「着いたよ紫さん、ここがオレん家。……先に言っとくけど変な誤解を生むような発言は控えてくれよ?」
「えぇ、任せておいて♪」
紫さんは眩しく見えるほど穢れのない笑顔を見せながら了承した。……絶対なにか企んでんな。
オレは普段から持ち歩いている家の合鍵をポケットから取り出して玄関の鍵を開けた。
「ただいまー…。」
「あ!お兄おかえりー!」
玄関を開けて帰宅の挨拶をすると妹の"凛花"がわざわざリビングから出迎えに来てくれた。
「帰るの遅いから心配したよ───ってえぇ!?お兄どうしたのめっちゃ大怪我してんじゃん大丈夫なの?!!」
「ん、あぁ帰り道でちょっとトラブルに巻き込まれてな。見た目派手なだけで大したことないから心配しなくていいよ。」
「えぇ……?血とか吐いた跡もあるんだけど……。」
口を手で抑えて顔をしかめながらボロボロなオレを見てくる。まぁバイトに行った兄が血まみれ土まみれになって帰ってくればそりゃそんな反応になるか。
「それより凛花、いまちょっとお客さんが来てるからお茶の用意とかしといてくれないか??」
「へ、お客さん??」
「はぁい初めまして凛花ちゃん♪界人くんの彼女の八雲紫です♡」
「えっ」
「……………。」
ひょこっと出てきた紫さんがいきなり俺の腕に抱きついてきてとんでもないことを口走りやがった。やっぱやったなこの人。
よほど衝撃的だったのか、凛花は口をパクパクとさせながら呆然と立ちすくんでいる。
「おい、今さっき誤解を招くこと言うなって忠告したよな。」
「ごめんなさいフリかと思ってつい♪」
「お、お兄が……彼女……!??」
「凛花、とりあえず落ち着いて話を───「お母さあああん!!!お兄が女作って帰ってきたああああ!!!」───おい、言い方悪いだろ。」
大声を出しながらリビングの方へと走っていってしまった。……なんだこのカオスな状況は。オレは後ろを振り返りこの状況を作った張本人の顔をジッと見る。
「あら、そんなに見つめられると照れちゃうわね。」
……本当にこの人は……。全く反省の色を見せないこの人にはいつか絶対痛い目に遭わせてやろう、オレはそう胸に誓った。
「はぁ……もうなんでもいいや。とりあえず上がってくれ。」
オレは溜息をつきながら紫さんを家にあげた。廊下を歩きリビングに入ると凛花がソファで座る母さんのお腹に泣きながら抱きついている奇妙な光景が目に入った。
「ただいま母さん。」
「おかえり界人。彼女連れてきたって聞いたけど後ろの方がそう??──初めまして、界人と凛花の母の"楓"です。」
「これはどうもご丁寧にありがとうございます。私は八雲紫と申しますわ。」
流石母さん動じないな。この人は昔からそうだ、ゆったりしてるというかマイペースというか…。今この場じゃ唯一オレの胃を痛めてこない良心だ。
「……んじゃ、オレは軽くシャワー浴びてくるよ。いい加減汗とか土とか気持ち悪くなってきた。」
「あら、じゃあ私が背中を流してあげ──「ダメぇぇぇ!!!」──ワォ。」
紫さんがまた冗談を言おうとすると母さんのお腹に顔を埋めて動かなかった凛がいきなり大声をあげて起き上がった。
「いいい一緒にお風呂とか……ダ、ダメに決まってるでしょ!!?」
「凛花、近所迷惑になるからあまり叫ぶな…。──紫さん、オレが戻ってくるまでに二人の誤解を解いとけよ。あと幻想郷のこととか諸々しとかなきゃいけない説明もしといてくれ。」
「えぇそうね、おふざけはこの辺にしときましょうか。」
「やっとか」そう小さく呟いてオレは浴室へと向かった。
───
──
─
数分後、一日分の汗と汚れを洗い流せてさっぱりしたオレは部屋着に着替えて浴室を出た。
リビングに戻ると紫が凛花と母さんに例の球体を手のひらに浮かべて披露していた。
「あら界人くん、二人には大体の事情と経緯を説明しておいたわよ。」
「あぁどうも。──その球、鬼も使ってたけど紫さんも使えるんだな。強いエネルギーを感じる……。」
