第4.5次聖杯戦争   作:慶天

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9話 金星神・火炎天主(サナト・クマラ)

「囚禁(チォウ・ヂィン)!」

 

 クガイの言葉はまさにコマンドワードであった。いつの間にかその場には魔法陣が敷かれており、囚禁の言葉でその魔法陣は光を放ちその効力を発揮した。

「う、動けねぇ! てめぇ! クガイ何をしやがった!」

 

「いやぁあんたがた、すばしっこくていけねぇ。あっしの貴重な古銭無駄撃ちしたくないんでね。ここはキャスターの工房だって言ったでやしょ? そりゃこれくらいのトラップはありますわなぁ」

「ぬううおおおお! 動け動けぇええ!」

「無駄ですわ。さてあんたがたどっちがマスターなんでしょうかね? んーまあいいですか、二人とも始末すればいい事ですしねぇ」

 そう言って凶悪な笑みを浮かべるとクガイは懐から古銭を取り出す。

「じゃ、まあお嬢ちゃんから逝きましょうかね」

 

 そしてクガイはユェにとって致命の一撃を放った。

 キーンという硬質な金属の音を残し最悪の呪文を秘めたクガイの古銭がユェに迫る。

 

 ジンは吠えた。

「俺は最強だ! 届け! 半歩でいい! 前に進め!」

 誰に祈ったのかはわからない。ただひたすらに古銭とユェの間に自分の体をねじ込むことだけを考え、祈り、そして叫んだ。

「うおおおおお! 届けええええ! 今度こそ! 今度こそ俺は妹を守るって決めたんだ!!」

 

 神がその思いを聞き届けたかどうかはわからない。単純にジンの精神力がキャスターのトラップを上回ったのかもしれない。

 ジンはわずかに左手を動かすことに成功した。そしてその左手をユェと古銭の間に滑り込ませたとき、古銭はジンの左腕にめり込んだ。

 

「ほっほー。さすがですなぁ、あのキャスターのトラップの中少しでも動けるとは見上げたモンですわ。まあ、殺す順番が変わっただけですけどねぇ」

 クガイの魔術は当たりさえすれば確実に対象者の命を奪う。例え腕に当たっただけだとしてもいずれその腐蝕は全身に及ぶ。

 

 しかしここでクガイにとって予想外のことが起きた。ジンの左腕にめり込んだ古銭は金属と接触したようなカキンという音を残し、その場に落ちて砕けた。

 そしてジンの左腕は金属のフレームがむき出しとなり、その金属を覆っていた皮膚だけが崩れ落ちていた。

「しまった! こいつらサイバネ野郎だった!」

 

「ジン!」

 ユェがジンの名を呼び目配せをする。まだ体は動かない。

「「令呪を持って命ずる! アーチャー! 我らを守れ!」」

 二人の声が揃った命令に無数の矢と共に風を纏い遥か上空からアーチャーが舞い降りた。

 アーチャーと共に降り注いだ魔力を帯びた矢は二人を縛り付けていた魔法陣の一部を破壊する。

「アーチャー! 時間を稼いで!」

「了解だ! 任せておけ!」

 

 アーチャーは、弓矢での攻撃とは思えないほどの速射で、クガイに攻撃を仕掛ける。

 そもそもアーチャーの放つ矢は、女神アールマティの加護による弓矢作成スキルにより生成された魔力の矢であり、一矢放った瞬間にはもう次の矢が自動的に装填されている。

 加えて、その一つひとつの威力も馬鹿にならず一撃で致命傷となり得る代物なのだ。さすがのクガイもこの攻撃を全て躱すことは困難と思われた。

 

「うわぁお! こりゃいけねぇ!」

「セラピスの智慧よ!」

 しかしそれで簡単にクガイが倒れるくらいなら苦労はない。すかさずキャスターが間に入り目に見えない何かで矢をすべて払いのけた。

 

 キャスターが参戦したことによりアーチャーもジンとユェの盾となるべく二人の前に立った。

 

 その間ジンとユェは極大魔術の詠唱に入っていた。

 

「「我使之吹風(吹けよ風)

 我降下雨(降れよ雨)

 我稱呼暴風雨(呼べよ嵐)

 我招待雷雲(来たれ雷雲)

 閃電切撕開(斬り裂け稲妻)

 請響應(応えよ)! 霹靂神(ハタタガミ)!!」」

 

 ジンとユェの切り札、超魔術「霹靂神」

 それは二人の特性を合わせた上で発動するジンとユェの合わせ技である。

 晴天にわかに掻き曇り雷雲から雷光が爆音と共に降り注いだ。

 

 最初の一撃は狙いがそれたのか近くのテントに直撃し、炎上どころかその場にクレーターを残してテントとその内容物をもろともに爆散させた。

「うわ、マジですかいこいつは」

 この場にいたクガイのみならずキャスターとアーチャーの二人のサーヴァントもそのあまりの破壊力に唖然とする。

 

「へえ……。これほどの魔術を操るとはこの時代の魔術師もなかなかやるじゃない。でも、これは少しまずいわね。よくってよ、とっておきを見せてあげる」

 キャスターはなぜか嬉しそうに目を輝かせて天を仰いだ。

 

「海にレムリア! 空にハイアラキ! そして地にはこの私! 

