「──まさか……魔理沙相手にここまで渡り合うなんてねぇ……。」
私は二人の弾幕ごっこを眺めながら、彼の巧みな立ち回りを目の当たりにして関心の声を上げていた。
隣で一緒に観戦していた凛花に目を配ると、なにやら得意げな表情と笑い声を浮かべていた。
「どうしたの?なんかやけに嬉しそうな顔してるけど…。」
「あ、いやっ……えへへ……お兄が褒められてるとあたしまで嬉しくなっちゃってつい…。」
「……ふーん……お兄さんのこと随分と慕ってるのね。仲睦まじいようで何よりだわ。」
……この子の界人さんに対する想いには家族愛・兄妹愛とはまた別の感情が含まれている気がするのは私の気の所為かしら?──まぁ、わざわざ私が首を突っ込むことでも無いか。
私はそう思いながら話題を弾幕ごっこに戻すことにした。
「ねぇ凛花?お兄さんのことで聞きたいことがあるんだけど……彼は外界で何か格闘技でもやっていたの?彼のあの立ち回りと身のこなしはどう見ても素人の動きとは思えないのよね。」
「あ、うん。それはお父さんから習ったんだよ。お父さんは刑事だったから対人戦闘の心得があったの。」
「……貴方たちのお父さん?そういえば幻想郷には来てないみたいだけど……お父さんだけ外界に残ったの?」
「ぁ……ぇと、それは……。」
私が質問をすると、凛花は途端に悲しげな表情を見せ、バツの悪そうに小さく俯いた。
──それを見た私はなんとなく察しがついてしまった。恐らくだけど、この子たちのお父さんはもう……。
「……ごめん、やっぱり今のは無かったことにして。少しデリカシーが足りなかったわね。」
「……ううん大丈夫、気にしないで。」
「──さてと、そろそろ残り時間が2分を切るわね。今のところ戦況に大きな進展は無し。ここからどうなるか見物ね。」
───
──
─
「くっそー!!ちょこまか動くなって界人!!」
「そりゃこっちの台詞だっての……。」
二人は互いに引けを取らない激しい弾幕のぶつけ合いを繰り広げる。
両者積極的に攻撃を仕掛けるも躱し躱されを繰り返し、膠着状態が続いていた。
「仕方ない……!もう時間も無いし、折角だから見せてやるぜ……私のスペルカードをな!!」
とうとう痺れを切らした魔理沙は、切り札であるスペルカードの使用を高々と宣言した。彼女はポケットからミニ八卦炉を取り出し、界人に対して狙いを定めた。
スペルカードもミニ八卦炉も両方初見の界人は警戒心を更に高め、腰を落としてグッと迎撃の構えをとる。
(スペルカードか…。切り札っつーからには簡単には攻略出来なそうだが………ま、とはいえ結局やることは変わらないか。よく観察して最善策を導き出す、そんだけだ。)
「界人……幻想郷の言葉を一つ教えてやる!───弾幕は "パワー" だぜ!! 恋符【マスタースパーク】!!!」
魔理沙が宣言すると、七色に輝く極太のレーザー光線が界人に向けて放射された。
(走って回避……いや、間に合わないか。ならまずは…。)
界人は両手を前に突き出して霊力を込めたバリアを展開させ、凄まじい勢いで迫り来るレーザーの進行を妨害することになんとか成功した。
「──バリアか……良い判断だがその程度の強度じゃあ私のマスタースパークは防ぎきれないぜ!!」
彼女の言った通り、展開したバリアはほんの数秒で破壊されてしまった。──が、界人は焦ることなく、バリアが破壊された瞬間に立て続けに新たなバリアを展開し、レーザーの進行を食い止め続ける。さらにそのバリアと同質のをミルフィーユ状に何層にも積み重ね、分厚い防壁を作り出した。
しかし、それでも魔理沙の弾幕は勢いを弱めること無く次々とバリアを貫き破壊していく。
「ハ!どれだけバリアを重ねようが私の弾幕の前じゃ無意味なんだぜ!」
(…いや問題ねぇ。このバリアの本懐は防御ではなく思考と作戦を落ち着いて練るための時間稼ぎだ。──さて。)
界人は両手を交差させ、まだ破壊されていない残りのバリアをグッと一つの塊に収束させ、自分の体を覆い隠すほど広い面積を持った防壁を新たに展開する。
