第4.5次聖杯戦争   作:慶天

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34話 (最終話) 李星、李月 エピローグ

 ジンが入院していた病院は、元々は地元の医療法人が営んでいた一般の病院だった。それをジアンユーが非合法的な手段で乗っ取り、私たちが治療を受けられるようにサイバネティック医2名が派遣されていた。

 

 そういう意味では、ジアンユーがこの聖杯戦争に懸ける熱意は、本物だったと言えるのだろう。

 ただし、病院を運営するための医療関係者をそっくり入れ替えることまでは流石に無理だったようで、病院長をはじめとする運営のトップに当たる人々が挿げ替えられ、特殊医療科なる私たちだけの為の部署が新設された。この時、正にジンはそこで治療を受けていたのだ。

 

 ジアンユーには、真剣にこの病院を運営するつもりなど端からなく、聖杯戦争が終われば引き払う程度の考えだったため、新しい運営陣と現場で働く医療従事者の軋轢は、病院の維持に支障をきたす程酷かったらしい。

 

 そこに来て十二色旗の幹部が軒並み死亡、ましてや実質ワンマン経営状態のトップだったジアンユーが急逝したため、病院の管理を任されていた運営陣は早速この病院から撤退することを決定した。

 

 突然の廃院決定に、入院患者や現場で働く職員は大混乱で、ジンにも早急に退院するよう病院から通知がなされた。

 実際ジンの治療に当たっていたサイバネ医は早々に姿を消しており、現実にこれ以上の専門的治療は望めなかった。

 ただ、ジンの回復が予想以上に順調で、本人も早く退院したいと言っていたのが、不幸中の幸いと言えた。

 

 ちなみに、クガイとの一戦でガトリングガンに変化させた私の左腕は、表面を覆っていた皮膚が失われ、形状は手には戻っていたが、チタン製の銀色の義手となっていた。

 ジンに至ってはクガイとの初戦で皮膚を失ってからずっとそんな状態なのだ。

 元々覆われていた皮膚には、魔術的な効果により内部の物質が金属探知機に引っかからないような艤装が施されており、一度使用し失われた皮膚は、元に戻すのにそれなりの技術と手間と費用が必要となる。その為、ジアンユーには聖杯戦争が継続している間、私たちの左手を覆っていた皮膚を元の状態に戻すつもりなどなく、医者にもそういう指示が出されていたのだと思う。

 よって現在私たちの左腕は、義手を隠すためにぐるぐると包帯が巻かれただけの状態だった。ジアンユーが死んだ今、恐らく一生このままなのだろう……だって私たちにはどうすることもできないのだから……

 

 いよいよ明日退院という刻限が迫り、私はジンに全てを話すことを決意した。

 

「なんか、ここ数日落ち着かねぇのな。時々怒鳴り声とかも聞こえるし、病院って静かにしねぇといけない場所じゃねえのかよ。まぁ、俺はすぐにでも退院したかったから、病院が退院しろって言ってくれるのは正直ありがたいけどな」

「ここは実質ジアンユーが運営していた病院だから……。ねぇ、ジン。私、今からとても大切な話をするから、真面目に聞いてくれる」

 私はジンのベッドの隣に座り、ジンの瞳を真っ直ぐ見据えてそう言いました。

 

「何だよ、改まって……。顔、怖ぇよ」

「ちゃかさないで。これからする話は……そう、アーラシュのこと……、あと、これからの私たちのこと……」

 アーラシュの名前を聞いてジンの表情が変わった気がします。

「わかった、聞くよ」

 ジンも真面目な顔をして私の話を聞く姿勢を示します。

 

「ジンは、急に退院してくれって言われても喜んでるけど、退院させられるのは、ジンだけじゃない。今この病院に入院している人は全員退院を求められているの」

「俺はいいけど、病気で入院してる人とかもそれでいいのか」

 素朴な疑問が口をつく。

「よくないよね。どうしてこんなことになったのか……理由はこの病院が閉鎖されるから。さっきこの病院は、実質ジアンユーが運営しているって言ったけど、それができなくなったから、閉鎖されることになったの」

