ドラゴンクエストFUTURE~王室護衛係セイラン班~ 作:岬 実
翌日の明け方。
見張りに付いていたセイランが顔を洗っていると、走行音とエンジン音が、空気を震わす程の音量で聞こえて来た。
セイランが目をやると、トラックの頭が遠くに見える。
「来た来た」
盛大に土煙をあげながら大型トラックの隊列が集落に到着し、適度な広場に整列した。
その騒々しさに、テントの光の幕をすり抜けてガーデン
とグィネヴィアが顔を出した。
「何だ? 敵襲か?」
「違うよ、目覚まし時計だよ」
ガーデンが目を擦りながら、グィネヴィアがあくびしながらテントから出て、二人揃ってストレッチをした。
「ああ、二人ともお早う」
「ルハルさんは?」
「最後尾に居る」
セイランは、トラック隊のしんがりを務めている、4頭立ての馬車を指差した。
御者であるドワーフの女性は馬車を停めると、馬達に労いの言葉とスキンシップを済ませ、セイラン達に歩いて来る。
「久し振りセイラン。幾ら
「あ、いや、それは、皆さん方に揉まれて来いって言われてて」
「良し分かった! 私も色んな事教えちゃるっ」
「お手柔らかに……。それと、俺の班員に渡す腕輪」
セイランは、ガーデンやグィネヴィアに渡した物と同じ腕輪をルハルに手渡した。
「これが『
腕輪をしげしげと眺め、早速、腕輪を装備するルハル。
「どうです?」
「うん……、確かにちょっとは強くなった気もする」
「受信者にも個人差が有るので」
ルハルは馬達に目を向けた。
「まあ、あの子達には直接は関係無い事だけど」
「それと、俺から500メートル離れると効果が無いから注意して」
「分かった。ではルハル=マモユザー、これよりセイラン班に加わります!」
「はいっ……。では早速ですが指示を。俺とグィネヴィアさんは避難民の移動の防御に回ります。ルハルさんは、ガーデンと一緒にここの防衛に当たる様に。細かい事は警察の言う事に従って下さい」
「了解っ!」
ルハルはシャキっと敬礼をした。
トラック隊では、荷下げと並行して子供と女性を優先的に乗せている。
その中に居たネツヤナヤ親子が、セイランを見付けると駆け寄って来た。
「おにいちゃんたちも、いっしょにくるの?」
「うん、このトラックに乗ってる人達を守る為に。あー……、任しとけ!」
セイランは大袈裟に胸を張ってみせた。それを見たガーデンは「まあまあかな……」と呟いた。
「何? あの子」
トラックに乗り込んで行ったネツヤナヤ親子を指差し、ルハルはガーデンに問う。
「昨日出会ったばかりの知り合いだよ。ホイミも使える」
「へー、凄いじゃん。魔族だからかな」
「歳だけ見れば、ね」
二人の会話にセイランは割り込んだ。
「それでは二人とも、俺達はちょっと離れます。ここの事はお願いします!」
「任せろ。そっちこそ気を付けてな?」
セイランは頭を下げ、グィネヴィアは手を振り、コンテナも幌も無いトラックの荷台に乗り込んで行った。
────―
トラック隊が走り出して暫く経った頃。
二人を乗せたトラックは最後尾に陣取り、セイランとグィネヴィアは光の幕の中で待機していた。
「フバーハを覚えておいて良かった。風も防げるし」
「後は敵さえ出なければ──」
グィネヴィアが言い掛けた時、セイランのウェアラブル端末が鳴った。
「言ってる側からか?」
通信を受けるや否や、相手方のガーデンがまくし立てた。
『気を付けろセイラン! リッヂの奴がまた来た! 新手のドラゴンに乗ってそっちに向かってる! 凄いスピードだ、ピオラでも「ハグロ」でも追い付けん!』
「何っ!」
セイランは額のカメラで車列の背後を警戒する。が、それより速く、緑色の閃光の様な物が道路脇の荒れ地を突き進み、スピードを抑え、セイランとグィネヴィアのトラックに並走し出した。
「ああ……、今から取り込み中になる。切るぞ……」
ガサガサと地を這うそれは、クーペ型の車に似ているが、タイヤの代わりに長い手足が生えている。ヘッドライトが鼻、サイドミラーが耳、ドアが翼、マフラーが尻尾。
内装はピンク一色で、助手席にリッヂが座り、運転席では、顔に両目しかないグラマーな女性型の器官がハンドルを握っている。
