アクセル・ワールド ベストマッチな加速能力者   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「バーストリンカー《シルバー・クロウ》であり、仮面ライダークローズの有田春雪は、千百合の冤罪を晴らす為にシアン・パイルの正体に迫っていた」


美空「そんな中、紗羽が持ってきた情報によって、シアン・パイルが自身の幼馴染である黛拓武であることをハルユキは知ったのでありました」


兎美「ハルユキは直接タクムに接触し、対戦をするが覚悟を決めた後、突如背中に翼が生えたのでありました」


美空「レベル4だか知らないけど、今のハルなら余裕でしょ」


兎美「ていうか、仮面ライダーになったハルに勝てるわけないでしょ。さてどうなる第11話!!」








第11話

ハルユキが呆然としていたのは、僅か1秒足らずのことだった。

 

 

熱い!!

 

 

背中全体に凄まじい熱気を感じ、ハルユキは弾かれるように体を起こした。

 

 

身悶えながらよろよろと膝立ちで数歩後ずさり、腕で肩を抱いて小さく体を縮める。

 

 

温度、というよりも、純粋なエネルギーの塊が背中に密閉され、行き場を求めて渦巻いているように思えた。

 

 

「———!!」

 

 

だめだ。もう抑えていられない。

 

 

弓なりに全身反らせ、ハルユキは真上を凝視した。

 

 

無意識の動作で、ハルユキは左腕を高く掲げ、右腕を体側に引き絞った。

 

 

肩甲骨の先で荒れ狂うエネルギーが、一気に密度を増し、圧縮される感覚。

 

 

「———行っ、けぇぇぇっ!!」

 

 

絶叫と共に、右腕をまっすぐ突き出す。

 

 

どおうっ!!

 

 

爆発じみた衝撃音とともに、銀の光が暗闇を切り裂いた。

 

 

「うわっ!」

 

 

いきなりの展開に呆然と見つめていたシアン・パイルに、飛び上がった時の衝撃が襲う。

 

 

一瞬ののち、ハルユキの全身は、放たれた矢のように一直線に飛び上がった。

 

 

わずか数秒で空高く舞い上がり、さらに高く高く飛翔した。

 

 

きいいいいん、と背中の金属フィンが高速震動する。

 

 

そのエネルギーは小さな体を圧倒的な勢いで加速し、仮想の重力など楽々断ち切って、どこまでも、どこまでもハルユキを押し上げる。

 

 

たちまち、目の前に渦巻く黒雲が迫った。

 

 

突き上げた右拳が分厚い塊に接した瞬間、ぼっ、と音がして円状に雲が押しのけられる。

 

 

黒いトンネルを貫き、さらに上昇するハルユキの視界に、薄黄色の眩い光が溢れた。

 

 

雲海を抜けた直後、ハルユキは両手足を広げ、加速を緩めた。

 

 

甲高い震動音がピッチを落とし、飛行機が離陸を終えた時のようなふわりとした浮遊感が訪れる。

 

 

ゆるやかにホバリングしながら、ハルユキはぐるりと体を回した。

 

 

「...ああ...」

 

 

思わず、ため息まじりの声が漏れる。

 

 

想像を絶する光景が、眼下に広がっていた。

 

 

うねりながら流れる雲海の切れ間から、どこまでも続く鈍い色の巨大都市が一望できる。

 

 

捩れた尖塔群に変化した新宿副都心、その向こうの深い森と、そそり立つ魔城めいた建築物は皇居だろうか。

 

 

反対側を見ると、杉並から三鷹、八王子へと続く市街がどこまでも連なり、彼方には奥多摩の山々、さらにその奥で雲海を貫いてそびえる険峻な高峰は、おそらく富士山。

 

 

南を眺めたハルユキは、きらきらと輝く灰色の平面を視界に捉えた。

 

 

海。東京湾だ。そして——果てなく広がる、太平洋。

 

 

そして、そんな景観の中でも主張するように聳え立っている大きな壁は、間違いなくスカイウォールだろう。

 

