鬼神憑依譚   作:五月雨@ノン

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過去の執筆作品のリメイク版です。読んだことが無い方でも楽しめると思います(多分)


プロローグ

 

 

「あ」

 

突然の終わりは決して物語に綴られているような劇的なものではなかった

 

自宅へと帰る道中にある階段から足を踏み外し、頭から落ちたことにより頭部を強く強打し死亡するというなんともありふれたものだった

 

幸いなことに痛みは無かった。だが、死ぬ直前に味わった雪原を裸足で歩いているかのような寒さと誰にも看取られることの無く死に向かうという孤独感が強く心に染み付いていた

 

意識が全て呑み込まれる直前、俺の耳には空を切る音が鼓膜に響いた気がしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、男は闇の中へと落ちていた

 

熱や光など一切なく、ただ闇が無限に広がるこの空間を男はただ漠然と落ちているとそう感じた

 

 肉体は存在せず、男の意識のみがその無に確かに存在していた。意識のみのその男は、手を伸ばすことすら出来ずることもなく、ただ闇に落ちていくことのみであった。

 時間という概念すら忘れてしまいそうな程に落ち続け、自分が落ちているのか、それともただ闇に存在しているだけなのかも曖昧になり始める

 

ふと男の頭に自死という選択肢が思い浮かぶが、そもそもその為の自らの肉体が存在していないことに気が付き、大きく落胆をした

 

(あぁ....どれぐらいの時間が経ったんだ?ここに落ちてから)

 

その悲痛さが込められた声も、外に発されることはなく、ただ自らの心の内で反響するのみであった

 

(ラーメン食いたい···それにチャーハンも)

 

男が意味もなく、自らの底に存在している筈である欲望を次々と口にし始める。少しでも気を紛らわせる為に、嫌なことを考えないようにする為に

 

だが、それも無限に続くことなど有り得ず、遂には黙り込んでしまう

 

(もう、死にたい)

 

それは男の腹の底から浮かび上がってきた、紛れもない本心

 

それがトリガーとなり、男の感情が溢れた

 

(なんで、なんで!何で!!こんなことになった!俺が何をしたって言うんだ!!俺は、普通の高校生だった!ただこの日々を満喫してただけなのに!どうして、どうして!俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!!)

 

男は泣き叫ぶことすら出来ずにただ、その言葉は誰にも届かずに自分の内のみに木霊させていた。だが、今はそれだけで良かった。ただ、どうしようもない現実に対する絶望を少しでも吐き出せれば

 

(誰か、誰でもいい!俺に、生きる為の(肉体)を!)

 

自らの肉体すら失った男が願ったのは、体だった

 

その瞬間、男の意識が光に包まれる

 

(ッ!何が起き――――)

 

男の意識はそこで途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爽やかな風が吹き、森のざわめきに男は目を覚ました

 

「ッ!」

 

男は何時ぶりかも分からない、太陽の光に顔を顰めるが、肉体があることに気が付き、喜びに頬を緩めるがあることに気が付く

 

それは自らの影に4つの腕が映っていること

 

「これは一体....。」

 

(この渋い声、俺のじゃない....けど、聞き覚えがある)

 

「鏡はある訳ないな。すると、水か?」

 

 男は歩き出した。周りは草むらや険しい道だったが、何故か何時もよりも体が軽く、ズンズンと進んで行く。

 暫くすると、水の流れる音が、男の鼓膜を揺らし、男はその音の方へと足を進めていくと、濁りなど一切ない澄み切った川がそこにあり、男は川を覗き込み、水面に映った自らの顔を瞳に映した

 

 

 

 

そこにあったのは、ピンク色の髪に、将来色男になることが確定された整った顔と、4つの腕と目

 

「これは....」

 

水面に映った顔を見て男は、その名を察した

 

その男は天上天下唯我独尊という言葉を体現し、そしてそれが許される程の実力と凶悪さを持ち合わせた存在

 

 

