「──界人さん、体調のほうは大丈夫そう?」
「ん、だいぶ幻想郷の環境に慣れてきたよ、とは言ってもまだ完全ではないけどな。」
あらかたの荷解きを終え、オレはさっそく幻想郷の戦い方を身につけるために霊夢の指導を受けようとしていた。そんなオレたちの様子を母さんたちは縁側でお茶をすすりながら見学している。
ちなみに紫さんと藍さんに関しては何やら調べ事があるらしく、オレたちのことを霊夢に一任してスキマの中へと帰っていった。
「じゃあ始める前に一つ聞いておきたいんだけど、界人さんは今まで自分の中の霊力を感じたことはあるかしら?」
「無い。そもそも霊力?がまずなんなのかよく分からん。」
「あー、霊力っていうのは簡単に言えば体内に眠る生体エネルギーのことよ。私たち幻想郷の住民はそのエネルギーを霊力に変換することで弾幕を撃ったり空を飛んだり、様々なことに応用できるの。ただし、霊力は基本誰しもが持っているモノだけど、それを上手く扱えるかどうかは育ってきた環境だったり才能によって変わってくるわ。──で、これがその霊力で作った弾幕ね。」
霊夢は説明をしながら手のひらの上に幾つかの弾幕を生成して見せた。それらは色や大きさ、形が異なり、幻想的で美しい光景が眼前に広がっていた。
「オレが霊力をある程度自由に扱えるようになるにはどうしたらいい?」
「そうね、方法はいろいろあるけど──ちょっと、もう少し私に近づいて貰える?」
オレは指示通り数歩前に進み、1mにも満たない距離まで近づいた。
すると霊夢が右腕の伸ばし、オレの胸に手を当てた。その様子を見ていた凛花が遠くでなにやら妙な声を発して立ち上がっていたが今はスルーする事にしよう。
「本来なら数日かけて心身ともに幻想郷に馴染ませる必要があるんだけどね。私の霊力を界人さんの体に注ぎ込んで、霊力が体内に存在するっていう新しい感覚を体に覚えさせるわ。ちょっと強引ではあるけど『あらゆるモノを感知する程度の能力』を持つ界人さんならいけるでしょ。」
「……能力名、長くないか?あと"程度"っていうのも酷いな。」
「罵ってるわけじゃなくて幻想郷では何でかそういう名付け方をするのよ。──って、そんなことは今どうでもいいでしょ。さっさと始めるから目瞑りなさい。」
そう言うと霊夢が手を当てた部分が青白く発光した。それと同時に彼女の霊力がオレの体内に流れ込み、血管を通って全身を巡っていくのを感じる。
「──どう?私の霊力感じる?」
「あぁ、不思議な感覚だ。どんどん力が湧き上がってくる。」
「今まで眠っていた界人さん自身の霊力が私の霊力に反応して覚醒してきてるのね。その感覚をしっかり掴んでおきなさいよ。」
「……にしても霊夢の霊力は暖かくて安心するな。こういうのってその人の人柄とか性格が反映されてんのか?だとすると霊夢はアレだ、良い奥さんになるタイプだな。」
「うっさい黙って集中しなさい。──まったく、アンタって寡黙そうに見えて案外お喋りよね。」
──それから数分後、霊夢は霊力の注入をやめてオレから手を離した。
「ま、こんなとこかしらね。どう?自分の潜在能力が覚醒した感覚は。」
「オレにこんな力があったなんて驚いたよ。まるで自分が自分じゃないみたいだ。」
「それが本来生物が持ってる潜在能力よ。力の強弱に個人差はあれど、あそこにいる楓さんと凛花も同じ力を秘めてるのよ。」
感知する能力が聞いて呆れる……。己に秘められた力に十数年間も気づかないなんて……まさに灯台もと暗し。
「これでオレも弾幕が撃てるようになったのか?──まぁ試してみればわかるか。」
「あのね……私はあくまできっかけを作っただけなの。上手く霊力を扱うにはそれなりの時間と労力が──「あ、できた。」──って、えっ??」
霊夢はその光景を前にして目を見開き、驚いた表情を浮かべていた。
「え、え?なんで出来たの!?私まだ何も教えてないのに……。」