しかし、レーザーはそんなものは意に介さずにゴリゴリと掘り進み、遂には防壁を打ち破ってしまった。
「ぃよっしゃッッ───ってアレ??」
魔理沙は勝利を確信して小さくガッツポーズをするが、打ち破った防壁の裏に界人の姿は確認できなかった。
レーザーはそのまま地面に直撃し、その衝撃で辺り一帯が粉塵に包み込まれた。
(界人はどこに……。くそ……煙幕のせいで何も見えないな。マスタースパークを逆に利用された。)
魔理沙は空を飛んで煙幕の中から抜け出し、上空を漂いながら地上の様子を伺う。
そのまま数秒が経った時、一つの大きな弾幕が煙幕の中から突如として飛び出してきた。魔理沙は、一瞬反応が遅れつつも何とか弾幕をぶつけて相殺する。
「ふぅ……─────いっ!?」
魔理沙が気を緩めたその瞬間、界人が "空を飛んで" 相殺された弾幕の陰から飛び出してきた。
「界人っ!?空飛んッッ、、えぇっ?!?」
界人が空を飛ぶことなど想像もしていなかった魔理沙は慌てながらも対処しようと咄嗟に界人に向けて手を翳した。
(──よし、ここだ。)
界人はタイミングを見計らい、魔理沙が弾幕を撃ち出すのと同時に進行方向を上向きに切り返し、ふわっと浮かび上がった。そのまま放物線を描きながら彼女の頭上を飛び越え、彼女の背後を取ることに成功した。
「ッッやば───」
魔理沙は急いで振り向くが、その時には既に界人の周囲に複数の弾幕が発生しており、今まさにそれを撃ち込まれようとしていた。避けられないと判断した魔理沙はサッと目を瞑り、誰しもが界人の勝利を確信したその瞬間───
「──ッ!!くっ……うわっとッ……!」
───界人は上体のバランスを大きく崩し、体をグラつかせながら弾幕たちをあらぬ方向に飛ばしてしまった。
「…?なんだかよく分からないが……隙ありなんだぜ……!」
「がっ…!!───くっそ……!」
一瞬状況を飲み込めず呆然としてしまった魔理沙だが、すぐさま界人に弾幕を撃ち返した。そこが空中だったということもあり、バランスを取り戻せず上手く回避に移れなかった界人は呆気なくも弾幕に直撃してしまった。
その衝撃で弾かれた界人は無気力に地面へと落下していく。
「あっ!そのまま落ちたら危ないぞ界人ッ!!」
「……っ!───ふッ!」
魔理沙の声掛けで気を取り戻した界人は全身に霊力を巡らせ、地面に墜落する直前でなんとか体を浮遊状態にして落下の勢いを弱めた。そのまま少しずつ高度を降ろし、仰向けの状態で地面に寝そべった。
「───ふぅ…流石にちょっと疲れたな…。」
『──お兄ぃ〜ッ!!』
「…ん?」
声の発生源へ視線を向けると、不安そうな表情でこちらに走ってくる凛花と、のんびりマイペースに歩いている霊夢の姿が見えた。
「──お兄!怪我ない!?大丈夫!?」
「あぁ、擦り傷一つも無いよ。心配してくれてサンキュな。」
駆け寄ってきた凛花に界人は頭を撫でながら自分が無事であることを伝えた。それを聞いた凛花はほっと安心したようで、可愛らしい笑顔を見せた。
少し遅れてきた霊夢はそんな二人の様子を見ながら界人に労いの言葉をかける。
「お疲れさま界人さん。初めての弾幕ごっこはどうだったかしら?」
「あー。課題やら何やらは色々見つかったけどまぁ、初戦にしてはまずまずってところだな。」
「そう、実りのある試合だったようで何より。──さて、細かい反省は後にするとして……今日のところはここらで切り上げてゆっくり体を休めましょ。今楓さんが奥でお床夕飯の準備をしてくれてるからアンタ達はささっと手洗ってきなさい。」
「…そうだな、腹も減ったしそうするか。」
「霊夢ー私もお腹すいたんだぜー。」
「……食べていきたいなら素直にそう言いなさいよまったく……好きにしなさい。」
そうして界人は初日の稽古を切り上げ、ゆっくりと休息をとることにしたのであった。
第8話を閲覧頂きありがとうございました。
前話からだいぶ期間空いてしまった……。もう少しペース上げれるよう頑張りたい……!
次話の閲覧も是非ともよろしくお願い致します。