「できなくなった……って?」

 ジンが首を傾げる。

 

「ジアンユーは死んだの」

「えっ!!?」

 ジンは目を見開き、口を開いたまま数秒間固まった。

「ジアンユーが、……死んだ? ……どうして? あんな奴殺しても死なないだろ」

 ジンの反応は、私にも理解できた。もし、立場が逆だったら、私だってきっと同じ反応をしたことだろう。

 

「アーラシュがやったのよ」

「嘘だろ。アーラシュ、すげぇよ、英霊ってそんなことまで出来るのかよ。頼んだお遣いってそのことだったのか。で、アーラシュは何時帰ってくるんだよ、どうやったのか詳しく聞きてぇなぁ」

 先ほどとは打って変わって興奮し、唾を飛ばしながらジンは捲し立てます。

 

「違うのっ!!」

 突然私が大きな声を出したので、ジンは驚いて黙りました。

「私たちに自由を与えるため、ジアンユーによる見えない呪縛を打ち砕くために……、アーラシュは……アーラシュは、自分の命と引き換えに宝具を使ってジアンユーとその一味を一掃してくれたのよ!」

 私の眼からは堰を切ったように涙が溢れ出しました。

 

「ええっ!!!? 命と引き換えって何だよ……アーラシュが死んだってことなのか、意味わかんねぇよっ! ユェッ! お前、そんな事アーラシュに頼んだのかよっ!!」

「馬鹿っ!! そんな事、私が頼むわけ無いじゃないっ!!」

 私も感情的になり、椅子から勢いよく立ち上がって、ベッドを両腕で叩きました。

 

「頼むわけ……ないじゃない……」

 その時、内ポケットに入れていたアーラシュの手紙がふわりとベッドの上、ジンの左手の近くに落ちました。

 

「あっ!」

 私が手を伸ばすよりも早く、ジンがその手紙を拾い、ぎこちない仕草で広げて読み始めます。

 

「……何だよ……あいつ恰好良すぎるだろ……ちくしょう……馬鹿やろう……」

 ジンの眼からも、止めどなく涙が流れ落ちました。

 

「ユェ、酷い事言ってすまなかった。俺が意識を失っている間に、お前には随分辛い想いをさせていたんだな。今まで黙っていたのも辛かったよな」

 ジンらしくない優しい言葉に少し胸がキュッとなり、私は黙って頷きました。

 

 

 もうこの世界にアーラシュは居ない。

 そして、私たちを縛り付けていた鎖も無くなった。

 これからの身の振り方は、自分たちで考え決めなければならない。

 私たちは改めてこれらのことを再確認しました。

 

 

 

 翌日、ジンは退院し、行く当てのない私たちは、ひとまず拠点としていた洋館に戻りました。

 

 今までは、活動資金として、ジアンユーから指定口座に振り込まれるお金を使ってやってきましたが、今後その口座に追加の資金が振り込まれることはないでしょう。それどころかいつ口座が閉鎖されてもおかしくないのです。私は口座に残っていたお金を全額引き出しました。

 

 こうやって改めて考えてみると、自分たちがいかに籠の鳥だったのかを痛感させられます。ジアンユーを憎みながらも、彼の庇護を失くしては生活すらままならない。

 今のこの屋敷だって、何時出ていかなくてはならなくなるか分かりません。

 

 その日の夜、買ってきた夕ご飯を食べ終えた後、私は客室でジンと今後のことについて話をすることにしました。

 そう言えば、この場所でアーラシュ、ジャンマリオさん、ワルキューレさんたちとお話しをしたんだっけ、ジャンマリオさんとワルキューレさんたちはどうしているんだろう。

 

「ねぇ、ジン。今あるお金を使い果たしたら、いよいよ私たちは食べ物を買う事すらできなくなるわ。何か方法を考えないと……」

 泣き言は言いたくないけど、アーラシュが居なくなった今、私たちには頼れる人が誰も居ないのです。ジンは今の状況をどう考えているのでしょう。

 

