ドラゴンクエストFUTURE~王室護衛係セイラン班~ 作:岬 実
名前と姿が冗談キツ過ぎて人気が出ないであろう面々の、リッヂの手下。
地響きを立て、地面にめり込み気味に着地したのは、僅かに縦長の、グィネヴィアの背丈より倍は大きい直方体の物体。短い四つ足、長く伸びた一本のロープ状の物。
その形状は……。
「ドラム式洗濯機?」
グィネヴィアの連想は正しく、ドラム式洗濯機に酷似している。
詳しい姿は、直方体のドラゴンの生首から四本足が生え、排水ホースの代わりの長い尻尾。先端に4本指。口は、フタが閉まった衣類投入口。
「俺も戦歴は長いが、カネや洗濯機と戦うのは初めてだ」
頭を掻くガーデン。リッヂはヘラリと笑う。
「ウケてくれた様だな。だが、単なるイロモノじゃない。お前の名は?」
「『ドラグ式洗濯機』……!」
衣類投入口のフタが開き、牙の生え揃った丸い口で答える。
「その体とチカラは?」
「この世から汚れを落とす為……!」
「その通り! 今こそ俺に能力を見せろ!」
「仰せのままに……」
ドラグ式洗濯機は、空高くジャンプした。
「跳んだ! 高いぞ!」
ドラグ式洗濯機の影が、叫んだセイランを覆う。
「まずはペチャンコになれ……!」
「危ない!」
セイランは飛び退いて影の中から脱出した瞬間、ドラグ式洗濯機はヘヴィチャージを使い、一瞬の内に落下したドラグ式洗濯機。地面はその衝撃で、地震さながらに揺れ動く。
「くっ、動きにくい!」
セイラン達は、振動に足を取られ、体勢を崩した。
「貰った……!」
ドラグ式洗濯機はスピンして、尻尾で周囲を薙ぎ払った。
「ごっほぉ!」
ガーデン達はしゃがんで回避したが、セイランは脇腹に直撃を受け、何メートルも殴り飛ばされて地面を滑る。
セイランは立ち上がれず、咳き込みながら悶え苦しむ。
「ん? おやおや……。今の力加減はお前達の尺度で言うと、暖簾を払い除けた位なんだが……」
「『貰った』とか言っといてか……?」
セイランはダメージを受けた箇所を撫でながら、ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばして軽く跳ねる。
「セイラン、大丈夫!?」
「問題無い。自動回復で治った」
グィネヴィアの心配に、セイランは手を振る。
「撃て撃て!」
ラインの号令で、タン達は一斉射撃をする。
しかしドラグ式洗濯機の体には拳銃弾は通らず、本人も嘲笑う声をあげる。
が、その内の一発がドラグ式洗濯機の眼球を貫いた。目が潰れ、中の透明な液体が流れ出す。
「ん! んん~……!」
ドラグ式洗濯機は、目をつぶり痛みに耐える。
「貴様等……!」
ドラグ式洗濯機は口を開き、透明な液体を警官隊に吐き掛けた。
すると、拳銃だけが形を失い、溶け崩れていく。
「な、何だこの液体は!?」
タンは素早くティッシュで液体を拭き取る。
「『特定物分解液』だ……。次はお前達自身を溶かす……」
「体勢を立て直す! 魔法の使えない者は一旦退避しろ!」
ラインの指示で、警官の大半はテントの中に戻る。
「ガーデン! グィネヴィア! ジャンプ攻撃の隙を狙え!」
「ドラグ式はスライド移動も出来るんだ」
リッヂの教えに合わせて、ドラグ式洗濯機は地面を滑走してガーデンに体当たりする。
ガーデンは剣の刃を立てて攻撃がてらガードしたものの、刃は通らず自分は撥ね飛ばされ、尻餅を突いた。
「しまった! 溶解液が来る!」
ガーデンは立ち上がろうと姿勢を直すが、ドラグ式洗濯機が口を開けるのが先だった。
「ガーデン! それに捕まれ!」
ガーデンがセイランの声に顔を向けると、ガーデンは飛んで来た何かを反射的に掴む。
するとガーデンの体はそれに引っ張られ、その場から離脱させてくれた。直後、特定物分解液がガーデンが居た所に降り掛かる。
ガーデンは、自分が掴んでいる物を見る。それは、セイランの大鎌に付いている球体であった。
「ナイスだ、セイラン!」
セイランは、球体の無くなった大鎌を振って応えた。
球体はガーデンをゆっくり着地させ、ガーデンが手を放すと、セイランの大鎌にひとりでに再装着された。
「『念じボール』か? 少しはやるな」
リッヂは顎に手をやる。
「護衛係の皆さん! 下がって下さい!」
不意に、タンの声がスピーカー越しに聞こえた。
その場の全員がその方向を見ると、光線銃を手にした、タンを含めた数人の警官が『伐採マシン』を引き連れて現れ、ドラグ式洗濯機を取り囲んだ。
伐採マシンは、左手がクロスボウから通常の手に換装された物で、両手で大斧を持っている。
「普通の重機じゃなくて、あんな物が配備されてるのか?」
「今の様に、治安維持にも使えるしな」
セイランの疑問に、ガーデンが答える。そこへ、魔力を溜めているグィネヴィアが叱る。
「そんな事より! チャンスなんだから準備して!」
伐採マシン達が斧を大上段に振りかぶり、セイランとグィネヴィアは魔力を帯びた手をドラグ式洗濯機に向ける。ガーデンは胸一杯に息を吸い込み、全身に黒いオーラを帯びる。
その時、リッヂは二度手を叩いた。
「ドラグ式! もう良い! 戻れ!」
「はい……!」
命令に従ってドラグ式洗濯機は高く跳ね、家型ドラゴンの玄関前に着地。自動で開いたドアから中へ入って行った。
「これ以上やったら殺られそうだ。今日はこの位で帰らせて貰う。また遊ぼうぜ。じゃあな」
家型ドラゴンの背後の空間が歪み、家型ドラゴンが後退する事で、リッヂ達は異空間の中に消えて行った。
「逃げた……、のか?」
「油断するなよ?」
警戒するセイランに、ガーデンは同調する。セイランは頷き、両目を閉じる。代わりに、額のカメラのレンズカバーが開いた。
「うーん……」
セイランは顔を四方八方に向け、且つ、カメラも上下左右に動いて周囲を眺める。
「敵意の存在は……、ゼロだ」
セイラン達は武器をしまう。
「戦闘終了! 警察の指示に従い、事後処理に取り掛かれ!」
セイランは軽く溜め息をついて、ハンカチで顔の汗を拭った。
設定集
敵陣営のコンセプトは、「居て欲しくない」と思える能力の持ち主である事。