My Friends   作:みいの

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小依視点


Prologue Kiss

 

 白い日光が、閉じたカーテンの隙間から漏れ出ている。真っ暗な瞼の裏に入ってくる光にこじ開けられるようにして、私はゆっくりと目を開いた。

 

「少し、起きるの早すぎたかしら」

 

 今日は日曜日。ベットのそばの目覚まし時計に目を向けると、針はまだ7時前を指している。その隣に居座っている小人の人形も、うつらうつらとしているように見える。普段は8時過ぎに起きて、朝の支度を整える。そして、かのの家に遊びに行くのが休日お決まりのルーティン。

 

 お休みの日に早起きしても、つまらないわね。特に意味もなく寝返りを打つと、私の目の前に可愛らしいかのの寝顔が現れた。すぅすぅと穏やかな寝息を立てて、幸せそうに眠る姿は幼稚園の頃から変わってない。私の右手をぎゅっと握りしめてベッドで微睡んでるかのを、教室のみんなは知らないんでしょうね。

 

 小さな頃からやっている私とかののお泊り会。用事で家族が居ないときはもちろん、特になにもない日でもどちらかの家で一緒に眠る。今回は私の家で、日付が変わる直前までお話にのめり込んでいた。話してる途中で今日こそはと、コーヒー(もちろん砂糖なしのブラック)に挑戦したけれど、やっぱり飲み切ることは叶わなかった。

 

 大人への道のりは、まだまだ遠いみたい。

 

 それでも、前よりは少しだけ多く飲めている気がした。もしかして、そのせいで早く起きちゃったのかしら。

  

「よりちゃん……」

 

 もしそうだとしたら、偶にはコーヒーに感謝してもいいわね。こうしてまじまじと、気の抜けたかのを見れるんだから。私の名前を呼んで、離さないと言うように右手を握りしめてくるかの。ほっぺたも緩んで、今日はいつにもまして甘えん坊みたい。手のひらが、少しこそばゆい。

 

 普段はなんでもできる副学級委員長。もちろん、本当にかのはなんでもできるわけではないし、私もそれは分かってる。それでもみんなから頼られるのを見ていると、ずるいって思ってしまう。私の気分が悪くなるとかのの顔に寂しさが少し交じって、またやってしまったと後悔してしまう。かのは強くなったけど弱いままなんだから、私が守ってあげないといけないのに。

 

「本当に、かのは甘えん坊よね」

 

 それにしても、かのは一向に目を空けないわね。さっきは私の名前を呼んでいたけどほとんど身じろぎもしていない。薄暗い部屋の中でお布団に包まったかのと私。世界でたった二人しかいないような気分になる。

 

 そういえば一緒にお昼寝するとき、よくお布団の中で読み聞かせしてたっけ。

 

 寂しがりやで泣き虫だったかのは、私といてもなかなか寝付けないことがあった。そんなときに、私は覚えた物語を語って聞かせてた。かのは私が話す物語が好きで、それを聞いているとよく眠ることができた。その頃の私は、かのにたくさんお話を聞かせてあげたくてこっそり色んな童話をお母さんと読んでいたのよね。

 

「んぅ……」

 

 つい、いたずら心が出てしまった。柔らかそうなかののほっぺを指でつつく。ふに、とホントに音がなっているみたいな感触はわたあめみたいで癖になりそう。つつかれた本人は、ちょっと嫌がるようにやっと体を動かして、そっぽを向いたまま動かなくなった。

 

「かの?」

 

 小声で名前を呼んでみても全然反応が返ってこない。眠っているというよりも死んだフリみたい。まるで、眠るように死んだお姫様のようね。

 

 そういえば、一番かのに聞かせてきた物語にもそんなシーンがあった。クライマックスとも言える場面を語るとき、かのは決まっておねだりをしてきたっけ。

 

 その時だけは、かのは眠れるお姫様、私は運命の王子様で――二人だけの世界を演じる。

 

「……ふぅん?」

 

 なるほど、最初からこうすればよかったのね。そっぽを向いてもわたしの手を離さない、意外に頑固なお姫様に私はささやく。

 

「そろそろ、眠れるお姫様を起こしてあげなきゃね?」

 

 体を起こして、背けているかのの顔を覗き込む。少し身じろいだように見えたが、私にとってはもう些細なことだった。

 

 目の前にある柔らかい果実をついばむようにして、かのの唇を奪った。ただ重ね合わせるだけの、子供のようなキス。それでも、重ねた唇は甘いお菓子のように思えてならない。唇から直接流れ込んでくる感覚は、まるで電流みたい。ピリピリとした甘さが背中を辿って、全身を巡っている。

 

 もう少し、このままでいたいけど。そろそろやめないとね。名残惜しさを感じながら、顔を離していく。

 

 すると、今まで開かれなかったまぶたがゆっくりと開いて――細く入ってきた光に、目を細めた。

 

「目は覚めたかしら、イタズラ好きのお姫様?」

「……もう、そういうとこだよ? よりちゃん」

 

 覚醒したかのの顔はほんのり赤く染まって、まるで林檎みたい。私をたしなめるような事を言ってはいるけど、幸せそうにほっぺが緩みきってるわね。両手で押さえつけようとしても、ふにゃふにゃなのが隠しきれていない。

 

 よっぽど、お目覚めのキスを気に入ってくれたみたい。もう、ホントにかのは子供ね。これでも、結構がんばったのよ。我に返ってみると、体中の熱が顔に集まってるみたい。

 

「りんごみたいだね。よりちゃんのほっぺた」

 

 う、うるさいわね。かのだって、そうでしょ。くすくすと笑う姿は、誰かの前では見せないかの。泣き虫で、いたずらっ子で、甘えん坊。そんなかのを知っているのも、一人占めできるのも、私だけ。

 

 全く、かのったらしょうがないんだから。

 

「――おはよう、かの」

「――おはよう、よりちゃん」

 

 眠りから覚めて、また物語が始まる。私達だけのお話が、ね。

 




小依ちゃんの前だと、甘えん坊の面をさらけ出す夏音ちゃんからしか取れない栄養素がある
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