「えぇ、これは『弾幕』…幻想郷の住民にとっては基礎中の基礎よ。体内にある自分の生命エネルギーを圧縮して作り出したものよ。そのうち貴方にも教えてあげるわ。」
オレは冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注ぎ、そのまま麦茶を飲みながら凛花の隣にゆっくり腰を下ろした。
「それでは、界人くんも戻ってきたことですし本題に入りましょうか。」
紫さんが手を叩いて全員の注目を集める。そして真剣な表情で話を始めた。
「先程も説明しましたが、ここ最近幻想郷の破壊を目論む不届き者たちの存在が確認されました。そこで界人くんには幻想郷を守るための助っ人として是非とも協力をお願いしたいのです。どうか私とともに幻想郷へ来て頂けないでしょうか?」
紫さんは頭を深々と下げながらオレに懇願した。すると母さんが───
「あ、はい。是非連れて行ってください。」
「え、ん?…………あぁ……ん?」
予想外のあっさりした即答に頭が追いつかずつい気の抜けた声が漏れてしまった。流石の紫さんも目が点になってしまっている。
そんなオレたちのことなどお構い無しに母さんは口を動かす。
「というより、私と凛花も一緒に幻想郷に連れて行ってもらえないですか?」
「ちょいストップ母さん、色々言いたいことが出来た。」
二連続の爆弾発言を食らって流石にストップをかけた。さて、まずどこからツッコもうか…。
「あー、まずオレが幻想郷に行くのはアリなのか?もっと悩むもんだと思ってたんだが……。」
「え?だって界人は行きたいと思ってるから紫さんを連れて来たんでしょ?貴方って嫌ならその場でキッパリ断るタイプじゃない。どうせまた『困ってる人は放っとけない』とか思ったんでしょ、お父さんの子だもんね。」
……全て見透かされていた。確かにオレは幻想郷に行きたいと思っていた。もしオレが幻想郷に行くことで救える命があるのなら絶対に行くべきであると、そう考えていた。だが……。
「……凛花はどう思う?」
「えっ!?あ……あたしは……。」
凛花はビクッと体を震わせた。いきなり話を振られて驚いたようだ。
「あたしもお母さんと同じ意見だよ。お兄って超がつくほどお人好しでしょ?きっと今回も紫さんのことを助けたくて仕方ないんだろうなって思ってたよ。もちろん心配ではあるけど、あたしはそんなお兄が大好きだからお兄の意見を尊重したい……。でも、離れ離れになるのは寂しいかな…。」
凛花は俯きながらオレの問いかけに答えてくれた。オレは手を伸ばし凛花の頭を優しく撫でた。
「界人、私たちは貴方の意見を尊重する。でもそれは全く心配しないということじゃないの。だから私たちも一緒に幻想郷に行って貴方の有志を目の届く場所でしっかり見守りたいのよ。」
二人はオレが思ってたよりもオレのことを想い、理解してくれていたようでオレは少し気恥ずかしくなってしまった。
そんな様子を見ていた紫さんはクスクスと微笑んでいた。
「ふふっ……良い家族をもてて良かったわね界人くん。」
「あぁ有難いことにな。──まぁそういうわけだから紫さん、アンタに協力することにするよ。で、勝手に話進めちゃったけどこの二人も一緒に連れて行って大丈夫か?」
「えぇもちろん。二人の身の安全は私が責任をもって確保しとくから貴方は心配せず自分のことに専念して頂戴。」
そんなこんなでようやく話し合いが終わり、オレは改めて紫さんと握手をした。
「明日の昼頃にまた迎えに来るわ。改めてこれから宜しくね界人くん。それじゃあおやすみなさい。」
紫さんはそう言い残し、空間の裂け目『スキマ』の中に帰って行った。
第4話を閲覧頂きありがとうございました。
ストーリー全然進まなくてごめんなさい。次話でやっと幻想入りできそうです。
次話の閲覧も是非ともよろしくお願い致します。