 

無限だ。

 

 

「この世界は...無限だ...」

 

 

呟きながら、ハルユキはゆっくり、ゆっくりと降下を開始した。

 

 

背中からばふっと雲海に沈み込み、その底を抜けて、地上へと近づく。

 

 

街並みのディティールが詳細に見渡せる高度まで落下した所で、フィンを一度強く震動させ、再度ホバリング。

 

 

姿勢を戻したハルユキの真下、ほんの30メートルほどの所に、マンションの屋上があった。

 

 

あれほど広大と思えた対戦フィールドが、今は両手で挟めそうな程に小さく見える。

 

 

そして、その中央の広場で立ち尽くし、こちらを見上げる青い巨人の姿も、また。

 

 

シアン・パイルは、たっぷり3秒近くも、魂を抜かれたようにハルユキを眺めていた。

 

 

その左手がかすかに持ち上げられ、しわがれた声が漏れかけた。

 

 

「は...ハル...」

 

 

 

しかし言葉は、不意に巻き起こった、どおおおっ!という響きに掻き消された。

 

 

声だ。

 

 

マンションの屋上に陣取り、シルバー・クロウとシアン・パイルの対戦を見守っていたギャラリー達が、一斉に喚き声を上げた。

 

 

「落ちて...落ちてこないぞ!?完全に静止している!!」

 

「ジャンプじゃない...飛んでるのか!?嘘だろ!?」

 

「《飛行アビリティ》だ...ついに現れたんだ、あの羽を見ろって!!あれは《飛行型アバター》だ!!」

 

 

ハルユキは、なぜギャラリー達がこれほど大騒ぎするのか分からなかった。

 

 

唖然として見下ろす先で、数十に及ぶデュエルアバターが、ある者はより高い地点を目指して移動し、ある者はコンソールに指を走らせている。

 

 

「データはないのか!あいつは何処の誰なんだよ!?所属レギオンは...《親》は誰だ!?」

 

「と、とりあえず本部に連絡だ!お前、落ちて知らせにいけ!!」

 

「冗談じゃない!この先を見逃せるかよ!!」

 

 

蜂の巣をつついたような騒ぎを鎮めたのは――不意に放たれた、凄まじい絶叫だった。

 

 

「オッ...オオオオオオオ!!」

 

 

両手足を広げて、シアン・パイルが吼えた。

 

 

大気をびりびりと揺らす震動が、遥か上空のハルユキにまで届く。

 

 

「駄目だ!駄目だ駄目だダメだダメだダメだああああああっ!!」

 

 

がしゅっ!!と機械のような音を立てて、右腕の発射筒がまっすぐハルユキに向けられた。

 

 

「お前が!!お前が僕をッ!!見下ろすなあああアアアアァァァァァッ!!」

 

 

血を吐くような叫び。

 

 

同時に、ぎいいいいんっ!!と金属音が響き、装填された鉄杭が幾筋もの光を撒き散らした。

 

 

両脚を広げて腰を落とし、左手を発射筒添えた姿勢を取ったシアン・パイルの必殺技ゲージが残り4割が、一気にがくっと消滅する。

 

 

恐らくはシアン・パイルの最終攻撃であろう技に照準されたハルユキは、一点にホバリングしたまま、そっと右手を持ち上げ、拳を固く握り締めた。

 

 

自分に与えられた真の≪必殺技≫を、ハルユキは今ようやく悟っていた。

 

 

≪パンチ≫。

 

 

そして≪キック≫。

 

 

それらは通常技であると同時に、必殺の超攻撃でもあったのだ。

 

 

握った拳を大きく後方に引き絞り、ハルユキは全てのフィンをいっぱいに拡げて体の向きを変えた。

 

 

一直線に、眼下のシアン・パイルへと。

 

 

「お...ちぃぃぃ、ろおおおッ!!≪ライトニング・シアン・スパイク≫!!」

 

 

技名の絶叫と同時に、シアン・パイルの右腕から、一条の光線と化した鋼針が発射された。

 

 

対するハルユキは、ただ拳を構えながら、両の羽の全推進力を解放させた。

 

 

「うっ...おおおおおおお!!」

 

 

どごおおっ!!

