アクセル・ワールド ベストマッチな加速能力者   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「仮面ライダービルドであり、て~んさい物理学者の有田兎美は、黒雪姫の襲撃者と疑われたチユリの冤罪を晴らす為、襲撃者『シアン・パイル』の正体に迫る」


美空「そんな中、ハルユキがスタークとスマッシュに襲われ、ハルユキが等々仮面ライダーに変身するのだった」


チユリ「等々ハルも仮面ライダーになったわね」


兎美「名前どうする?」


チユリ「え?ここで決めるの?」


兎美「何よ、思いつかないわけ」


チユリ「いきなりふられて、出てくるわけがないでしょう!!」


兎美「あっそう、じゃあ第10話の中で発表しますか」


第10話

 

 

ハルユキは黒雪姫を連れ自宅に帰ると、兎美と美空が出迎えてくれた。

 

 

「なんでその女と一緒に帰ってくるのよ!!」

 

 

案の定、不機嫌になった美空が黒雪姫について問いただしてきた。

 

 

「それが...帰ってくる途中で、ナイトローグとスマッシュに襲われて...」

 

『!!?』

 

 

襲われたと聞いて、驚く兎美達。

 

 

「そう...だったらここで話すより、リビングで話しましょう」

 

 

兎美達に誘導され、黒雪姫はリビングへと向かった。

 

 

その後を追う様に、ハルユキもリビングへと向かった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

リビングのテーブルに着いたハルユキ達は、早速今日あった事を話し合った。

 

 

「それで?ナイトローグに襲われたって言ったけど、そいつを連れてきたって事は...」

 

 

既に感づいているであろう兎美が、ハルユキに質問する。

 

 

「あぁ、変身したよ。仮面ライダーに」

 

 

ハルユキの言葉に、兎美と美空はやっぱりと納得し、黒雪姫は目を見開いて驚く。

 

 

「ちょっと待て、仮面ライダーって今東都で噂されている謎のヒーローの事だろ?」

 

 

黒雪姫の質問に、ハルユキ達は顔を見合わせる。

 

 

「そうね、あなたにはそこから説明してないわね」

 

 

そう言って、兎美は黒雪姫に説明する。

 

 

兎美自身が、仮面ライダービルドとなって東都を守るために戦って居る事。

 

 

ハルユキがその協力者で、一緒に戦ってきた事。

 

 

ナイトローグという怪人が、スマッシュを作り出している事。

 

 

「なるほど、それだったらこの前のデビュー戦の戦いぶりにも納得がいく」

 

 

話を聞き終わった黒雪姫は、1人納得していた。

 

 

「それで?あなたはこの後どうするの?」

 

「うむ、知ってしまったからには私も出来る限りの協力はするさ」

 

 

黒雪姫が協力を申し出る中、ハルユキは決意する。

 

 

「これからは俺もビルドとなって、ナイトローグと戦ってやる」

 

「あなたはビルドじゃないわよ」

 

 

しかし、決意するハルユキに兎美が水を差す。

 

 

「なんだよ!!俺じゃあビルドになれないって言うのかっ」

 

「クローズよ」

 

 

食いかかるハルユキに、兎美はそう告げる。

 

 

「仮面ライダークローズ」

 

「クローズかぁ...悪くないな」

 

 

つけられた自身の名前に、ハルユキはご満悦になる。

 

 

話が纏まった所で、黒雪姫が再度質問する。

 

 

「そういえば、シアン・パイルの正体を突き止めていると言っていたが」

 

「あっ、そういえば」

 

 

自分で連れてきておきながら、ハルユキは本来の目的の事をすっかり忘れていた。

 

 

「それなら、今紗羽さん調べて...」

 

 

兎美の話を遮るように、バァン!と勢いよくリビングの扉が開いた。

 

 

「シアン・パイルの正体が分かったよ~!!」

 

 

上機嫌にリビングに入ってきた砂羽の手には、何かの書類が握られていた。

 

 

「もう正体が分かったんですか!?」

 

「ふふん、私にかかればこれくらいどうって事ないわ!!」

 

 

ハルユキの質問に、紗羽はどや顔で答える。

 

 

テーブルの上に書類を置こうとして、そこでようやく紗羽は黒雪姫の存在に気づく。

 

 

「あれ?あなたは確かあの時の...」

 

「黒雪姫だ、宜しく頼む」

 

 

「黒雪姫ちゃんね、私は滝沢紗羽。宜しくね」

 

 

互いに自己紹介を終え、紗羽は机の真ん中に書類を置いた。

 

 

それは、中学に入学する際に使ったであろう履歴書の書式だった。

 

