第4.5次聖杯戦争   作:慶天

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20話 遊園地再び

「どういうつもりだ! 奴との決着はまだ付いてねぇだろうが!」

 強引に戦闘エリアから離脱した後、二人は現在閉鎖中の冬木ドリームランドに戻っていた。そこでクガイはエレナに食って掛かった。

「落ち着いて! あなた重傷なのよ? それに少しマズイことになりそう」

 エレナとてクガイが焦っている事は承知している。しかし彼が負った傷は深い。

 

 廃工場から冬木ドリームランドの距離はそれほど遠くなく、怪我を負ったクガイでも十分に辿り着くことが出来る。それに他陣営もまさか私たちが一度放棄した陣地に戻るとは思わないだろう。エレナはそう考え、ここに霊脈があることを利用しクガイの治癒と自らの魔力の回復を図るつもりだったのだ。ところが、十分に休む間もなくこの場所を目指して近づく者がいることに気付いた。

 

「先ほど結界内に侵入者があったわ。まさかこんなに早く見つかるなんて……。簡易結界なので詳細はわからないけどおそらくはアーチャーね。マスターも一緒みたいだわ」

「ちっ、あいつらか。なら都合いいじゃねーか。というか計算通りだろう? まとめてやっちまえば時間も無駄にならねーじゃねーか」

「そうね。あの二人組のマスターについては問題ないと思うわ。でもそれ以外のサーヴァントも来るかもしれないわ」

「ますます都合がいいじゃねぇか」

 

 エレナはクガイの様子が明らかに普段と違っていることに違和感を覚えた。

 クガイは相当なピンチになっても取り乱して判断を誤るような男ではないと彼女は評価していた。実際、先ほどの戦いにおいてもエレナの言葉に咄嗟に引くことを判断できるほどの冷静さを持っていた。

 

 しかしここにきてのこの焦り方はエレナの想像を超えていたのだ。

「ファリン……。ジアンユーの野郎絶対許せん……」

 エレナはクガイの様子を見てはっとする。出血が多すぎる。クガイは想像以上に憔悴しているのかうわごとのようなことを言い始めた。

 

 エレナに医療の知識は薄い。一般的な知識は有しているが、それよりも魔力同調でクガイのマナを活性化させ治癒速度を上げることがむしろ彼女的に出来る治療行為といえた。

 もっともそのおかげがあってか、次第にクガイの出血も少なくなりとりあえずの危機は脱したといえる。ただ、通常の人間なら即座に入院間違いなしの重傷であり絶対安静とされる状態ではあるのだが。

 

「っ……ふう……。すいやせんね。ちょっと取り乱しましたわ……」

「いいのよ。それにしてもその左手。かなり酷いわ。なにがあったの?」

「んー。あのウリエって魔術師にやられたんでさ。まさかあっしの古銭を撥ね返してくるとは思いませんでしたわ。まるで金メッキされたみたいになっていやしたが、逆にそうでなければあっしは腐り落ちていたでしょうね」

 クガイの左手に包帯を巻きながらエレナは先ほどウリエが話した内容を思い出す。

「マギシェス・ゴルドは有毒、クガイはあと数日で命を落とす……」

 エレナは首を左右に振り、纏まらない考えを振り払う。今は目の前の事に集中するしかないわ。

 

「それでここに来たってのはアーチャー陣営ってことで間違いないんで?」

「ええ、どうやらあたしの作った簡易オートマタじゃ足止めにもならなかったみたいね」

 サーヴァントであるアーラシュが同行しているのだ。簡易オートマタの2,3体で倒せるなどとはエレナも思っていない。

 

「いずれにせよ急いで聖杯を手に入れないといけないのは間違いないし、向こうから来てくれるって言うなら都合いいじゃありやせんか。ぐほっ」

 そう言ってクガイは大きく咳き込んだ。口元からは血がしたたり落ちる。

 それはそうなのだけれど……。エレナはクガイの様子を見て「本来なら一度態勢を整えたいところなのだけどね」と心の中で呟いた。

 