 

 

ロケットエンジンに点火したかのように、シルバー・クロウの体はひとつの光弾となって突進した。

 

 

視界の左隅で、緑の必殺技ゲージが一気に減少をはじめる。

 

 

同時に、右拳を包む白い光が、際限なくその輝きを増す。

 

 

「ハルウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

タクムが叫んだ。

 

 

「タク――――――ッ!!」

 

 

ハルユキも叫んだ。

 

 

キィィィィィン!!

 

 

ブレイン・バーストの加速を超える《超加速》感が背後から押し寄せ、ハルユキを包む。

 

 

世界の色が変わる。

 

 

地上から殺到するシアン・パイルの青い槍、その先端1点の煌きを、ハルユキは確かに見た。

 

 

予測される弾道が、視界に幻のように浮き上がった。

 

 

技の名の通り、まさしく雷閃のごとき一撃を、ハルユキの魂の速度が凌駕したのだ。

 

 

黒雪姫が見出し、信じた、真の《加速者》の力が。

 

 

槍の速度が落ちていく。

 

 

対するシルバー・クロウは、存在そのものが光になってしまったかのように、際限なくそのスピードを増す。

 

 

両者が接近し、交錯する――その瞬間、ハルユキはわずかに突進軌道を右にスライドさせた。

 

 

ざしゅううっ!!

 

 

槍がヘルメットの左側面を掠め、通り過ぎ、凄まじい火花を散らした。

 

 

直後。

 

 

ハルユキの《パンチ》が、シアン・パイルの胸板の中央を、深く、深く貫いた。

 

 

ずがああっ!!という轟音とともに、広場の床に深い轍を刻みながら、両者は1体となって吹っ飛んだ。

 

 

鉄槍の柵に激突し、それをバラバラに粉砕し、空中に躍り出る。

 

 

「っ...おおおっ!!」

 

 

ハルユキは一声吼えて、金属フィンを羽ばたかせた。

 

 

ぐうっと力強い揚力が全身を包む。

 

 

右腕の根本までをシアン・パイルの体に埋め込んだまま、ハルユキは軌道を上向け、高く、高く上昇した。

 

 

数秒で雲海を貫き、黄色い空へと飛び出す。

 

 

加速を緩めホバリングへ移行したその時、衝撃で一瞬気を失ったらしいシアン・パイルが、ハルユキの肩口に乗せたマスクの下で咳き込むような音を立てた。

 

 

「ご...ふっ...」

 

 

びく、びくんと巨体を震わせてから、のろりと顔を上げる。

 

 

直後に漏れたのは、これまでの怨嗟の怒声が嘘のような細い悲鳴だった。

 

 

「う...わ...!?と...飛ん...で...!?」

 

 

マスクを左右に振りながら、さらに叫ぶ。

 

 

「やめろハル...っ、お...落とすなッ!!今落ちたら...ま、負けッ...」

 

 

シアン・パイルの体力ゲージは半分を切っていた。

 

 

シアン・パイルはもがくことで落下するのを恐れてか全身を硬直させ、声の調子を懇願する物に変えた。

 

 

「ま...負けたら...レベル1のお前に負けたら、ポイントがゼロになっちゃうんだッ...お前はいいだろ、どうせ4,5ポイントしか減らないんだから!頼む、ここは譲ってくれハル!いまブレイン・バーストを失くす訳にはいかないんだよ!!」

 

「だったら認めるか、タク」

 

「......な、何を...」

 

「この戦いの敗北を...それを認めるかタク!!」

 

 

一瞬の沈黙。

 

 

密着した体を通して返ってきた言葉は、何かが抜け落ちたかのように静かだった。

 

 

「.....ああ。そうだね...やっぱり、僕は君に勝てなかった。昔一緒に遊んだ、いろんなゲームと同じように...」

 