 

「えっ...」

 

 

その履歴書の右上に貼ってある写真を見たハルユキは、言葉を失った。

 

 

見覚えのあるどころではない。

 

 

世界で最も長い時間見てきた、4つの顔のうちの1つだ。

 

 

その写真に写っていたのは、ハルユキの幼馴染『黛拓武』だったからだ。

 

 

その事に気づいた兎美と美空も、思わずハルユキの顔を見てしまう。

 

 

「この子の名前は黛拓武君。ハル君達が通う梅里中学ではなく、小中高一貫の名門校に入って...」

 

 

紗羽がタクムの説明をするが、ハルユキの頭には全然入ってこなかった。

 

 

ハルユキはシアン・パイルの正体に驚愕していたが、脳裏にいくつかの思考が同時に閃く。

 

 

僕は——何故奴が、《シアン・パイル》が、梅里中の生徒の誰かだと判断した?

 

 

もちろん、チユリのニューロリンカーにウイルスを仕掛けたからだ。

 

 

チユリを踏み台にして、学内ローカルネットのどこから、幽霊のように黒雪姫を襲っていたからだ。

 

 

でも。

 

 

もし、あのバックドアがグローバルネットからのアクセスの為に造られたものだとしたら?

 

 

その場合、容疑者は梅里中内部ではなく、全国に広がってしまう。

 

 

しかし、同時に新たな絞込みフィルタも出現する。

 

 

なぜチユリなのか?

 

 

もちろん、接触しやすいからだ。

 

 

学外の人間で、チユリに最も親しい者。

 

 

チユリのニューロリンカーと直結できるほどにそばに居る、誰か。

 

 

その条件に当てはまる人間は、ハルユキを除いては1人しかいない。

 

 

「ん?ハル君どうしたの?」

 

「ハルユキ君?」

 

 

ハルユキの様子が可笑しい事に気づき、紗羽と黒雪姫が話しかける。

 

 

しかし、ハルユキは何も答えられなかった。

 

 

「あのね...」

 

 

状況を理解している美空が、分かっていない2人に説明する。

 

 

「えぇぇっ————!!?この黛君ってハル君の幼馴染なの!!?」

 

 

大声を上げて、明らかに驚愕する紗羽。

 

 

「え...えっと...ハル君...信じられないかもしれないけど...」

 

 

紗羽は、ハルユキが自分の言葉を信じていないと思い、声を掛けようとするがハルユキは頭を振った。

 

 

「いや、すぐ気づくべき事だったんだ...。ウイルスをどうやって仕掛けたのかなんて考えるまでも無かった...。直結して仕込めばいい話なんだから...。それを出来る人間は1人しかいない...」

 

「なるほど...チユリと簡単に直結できるのは、幼馴染の黛 拓武しかいないって事ね 」

 

 

ハルユキの言葉に、美空も納得する。

 

 

「それで...どうするんだ?ハルユキ君」

 

「この後、タクムに会ってきます。なんでこんな事をしたのか聞く為に...」

 

「なっ!危険すぎる!君はまだレベル1で、相手はレベル4なんだぞ!勝てるわけが無い!」

 

「そうよ!それに相手が何をしてくるか分からないのよ!」

 

 

ハルユキの提案に、黒雪姫と美空が反対する。

 

 

「でも...これは俺がやらないといけない事なんだ。それに、戦うって決まった訳じゃありませんし」

 

「それはそうだが...」

 

 

ハルユキの言いたい事は分かるが、それを黒雪姫は納得できないでいた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

ハルユキはマンションの前で、部活から帰ってくるタクムを待っていた。

 

 

タクムに会いに家に向かうと、まだ帰っていなかった為、現在マンションの前で待機していた。

 

 

また余談だが、兎美達が直ぐに駆けつける様に待機していたが、ハルユキはその事に気づいていなかった。

 

 

しばらくすると、ハルユキはタクムの姿を見つける。

 

 

部活用のスポーツバックに加え、剣道の竹刀袋と防具袋を肩に背負っていた為、直ぐに見つけることが出来た。

 

 

ハルユキは意を決し、タクムに近づく。するとタクムもハルユキに気づいた。

 

 

「やあ、ハル。こんな時間に外にいるなんて、どうしたんだい?」

 

 

「ああ、タクに話があって、帰ってくるのを待ってたんだよ」

 

「?僕をかい?」

 

 

チユリではなく、ここ最近余り会っていない自分の用とは何かとタクムは首をかしげる。

 

 

「ここじゃあ通行の邪魔になるから、別の所に行こうぜ」

 

 