「わかったわ。ではもう一度あなたとマナ同調しておくわ。言っておくけどかなり危険な行為よ? とりあえず動けるようにはなるけどおそらく反動であなたは明日一日意識を失う事になるわ。いえ、下手するとそのまま死んでしまうかもしれない。それでもよくって?」

 

「望むところでさ。今ここでやられちまったらそんな心配も出来ねーんですから」

「わかったわ。あなたのその決断の速さは嫌いじゃなくってよ。恐らく左手は使い物にならないと思う……。連戦になるけど、しっかりね」

 エレナなりの精一杯の励ましにクガイはちょっと困ったような照れたような、しかしどこか嬉しそうな笑顔を向けた。

 

 

 

 ジン、ユェ、アーラシュは遊園地の中を進んでいた。

「まさかまたここに来ることになるとはな……」

 ジンとユェはジャンマリオのサーヴァントであるワルキューレ・ヒルドからクガイたちが再びこの遊園地に戻ってきたという情報を得ていたのだ。

 

 時間は少し戻る。

 ワルキューレ・ヒルドはジャンマリオより冬木教会にいる言峰綺礼の動向を見張るように指示を与えられていた。

 ランサー陣営とアーチャー陣営は不戦と情報共有を行うという事で同盟関係を結んでいる。ジャンマリオの当面の目的はあくまで言峰綺礼の抹殺であるのだが、情報を交換できるだけでも大きなメリットをお互いにもたらしていたといえる。

 

 そんな単独行動中のヒルドは冬木教会に向け移動中に大きな魔力爆発の波動を感じ取った。

「近くでサーヴァント同士が戦っている……? 命令は冬木教会の監視なんだけどな……」

 そう思いながらも聖杯戦争における戦いは如何に相手の情報を多く持っているかという事が生死を分ける。それを理解していないヒルドではない。

 

「見に行くべきよね……」

 そう呟くとヒルドは進路を変更し、本人的にはほんの少しだけの修正をして魔力爆発のあった廃工場に向け飛んでいった。

 

 ヒルドがその近くに来た時には既にクガイたちは撤退した後であったのだが、魔力の残滓が色濃く残っていたため後を追うのは難しい事ではなかった。

 かなりの上空を飛翔しながらの追跡であるため対象に発見される可能性は低かったが、それでも彼女は慎重にその後を追いかけていった。

 

 やがてヒルドは重傷を負いキャスターに介助され遊園地に入っていくクガイを発見した。

 ワルキューレたちはクガイとキャスターの姿を直接見た事があるわけではなかったが、アーラシュより大体の特徴を聞いている。垂れ流される魔力とその風貌で彼女は彼らが間違いなくキャスター陣営であると判断した。

 

「これは……怪我をしているようね。ふふふ。好感度アップのチャーンス! アーラシュさんに知らせねば!」

 乙女脳のヒルドはすっかりジャンマリオの命令などどこかに飛んでしまい、すぐにアーラシュたちの拠点としている洋館に急行した。

 

 本来ならまず自らのマスターであるジャンマリオに伝えるべき案件であるのだが、彼女はアーラシュが喜んでくれるかと思うとマスターに伝えるのはその後でもよいと判断したのだ。

 自らの判断で動くことが少ないワルキューレとしては極めて異例な事だったといえるだろう。これがオルトリンデやスルーズであったなら間違いなくマスターの命令を最優先し、さっさと冬木教会に向かっていたに違いなかった。

 

 ヒルドはアーラシュに知らせた後自分の使命をようやく思い出し冬木教会に戻るのだった。

 アーラシュの「貴重な情報感謝する。このお返しは必ずさせてもらうよ」という言葉を思い出し「えへへ、お返しって何かな。これはいよいよアーラシュさんにデートに誘われちゃうかな。聖杯戦争中だけど、半日くらいならマスターも大目に見てくれるよね、きっと」などと呟きながら。

 

 

 