「だったらお前は、俺の味方に...仲間になれ、タク。俺と同じように、これからはあの人の配下として戦うんだ」

 

 

タクムが絶句し、鋭く喘いだ。

 

 

しばらくして、掠れた呻き声が細いスリットの下から漏れた。

 

 

「...バカな、ハルも知らない訳じゃないだろう。君の親...僕が所属レギオンにも隠して狩ろうとした≪ブラック・ロータス≫は、加速世界最大の反逆者なんだぞ!つまり...あの人と一緒に戦う、ってことは...」

 

「そうさ。《純色の六王》を全員倒すんだ。ビビる必要なんかあるもんか。良い事を教えてやるよ...あのな、本来ゲームっていうのは、そういうモンなんだぜ」

 

 

言い放ったハルユキに、タクムは長い沈黙で応じた。

 

 

数秒後に発せられた言葉は、どこか自虐的な笑いを帯びていた。

 

 

「...ハル、君は信じられるのかい?たとえここでうんと言った所で、今更僕の言葉をどんな根拠で信じる気なんだ?所属レギオンの規則を破り、ブレイン・バーストのルールを破り、そしてたった2人の友達を両方裏切った僕の言葉を?」

 

「これから、2人でチユに全部話す」

 

 

即座に切り返したハルユキの台詞に、タクムは何度目かの驚愕の息を漏らした。

 

 

「え...!?」

 

「ブレイン・バーストの事、俺達が戦った事、そして...お前が隠し続けてきた気持ちも、全部あいつに打ち明けるんだ」

 

 

ハルユキは視線を遥か無限に続く空に向け、ゆっくりと言った。

 

 

「俺達は、多分そこから始めなきゃいけないんだよ。今まで3人とも、隠しちゃいけない事を隠し続けてきた。疑わなくて良い事を疑ってきた。どこかで...やり直さなきゃいけなかったんだ」

 

「...やり直せる...と、本当に思うの、ハル?僕は...僕は、チーちゃんのニューロリンカーに...」

 

 

震える声でそう言うタクムの背中を、左腕で軽く叩く。

 

 

「もし、謝り辛いなら俺もお前と一緒に頭を下げてやる」

 

 

ハルユキの言葉に、タクムはさらに声を震えさせる。

 

 

 

「な...なんでそこまでしてくれるんだ...ハル?さっきも言った通り...、僕は君を裏切って...」

 

「ダチだからに決まってんだろうが!!」

 

 

ハルユキの叫びにタクムの体が震える。

 

 

「お前が道踏み外したら、俺が今回みたいに殴って正気に戻してやる!お前が道に迷ったら、俺が道標になってやる!それがダチってもんだろうが!」

 

 

「...ハル...」

 

「チユも最初は怒るだろうな。怒鳴って、暴れて...でも、最後には許すさ、あいつなら」

 

 

ゆっくりと下降を始めながら、ハルユキは笑いを含んだ声でそう言った

 

 

 

 

マンションの広場に戻り、シルバー・クロウの右腕から解放されたシアン・パイルは、よろめくように数歩下がったあとどさりと床に座り込んだ。

 

 

ハルユキはちらりと残り時間を確認した。あと二分と少しで、長かったこの対戦も終わる。

 

 

念の為、ゲージをクリックして確認すると、残り体力は双方まったく同じ数値だった。

 

 

ハルユキの体力ゲージは満タンに近い状態だったが、先程の必殺技がかすった事により、さすがにレベル差があった為か、同じ体力までダメージを受けていた。

 

 

このままタイムアウトすればリザルトはドローで、ポイントの移動は発生しないはずだ。

 

 

その時、後から誰かが近づいてくるのを、気配で感じた。

 

 

ばっ!と後ろに振り返るとそこには、梅里中アバターの黒雪姫が立っていた。

 

 

「先輩、見ていたんですね」

 

「ああ、いきなり加速した時は肝を冷やしたぞ」

 

 

そう言って黒雪姫はハルユキに近づく。

 

 