そう言って、ハルユキはタクムを連れて、マンションの中へと入っていった。

 

 

「それで?聞きたい事って何かな?」

 

 

タクムの質問に、ハルユキは意を決して話を切り出した。

 

 

「それはお前の...シアン・パイルの話だ」

 

「⁉」

 

 

ハルユキのその言葉で、タクムは一歩後ずさった後に目を見開いて動揺を見せる。

 

 

「お前がチユリにバックドアを仕掛け、先輩を襲っていた犯人だったんだな」

 

 

ハルユキがその事を突きつけると、タクムはフッと笑った。

 

 

「ふふふっ、あははははは!!」

 

 

突然笑い出したタクムに、今度はハルユキが動揺する。

 

 

そして、ひとしきり笑ったタクムは憎悪に満ちた顔でハルユキを睨みつける。

 

 

それはまるで、親の仇である憎い相手にするような顔だった。

 

 

「バースト・リンク!!」

 

「っ!?」

 

 

バシイイイイイイッ!

 

 

タクムがコマンドを発声した後、ハルユキの意識も加速して目の前に文字が表示された。

 

 

【HERE COMES A NEW CHALLENGER!】

 

 

☆★☆★☆★

 

 

バキバキバキバキッ!

 

 

一瞬の間に続いて、世界に響き渡ったのは、無数の金属塊が軋むような異質な震動だった。

 

 

周囲の床や壁が、ハルユキの足元からどこか生物めいたぬめりや襞のある錆色の金属に覆われていく。

 

 

柱は昆虫の腹のように節を作ってよじれ、天井には奇怪な眼球に似た突起が幾つもボコボコと浮き上がる。

 

 

いつも見慣れているマンションが、古典サイバーパンク作家の悪夢のような有機金属的汚濁に包まれるまでに、数秒とかからなかった

 

 

息を詰めて立ち尽くすハルユキの体が、四肢の末端から白銀に輝く装甲に覆われはじめ、同時に針金のように細く絞られていく。

 

 

腰から腹、胸も滑らかな銀へと変わり、最後に頭も丸いヘルメットに包まれる。

 

 

桃色ブタアバターから、デュエルアバター《シルバー・クロウ》へとハルユキが変身したのとほぼ同時に、ぎゅうっ!と音を立てながら、視界上部に2本の体力ゲージが伸びた。

 

 

ゲージの間に、1800の数字。

 

 

そして最後に、中央にごうっと、炎がごうっと燃え上がった。

 

 

その奥から出現した《FIGHT!!》の文字が、真っ赤に輝き、爆散した。

 

 

減少を始めるカウントをちらりと見て、ハルユキは改めてぬらつく通路の先、タクムが居た場所を見た。

 

 

まさに同じ所に側面を向けて立っていたのは、思いもかけぬ姿のデュエルアバターだった。

 

 

あれが......タクム!?《シアン・パイル》だって!?

 

 

ハルユキは驚愕のあまり、思わず半歩右脚を引いた。

 

 

巨大だ。

 

 

いや、身長はそこまでではない。

 

 

中一で175センチもあるタクムより、さらに5センチほど高いだけだ——、と言ってもせいぜい155ほどしかないシルバー・クロウからすれば見上げるようだが。

 

 

しかし、何より圧倒的なのは、シアン・パイルの全身のとてつもない厚みだった。

 

 

太っている、というのとは違う。

 

 

まるでプロレスラーのようにごつごつと筋肉の盛り上がった四肢と体幹。

 

 

それをメタリックブルーのぴっちりとしたボディスーツ型装甲が包んでいる。

 

 

足にはダークブルーのごついブーツ。

 

 

左手にも同色の巨大なグローブ。

 

 

まるで自分が変身するクローズのようだ。

 

 

すらりとスリムなタクム本人とは、イメージが180度逆だ。

 

 

ゆっくりと体を左に回したシアン・パイルの視線が、正面から注がれた。

 

 

シアン・パイルの頭部は、そこだけはスマートな涙滴形のマスクに覆われている。

 

 

顔面には、横に細長いスリット状の隙間がいくつも開き、中央を縦に1本の支柱が貫いている。

 

 

見ようによっては、どこか剣道の面を連想しなくもない。

 

 

1本のスリットの奥で、突然ビカッ!!と青白い両眼が鋭い形に輝いた。

 

 

左脚がゆっくり持ち上がり、ずしりと床を踏みつける。

 

 

溜まっていた粘液が、ばしゃりと左右に飛び散る。

 

 

ハルユキの目は露わになったシアン・パイルの右腕に吸い寄せられた。

 

 

あれは——何だ!?

