第4.5次聖杯戦争   作:慶天

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閑話2 それぞれの物語

 side 桐生空

 

 空はよく藤村大河の家にお邪魔してその祖父であり藤村組の組長、雷画ともよく話をしていた。

 藤村雷画もお互いの幕末好きから空の事を気に入っており、コレクションの中から刀の鍔を送ったりしている。その刀の鍔が問題であったのだが。

 

 セイバーが空のサーヴァントとして召喚されて間もないころ、空は雷画に新選組について話を聞いていた。

「そうじゃの、沖田総司については謎が多くての。一般には色白の美青年としてイメージされとるが、実際は陽気でヒラメ顔の愛嬌ある顔立ち、色黒、猫背、肩の張り上がった長身、などといった話も伝わっておる」

 雷画の話に空は「へぇー」と隣にいるはずのセイバーに目を向けた。もちろんセイバーは姿を消しており空には見えていないが、ぶんぶんと音が聞こえそうな勢いで首を横に振っていた。

 

「あとは晩年、といってもまだ20代じゃが、迷い込んできた黒猫を斬ろうとしてそれが出来ずに『ああ、斬れない。婆さん、俺は斬れないよ』と己の衰弱ぶりを嘆いたとかいう逸話も残っておるの。事実かどうかはわからんがの」

 

 藤村家からの帰り道、空はセイバーに聞いてみた。

「猫を斬ろうとしたの?」

「何を言っているんですか! なぜ私がクロを斬らなくちゃいけないのですか。クロは婆さんの飼い猫で私にもよく懐いていたんですよ」

 そっか、よかった。そう思って空は少し笑顔になった。

 

 

 

 side ツヴァイ

 

 冬木市に着いてすぐの事だった。絵本を読んでいたツヴァイは不意に顔を上げリセに言った。

「ねぇママ。ジャックに何かお料理を振舞ってあげたい! やっぱり家族ってみんなでお食事をするものよ! この絵本のクマさんとトラさんとブタさんもみんなでお料理作ってるわ」

 

 いきなり何を言い出すのかとリセは戸惑った。ツヴァイは培養ケースの中で学んだ知識しか持ち合わせていないはずであり、料理の知識などは特に教育されていない。

「ツヴァイはジャックにお料理を振舞ってあげたいのね? 何を作りたいの?」

「これ!」

 そう言ってツヴァイはその絵本の動物達が食べているハンバーグらしきものを指さした。

 

「これはハンブルグ……かしら?」

 リセにも料理の知識は乏しい。しかしハンブルグ位ならこの屋敷にある食材で作れるのでは? そう思ってしまった。リセもツヴァイと二人で料理を作るというシチュエーションにちょっとあこがれてしまったのだ。

 ジャックは現在偵察に出かけており、帰りにはまだ時間がかかるはずである。

 

 二人は台所に立ち悪戦苦闘する。背の低いツヴァイは適当な台に乗って一所懸命合い挽きミンチをこねていた。

 そんなツヴァイの事をいとおしく思いながらもリセは乏しい知識を総動員してソースを作る。

 

 まあしかし、ろくに知識がない二人が頑張ったところで出来上がったものは所詮物体Xまたはダーク・マターである。

「むー。なんでかなー」

 首をひねるツヴァイとリセ。そこにジャックが帰ってきた。

「ただいま。あのね、おかあさんとツヴァイのために夕ごはんを買ってきたんだ」

「お帰りジャック! 何を買ってきてくれたの?」

「うん! わたしたちは普通の食事はあまりとらないからよくわからないけど、お魚とお芋を揚げたやつ! みんなこれ好きでしょ!」

 

 ああ、そういえばジャックってイギリス出身だっけ。そう納得して二人は項垂れた。

 

 

 

 side ウリエ=ヌァザレ=ソフィアリ

 

 私は、小さな頃から変わった子だとよく言われたわ。

 全くもって納得はいかないのだけれど、何故そう言われたのかについて心当たりはあるわ。私は価値観が他人とはちょっと違うみたいね。

 

 例え話は得意じゃないけど、あえて絵画で言えば、世間一般に高い評価を得ている作品が、すべて価値があるのかと問われると私はそうは思えない。確かに私から見ても素晴らしい作品もあるけれど、どこが素晴らしいのか理解できない作品もあるわ。そんな作品は誰が何と言おうと私にとってはガラクタなのよ。

 