「よく頑張ったな、ハルユキ君」

 

 

黒雪姫は伸ばした手で、ハルユキの頬撫でた。

 

 

「レベル差など顧みず、戦う姿は見事だったぞ」

 

 

黒雪姫は、手をハルユキの頬から、背中から伸びる薄い羽の縁をなぞった。

 

 

「綺麗だな...。これが君の力、シルバー・クロウの秘められたポテンシャルだったんだな。未だかつて...純粋な飛行アビリティを実現し得たデュエルアバターはひとつもない。やはり、私の予感は間違っていなかったよ。君こそが、この世界を変えていく者なのだ」

 

 

ひとしきり撫でた後、黒雪姫はハルユキから少し離れる。

 

 

儚げなシルエットの妖精姫は少しだけ力を込めた口調で言った。

 

 

「時が来たようだ...。私も、安穏とした繭から出て、再び空を目指すときが」

 

 

ちらり、と視線を後ろに向ける。

 

 

離れた場所に座り込むシアン・パイルは、座り込んだまま僅かに目線だけを上げて2人を見ていた。

 

 

「貴様にも...済まない事をしたな、シアン・パイル」

 

 

黒雪姫が発した言葉は意外な物だった。

 

 

「私は貴様との名誉あるべき《対戦》を幾度も汚した。今こそ見せよう、私の真の姿を。そして貴様が望むならば、全力で相手をしよう」

 

 

さっ、と右手を上げ、仮想コンソールを素早く操作する。

 

 

ばちっ。ばちばちっ!!

 

 

突然迸った黒い稲妻が、幾重にも妖精姫のアバターを包み込んだ。

 

 

慌てて数歩下がったハルユキの目の前で、青紫の光に包まれたシルエットが、少しずつ、少しずつそのフォルムを変えていく。

 

 

床近くまであったスカートが一気に短くなり、鋭いぎざぎざに分割される。

 

 

両手足がぴしっと完全な直線を作り、先端が針のように収斂する。

 

 

長い髪は光に溶けて消え、かわりに翼を後ろに伸ばした猛禽のような形のマスクが出現し――最後に一際激しい雷閃が屹立して、全てのエフェクトが消滅した。

 

 

その場に立っていたのは、黒水晶を削りだしたかのような、美しい、途方もなく美しいひとつのデュエルアバターだった。

 

 

全体のフォルムはシルバー・クロウにどこか似ている。

 

 

しかし身長は遥かに高く、170センチ以上あるだろう。直線を主体にしていながら流麗な、透明感のある黒い装甲に包まれたボディは人形のように細く、腰周りを取り囲む黒蓮の花に似たアーマースカートに繋がっている。

 

 

そして何よりも特徴的なのはその四肢だった。

 

 

両腕も、両脚も、ぞくっとするほど長く、鋭い剣なのだ。

 

 

触れるものは即座に両断されそうな、冴え冴えとした輝きを湛えたエッジがステージの微風にかすかに凛、凛と鳴っている。

 

 

Vの字を後ろに傾けた形の頭部の、前面は漆黒の鏡のようなゴーグルになっていた。

 

 

その内部に、ヴイイン、という震動音とともに2つの青紫色の眼が輝いた。

 

 

ハルユキはしばし、魂を抜かれたように立ち尽くした。

 

 

離れた場所で、シアン・パイルも同じように絶句する気配が伝わった。

 

 

両名ともに、凄絶なまでに美しいその姿と――それ以上に、華奢な漆黒の全身から発せられる底なしのポテンシャルに圧倒されたのだ。

 

 

仮に《対戦》すれば、自分は数秒と持たずに切り刻まれ、ばらばらの細片となって消滅するだろうとハルユキは確信した。

 

 

やがて、ハルユキはどうにかため息にも似た声を胸から押し出した。

 

 

「綺麗...です。すごく...綺麗だ...。先輩は前に、醜悪だなんて言ってたけど...とんでもないです...」

 

「ん...、そうかな...」

 

 

発せられた声だけは、元の黒雪姫のままだった。

 

 

「誰かと繋ぐための手すらないのに...」

 

 

その言葉は、最後まで続くことはなかった。

 

 

どおおおおっ!