 

 

左手のようなグローブではない。

 

 

肘の所から、ぶっといパイプに接続されている。

 

 

パイプは、直径15センチ、長さ1メートルはあるだろう。

 

 

しかも開口部から、内蔵されているらしい尖った金属棒の先端が、ぎらぎらと剣呑な輝きを放っている。

 

 

シアン・パイルの属性は、その全身を包む装甲の色からしても、≪近接の青≫だ。

 

 

しかも、黒雪姫いわく限りなく純色のブルーに近い。

 

 

ならば、あの鋭い棒は飛び道具ではないはずだ。

 

 

スリットの並ぶマスクが、ぐるりと周囲を見回す。

 

 

その奥から流れ出たのは――陰々と歪んでいるが、たしかに長年聞きなれた、親友タクムの爽やかな声だった。

 

 

「ふうん、これは《煉獄》ステージかな。僕も久しぶりに見るよ。属性はなんだったかな?」

 

 

屈託の無いその喋りに、ハルユキは思わず口を開いていた。

 

 

「タク...」

 

 

ズギャアアアア!!

 

 

突然、振り回されたシアン・パイルの右腕の鉄棒が、廊下の金属壁に食い込み、醜く引き裂いた。

 

 

飛び散った鉄片と粘液、そして潰された名も知れぬ小虫がぼたぼたと床に落ちる。

 

 

ハルユキは突然のシアン・パイルの攻撃に、言葉を呑み込み、戦闘態勢に入る。

 

 

その様子をちらりと見て、シアン・パイルはさらに快活な声で続けた。

 

 

「さすがに硬いな。ステージの破壊はちょっと難しいかもね」

 

 

ずしん。

 

 

歩行が再開され、青い巨躯がのしかかるようにハルユキの眼前に迫る。

 

 

「へー、今の攻撃を見て弱腰になると思ったんだけど、さすがは仮面ライダーの協力者と言った所かな?」

 

 

「タクム...お前なんで...」

 

 

——ほんとうに、お前なのか。なんで。いつから。

 

 

一体いつから、お前はバーストリンカーだったんだ。

 

 

胸中に渦巻く疑問を口にする前に、シアン・パイルがさらに言葉を発した。

 

 

「まさか、君がバーストリンカーになるなんて...驚いたよ。この前はもっと驚いたけどね、羨ましいよハル、僕からチーちゃんを奪っただけじゃ飽き足らず、あんな可愛い子達と同棲してるなんてね...」

 

「お前何言って...」

 

 

発言をしようとしたハルユキの言葉を、再び鉄棒が壁に叩きつけられた大音響が掻き消した。

 

 

「どうだった?ハル...。彼女達と直結した感想は...。僕がその光景を見た時、どんな思いだったか君には分かるか!!ハル!!」

 

 

シルバー・クロウはシアン・パイルの言葉に絶句した。

 

 

幼馴染の変わりようもそうだが、シアン・パイルのハルユキに向けた嫉妬に対し、驚きを隠せなかった。

 

 

——タクムじゃない。

 

 

ハルユキは声に出さずにそう叫んだ。

 

 

あいつは僕の知っているタクじゃない。

 

 

タクはあんなこと言わない。

 

 

いつだって明るくて、爽やかで、負の感情というものを一切見せない、それがタクムなんだ。

 

 

シアン・パイルは別の人間だ。

 

 

きっと、タクムのニューロリンカーにもバックドアを作ってどこか遠くから接続しているんだ。

 

 

ハルユキは懸命に自分にそう言い聞かせようとした。

 

 

しかし同時に、あの時感じた気配が。

 

 

チユリと直結し、彼女のニューロリンカー内にウイルスを発見した時、その奥に潜んで目を見開き、耳をそばだてていた何者かとまったく同質の気配が、目の前の青いデュエルアバターから濃密に立ち上がっているのをハルユキは強く意識していた。

 

 

そして、もしかしたらそれはずっと昔、3人が小さな子供だった頃から、ふざけ合うハルユキとチユリにときおりタクムがちらりと向けてきた視線と同じものであるのかもしれなかった。

 

 

「タク......、お前なのか」

 

 

ハルユキが銀面の下から発した言葉は、自分でも意外なほど鋭く、強く響いた。

 

 

「お前がチユのニューロリンカーにウイルスを仕掛けたのか。チユに隠れて接続して、メモリや視聴覚を好き勝手に覗いてたのか!」

 

「ウイルス、なんて言って欲しくないな」

 

 

ハルユキの、ほんの5メートル先で足を止めた巨大なアバターは、それだけはタクムらしいスマートな仕草でひらりと左手を広げた。

 