その男の名は――――

 

 

両面宿儺....」

 

 

両面宿儺、後に呪いの王と呼ばれ、あらゆる人々から畏怖と恐怖を集めた男がそこに映っていた

 

「どういうことだ....?」

 

自らの頬を抓ると痛みが走り、これが現実であることを認識した。それと同時に、自分が口にした言葉が何故か微妙に違う形となって出ていることに気が付く

 

(これは、宿儺としての言葉に変換?されているのか?いや、それよりも先に考えなければいけない)

 

「何故、俺が両面宿儺なぞに....?転生なぞ、小説や漫画の中だけではないのか?しかし、実際に事が起きているとなると、どうやらフィクションでは収まる話では無い」

 

「となると。俺はこれから両面宿儺として生きてはいけなければならない訳だ。すると、その上では欠かせないものがあるな.....本当に使えるのか、試してみるか」

 

目を閉じ、意識を集中させると周囲から音が消え去る

 

自らの体へと意識を集中させると、自らの体を絶え間なく流れる続ける力の奔流を見つける

 

(これが、呪力....本当にあったなんて、驚いた。さて、これを開く....!)

 

すると、蓋をしていた呪力が溢れ出し、体を覆った。

 

ゴウッ!と呪力の力が解き放たれ、激しい突風が吹き荒れ、周囲の草木を揺らし、円を描くかのよう草や木までもが折れた

 

男はまるで神でもなったかのような全能感に溢れ、思はず口角を上げた

 

「呪力。やはり、存在するか」

 

憧れていたものが、存在するという現実に、知らずの内に笑みが溢れた

 

「あぁ、本当に愉快だ。さて、次は何をしよ―――」

 

ぐぅと腹からなる愉快な音が、男を遮るように響き渡った

 

「.....食糧を、探すとするか」

 

 

先程の間抜けな様は無かったかのように、開き直り、男は森の中へとまた入っていく

 

 

 森の中は、男の呪力での風で動物達が驚いたのか、音一つ無い程に静まり返り、俺が地面を踏み締める音のみか辺りへと響いていた。

 それを察し、林檎といった果実や木の実などが実っていないかと、木を登ったりなど探してみるが、全く見つからず、見つかっても先程の風が原因なのかべシャリと地面へと潰れていた

 

 

「.....チッ」

 

 

ここまで無いとなると流石に苛立ちが溜まり、舌打ちを漏らすが現状は変わらず、また探し出そうとするが、ガサガサと背後から音をがしたので、男は振り返る

 

そこには、鉄製の槍を持った男が茂みを掻き分けながら此方に近づいて来ていた。その男は宿儺に気が付いていないのか、ブツクサと文句を垂れていた

 

(そうだ、良ければ食料を分けてもらえるか聞いてみよう)

 

「おい、そこのお前」

 

「あん?一体だ―――

 

槍を持った男の言葉は最後まで続くことは無かった

 

 

男は、宿儺の姿を見た瞬間に槍を手から滑らせ、地面へと尻もちを着いた。槍のガシャンという金属音が妙に虚しく感じた

 

「おい。一体どう「ば、バケモノォォーー!!!」

 

 男が宿儺の言葉を遮り、そう叫ぶと同時に、男は走り出した。背中に背負っていた風呂敷らしき物を邪魔だと言わんばかりに捨て、背を向けて全速力で走っていた。

 残された宿儺は、無様にも両面宿儺らしくない間抜けな顔を晒し、男を呼び止めるようにただ手を伸ばしていた

 

やがて、男の背が見えなくなったところで、男に逃げられたのだと認識した

 

「バケモノ、か」

 

あまりの虚しさに宿儺は思わず笑った

 

「そうだったな。俺は、バケモノ(両面宿儺)だった」

 

(分かっていた筈なのにな....)