「ち、またこいつらかよ!」

 連続的に発せられる爆音と共に襲い掛かる機械人形に向けてジンとユェは発砲を繰り返す。

 彼らはすでに左腕のガトリングガンを解放していた。回転式の多砲身が軽快な音を立て廻り始めると毎分500発に及ぶ魔弾が撃ち出される。

 

 二人の左腕には可変式のガトリングガンが組み込まれていた。そのため彼らの左腕と鎖骨、さらにいくつかの骨格はチタンを中心とした金属に取り換えられている。何処にそんな大きな銃器が内蔵されていたのかと疑うような武骨なガトリングガンを二人は軽々と振り回し襲い掛かるオートマタに乱射する。

 

 二人の凄まじい火力の前にオートマタはまた一体破壊され地に転がる。

「お前らすさまじいな。その火力だとサーヴァントですら上手くすりゃ討ち取れるぞ」

「皮肉なものです。ジアンユーの作った装備だと思うと素直には喜べないのですが今は役に立ちます」

 

 アーラシュはそれでもこの二人が人間という器からはみ出しているという事実に内心苦い思いをしながらもそれは口にしなかった。

「アーラシュ、こっちであっていますか?」

 ユェの問いにアーラシュは一度精神を集中すると頷いた。

「ああ、間違いない。あのキャスターの魔力を感じる」

 そうしてユェに小さく囁く。

「わかっているとは思うが、絶対にあの宝具は使わせるな」

 

 そして3人はクガイとキャスターが待ち構えるかつては資材置き場であっただろう広場に到着する。大きな月が二人のシルエットをはっきりと浮かび上がらせていた。

「お待ちしておりましたぜ。色々邪魔が入りそうなんで速攻でやらせてもらいやすか」

 そういうや否やクガイはユェに向かってナイフを投擲する。

 

「いきなりご挨拶ね」

 ユェはあっさりとナイフを木の葉で撃ち落とす。

「クガイ! お前の命運もここまでだ! 何を思って聖杯戦争に出てきやがったのかは知らねぇが俺達にとっちゃお前は存在してはいけない人間なんだ!」

 ジンはそう言ってガトリングガンをクガイに向けた。

 

「く、くはははは! お前確かジンて言ったな? ジアンユーの手下が良く吠える。奴の自慢の玩具らしいぜ!」

 クガイの挑発にあっさりと激高するジン。

「やかましい! おまえこそジアンユーの犬じゃねーか! お前が死んだところで困る奴も悲しむ奴もいねぇ! ここで死ね!」

 

「ちょっと今のは酷すぎないかしら! あなたたちにどんな事情があるのか知らないけど、こっちの事情だってそっちには分からないでしょう。なのにそんな事よく言えたわよね!」

 エレナは今のジンの言葉を聞いて黙っていられなかった。そこで言葉を切りエレナはアーラシュを見る。

「アーチャー! あなたこの子たちに何を教えてきたの?」

 

「あー。うん確かに事情はそれぞれだ。俺から見ればなんであんたがこんな男のことをそこまで買っているのか、さっぱり理解できないんだが、きっとそっちにはそっちの事情があるんだろうさ。俺と同じであんたにもこのマスターに仕える義ってものがあるんだろ。その姿勢は嫌いじゃないぜ。キャスター、あんた良い奴なんだな。こういう状況じゃなきゃきっと仲良くやれたかもな」

「ちょ! アーチャー!? 何を言ってるんだ?」

 アーラシュが敵キャスターの言葉に同意を示したことにジンは不満を表す。

「事情はお互いさまってことだ。しかしまあやることは変わらんよ」

 

「そうね。クガイ! あなたの命、此処でもらい受けるわ!」

 そういうや否やユェはガトリングガンの砲身を回転させ弾丸を撒き散らせた。

 

 クガイに向けて殺到した弾丸はエレナの腕の一振りにより発生した電撃にすべて撃ち落とされる。

「そんじゃこっちからも行きますぜ!」

 クガイは右手に大型のナイフを持ちユェに切り込む。

 

 ここにアーチャー陣営とキャスター陣営の第2回戦が開始された。

 

 

 




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