「ん、さっきの霊夢の真似をしただけだ。集中して力を込めたらなんか出来た。とは言っても精度はまだまだだけどな。」
「真似って……ただ見てただけだったのに何をどう真似するのよ…。」
「霊夢がどうやって弾幕を生み出したのかを能力で感知してそれを記憶したんだ。あとはそれを上手く再現するだけだな。」
さも当然かのように説明する姿を見た霊夢はどこか不満げな表情を浮かべながらも納得してくれたようで、腕を組んで姿勢を取り直す。
そんな霊夢を傍らにオレは次々と弾幕を生み出し続けた。
「力の込め方によって形状と性質を変えられるのか……。面積と厚みを増やして盾もどきにも出来るな。もう少し工夫すれば某蜘蛛男の糸みたいな使い方も出来るかな?これは思った以上に汎用性が高そうだ。」
「もう応用までしてるし……飲み込み早すぎるでしょ…。紫がこの人を選んだワケが分かったわ。」
驚きを超えてもはや若干引かれてるような気がするがまぁあまり気にしないでおくか。
──霊夢からアドバイスを受けながら霊力操作の練習をしていると、オレはある一つの気配を唐突に感知した。オレは上空を指差しながらその事を伝える。
「霊夢、向こうの方からなにか来るぞ。敵意は感じないけど物凄い速度で近付いてきてる。」
「え、向こう?……あぁ、もしかしたらあの娘かもね。」
霊夢は何がこちらに向かってきているのか大体の察しがついたようだ。
じっと目を凝らして遠方の上空を見つめていると段々と黒い人影のようなものが近付いてきてるのが確認できた。その人影は驚異的な速度で瞬く間に博麗神社まで辿り着き、空中でビタッと急停止した。その反動の風圧で辺り一帯が土埃に包み込まれてしまった。
それから数秒が経って土埃が晴れ、謎の人影の全貌を拝むことが出来た。土埃の中から姿を現したのは黒いドレスに白いエプロンを着重ね、大きなリボンの付いたとんがり帽子を頭に被った金髪の少女だった。少女は藁箒に跨って空中に浮かんでおり、それはまるで絵本に出てくる魔女のような風貌をしていた。
「よー霊夢!今日もお茶菓子頂きに来たんだぜ!!」
「やっぱりアンタだったのね魔理沙。残念だけどアンタに食べさせる物はないわよ。」
「そんなこと言いつつなんだかんだ毎回ちゃんと持て成してくれるよな霊夢は!ツンデレか!」
「うっさいわね。たまにはアンタも差し入れくらい持ってきなさいよ。」
霊夢はツンケンしながらもどこか楽しそうに魔理沙と呼ばれる少女と話している。見たところ二人は歳もそう離れていないみたいだし旧知の仲なのだろう。
オレが静かに二人の掛け合いを眺めているとふと魔理沙と目が合った。やっとオレの存在に気がついたみたいだ。
「ん?そこのお前は一体誰様なんだぜ?見慣れない格好をしてるけどもしかして外来人なのか?」
「今日から博麗神社に居候することになった三ツ谷 界人だ、よろしく頼む。」
「霊夢と同じ異変解決者の霧雨 魔理沙だぜ!普通の魔法使いだ!──で、居候ってどういう事なんだぜ?」
「紫が連れてきたのよ。前に話してた外からの協力者。今ちょうど霊力の扱い方と弾幕の出し方を教えてたとこなの。」
霊夢が大雑把に説明をすると魔理沙はポンッと手を叩きながら納得した表情を見せた。
「なるほどな!それでその成果はどうなんだぜ??」
「そうね…。まぁ出だしにしてはかなり良い線いってると思うわよ。このまま着実に力をつけていけば相当化けるでしょうね。」
「……ほぅほぅ、あのスキマ妖怪を認めさせ霊夢にここまで言わさせるとは中々興味深い奴なんだぜ。」
魔理沙は不敵な笑みを浮かべながらまるで探偵のように顎に手をついて考え事をしている。
数秒後、魔理沙はカッと目を開き、胸を大きく張って堂々と元気よく宣言をする。
「──よし界人!これから私と"弾幕ごっこ"をするんだぜ!!」
第6話を閲覧頂きありがとうございました。
魔理沙の口調むずかしい!!
次話の閲覧も是非ともよろしくお願い致します。