 

 

 既にこの身は人に非ず、この世の全ての悪を網羅する悪鬼であった。故に、何者にもその存在は許容されず、排斥と恐怖の対象でしか無かった。そんなことは、既に気付いていた筈なのに、死んだ時の孤独感を拭う為に人との交流を求めたが故の結末だった

 

「.....別の所へ行くとするか」

 

宿儺は先程までの軽い足取りとは逆に、足に鉄球でも縛り付けられているかのように一歩が重いような気がした

 

「.....腹が空いたな」

 

燦々と照りつける陽の光が、今だけは憎らしかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2週間が経ち、この山での暮らしも多少は慣れた。どうやら俺が思っていたよりもこの山は思いの外に巨大で、恵まれた土地であるということだった。どれだけ果実や動物を狩ろうともその数が減っている様子は見受けられなかった

 

腹は満たされ、睡眠も自由に取れるというこの環境に素晴らしいと感じているのは確かだった

 

 

だが、心が満たされることは無かった

 

 今までとは一風変わった環境に、俺は無意識の内に孤独を埋める存在を求めていた。故に、拒まれることも察しながらも山の中で狩りや採集をしていた人達に声を掛けるが、勿論返ってくるのは悲鳴が殆どであった。

 時には、俺を殺さんとナイフのような物を振りかざしてきた相手もいたが、それは俺に刺さるどころか弾かれ、俺には一切のダメージは無かった。

 

だが、言いようもない痛みが胸に走ったのは確かだった

 

そんなこともあり、この山には鬼神が現れると噂になり、この山に立ち入る者は極端に少なくなった。いや、いなくなった

 

「狩りをするか」

 

俺は槍を手にし、木から飛び降りる

 

両面宿儺の身体はあらゆる面に於いて最高のスペックを誇っており、鹿や猪が集まりやすい場所までの道を寸分狂い無く記憶していた。俺は記憶を辿って、道を進んでいく

 

山風が木々を揺らし、カサカサと葉が擦れ合う音が森を鳴らした。元いた地域では聞くことのなかったその音も2週間も経てば、当たり前になり、特に感慨も浮かばせることも無くなった

 

 

だが、それとは別に人為的な草木の揺れが俺の耳に入る

 

「誰だ」

 

 

俺がそう言うと揺れが此方へと近付き、草木を掻き分けて現れたのは六、七十程の爺さんと婆さんであった

二人は俺の姿を見るとギョッと目を見開き、固まってしまう。その反応も何度も目にしてきた為、最早それにも慣れていた。いや、それでも少しだけ胸が痛んだ

 

だが、それを顔には出さないようにする

 

「その格好を見ると、採集だろう。お前達から東の方向に向かえば果実や木の実などが採れる所がある。とっとと俺の目の前から去れ」

 

俺は敢えて、突き放すような言葉を吐き出す。そうすれば、自分の傷が浅く済むから、自分から拒んだのだと錯覚することが出来るから

 

俺がそう言うと、二人は顔を合わせた

 

 

「....お前さん、名前は」

 

「はぁ?....関係無いだろうお前達には」

 

いきなりの質問に、呆けたような声を上げるが、直ぐ様に気を取り直して再度突き放すように低い声で返答する

 

 

「家族はいるのか?」

 

「ハッ、居るとでも?この俺に?」

 

そう答えると二人は目に憐憫の情を浮かばせる

 

その反応に俺は戸惑ってしまう。今までで俺に問いを掛けようとする者はいない上に、憐憫の情などバケモノである俺に向けられと思ってもいなかったが故に

 

 

「お前さん、一人なのかい?」

 

「....そうだが、お前達に何の関係がある」

 

 

そう言うと二人は再度向き合い、頷いた

 

 

「お前さん、儂らと一緒に来るか?」

 

「は?」

 

俺は今度こそ顔を困惑に染めた。目の前の爺さんが言った言葉があまりに俺にとっては現実離れしたものであり、理解が追い付かない。だが、そんな俺に二人は畳み掛けるように言葉を続ける

 

 

