My Friends   作:みいの

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小依ちゃんが夢中になるお話


甘くて、ふわふわで、心地いいものは

 

「かの、寝づらくない?」

「うん、だいじょうぶだよー」

 

 聞き慣れた穏やかなかのの声。ふわふわして心地いい、まるでひつじみたい。そんな声が、今は私の真下から聞こえてくる。普段は隣で聞いているからちょっと新鮮。太ももから伝わってくるふんわりした髪の毛の感触がちょっとこそばゆい。あれこれと頭の中でぐるぐると考えだす。それぐらいに、かのとの密着した距離がなぜだか慣れない。落ち着くような、落ち着かないような不思議な感じ。少なくともお母さんが子供に対してするような感覚ではないことは分かる。

 

 大人っぽいひざまくらって、こういう感じなのかしら?

 

 なんとなく見ていたとある夜のドラマ。その中で女性がひざまくらをしているシーンが映し出された時、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。なんというのか、その光景からは包み込むような、大人のほーようりょく?が現れているように見えた。おだやかな顔で触れ合ってひざを貸している姿は、間違いなく憧れる大人の姿の一つ。みんなから頼られるようなお姉さんを目指す私としては、あの雰囲気はぜひ身につけたい。それなら、まずはチャレンジしてみよう。そう考えた私は部屋に遊びに来たかのに話を振り、実践してみることになった。

 

 最初はどこかぎこちない様子だったかのは、少しした今ではすっかり体を私にあずけてしまっている。普段はクラスのみんなから何かと頼られているかの。正直、もっと私が頼られたいし悔しい気持ちもある。でも、本当のかのは何でもできて、何もできないから。お姉さんである私がかのを守ってあげないといけないし、守りたい。もっと、私に頼ってほしい。

 だから、かのが私に体をあずけて寝ころんでくれているのはまるで頼られているように感じて、胸の中があたたかいもので満たされていく。ベッドの上に投げ出した足、その上ですっかり身を任せて顔をほころばせるかの。まるでかのの大好きなネコにでもなったみたいだ。とことん気を緩めきった学校では決して見せない姿。そんなかわいいかのをひとり占め。

 なるほど、かのがネコを可愛がる気持ちが少しだけわかったかもしれない。大人しくて、素直に私に甘えてくれる。他の動物たちもみんなこんな感じだったらいいのに。なんで動物に好かれない星の下に産まれちゃったのかしら。

 

「よ、よりちゃん?」

  

 かのの頭に手を伸ばす。いきなりすぎて、かのはちょっと混乱しているみたいだ。でもいたずら心が出てきてしまった私は構わず、かのの髪の毛をそっとなで始める。流石にこれは恥ずかしかったのだろうか。なでていくにつれて顔が赤くなっていく。ふっくらしたほっぺたがまるでリンゴみたい。

 

「ふふ、かのはかわいいわね」

「ふぇっ?」

 

 普段は余裕そうに見えるかのが、私のひざの上で薄く赤色に染まっている。そんな珍しい姿がかわいらしくて、もっと愛でたくなってしまう。久々に、お姉さんとしての余裕をみせられているんじゃないかしら。

 

 それにしても、かのの髪はさわり心地がいい。かの本人はくせっ毛なのを気にしてるみたいだけど、ふわふわしてて私は好きなのに。指をひらいて髪の毛を梳いていくと、羽毛みたいに指の間をかすめていく。手を動かすたびに漂うほのかな香りが、私の鼻をくすぐる。かのがお菓子作りに使ってるミルクのように甘い香り。思わず、ごくりと喉を鳴らしてしまう。

 

 もっと、この香りを味わってみたい。今の私はエサを目の前にお預けされた子犬のよう。胸がばくばくと騒ぎ立てて、衝動の前に私の自制心はあっけなく負けてしまった。ごちそうを前にじっとなんてしていられずに、わたがしみたいなかのの髪の毛にぐっと顔を近づける。このまま顔を埋められたら良かったのに。ひざまくらの途中だから、これ以上体が曲がってくれない。

 

 せめて鼻から伝わってくる香りだけに集中したくて、まぶたを閉じる。くんくんと鼻をひくつかせるごとに芳しい匂いが強く感じられる。よりにもよって、私は親友の頭を嗅いでいる。普通に考えればなかなか恥ずかしいことをしているのに、どんどんと沼にはまったみたいに夢中になっていく。ふとももに乗ったかのの頭の重さ、感触、香りが私の中をいっぱいに満たす。このままどこまでも沈んでしまいそうになったその時、くいっと服が引っ張られる。もう、いいところだったのに。どこか控えめな主張に水を刺された私が目を開けると、真っ赤に熟れたリンゴが視界を埋め尽くしていた。

 

「よ、よりちゃん……?」

「え、あっ!? ご、ごめん!」

 

 今にも茹で上がりそうなかのの顔。かちこちに固まってしまったかのの姿を見て、ようやくおでこがくっつきそうなくらいに近づいていたことに気づいた私は、あわてて顔を上げた。さっきまでは平気だったのに、自分のやっていたことに恥ずかしさがこみ上げてくる。夢中になって、ひざまくらしている親友の匂いを嗅いでいた。クラスのみんなはもちろん、花ちゃんたちにだって絶対に見せられない。そんなみっともない姿を晒していたという事実が私の顔に熱を集めていく。余計なことを考えないように気を紛らわせなきゃ。そう考えた所で、あの不思議な甘い香りが頭の中から離れない。

 

「わたしの匂い、なんかへんだった……?」

 黙っている私の様子が不安にさせたのか、おそるおそるとかのがのぞき込んでくる。不安と恥ずかしさで揺れた瞳。私の体温がさらに上がった気がした。

 

「……ううん、そんなことないわ。どうして?」

「だってぇ……よりちゃん、急にわたしの匂いをかぎ始めたから……」

 

 私の行動に、かのは自分が変な匂いを出しているんじゃないかと思ったみたい。そんなわけはないのに。でも、確かに私が逆の立場だったら、同じことを考えていたかも。

 

 ……もし時間が戻せるなら、さっきまでの私をなにがなんでも引き止めたいところだ。

 

 ともかく、まずはかのの不安をどうにかしないといけない。さっきまでの恥ずかしさを押し留めて、かのがあまり気にしないように、明るく思ったままを伝えよう。

 

「かのの匂いは甘くて、ふわふわしてて――なんだか心地いい感じがするわね」

 

 だから、気にする必要はないわよ!

 そう続けようとしたところで、何がまずかったのか。かのの顔がさらにゆであがって、とうとう両手で隠されてしまった。今の対応はちょっと大人っぽくできたかなと思っていただけに、かのの反応の理由が分からず少しあわててしまう。

 

「わ、私、何か変なこと言っちゃった?」

「……ズルいよ、よりちゃん」

 

 何が良くなかったのかを聞いても、ご機嫌ナナメになってしまったかのはそっぽを向くばかり。何もわからないまま、私はおひめさまのご機嫌が治るまでひざまくらを続けた。

 その結果、少なくとも大人っぽいひざまくらが分かることなく終わり、同じ姿勢を取り続けてしびれた足をかのによってイタズラされることとなった。

 

 でも、かのの匂い、すごく良かったな。

 ……大人っぽさはあまりよく分からなかったけれど、この胸の高鳴りだけは、嫌でも、よく理解できた。

 




匂いと記憶は強く結びついているそう。
自分の感情に名前をつけられていない小依ちゃんを書くのは楽しかったです。
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