 

シアン・パイルのマスクを横切る細いスリットの奥で、見えない顔が歪んだ笑いを浮かべるのをハルユキは感じた。

 

 

「チーちゃんを正気に戻すのには、必要な事だったんだよ」

 

「正気に戻す?」

 

「ふふふ、君は昔からそうだよ、ハル」

 

 

穏やかな声でそう言いかけたシアン・パイルの右横の壁を、奇怪な形の大きな金属虫がガサガサと通り過ぎようとした。

 

 

シアン・パイルは何気ない仕草で右腕の巨大針を持ち上げ、軽く虫の背を貫いた。

 

 

壁に留められた虫はギイギイと啼きながら、逃げ出そうと無数の肢を激しく振り回す。

 

 

「ずっと、ずっと昔からチーちゃんに、僕ってかわいそうだろ?憐れだろ?だから優しくしてよ。もっと構ってよ。そういい続けてきたんだ。言葉じゃなくても、態度で、目つきで...いや、君という存在そのもので」

 

 

ぶじり、と湿った音を立てて針がさらに虫の殻に沈み込んだ。

 

 

緑色の液体が飛び散り、仮想の虫はいっそうジタバタともがき始める。

 

 

「女の子って解らないよね。チーちゃんは、僕に手を引かれてる時よりも、ぶつぶつ文句言いながら君の手を引っ張ってる時の方がずっと楽しそうだった。君の面倒を見て、世話を焼くのがとっても幸せそうだったよ、昔から。...知ってたかい?チーちゃんは、どこに行く時も必ずでっかいタオル地のハンカチを持ってたんだよ。汗かきの君の為にね」

 

 

ばちゃっ!!

 

 

と怖気をふるう音を立てて虫が粉砕され、濃緑色の殻と肢が粘液とともに飛び散った。

 

 

「ハル...君は知らないだろうけど、僕は2年前にチーちゃんに告白したんだよ」

 

 

はははは、とシアン・パイルは愉快そうに、しかしぞっとするようなディストーション・エコーのかかった笑い声を上げた。

 

 

「だけどチーちゃんは断った!チーちゃんは僕より君を選んだんだよ!ハル!だから思ったのさ!彼女は現実的判断が出来ていないってね!」

 

「現実...的?」

 

 

シアン・パイルは緑色に染まる金属針の先端を、同意を求めるように空中に持ち上げた。

 

 

「チーちゃんだって女の子...いや、女だよ。友達に自慢できる彼氏、幸せな結婚、満ち足りた生活、そっちのほうがずっと《幸せ》だっていつかは気付くさ。だから僕も頑張ったよ。死ぬほど勉強して今の学校に入ったし、毎日走り込んで体も鍛えた。ハル、君が下らないゲームをしたり、ぐうぐう寝たり、何も出来ないくせに怪物相手に戦ってる間にね!」

 

 

「お前...本気で言ってるのか」

 

 

ふふふ、とシアン・パイルはもう一度笑った。

 

 

「本気で言ってるさ。チーちゃんには幸せになる権利がある。成績は学年1位で、剣道では都大会優勝の僕と付き合って幸せになる権利が」

 

 

ハルユキは鋭く息を吸い込み、ぐっと溜めた。

 

 

「.........」

 

 

ハルユキは鋭く息を吸い込み、ぐっと溜めた。

 

 

やはり、これはタクムじゃない。

 

 

これがタクムの本性だとはとても思えないし、思いたくない。

 

 

何かがタクムを歪めたのだ。

 

 

その一端が、ハルユキとチユリの関係であることも確かだろう。

 

 

それがタクムを追い詰めた面もあるのだろう。

 

 

しかし——それよりも大きくタクムを変えたのは、おそらく。

 

 

「...違うだろ、タク」

 

 

ハルユキは銀のマスクをもたげ、まっすぐシアン・パイルの鋭い眼を見た。

 

 

「学年1位も、優勝も、お前の力じゃない。ブレイン・バーストの...《加速》の力だ。いつからだよ。いつからお前はバーストリンカーだったんだ」

 

 

しばし、沈黙が煉獄ステージを覆った。

 

 

小虫の群れがキチキチと足元を通り過ぎ、時折壁に開いたヒダの間から生き物のように蒸気が吐き出される。

 

 

1800から開始されたカウントは、既に200秒が経過しようとしている。

 

 

100の桁が5になるのと同時に、シアン・パイルが言葉を発した。

 

 

「僕の力だよ」

 

 

す、と右手の針をまっすぐハルユキに向けてくる。

 

 

「≪加速≫は僕の力だ。ほんの赤ん坊の頃から、ニューロリンカーで嫌って言うほど知育ソフト漬けになって適性を培った僕の力なんだ!僕がバーストリンカーになったのは、まだたったの1年前さ。剣道部の主将が僕の≪親≫だ...かの≪青の王≫の側近なんだよ。期待されてるんだ僕は。親衛隊の候補生なんだ。なのに...」

 

 

ガギャアアアアン!!