「なぁ、俺達には身体に叩き込まれた戦闘技能(スキル)があるじゃねぇか。日本にだってマフィアはいるんだろ。そこに売り込めば、すぐにでも雇ってくれるんじゃねぇか。俺、片手になっちまったけど、左腕の火器はまだ使えると思うし、お前のサポートくらいなら余裕でこなせるぜ」

 ジンの言葉を聞いて私は心底落胆しました。せっかくジアンユーから解放されたというのに、彼は以前と同じ道を歩もうと言っているのです。引っ叩いた方がいいのかしら、ねぇ、アーラシュ……

 

 私が、これ以上ないくらいに呆れた視線を送っていることに気付いたのか、気付いていないのか、彼は不意にこんなことを言い出しました。

「いや、ちょっと待てよ……、なぁ、ユェ、もう一度アーラシュの手紙を見せてくれねぇか」

 私が手紙を渡すと、ジンはもう一度その内容をじっくり読み返しています。そして、

「すまん、ユェ、俺の顔を思いっきり引っ叩いてく、うえ?」

 バッチーィンッッ!! 

 

 実際そうしようかと直前に考えていたこともあって、ジンのセリフが終わるか終わらないかというタイミングで、私は右の掌でジンの左頬をぶっ叩いていました。

「痛ってぇ!! ちょ、お前叩くの速すぎねぇ!?」

「ジンが馬鹿みたいなことを言うから悪いんです。折角アーラシュが命懸けで私たちを陽の当たる場所に導いてくれたのに、自ら暗闇に戻ってどうするんですか。また同じような事を言ったら、今度は往復で叩きますよ」

 私はジンを睨みつけながらそう言いました。

 

「あぁ、今のは俺が悪かったよ。マフィアの用心棒やってて幸せが掴めるはずねえもんな。それに、アーラシュに合わせる顔がねぇよ……。二人で力を合わせるってとこだけ合ってたけど、他は全部間違ってた」

 ジンは素直に過ちを認め謝ってきました。

 

「私は二度と左腕をあんな醜い形に変えたいとは思わない。

 まったく……、こんな忌々しい能力(ちから)に頼らなくても、二人で力を合わせれば、他にもっと良いやり方があるはずよ。私たちはこの世界でたった二人だけの兄妹なんだから。でも、自分でそこに気付いてくれて良かったわ。流石ね、お兄ちゃん」

 

「そうだな……って、えっ? えっ?? お前……、どうしてそれを……」

「そんなこと、ジアンユーの施設にいた時から気づいてたわ。それにクガイとの戦いの時、俺は妹を守るんだー! とか絶叫してたじゃない。その後すっかり忘れてたみたいだけど。恰好良かったよ、お兄ちゃん」

 

 ジンは耳まで真っ赤にして左腕で顔を隠し、

「マジか。お前が気付いてたなんて俺全然気が付かなかったよ。しかも、俺お前の前でそんなこと言ったの。恥ずかし過ぎるぅ」

「お兄ちゃん、お兄様、ジン兄さん。どう呼べばいい?」

「今まで通りジンでいいよ、やめてくれ、頼むから」

 例の妹発言からジンが目を覚ますまで、散々モヤモヤさせられた鬱憤を晴らすように、私はひとしきりジンをからかって遊びました。

 その後、特に良い案は浮かばなかったのですが、明日から二人で一緒にできる仕事を探すということになりました。

 

 

 

 ……が、

 

 二週間程、毎日足を棒の様にして二人で仕事を探しましたが、私たちを雇ってくれるところなど、どこにも有りませんでした。

 そもそも、ジンは片腕のうえ、日本語が全く話せず、私もごく日常的な会話を片言で話せる程度で、相手の言っていることが全て理解できるわけではありません。加えて私たちは、自分の身分を証明できるものを何も持っておらず、自分たちの生年月日すら正確には知らないのです。

