまて…!どっかに消えられるのもそれはそれで困るんだが─────ッ!!」
鬼を引き留めるために追いかけようと走り出した瞬間、突如現れた『目玉が浮かぶ謎の空間の裂け目』に鬼が飲み込まれ、そのまま姿を消してしまった。
「……一体なんだったんだ。」
あまりに唐突な出来事に呆然と立ち尽くしてしまった。
「まぁ、とりあえず"第一関門"突破ってところだな……。」
鬼を退くことに成功したことを喜びたいところだが───
───まだ終わりじゃないようだ。
「──いつまでそこで見てるつもりだ。いい加減出てきたらどう…だ!」
手に持っていた木の枝を左斜め後方の空中に向かって投げつけた。すると先程鬼を飲み込んだ空間の裂け目が再び現れ、その中からか細く色白い女性のものらしき腕が出てきて木の枝をパシッと受け止めた。裂け目が徐々に大きく広がり、人一人分の影を視認することが出来た。
裂け目から出てきたのは紫を基調としたチャイナドレスと白のナイトキャップを身に纏った美しい女性だった。腰まで伸びる金髪が月明かりに照らされ、とても幻想的で艶やかな雰囲気を醸し出している。
「アンタが鬼にオレを殺すように指示した張本人だな?一体何者だ。」
オレがそう問いかけるとその女性は高価そうな扇子で口元を隠しながら返答した。
「私は八雲紫……。幻想郷の賢者よ。」
第2話を閲覧頂きありがとうございました。
やっと東方のキャラを登場させることが出来ました…!
次話の閲覧も是非ともよろしくお願い致します。