 来たれ金星神・火炎天主(サナト・クマラ)!」

 

 今度唖然とするのはキャスター以外の全員である。

 

 上空に突如現れたその巨大な「物体」は眩い七色の光を放ち金属か何かわからない不思議な光沢をもっていた。そして脳に直接響くような不思議な音を伴って上空に浮遊している。

 

 何なのだこれは。

 

 その「物体」はまるでレーザー光線の様な光を放ちながら落雷を迎撃していく。

 レーザー光線と落雷が接触するたびに大爆発が巻き起こり、衝撃で飛ばされないようにクガイは低い態勢をとりその常識外の光景を見つめた。

「ひ、ひぇええええ。な、なんなんですかい。これもキャスターさんの魔術なんですかい? っていうか、こりゃあまるで……」

 

 ジンとユェにとっても必殺の超魔術を防いで浮遊する想像を絶する存在が信じられなかった。

「な、何なのよアレは……」

 あれも宝具だというの? ユェはこの聖杯戦争というものがいかに人知を超越した者たちの戦いであるかをこの瞬間に理解した。

 どう考えても人の身でどうにかできる代物には思えなかった。いかに自信過剰なジンでもこれを見ればさすがにもう少し慎重になるんじゃないかしら。

 

 その時ジンに異変が起きた。膝をつき体をガタガタと震わせ引きつった笑みを見せたのだ。空を睨んでいるようにも見えたが、その目は焦点を合わせていなかった。

「ジン! どうしたの!? ジン!」

 それを見たアーチャーは即座にジンとユェを両脇に抱えてまさに矢のようなスピードでこの場から離れていった。

 

 クガイは何となく「ここが遊園地で良かったですなぁ。違和感ないですし」と場違いな感想を持っていたが、アーチャーが二人を抱えて離脱したのを見てどうやらこの戦いも終わったのだろうと一息ついた。結局逃げられたってことですかいねぇ。

「どうやら連中逃げたみたいですねぇ」

 クガイの言葉にキャスターは

「ま、当然そうなるわよね」

 と薄い胸を反り返した。

「まさかこの序盤でマハトマに頼ることになるとは思っていなかったのだけれど……。そういえばあなた、貯金は大丈夫? いきなり無一文とか勘弁してよね」

 

 キャスターの冗談とも何とも判別し難い気遣いにクガイは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。

 しかし、子供を殺すのは……やっぱ嫌なモンですな。

 クガイはそう独りごちた。

 

 

 

 一方、少し離れた場所から使い魔を使ってマスター同士の戦いを観察していたウリエは、現れたキャスターの宝具に唖然とするとともに、心の奥から湧き出す衝動を抑えきれなくなっていた。

 

 

 

 ウリエの視点

 

 キャスターのマスターの罠に嵌った二人組が、令呪でサーヴァントを呼び寄せた。どうやらアーチャーらしい。アーチャーの攻撃を突如現れた少女が防ぐ。

「あの少女がキャスターのサーヴァントなのね。英霊となった魔術師とはどんなものなのか、お手並み拝見よ」

 二人組のアーチャーのマスターが、大規模な招雷魔術を発動。この魔術も想像を超えた大魔術だったが、それに対応するようにキャスターが信じられないような魔術を行使した。

 

「何なの、この魔力! 複数の魔術基盤を同時に使用しているというの? 彼女は英霊だからこんなことができるの? それとも、こんなことができる魔術師だからこそ英霊に名を連ねているというの? 凄い! 素晴らしいわ! 彼女は生前一体どんな魔術師だったのかしら。彼女の話を聞いてみたい。あぁ、私が彼女のマスターだったら良かったのに……」

 

 キャスターとアーチャーの戦闘が終了した後、ウリエは人語を発声できるよう声帯に改造を加えた使い魔のフェレットを放ち、それを通じてキャスターに語り掛けた。ちなみに趣味なのか、彼女の使い魔はすべて可愛い小動物である。

「魔術師の英霊さん、今の戦いお見事でした。さぞや高名な魔術師とお見受けしますが、お名前は何と言うのかしら。あら、失礼、人に名前を尋ねる時はまず自分からですわね。私はウリエ・ヌァザレ・ソフィアリ。今回の聖杯戦争に選ばれたマスターの一人ですわ」

 

「あなたが先ほど使用した魔術。種類の異なる複数の魔力を感じたのだけれど、あなたもしかして魔術回路を複数保有しているの? あぁ、色々聞きたいことが多過ぎて、もどかしいわ、敵味方という枠を超えて一度ゆっくりお話しする機会を設けることはできないのかしら」

 

 ズトン! 