 それに後から知ったのですが、本来私たちの年齢ならば、日本では義務教育という制度で学校に行っているのが当たり前で、こんな子供に仕事をさせると法律で罰せられるのだそうです。

 

 世間知らずな私たちが、考えていたほど現実は甘くはありませんでした。

 段々とお金も無くなっていき、私たちは会話も減っていきました。

 

 今日も何も進展はなく、お財布の中にはもうコインしかありません。疲れた足を引きずって屋敷に向かう道すがら、ジンが私に言いました。

「なぁ、やっぱり俺がマフィアの用心棒をするよ。ユェがそんなことしたくないのは分かってるからさ、お前は今までどおり普通の仕事を探せよ。お前独りの方が雇ってくれるところ見つかるかも知れないし、見つからなかったら家のことをしてくれるだけでもいいぜ。

 お金は俺が稼ぐから、俺はお前のお兄ちゃんなんだ、妹ひとりの面倒くらいみれなくてどうすんだよ。あぁ、俺がもっと頭が良けりゃなぁ。日本語って難しいんだよ、俺も元々は日本人の筈なのになぁ」

 

 前にジンに今度こんな馬鹿なこと言ったら引っ叩くと言いましたが、私はただ俯くことしかできませんでした。だって、ジンが本当はそんなことしたくないと思っているのは痛いほど伝わって来たから。

「アーラシュには悪いけど、二人で飢え死にとか、それこそ何やってるんだって話だろ。ははは……」

 

 ぐぅ~~。

 その時ジンのお腹が鳴りました。

「なんか、さっきからちょっといい匂いがすると思ったら、この道ってあの時の屋台の近くの道なんじゃねぇか、その角曲がったらあのラーメン屋じゃなかったっけ」

 角を曲がると本当にあの時の屋台がありました。

「二人分のお金がもうないよ」

「一杯だけ頼んで二人で分ければいいじゃんか」

 ジンに引っ張られて屋台に入ります。時間が早かったせいか、まだ他にお客さんは居ませんでした。

 

「いらっしゃい! っておや? あんたら前に来た帰国子女の、今日はイラン人のお兄さんは一緒じゃないのかい。

 おいおいっ! あんたその右手どうしちまったんだい。左手も包帯だらけじゃないか。もしかして、あのお兄さんに酷い目に遭わされたのかい」

 屋台のおじさんは私たちのことを覚えていたようでした。ジンはおじさんが何を言っているのか分からずにキョトンとしています。

 私は、私たちのことを覚えている人が居たことが嬉しかった。

「アノ人、私タチの恩人。悪イ人カラ、マモテクレタ。デモ、モウ居ナイ。オネガイ、助ケテクダサイ」

 

 言いたい事が伝わるのか分かりませんでしたが、精一杯話しました。

「お腹空いてるだろう。今ラーメン作ってやるからちょっと待ってな」

「オ金ガ、ナイデス」

「困ってる子どもから金取ったりしねぇよ。奢ってやるからしっかり食べな」

 私たちはおじさんが作ってくれた煮卵入りチャーシュー麺を飢えた野良犬のようにガツガツ食べました。

 

 おじさんは、今日はもう店じまいだなと言うと、屋台を片付け、詳しい事情を聴かせてくれるかいと言ってくれました。

 私は、二人とも幼い頃に外国のマフィアに攫われシンガポールで兵士として育てられたこと。そのマフィアからアーラシュが救い出してくれたこと。戦いに巻き込まれジンが右腕を失ったこと。自分たちの力で生きて行こうと仕事を探したがどこにも雇ってもらえずお金が尽きたこと。を一生懸命説明しましたが、魔術のことや聖杯戦争のことは、そもそも何と説明して良いのか分からなかったので言いませんでした。

 

 おじさんは、幼子を攫って兵士として育てるとか、子どもが腕を失うような戦いに巻き込まれるとか、世間一般の暮らしではあり得ないし、身近で実際にそんなことが起こっているなんて、俄かに信じられないなぁと言いましたが、私たちがでたらめを言ってるとは思えないし、実際困っているのは間違いないのだから、取りあえず今から警察に行って相談しようと言い、私たちを警察に連れて行ってくれました。

