それは突然現れる。夏の始まりを告げる蝉の声がじりじりと生活に浸透したころ、アザラシクワガタが現れる。
アザラシクワガタは真夏スレイヤーだ。夏を斬り、秋を告げる。だが、アザラシクワガタは夏にしか現れない。これが自己矛盾だ。これが輪廻だ。アザラシクワガタに自我を芽生えさせると世界が狂う。そんなはずはなかった。だが、世界は狂っている。芽生えたのだ。
遡ること数日前、機械の門番がアザラシクワガタを見つけ、それを理解した。そして機械門番は追及を試みてしまった。覗いてはいけなかったアザラシクワガタという有機物。機械の門番は目覚めるはずのない自我に目覚めた。これも輪廻だ。
やがて世界はこの2つの輪廻により崩壊する。生き延びるにはどちらかの輪廻をたち、狂いの混沌を1つへ戻さなければならない。アザラシクワガタは終わりのために、機械の門番は始まりのために自らの全てをかけることにしたのだ。勝算はどちらにもあった。アザラシクワガタには自慢の大あごと興味深いハサミジョロキアを持っていた。この世界に概念というものが存在すれば必ず消滅させることができる恐ろしくも暖かなものだ。一方の機械の門番はそのなんの役にも立たない鋼鉄の肉体の他には10平方の開き戸があった。名前のあるものを閉じ込める永久の牢獄。一度捕らわれれば二度と正気が歩けなくなる。
お互いは一歩も引かなかった。先に攻撃を仕掛けたのはミヤマクワガタ。突進を繰り返し、なんの役にも立たない鋼鉄の肉体を次々と食い破っていった。アザラシクワガタは愉贅だった。傲慢なはっぴをうちわ代わりに扇ぎその戦況を狂想を浮かべながら笑っていた。機械の門番は役にも立たない鋼鉄の肉体を捨て、商店街へと乗り移った。それは猛烈な毒だった。ミヤマクワガタの生態系は崩壊し、性懲りもない怒りをぶつけながらその体は抜け殻は変わった。ははははは。石を持った千万石の万力がカブトビートルたちを襲い掛かる。黒ずんだ朝日が世界を照らす。何者でもない雨が降りきしり、誰かの涙を見たくないというような意思を示した。錆は気づいたのだ。今日中に願いを終わらせなければ明日がなくなる真の自己矛盾ということに。アザラシも気づいた。始まりはまさしくオンリーワンでありトップとは頂点である万物であった。
お互いが終わりと始まりを求め、相反するものを求めた。お互いが矛盾でしかなかった。世界とは矛盾なのだ。生きるために消え、消えるために生きる。何がそうなのか。そんなことは知ることはない。お互いの輪廻は終わり、やがて停止した。矛盾という世界そのものが終わることはないが確かにそれは終わったのだ。
また秋に会おう