 

 

大きく振り回された右手が、壁に幾つめかの巨大な傷跡を刻み付けた。

 

 

「いまさら!!今更バーストリンカーになっただって!?それで僕と対等になったつもりかい、ハル!?君は僕には勝てない。勉強でも、スポーツでも。そして勿論、この加速世界でもね。解らせてあげるよ。僕の力を...君のその、ひ弱なデュエルアバターに」

 

 

びかぁっ!!と、シアン・パイルの両眼が凄まじ光を迸らせた。

 

 

「...タク。確かにお前は凄いよ。勉強もスポーツも出来るし、かっこいい。俺の持ってないものを、全部持ってる」

 

 

顔を俯け、声を押し殺してハルユキは呟いた。

 

 

しかし直後、正面からシアン・パイルを見据え、鋭く叫んだ。

 

 

「でも馬鹿だ。大馬鹿野郎だ、お前は!」

 

「...なんだって?僕が、馬鹿?」

 

「そうさ、だから俺には勝てない!忘れたのか?昔から、どんなゲームでもお前が俺に勝てたことがあったかよ?」

 

「...ハル。ハル」

 

 

笑いの混じった。

 

 

しかし凄絶な響きのある声。

 

 

「なら、たった今...君は最後のプライドまでなくすんだ!!」

 

 

どっ!!とシアン・パイルのブーツが床を蹴った。

 

 

2メートル近い巨体が、それにそぐわぬ凄まじいスピードで距離を詰めてくる。

 

 

しかし、さすがにアッシュ・ローラーのバイクの突進に比べれば遅い。

 

 

ハルユキは意識をシアン・パイルの右手に集中した。

 

 

相手は近接型、あの針の間合いに入らなければダメージは受けない。

 

 

ぐうっ、と右腕を引き絞るシアン・パイルの動きを見てから、ハルユキは攻撃を仕掛けようと自分もダッシュした。

 

 

ほとんどそれだけが取り得であるシルバー・クロウのスピードは、相手にも予想外だったようだ。

 

 

わずかな驚きの気配とともに、右腕が弧を描いて突き出されてくる。

 

 

——かわせる!!

 

 

ハルユキは攻撃の軌道を予測しながら、姿勢を低くしてシアン・パイルの左脚すぐ横を突っ切ろうとしたその時。

 

 

ゾクッ

 

 

何かが背筋を走ったハルユキは、嫌な予感を感じ直ぐに右に跳んだ。

 

 

ガシュン!!

 

 

思いがけない音が響き渡ったのは、その時だった。

 

 

受身を取ったハルユキの視界すみで——シアン・パイルの右腕を作る太いパイプの後端から炎が噴出する。

 

 

先端から、ぎらりと輝く太い鉄針が、視認できない速度で撃ち出された。

 

 

飛び道具ではなく、ただ倍近く伸びる仕掛けの用だったが、その鉄針は先程までシルバー・クロウが居た場所を貫いた。

 

 

「へぇー、これを初見で避けた人は、今まで居なかったから驚いたよ」

 

「その右腕にそんな仕掛けがあるなんて、思わなかったけどな」

 

《パイル》とは《杭》の意であることを、ハルユキは遅まきながら思い出していた。

 

 

——見た所、あの鉄針は一方向にしか攻撃できない...だったら、もう一度攻撃を仕掛けてきた後、一気に距離を詰めたら攻撃が出来る!

 

 

「攻撃をしてこないのは作戦を練っているのかな?だったらこっちから行くぞ!」

 

 

——来た!

 

 

ハルユキはシアン・パイルの攻撃を避ける為、全神経を集中させていた。

 

 

シアン・パイルの鉄杭がシルバー・クロウに迫るが、シルバー・クロウは極僅かな動きで鉄杭を避ける。

 

 

焦げるような熱を頬に感じながら、ハルユキは右脚で思い切り床を蹴り——。

 

 

「う......らぁっ!!」

 

 

右拳をがらあきの脇腹に叩き込んだ。

 

 

どぅっ、と強い手応え。

 

 

青い巨躯が揺れる。

 

 

まだ——いける!!