 

 

突然周囲の建物から、凄まじい音量の驚声が一度に湧き起こったのだ。

 

 

「う、うおおー!おおおおおーっ!?」

 

 

「あれは...あのデュエルアバターは...!!」

 

「≪ブラック・ロータス≫!!≪黒の王≫だ!!健在だったんだ――ッ!!」

 

 

ギャラリー達の叫び声は、飛翔するシルバー・クロウを見たときのそれよりも明らかに倍以上のボリュームだった。

 

 

黒雪姫はちらりと周囲を見渡し、軽く肩をすくめると言った。

 

 

「さてと...シルバー・クロウ。私を連れて飛べるかな?」

 

「えっ、は......はい」

 

 

いかにポテンシャルが高かろうとも、実際の重量がシアン・パイル以上ということはあるまい。

 

 

しかし、連れて、と言ってもどうすれば...。

 

 

途惑うハルユキの目の前で、かすかな震動音とともにホバー移動してきた黒雪姫は、何気ない仕草で体の右側面を向けると両腕を持ち上げ、腰を落とした。

 

 

まるで、所謂≪お姫様抱っこ≫を促すかのように。

 

 

えーっ、と思うが、幾らなんでも走って逃げる事は出来ない。

 

 

銀ヘルメットの表面にだらだらと汗が――伝う錯覚に見舞われながら、ハルユキはぎこちなく両腕を差し出し、黒雪姫の背中と腰にあてがった。

 

 

「宜しく頼む」

 

 

どこか楽しそうな口調で言うと、黒雪姫はすとんとハルユキの両腕に体を預けてきた。

 

 

座り込むタクムの、気のせいかかすかに揶揄するような視線を浴びながら、意を決して黒水晶のアバターを抱え上げる。

 

 

幸い、やはり重量はさほどでもなく、ハルユキは背中のフィンを強く震動させると片足で床を蹴った。

 

 

ぎゅうっ!と、少し控えめに加速し空を目指す。

 

 

腕の中の黒雪姫は、背と首を伸ばすように眼下の街並みを見渡しながら、囁き声で叫んだ。

 

 

「これは...凄いな!病み付きになりそうだ...今度直結対戦して、30分たっぷり飛んで欲しいな...おっと、このへんでいい」

 

「はい」

 

 

頷き、ハルユキはホバリングに移行した。

 

 

高度はさほどでもない。

 

 

下方には、建物の屋上で尚もざわめきながらこちらを見上げている無数のデュエルアバター達がはっきり見て取れる。

 

 

黒雪姫は大きく1度息を吸うと——。

 

 

地平線の彼方まで届きそうな、凛と張った声で叫んだ。

 

 

「聞け!!」

 

 

途端、しんっ、とステージ中が沈黙する。

 

 

「聞け、六王のレギオンに連なるバーストリンカー達よ!!我が名はブラック・ロータス!!僭王の支配に抗う者だ!!」

 

 

うねる黒雲は身を縮め、吹き過ぎる風さえも息を潜めた。

 

 

視界内で動くものは、残り10秒となったタイムカウントだけだった。

 

 

静寂の中、高らかな宣言がどこまでも鳴り響いた。

 

 

「我と、我がレギオン≪ネガ・ネビュラス≫、今こそ雌伏の網より出でて偽りの平穏を破らん!!剣を取れ!!炎を掲げよ!!戦いの時――来たれり!!」

 




あけまして、おめでとうございます!


投稿が遅くなり、申し訳ございません!!


思ったより、時間が掛かってしまいました!!


まず、アクセル・ビルドとのちがいですが、最後の現実世界に帰って来てからの戦闘、そして能美とスタークの登場をカットしたことですかね。


原作を元にした以上、必要ないと思ったからです。


それでは次回、第12話もしくは、LOVE TAIL第14話でお会いしましょう!!
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