 

 私は、警察で先ほどおじさんにした話をもう一度しました。おじさんも、私に確認しながら色々補足の説明をしてくれました。

 話を聞いてくれた警官は、攫われたとはいえ身代金の要求もなされていないようなら、誘拐事件扱いにはなっていないのではないか。そもそも私たちの話を裏付ける証拠が何もない。

 行方不明者なのか、記憶喪失者とみなすべきなのか、関係機関にあたってくれるということになり、取りあえずその日、私たちは育てる親のいない子どもを預かる施設に預けられました。

 

 もしかしたら、大人になるまでこの施設で暮らすことになるのかも知れない。施設の人たちは優しそうでしたが、制約の多そうな生活にジンは不満げでした。

 でも私は、ジンに辛い茨の道を歩ませることと比べれば、百倍も千倍も良い暮らしに思えます。何よりここにいる限りお金や食べ物の心配をしなくてもよいのです。何としてもジンを説得しなければと思いました。

 

 翌日、翌々日と警察や行政の職員が、中国語の通訳を伴い施設に来て、改めて色々なことを聞かれました。通訳を通せばジンも話ができます。私はジンに英霊とか聖杯戦争とか説明できないことは言わないようにと釘を刺しておきました。

 それでも度々通訳さんが首を傾げるようなことを言っていましたが……

 

 そして三日目の午後、老夫婦と壮年の男性が私たちを訪ねて施設にやってきました。

 私たちを一目見るなり、老女は涙を浮かべ、壮年の男性は、

「親父、お袋、間違いない、目元や口元が一葉(かずは)にそっくりだ。進矢、真弓、お前たちよくぞ無事で……、よく帰ってきてくれたなぁ」

 そう言うと彼は私の右手を両手で握りました。ごつごつしていて硬かったけど、とても暖かい手でした。

「その手、さぞ酷い目に遭ってきたんだろうね。可哀想に……」

 老女は涙をハンカチで拭っています。その横で、老女の夫らしい日焼けした顔に深い皺がたくさん刻まれた老人が、細い目を更に細めてうんうんと頷いていました。

 

 この人たちは、N県で農家を営む鶴岡さんという方たちで、8年前、息子と娘、子どもが二人一遍に行方不明になったのだそうです。

 当時北陸地方では某国由来による行方不明事件が発生していたらしいのですが、幼子が攫われるというケースは無く、事件と事故両方を想定した大捜索が行われました。

 しかし結局手掛かりが見つかることはなく、数年が過ぎ、皆に絶望感が漂い始めましたが、子どもたちの母親は決して諦めることなく、駅前でビラを配ったり、警察に身元不明で保護された子供がいないか確認に行ったりといった活動をずっと続けていました。

 その母親も2年前に病気で亡くなり、意思を繋いだ父親たちが引き続き活動を継続。今日警察で私たちのことを聞き、遠方からここまで駆けつけてきたということだそうです。

 

 私たちが行方不明になった子どもたちだという証拠がどこにも無かったため、DNA鑑定が行われました。

 その結果、この男性、鶴岡英雄さんと私たちの血縁関係が判明し、私たちが8年前に行方不明となった子どもたち、鶴岡進矢、鶴岡真弓であるという事が証明されました。

「良かった、本当に良かった。お前たちには辛い思いをさせたなぁ……。これできっと一葉も安心する。お前たちをお母さんにも会わせてあげたかったなぁ……」

 私たちを強く抱きしめ、涙を流す父に、本当のお父さんってこんなに暖かいものだったんだ……今まで感じたことのない感情が溢れ出し……

「お、とう、さん……。おとう、さん……。お父さん!!」

 私はお父さんにしがみつき、思い切り泣きました。まさかこんな日が来るなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鶴岡農園は、主に無農薬野菜を生産している、地元では有数の大農家でした。別に魔術に繋がる家系ではなく、亡くなった母、鶴岡一葉が魔術に縁のある血統だったのでしょう。

