ドラゴンクエストFUTURE~王室護衛係セイラン班~ 作:岬 実
「ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン! グビグビ、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン! ゴクゴク、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン!」
グィネヴィアが、希釈した魔力ジェルをガブ飲みしながら怪我人を相手にベホマズンの連打をしている中、セイランとガーデンはバイキルトとズッシードで強化した上で瓦礫撤去に勤しんでいた。
作業と治療に一段落が着いたのは、夕暮れに差し掛かった頃であった。
医療テントの前のベンチにセイランとガーデンは腰掛け、グィネヴィアはセイランに膝枕して貰っていた。
「あ~、治し疲れた」
「何生分も寿命を伸ばしたんじゃないですか?」
「ちげぇねぇ」
セイラン達が雑談している時、人影が彼等の脇に立った。
それは、人間の女性と紫色の肌の、魔族の小さな女の子。女の子が女性に促され、セイラン達に緑茶を載せたお盆を差し出した。
「はい、どーぞっ!」
「わぁ、ありがとー!」
グィネヴィアは身を起こし、至って愛想良く受け取って、セイラン達にお茶を手渡した。
「本当にお世話になりました……。あんな大怪我が嘘みたいに治って……」
「いえいえ、深手を耐えた、貴女達の生命力有っての事ですよ」
女性がペコペコと頭を下げながらお礼を言う。
グィネヴィアが応対する中、女の子がセイランに訊く。
「ねえねえ、あなたたち、ゆうしゃ?」
「え、勇者……?」
言い淀むセイランを、ガーデンは女の子からの死角になる位置を小突いた。
「うん、そうなんだ。ちょっと悪者退治にさ」
「一人だけ怪我しなかったって子は君? 凄いな」
ガーデンが話を広げる。
「うん! かくれてなさいって! こわかったけど、なかなかった!」
「そうか、頑張ったな。そうだった、自己紹介がまだだったな。オジサンはガーデン=バッシュだ」
ガーデンは女の子の頭を撫でながら名乗る。
「わたし、『ネツヤナヤ』!」
女の子の名前について、セイランが「聞き慣れない名前だな」とガーデンに耳打ちすると、「魔界特有の名前だな。魔族もレアだし」と小声で解説した。
「俺はセイラン=ブルーウェア。この人達のリーダーだ。宜しく」
「あたしはグィネヴィア。グィネヴィア=エーズィーね」
「おにいさんたちがたたかってるの、カッコよかった!」
「そっかー」
「おねえさんも、なおしてるのがカッコよかった!」
「あら、ありがと! お医者さんにも言ってあげて?」
「うん! おねえさん、つかれちゃったの?」
「そーねー、少し」
「じゃあ、はいホイミ!」
手から放たれた淡い光がグィネヴィアを包んで、程無く光は消えた。
「えっ」
「は」
「な?」
セイラン、グィネヴィア、ガーデンの順に驚きの声をあげ、母親は「こら……!」とネツヤナヤをたしなめている。
「え? 今のは本当にホイミか?」
「疲れが消えた。本物だよ」
確かめるガーデンに、肯定するグィネヴィア。
「凄い。天才ってホントに居るんだ……。まだ5歳だって?」
セイランはの顔をまじまじと見つめ、ネツヤナヤは「5ちゃい。えっへん」と胸を張った。
「すいません、この子、昔話とかが好き過ぎて……」
「謝る事じゃないですよ、凄い才能ですよ。あたしなんか、訓練を受けるまではメラもホイミも出来なかったんですから」
「メラもできるよ?」
「ええ? す、凄過ぎる。ネツヤナヤちゃんこそ勇者になれるよ」
「ホントに!?」
ネツヤナヤが目を輝かせるが、母親は「良い子にしてて、勉強も運動も出来たらね?」と付け加えた。
「では、そろそろ失礼します。お仕事、頑張って下さい……」
「バイバーイ!」
母親が深くお辞儀をし、ネツヤナヤが手を振って、二人は帰って行った。
母娘の姿が見えなくなったのを見届け、セイランはグィネヴィアに問う。
「ねえ、グィネヴィアさん。グィネヴィアさんは雑学に長けてますよね」
「うん。大得意」
「勇者ってのは何なんですかね?」
「勇者? デイン系の許可を貰ってる人だって聞いてるけど」
「ガーデンは?」
セイランはガーデンに顔を向ける。
「俺に言わせりゃ勇者ってのは、『勇気を信じさせてやれる者』って所かな。または『英雄の候補生』とか。精神面の問題なら、誰が勇者と呼ばれてもおかしい事じゃない。別にあの子の素質を否定するんじゃないが……」
「そう言えば訓練生の時、『勇者賢者・粗製濫造時代』を引き合いに出して教えられたっけ」
「耳にタコが出来てると思うが、敢えて言う。『俺達も、人の不幸の上に生活してる』って。それだけは頭に入れておけ……」
ガーデンはお茶を啜った。
「それとお前、追い追い子供の扱いにも慣れとくべきだな。俺達は一応、人々の憧れなんだから印象を良くしないと。特に子供には……」
「それも仕事の内だよな」
「仕事と言えば……」
グィネヴィアが話に割り込んだ。
「支援物資の輸送と、被災者の疎開の為に、大型トラックが明日ここに着くって。沢山。『ルハル』さんもその護衛として一緒に」
セイランは「分かった」と話を続ける。
「『ドロップ』さんは?」
「あいつはその時も、呑気にパチンコ打ってるだろ。雑踏警備の一環とかで。さっき連絡した時もそうだった。アテにはなるんだけどなぁ……」
「まあドロップさんは人生楽しんでるしな」
セイランはそこまで喋って、手を一拍した。
「言い忘れてた。さっき本部に報告したら、『ダイチ』さんも俺の班に付けてくれるってさ。何日かでこっちに着く」
「ああ、あのサイクロプスの……。家みたいなドラゴンには、ドロップとダイチが居れば安心だな」
「明日の被災者の護衛については撃ち合いを想定して、遠距離でも戦える俺とグィネヴィアさんも付く。ガーデンはここに残って、奴等が現れた時に相手して欲しい。本国からも、防衛の為なら自称ドラゴン達の命を奪う事も許可を受けてる」
「了解」
「オッケー!」
セイランはゆっくり立ち上がって、持参したアイテムボックスを手に取る。
「さて、明日の予定はこれで確認し終えた。メシ食って、今日はそろそろ休もう……」
「ああ」
三人は集落の隅に行き、アイテムボックスを開く。
まずセイランは何枚もの板を取り出し、地面に並べて床となす。続いて長い棒を取り出してはガーデンに手渡し、二人でテントの骨組みを組み立てる。そしてスイッチを入れると、骨組みの間が光の幕で覆われた。
「俺はちょっと茶碗を返して来る」
「見張りは4時間交代で良いか?」
「あたし、レーションの用意するね」
セイランは湯飲みを返しに行き、ガーデンは寝床の準備をする。グィネヴィアはボックスから出したレトルト食品を温め始めたのであった。
設定集:王室護衛係
王族お抱えの私兵団。主な任務はボディーガードだが、治安維持や猛獣駆除等にも投入される。
支給品に銃火器は無いものの、特技や魔法で個々が高い戦力を誇っている。