ルーフを開いて身を乗り出し、セイラン達に向かってリッヂが手を挙げた。
「ぃよぉ! また会ったな、銀バエ!」
「何だ……、そのドラゴン? は?」
ガーデンからの通信を切りながら、セイランは大鎌で指差した。
「訊かれてるぞ? お前の名は?」
「アタシ、『ク
牙が生えた口であったボンネットがバタバタ開閉し、若い女の声で車が喋った。
「その体とチカラは?」
「触れる資格を見定める為!」
「その通り! 今こそ俺に能力を見せろ!」
「良いよー!」
「と言う訳で、楽しいドライブの始まりだ!」
リッヂが戦闘開始を宣言した事を受け、グィネヴィアはトラックのリアガラスを叩いた後、運転手に敵襲を知らせ、スピードを上げる様に進言した。
「グィネヴィア、攻撃は頼む。防御は俺がメインでやる! 輸送部隊には一撃も入れさせられない!」
「オッケー!」
役割分担を指示していると、ク
「そのトラック美味しそう!」
「やっべ」
グィネヴィアは咄嗟に、背負っていた和バサミを投げ付ける。
直角に開いて回転しながら飛ぶそれは、ク
「あっ! あい──っ、たぁ~~っ……!」
ク
「何かと思ってたらブーメランかよ?」
「そーっ! 『大鋏』! オーガの賢者に隙は無いっ!」
意外そうな顔のリッヂにグィネヴィアが手を振っている内に、どんどん距離は離れ、やがてミニカーよりも小さく見える程になった。
「グィネヴィア、何かフォースを掛けるか?」
「ううん、良い。それよりも爆風に注意して」
グィネヴィアは、右手で拳を作り、開いた。中には爆竹型の光の塊が2個出来ている。
「イオか……」
「爆発ならあのスピードにも当たり易いし」
そこへ、ク
「痛いなぁぁぁぁ!」
追走する傍ら、ク
「チッ! 真空波!」
セイランは反射的に、開いた手を横に振るう。5本の指から三つずつ放たれた真空の刃が木を細かく切断し、木は勢いを無くして落下した。
「そして、イオ!」
グィネヴィアは、光の塊の一つを投げ、もう一つは宙で手を放す。投げたイオは放物線を描いて飛び、手を放したイオはグィネヴィアの側に留まって浮かぶ。
「おっと!」
ク
「うーん、速い……。けど、空は飛べない様だ。グィネヴィア、地面をヒャド系で凍らせるぞ」
「オッケー!」
一瞬だが、セイランとグィネヴィアは顔を見合わせる。再びク
「あれ!?」
「……消えた!?」
グィネヴィアが辺りを見渡し、セイランが額のカメラを開くと、カメラが「ピーピーピー」と警告音を発した。
「後ろだ!」
セイランが叫ぶのと、進行方向から回り込んで背後を取ったク
「ゲ……!」
グィネヴィアは背中に平手打ちをモロに受け、白目を剥く。そのグィネヴィアにセイランは押し出され、二人はトラックの上から叩き飛ばされた。
「ぐああっ……、念じボール!」
セイランの鎌の柄尻の玉が飛び、グィネヴィアの服の中に潜り込む。
「落とされて堪るか!」
セイランがそう気合いを込めると、念じボールが発現。大鎌の玉でセイランが、服の中の玉でグィネヴィアが、それぞれ荷台の上に帰還した。二つの玉が、元通り柄尻に再装着される。
しかし、グィネヴィアはぐったりとしたままで、息は浅く、目も口も半開きとなっている。
「グィネヴィア!?」
「せな、か。痛……い……」
蚊の鳴くような声で答えた。
「分かった、動かすから我慢しろ」
仰向けのグィネヴィアを力任せに横向きにさせる。「ひぃぎっ、ああああ!」と悲鳴があがった。
彼女の背中はク
「く、ベホマ……!」
セイランは片手を光らせ、それでグィネヴィアの怪我に触れる。すると逆再生の様に傷口が塞がっていく。
「お前達にはバギだ!」
同時進行で、リッヂ達へ指から一重巻きの竜巻を発射しての牽制射撃も怠らない。
だがリッヂ達は、反撃するでもなくヒラリヒラリと避けるばかり。
「ゆっくり治してて良いぜ? 俺は優しいんだ」
「ま、メタルスライム属だってアタシにはノロマだけど」
「今の一撃も、車の先頭から迂回して来ての事だしな」
「ついうっかり、星を一周しちゃうとこだったよ」
「いつまでも遅い乗り物に頼りやがって、進歩がねぇーな」