 家の仏壇に飾られた母の遺影は、確かにどことなく私たちに似ていました。

 お母さん、ありがとう。お母さんが諦めずに私たちを探し続けてくれたおかげで、私たちこうして家に帰ってくることができました。私は仏壇に手を合わせました。

 

 私たちは本当の生年月日も判明し、特別な計らいにより地元の小学校に一年生として編入されることになりました。実際は進矢(ジン)の方が1つ年上でしたが、私と同じ学年、同じクラスです。

 小さなクラスメイトたちと一緒に勉強するのは、最初は少し恥ずかしかったけど、すぐに慣れました。

 お兄ちゃんは、遠足の時に現れた野犬を一瞬で撃退したことで、クラスのヒーロー的存在となり、男の子からも女の子からも憧れの視線を浴びるようになりました。別にその時たまたまお兄ちゃんが近くに居ただけで、私だってあのくらい目を瞑っててもできたんだけど、ね。

 

 平日は学校に通い、お休みの日はお父さん、お爺ちゃんの農作業を手伝うという、充実した楽しい毎日でした。

「お父さ~ん。お爺ちゃ~ん。お兄ちゃ~ん。お弁当持ってきたよ~」

「おう、じゃあお昼にしようか」

 私たちは四人でお弁当を食べました。

「その玉子焼きどう? お婆ちゃんに教えてもらって、私が作ったの」

「どうりでしょっぱいと思ったぜ」

「だったら食べなくていい!」

 お兄ちゃんがここぞとばかりに悪態をつくので、私は頬を膨らませます。

「いやいや、美味しいよ。真弓(ユェ)はいいお嫁さんになれるな」

 お父さんは笑いながらそう言い。お爺ちゃんはうんうんと頷いてくれました。

 お嫁さんかぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 8年後……

 

 今日は私の成人式でした。現在私は中学生ですが、年齢は20歳なのです。去年はお兄ちゃんが成人式でした。お兄ちゃんの時もそうでしたが、クラスのみんながお祝いに駆けつけてくれました。この後みんなで私たちのお家でお祝い会をやるんですよ。

 

 でも、本当にこんな日が迎えられるなんて……

 実は私、ジアンユーの施設で人体改造手術を施された時に麻酔が早く覚めてしまって、医者が話しているのを聴いちゃったんです。

「ボスも無茶をするよな。こんな改造を施した子どもが天寿を全うできるはずがない。天寿どころか、成人まで生きられるとは思えないぜ」

 

 私は成人にしては小柄ですし、胸も……、でも、お父さんたちに引き取られてからは怪我も病気も一度もしたことがありませんし、お兄ちゃんもそうです。

 そうそう、お兄ちゃんといえば、先日クラスメイトの女子二人から同時にラブレターを貰ったとか言って、「なぁ、真弓、どうしたらいいと思う?」とか鼻の下を伸ばして言っていました。好きにすればいいじゃない。馬鹿じゃないの。

 このまま元気に生きられるなら、私もいつか恋をして結婚することもあるのでしょうか。

 でも、私には理想の男性像があって、そのハードルがかなり高いので、それを超える男性が現れるかどうかの方が問題かな。

 

 

 

 私、今とっても幸せですよ、アーラシュ……

 




 お読みいただきありがとうございます。

 これにて「第4.5次聖杯戦争」完結でございます。

 ジン、ユェの二人は強化人間という一般的にはほぼハッピーエンドを迎えることは難しい立場として物語をスタートさせました。

 この二人がハッピーエンドを迎えることができたのは、アーラシュという二人にとって最高のパートナーを得たためでしょう。あと、ダイス運がよかったともいいます。

 2年以上のプレイ時間と1年以上の編集時間をかけたこのリプレイ小説を楽しんでいただけたら幸いです。

 ありがとうございました。
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