 晩年素晴らしい作品を輩出した画家が、若い頃に作成した未熟な作品を作者が同じだと言うだけで、素晴らしいと言うなんて論外だと思う。

 ヒトであれモノであれ、他人や世間が下した評価を自分では何も考えずにそのまま受け入れ、そういうものだと納得している人を見ると馬鹿じゃないのと言ってしまうわ。

 

 こんな性格だから、私はあまり人付き合いは得意な方じゃない。そもそも、私にとって何の価値もない人とうわべだけ仲良くすることなんてできないし、する必要もないと思ってる。

 

 でも、勘違いしないでね。私は決して「ぼっち」じゃない。ありのままの私を理解してくれている大親友と呼べるような友人も片手くらいは居るのよ。

 ちなみに私は人間が嫌いなわけじゃないわ。素晴らしい才能を持っている人には素直に賛辞を贈るし、お近づきになってその人から何かを学びたいとも思う。例えその人が一般的には評価されていなかったり、変人などと呼ばれたりして世間から排除されているような人であろうと、そんなのは私には関係ないわ。

 

 きっと私も世間から見れば、立派な変人なのでしょうね。

 

 

 

 side ジャンマリオ

 

 コロンブスによる今回の襲撃後ジャンマリオは精力的にキャスターの正体とアーラシュと名乗ったアーチャーについて調べていた。

「オルトリンデ、アーラシュという英霊については大体わかったぞ」

 ジャンマリオは傍らにいるランサーに話しかけた。

 

「アーラシュ・カマンガーは神代最後といわれるペルシャの大英雄だな。お前たちは正に神代の英雄だが、彼は実にヴァルハラに迎えるにふさわしい英霊だぞ」

 そう言ってジャンマリオはアーラシュの功績について詳しく説明した。

「それは是非ともヴァルハラにお迎えしなくては……」

 オルトリンデはそう呟き黙り込んだ。

 

 ヒルド「第1回ワルキューレ会議ー! ぱふぱふー」

 オルトリンデ「という訳でかの英霊をヴァルハラに迎えることを推奨します!」

 スルーズ「それについて異論はないわ。それよりもヒルド。あなたちょっとイイ感じだった?」

 ヒルド「えーだって、突然手とか握られちゃったしー? ヒルドさんモテ期到来!」

 オルトリンデ「お姉さまズルい! 頑張ったのあたしなのに!」

 スルーズ「いやズルいとかそれは良いから。私たちは同一個体なんだから」

 ヒルド「そうそう! オルトリンデは真面目過ぎダヨー」

 スルーズ「しかし、そういうシチュエーションには憧れるわね……。ねえ今度は私が出るからあのアーラシュという英霊とデートしてきていい?」

 オルトリンデ「ダメに決まってるでしょ! お姉さまたちは何を考えてるのですか!」

 ヒルド「そうそう。あのお方は『あ・た・し』に興味があるのよ?」

 オルトリンデ・スルーズ「「やっぱりズルいー!!」」

 

 ワルキューレたちは実はけっこう乙女だった。

 

 

 

 Side 言峰綺礼

 

 冬木市の中華料理屋「泰山」は綺礼が足しげく通う中華料理の名店である。なかでもこの店の名物料理「泰山麻婆」は綺礼のお気に入りであった。

 

「唐辛子はお前が新大陸から持ち帰った物の中で最も優れたものだ」

「って、旦那、これ滅茶苦茶辛い奴じゃねーんですかい? 俺はちょっと遠慮したいですぜ」

「安心しろ。ちゃんと料理として旨味を追求した素晴らしい逸品だ。特にこの店の麻婆豆腐は絶品といえる」

「そう……なんですかい?」

 そう言ってコロンブスは綺礼にならい豪快にレンゲを口の中に運んだ。

 コロンブスは熱さにハフハフしながらそれを味わう。

 

 唐辛子の辛さは少し遅れてやってくるものである。

 

「ほごおおおおお!!! くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 店内に野性味あふれる絶叫が響き渡る。それを見ていた他の客は「あー」と絶叫するスペイン人をかわいそうなものを見るような目で見ていた。

 

「くああああ! 店主! 貴様俺を殺す気か!」

 そう言ってコロンブスはラッパ銃を懐から取り出し店主に向けた。

 

「やめないかバカ者」

「だ、だってよう! これおかしいだろ!」

「ほう、貴様この私がお勧めする料理がおかしいというわけか。

 よかろう、令呪をもって命ずる、ライダーその料理を5分以内に完食せよ!」

「えええっ!! ち、ちょ、おまっ!!」

 