その会話を聞いて、グィネヴィアは般若の様な表情を浮かべた。
ゆっくり立ち上がり、大鋏を手に取る。
「おいっ、まだ完治しては──」
「ふぅ~ざぁ~けぇ~……」
セイランの忠告を無視して、後退して荷台の隅に寄り、両手で大鋏を構える。
「なぁ~いぃ~でぇ~……」
小走りで助走を付け、手に魔力を集める。大鋏から電気がほとばしり始めた。
「よぉぉっ!」
グィネヴィアは叫ぶのを掛け声とし、帯電した大鋏を投げ付けた。
「むっ! ギガスローか!」
「だから遅──」
ク
「
ク
追撃として、ジャンプの最高点に達するタイミングを見計らい、セイランは大鎌を突き出す。
「さっきの攻撃の時にイオを付けてたか! バギマ!」
前回同様、二重螺旋の竜巻が三つ、リッヂ達に向かって伸びる。
「食らうか、そんな物!」
ク
が、セイランは笑みを浮かべた。
バギマは突然直角に曲がり、ク
「何ィ!?」
バギマはク
「はぃぃぃぃっ!」
大鋏は手元に戻って来た所で、グィネヴィアの叫びと共に振った腕の動きに合わせて軌道変更し、上空からク
「グオオオオッ!?」
急に前傾姿勢になった事でリッヂは車から投げ出され、顔で逆立ちするテイで「ギャーッ」と悲鳴をあげながら地面に長く堀を削った。
「勝ちッ!」
戻って来た大鋏を受け止め、グィネヴィアは敵に背を向けてピースサインをする。
しかし、女性型器官がまだ残っている。車内から飛び出し、宙返りして姿勢を整えた後、火の玉を宿した右手を突き出す。
「!」
油断無く気付いたグィネヴィアは、手の中に長い氷の針を出現させた。
振り向きざまに投げ付けるや、氷の針は2本に別れて飛んで行き、方や飛ばされた火の玉を相殺、方や女性型器官の胴体に突き刺さり、その周辺を黒く凍り付かせる。
女性型器官とボディーは地面に落下し、動かなくなった。
遠くなって行くリッヂ達をカメラで確認し、セイランはハンカチで汗を拭く。
「ふ~、戦闘終了っ!」
「あの時振り落とされてたら死んでたよ。ありがとね?」
「さて、治療の続きをするか……」
セイランは、グィネヴィアの背中を治す事を再開した。
────―
勢い良く地面から頭を抜いたリッヂは、体中の土を払い退けながら立ち上がった。
「あ~、楽しかった」
晴れ晴れとした笑顔で呟き、女性型器官も助け起こす。
女性型器官の腹に刺さったままの氷の串を抜いてやりながら、リッヂは質問した。
「こいつはヒャドだな……。で、さっき撃とうとしたのはメラミだな?」
「うん、そう」
ボンネットが喋り、女性型器官は頷いた。
「現代人が劣ったのは身体能力だけか? 魔法と科学は案外見所が有るか……?」
「あの人達の分析を待とうよ」
「そうだな……、考えるのは俺の仕事じゃねえ。おいドラグ式! 『ククル
「ここに……」
「お呼びですか」
リッヂが呼ぶと、歪めた空間を通り抜け、ドラグ式洗濯機と家型ドラゴンが姿を現した。
「ククル
「承知しました……」
リッヂはドラグ式の口の中に全ての衣服を投げ入れ、続いて、開いたククル
「ク
ククル
「ああ、ちょっと驚いた。だが……、俺の様な『第一世代』には問題じゃない」
「リッヂ様、服をどうぞ……」
「おお、早いな」
ドラグ式洗濯機は、長く伸ばした舌でリッヂの服を渡す。その服は、汚れはおろか傷みも無くなり、折り目の着いた新品同様の状態に直っている。
リッヂはその服を着込んだ所で、今度はククル
「リッヂ様、そろそろ時間ですが」
「おう、今行く」
注意を受け、リッヂは椅子型ドラゴンに腰掛けると、全員を引き連れて異空間の中に去って行った。
設定集
セイラン=ブルーウェア
種族:
職業:コマンダー
呪文:バギ系、ヒャド系、ホイミ系、各種補助系、各種妨害系
特技:剣技、格闘技、その他攻撃系、各種フォース、凍て付く波動
追記:3回行動可能
セイランのメインウェポンの大鎌。魔法に追尾能力を与える効果が有る。
大鋏
グィネヴィアのメインウェポン。和鋏に似たブーメラン。攻撃魔法を付与出来る。重さとキャッチの関係で、オーガの賢者の様な魔法と体力に優れた者にしか使いこなせない。