 

 

向き直ろうと体を回すシアン・パイルの背中を追う様に、ハルユキはさらに一歩ダッシュし、今度は右回し蹴りを敵の左ふくらはぎに撃ち込んだ。

 

 

ぐらり、と体勢を崩すところに、追い打ちの左膝蹴りをい背筋の中央へ。

 

 

ドボォッ!!という重い震動。

 

 

巨躯がくの字に折れ曲がる。

 

 

よろよろと距離を取ったシアン・パイルが憎々しげに唸った。

 

 

「ぐっ!さ...さすがにゲームは得意ってわけかい。ハル。まさかここまでやるとは思わなかった...よ!」

 

 

ぶん、と振り回された左拳をギリギリで回避し、勢いのまま体を反転させ、右の踵を無防備に突き出された首筋に埋め込む。

 

 

「ッグウウウウッ!!」

 

 

タクムの声で発せられる潰れた悲鳴に耳を塞ぎ、ハルユキはさらにラッシュを続けた。

 

 

両脚と両腕を使って途切れることなくコンボを繰り出す。

 

 

いつしか、自分の口からも悲鳴染みた叫びが漏れていた。

 

 

「この...馬鹿野郎!!大馬鹿野朗!!チユはなあ!!チユは俺達に、学年1位とか、そんなことこれぽっちも求めちゃいないんだ!!」

 

 

苦し紛れに放たれる前蹴りを踏み台にして高くジャンプし、シアン・パイルのマスクを掴んで自分の銀甲ヘルメットを思い切り叩きつける。

 

 

ぴきっ、と破壊音が響き、青いマスクの1部が砕け散る。

 

 

バランスを崩し、背中から床に倒れたシアン・パイルの胸に馬乗りになり、ハルユキはさらに両拳を乱打し続けた。

 

 

「チユはただ、俺達が俺達のままでいることだけ望んでたんだよ!!なんでそれが解らないんだ!!」

 

 

何も考えず、激情のまま叫んだ言葉だった。

 

 

しかし、ハルユキの声が響いた途端、ひび割れたスリットの下でシアン・パイルの両眼がぞっとする程強い冷光を放った。

 

 

「ちょ...うしに...」

 

 

突然、ぐいっとシアン・パイルの太い両腕が自分を守るように交差された。

 

 

その時、それが防御動作ではない事に、ハルユキは直ぐに気付き回避する為に動いた。

 

 

「調子に乗るなアアアアァァァァァァ!!」

 

 

両腕が左右にいっぱいに広げられると同時に、シアン・パイルの胸から腹にかけてのボディスーツの表面に、ぼごごごごっ!と音を立てて鋭い杭の先端が10本以上も浮き上がった。

 

 

「――《スプラッシュ・スティンガー》ァァァァァァ!!」

 

 

ズドドドドドゥッ!!

 

 

重機関銃じみた連射音とともに、至近距離からあまたの杭がハルユキめがけ射出された。

 

 

しかし、シアン・パイルが技名を発生すると同時に、シルバー・クロウは回避行動に移っていた。

 

 

シルバー・クロウは後ろに全力で跳ぶ事によって飛んで来た杭をどうにか回避することが出来た。

 

 

「く...ふ、ふふふふふ」

 

 

シアン・パイルは立ち上がりながら、どこかのネジが外れてしまったような、小刻みな笑いが青いマスクの下から漏れた。

 

 

「くふふふ。随分と...元気良く小突きまわしてくれたじゃないか。ちょっとだけ驚いたよ。でも...所詮は煩わしい小虫だったね。わざわざ僕の必殺技ゲージを溜めたようなものさ」

 

 

「必殺...技...」

 

 

呟きながら、ハルユキは改めて視界上部のゲージを確認した。

 

 

左右に伸びる太い体力ゲージは、シアン・パイルが6割。

 

 

ハルユキのラッシュで、言葉以上のダメージは受けている。それに対しシルバー・クロウの方は、攻撃を受けていないのでノーダメージだった。

 

 

そして2人の体力ゲージの下にもう1本、細い緑色のゲージが伸びている。

 

 

これは、シアン・パイルのほうは8割近くが明るい色に発光している。対してハルユキの物は殆ど満タンに近い。

 

 

「おいおい、初めて聞いたようなことを言うなよシルバー・クロウ」

 

 

くくくと笑いながら、シアン・パイルがゆっくりと前進を開始した。

 

 

「必殺技の応酬こそ《対戦》の華さ。さっきの《スプラッシュ・スティンガー》は僕のレベル2必殺技だ。煩い小虫を撃ち落すのにうってつけだろ?まあ当たらなかったけどね。おや、そういえば君のゲージもいっぱいに溜まってるみたいじゃないか。どうぞどうぞ、君も好きなだけ使ってくれよ」