 

 ウリエの使い魔のフェレットが銃に撃たれて吹っ飛んだ。

「やれやれ、ウリルだかウリコだか知りやせんが、チィチィ五月蠅い小動物ですねぇ。人様のツレに色目を使うとか、一体どんな尻軽マスターなのやら。育ちが知れますなぁ」

 クガイがにやにや笑いながら構えていた銃をしまう。

「聖杯もそうだと思いやすが、欲しいものがあるってんなら実力で手に入れればいいだけなんじゃないんですかねぇ。聖杯戦争ってそういうモノなんでしょ」

 

「きぃいぃっっ! 何なのアイツ! 私のことを尻軽ですってっ!! 何であんなガラの悪い男に私の育ちをとやかく言われなきゃならないのよ! あいつだけは許せない! 絶対に私の手で倒してやるわ。覚えてなさい!!」

 

 ウリエは早口で捲し立て、さながら漫画の様に地団駄踏んで悔しがった。

 

 この場にバーサーカーがいたなら「小娘ェェェ……」と呻いたに違いなかっただろうが、幸いなことにその姿を見ていたのはオートマトンのメラヘルだけだった。

 

 

 

 ウリエの他にもこの戦いは、三人のサーヴァントが観察していた。

 

 その内の一人はウリエにキャスターの陣地を発見したことと他陣営との戦闘に入ったことを報告したバーサーカーであった。

 バーサーカーはマスターである(彼自身は決して認めたくはなかったのだが)ウリエの命令により、コウモリに姿を変えこの戦いを監視していた。

 

 バーサーカーは自らをこの姿で召喚したウリエの事を決して認めてはいなかったが、聖杯により自身の悲願がかなうのであればと無理やり自身を納得させていた。

 しかも令呪をもって隷属を強いられたという事もあり、今は彼女のサーヴァントとして忠実にその命令を実行していた。

 

「あんな小娘に従うのは業腹この上ないがこれも仕方あるまい。この戦いで勝った方と戦うことになるのであろうから、どの程度の使い手であるかくらいは見極めてやろうぞ。もっとも闇夜で闘う以上余に敗北はないがな……」

 

 しかしバーサーカーにとって今この場で闘っている東洋人の事は全く知らない人物である。ではサーヴァントの事を知っているかといえばアーチャー、キャスターともに彼の知識にある人物ではなかった。

「ふむ……。余の既知なる英霊ではなさそうであるな……。これは困った」

 バーサーカーはウリエによりキャスターの真名を優先的に探るように命令を受けていた。確かにサーヴァントの真名を知ることは相手の得意武器やスキル、宝具について知ることができる上、作戦の立案にも極めて有利に働くのだが……

 

「サーヴァントの真名を探れ、と命じられたが7つのクラス中最も格下のキャスターの真名を重視するとは……やはりあの小娘、何を考えておるのかわからぬ」

 バーサーカーはウリエの事が未だ理解できなかった。

 

 その時戦いに大きな変化が起こった。アーチャー陣営が放った落雷の魔術を防ぐべくキャスターが宝具を使用したのだ。

 

「海にレムリア! 空にハイアラキ! そして地にはこの私! 

 来たれ金星神・火炎天主(サナト・クマラ)」

 

 キャスターの召喚した宝具にさしもバーサーカーも度肝を抜かれた。

「な、何なのだこれは……。これは神代の魔術なのか……? このような魔術、さすがの余も心当たりがない。これでは真名もわからぬか……」

 

 どうやら戦いは例の宝具の出現でアーチャー陣営が撤退したようでキャスター側の勝利といってよかった。しかし相手サーヴァントもマスターも健在であることから陣地に大きな被害を負ったキャスター陣営も勝ったとは言いがたいであろう。

 

「ふむ、これほどの魔術を展開したのであればキャスター陣営の消耗も相当なものであろう。ここは我が力を見せてやろうではないか」

 バーサーカーはそう呟きながらコウモリの姿を解き、スキルを展開しようとする。

 

「我は闇に在って闇に非ず……」

 

 ぬ? 小娘? 何をしておる? 

 しかしその行動は予想外のウリエの振る舞いで中断することとなった。

 

 ……やはりこの小娘の考えていることはわからぬ。

 

「やれやれ、この道化が余のマスターでなければ余も心から笑う事が出来たのだが……」

 バーサーカーはそう呟くと肩をすくめ、再びコウモリとなって飛び去って行った。

 

 

 

 そして、この戦いを観察していた残りの二人のサーヴァントは……

 




お読みいただきありがとうございます。

ようやく物語も動き始めました。
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