「儂らには子供が居なくてな、老いぼれ二人と寂しい思いをしていたのだ。なぁ、婆さん?」

 

「えぇ。寂しい思いをしていたところだし、貴方が来てくれると私達はとても嬉しいわぁ」

 

「それに、最近は畑仕事が辛くてな....お前が来てくれたら助かるんじゃ」

 

「ええ、だから私達を助ける気持ちで来てちょうだい」

 

二人がどんどんと俺を置き去りにし、話を進めていくが俺はそれを遮るように言葉を吐く

 

 

「――なんのつもり、だ」

 

「ん?」

 

「あら?何が?」

二人が頭に疑問符を浮かべる

 

「ッ!恍けるな!俺のような()()()()にそのような言葉を吐くなどありえない!!何が狙いだッ!! 」

 

二人の言葉を信じきれない俺は、叫ぶようにそう言葉にすると爺さんは俺を呆れた目で見る

 

「儂らみたいな老いぼれに狙いなど無いわ。あるとするなら、畑仕事を手伝ってほしいだけじゃ。それに先ず()()から間違っておる」

 

「お前さんはバケモノじゃない、ただの()()じゃ」

 

「ッ!戯言を――――!」

 

 

「お前さんは普通の子供よりも腕が二本、目が二つ多いだけじゃ」

 

巫山戯たことを言うなと言葉を発そうとするが、その目があまりにも嘘を言っているようには見えなくて。寧ろ、その目は真実だと雄弁に語っているような気がして

「初めて見た時は驚いたが、お前さんはただ普通の子供とは違うだけだと直ぐ分かったわい」

 

「お前さんの目は、酷く悲しそうだった。まるで泣くのを堪える子供のようじゃった」

 

「その目を見た時に、儂らは悲しかった。お前さんみたいな小さな子供がそんな目をするのも、一人でいることを当たり前ようとして受け入れようとしていることも」

 

「だがら、儂らと一緒に来て欲しい。勿論、お前さんを悲しませてしまうかもしれない、傷付けてしまうかもしれない」

 

「だが、見放すなんてことは絶対にしないと誓う。だがら、儂らと共に生きよう」

 

そう言い、二人から伸ばされた手に俺も恐る恐ると手を伸ばす。そんな俺の手に焦れったさを感じたのか、二人は先程よりも手を伸ばし、震える俺の手を包んだ。

 

その手は、今までの誰のものよりも優しい温かみに溢れていて、その二人の熱が固まっていた心を優しく溶かしていく

 

「さぁ、行こう。儂らの家に」

 

「貴方の名前はなんて言うのかしら?」

 

 

「すく、な」

 

 

そう言うと、二人は優しい笑みを浮かべた

 

 

「宿儺、良い名前じゃないか。なぁ、婆さん」

 

「ええ、そうね。さ、行きましょ」

 

そう婆さんがそう言うと、爺さんは更に破顔させた

 

「今日からお前は儂らの家族じゃ、宿儺」

 

「今日の食事は豪勢にしなきゃねぇ。楽しみにしててねぇ」

そう言って二人は、笑いながら俺の手を引いた

 

「あぁ、そうだな」

 

俺も笑った。呪力を使えた時のように高揚から来る笑みや虚勢を張る為の笑みではなく、本当の笑みを

 

(なんて暖かい)

 

俺は目の前の二人の光景が一生続けば良いと、そう心から思った

 

(あぁ、俺は今、幸せだ。これからだ。きっと――――

 

俺は幸せの未来を夢想し、更に口角を上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎に包まれ、血に塗られた木造の家の前にその男はしゃがみこんでいた

 

「許すものか、赦してたまるものかァァァ!!」

 

そう絶望に喘ぐ男の腕の中には、血に濡れた二人の老人が微笑みを浮かべ、その男の手を包むように手を握っていた

 

「一人残らず、鏖殺ダァァァァ!!」

 

男の斬撃が、赦されざる愚者の体に刻まれた

 









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