 結局涙を流しながら激辛麻婆を完食したコロンブスは綺礼に引きずられるように帰っていった。

 

 後にこの店を訪れた衛宮士郎は「ラー油と唐辛子を百年間ぐらい煮込んで合体事故のあげく、『オレ外道マーボー今後トモヨロシク』みたいな料理」と評した。とても常人が食える代物ではないとのことである。

 

 ―こいつ絶対頭おかしい……。コロンブスは心の中の警戒ランクを更に一段上げた。

 

 

 

 side 李星、李月

 

 ジンは眠っている。遊園地の戦いからアーチャーに連れられ拠点に戻ってからもジンの異変はしばらく収まらなかった。しかし1時間もしたころジンは急に意識を失うように眠りについた。

 

 それを機にアーチャーのスキルによりジンの体が調べられ、衝撃的な事実が浮かび上がった。

 ―ジンには自爆術式が組み込まれている―

 

 ねぇお兄様。さっきは恰好よかったよ。「今度こそ俺は妹を守るって決めたんだ!」ですか? ときめいちゃったよ? でもそんなこと私の前で言っちゃったら、私これからお兄様とどう接したらいいの。今までジンは私があなたの妹だって気が付いてないと思ってたんでしょ。……バカだから。

 

 目を覚ましたらなんて言ってあげよう。「おにーさまー♪」とか言って抱きついたら面白いかな? 

 うーん、それはないな。恥ずかしいし。「あんたの事なんかこれっぽっちの心配してなかったんだからね! これおかゆ! 勝手に食べて!」とかどーかな。……あはは、私も結構バカかも。

 そう言ってユェはクスクスと一人で笑った。

 

 結局ジンが目を覚ました時、想定外の言葉にユェはため息をついた。

「なんか遊園地での記憶がところどころ曖昧なんだよな。俺の左手何で皮膚がなくなってんだ?」

「そう。あなたってやっぱりそうなのね。まぁ、いいわ、体調はどう? ジャスミンティーよ。リラックス効果があるらしいわ」

 

 このバカジン! 心の中でジンを罵りながらもユェは色々悩んでいた自分が馬鹿らしくなると共に、ただいつも通りの「冷静なユェ」を演じることしかできなかった。

 

 ジンに対する愛情とジアンユーに対する殺意で心の中はぐちゃぐちゃであったのだが。

 

 

 

 side 劉九垓

 

 劉花琳(リュウ・ファリン) 7歳

 

 生まれついて心臓に欠陥がありまた、原因不明の奇病で長くは生きられないと生まれた時から宣告されていた。

 そんな彼女がここまで生きながらえてきたのはひとえに「親戚のおじさん」の経済的援助により最高の医療が受けられていたからに他ならない。

 

 彼女の母親はファリンを生むと同時に亡くなった。同時にその父親も失踪し、身内といえるのはクガイと名乗る「親戚のおじさん」一人であるとされている。

 

「ファリンちゃんお薬の時間よ」

 設備の整ったファリン専用の病室に看護師の女性が入ってくる。

「昨日は急にお休みしちゃってごめんなさいね」

「うん……。ねぇ、クガイのおじちゃんは次いつ来てくれるのかな?」

 ファリンはパンダのぬいぐるみを抱きしめながら顔なじみの看護師に尋ねる。

「そうね、早ければ来月には来てくれるらしいわよ」

「来月かぁ。早く会いたいなー」

 ファリンはどこか疲れたような寂し気な笑顔を見せた。

「……クガイのおじちゃんがお父さんだったらいいのに……ねぇ、クーちゃんあなたもそう思うよね」

 

 そこまで口にした時ファリンは大きくせき込み、ひゅーひゅーと笛を鳴らすような荒い呼吸を始め激しく体を痙攣させた。

「ドクター! ドクター! ファリンちゃんの容体が急変しました!」

 すかさず看護師は内線電話でドクターに連絡を入れる。

 慌ただしくなる病室。すでにファリンに意識はなく、すぐに緊急手術が行われることになった。

 

 ファリンは意識がないにもかかわらず抱きしめたパンダのぬいぐるみを手放そうとはしなかった。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

閑話2は各々のキャラクターをもう少し掘り下げてみました。

この先はいよいよ物語も佳境に入っていきます。
お楽しみいただければ幸いです。
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