 

 

ハルユキはぎりりと奥歯を噛み締めた。

 

 

シルバー・クロウに与えられた使える必殺技は、リーチが無いに等しい≪ヘッドバット≫だけで、射程の長いシアン・パイルの技にはとても対抗できない。

 

 

しかもモーションが長い上に見え見えで、発動準備中を言わんがばかりだ。

 

 

......くそっ、必殺技なんて必要ない。僕には拳と足、そしてスピードがある

 

 

そんな考えをしていた時、タクムが話しかけてきた。

 

 

「それにしても、さっきは随分言いたい放題言ってくれたじゃないか?まるで、チーちゃんの事を、自分1人が理解しているみたいに?」

 

「...してるさ、少なくともお前よりは」

 

「なら、僕の事はどうだい?少しは考えてくれた事があるかな?振られた後も情けを駆けられている僕の気持ちを考えてくれた事があるかい、ハル?まあ、君は僕が告白した事すら知らないとおも...「知ってるよ」え?」

 

「お前がチユに告白した事も、振られたことも知ってるよ」

 

 

ハルユキの言葉に、シアン・パイルは動揺を見せる。

 

 

「な...なんで君が知ってるんだよ。でまかせな嘘をつくな!」

 

 

ハルユキの言葉にシアン・パイルは声を荒げる。

 

 

「チユに相談されたんだよ...お前に告白されたけどどうしようって...」

 

「な...なんだよそれ...」

 

「だから俺がお前の好きにしろって...振られたからと言って俺達の関係は変わらないからって。だけど俺の判断がお前をそこまで傷つけてるなんて知らなかった...」

 

 

「今さら気付いたってもう遅いよ...君は僕には勝てないからね」

 

 

シアン・パイルは不利な状況にも関わらず、シルバー・クロウを挑発する。

 

 

本気だ。

 

 

タクムは今まで本気で戦ってきていた。

 

 

言葉を尽くせば解ってくれる、という気持ちはまだハルユキの中にあった。

 

 

チユリの、そして自分の本心を説明したい。

 

 

こんな争い方をしたくない。

 

 

しかし、ここでハルユキが負ければ。

 

 

シアン・パイルは改めてブラック・ロータスと戦うだろう。

 

 

ハルユキは、改めて戦う決意をする。

 

 

チユリと黒雪姫の為に、そして道を踏み外してしまったタクム(とも)の為に。

 

 

「今の俺は!!負ける気がしねぇ!!」

 

 

親友を助ける為に、ハルユキは叫んだ。

 

 

突如—。

 

 

装甲から、強烈な白光が幾筋も迸った。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

シアン・パイルが驚くのと同時に、背面の装甲が大きく砕け、吹き飛ぶ感覚が訪れた。

 

 

ハルユキは目を見開き、体を仰け反らせた。

 

 

目の前の少し離れた所に、鏡がある。

 

 

現実世界ではマンションの窓ガラスだったのだろう。

 

 

その鏡には自分とシアン・パイルが映っていた。

 

 

鏡を見ると背中の装甲にヒビが入っており、破壊音はそこから響いているようだ。

 

 

細い花火が走るたびに、小さく砕けた装甲が飛び散る...。

 

 

「......!?」

 

 

ハルユキは、何か白く輝くものが、背中に左右からゆっくり、ゆっくりと伸び始めるのを、呆然と見つめた。

 

 

鋭い三角形の、細い金属片のようだ。

 

 

剣...?

 

 

そう思った瞬間、伸びきった2つの金属片が、しゃらっと涼やかな音を立てて半円状に広がった。

 

 

折りたたまれていた薄い金属のフィンが、最初の剣状突起の先端を支点にそれぞれ10枚近くも展開している。

 

 

これは...武器ではなく...。

 

 

———翼。

 




どうも!!ナツ・ドラグニルです!!


アクセル・ビルドとの変更点ですが、クローズの名前を決めた所と、シアン・パイルとの戦闘シーンですね。


また、本来ならこの10話は11月1日に投稿する予定だったのですが、誤って10話のデータを消してしまいました。


いや~、ここ最近での一番のやらかしですね。


ただ、データを消しただけならゴミ箱に残るのですが、コピペした際に誤ってコントロールキーを離してしまい、文章がCだけになってしまいました。


そのせいで、しばらくは小説が書くことが出来ずにめっちゃ凹んでいました。


これからも応援の程、よろしくお願いいたします。


それでは次回、第11話もしくはLOVE TAIL第11話でお会いしましょう!!


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