アクセル・ワールド ベストマッチな加速能力者 作:ナツ・ドラグニル
美空「飛行アビリティを駆使し、レベル差を物ともせずシアン・パイルを圧倒し、話し合いでドローに持ち込んだのでありました」
兎美「それにしても、加速世界唯一の飛行アビリティか」
美空「自由に空を飛べるなんて、うらやましいな~」
兎美「まぁ、チユリが見つけたホークガトリングを使えば、私も飛べるようになるし!!」
美空「何張り合ってるのよ」
兎美「良いでしょ別に!!さて、どうなる第12話!!」
第12話
ピッ!
笛の合図を聞き、チユリは走り出した。
ハルユキはチユリに話を聞いてもらう為に、兎美のバイクで学校に行って陸上部の練習が終わるのを待っていた。
「まったく、なんでハルがあいつの代わりに行かないといけないのよ」
「しょがないだろ。あいつは青の王の所に脱退の報告に行っているんだから」
兎美はタクムが居ない事に悪態をつき、ハルユキがなだめる。
兎美と話していると、チユリがこちらを見ている事に気付きハルユキは手を上げて返事をする。
だが、チユリはすぐに顔を背けその場を離れる。
「そうとう怒ってるみたいね、彼女」
「だな...」
そう言ってハルユキ達はその場を離れ、帰宅する。
☆★☆★☆★
場所は変わり、黛 拓武ことシアン・パイルは青のレギオン《レオニーズ》を脱退する為、青の王の元に訪れていた。
シアン・パイルの前にF型の鎧武者を連想させる、2人のデュエルアバターが立っていた。
青の王の側近、レベル7の『コバルト・ブレード』と『マンガン・ブレード』だ。
「あなた達2人...」
「そうだ、勝つ事が出来ればお前は自由だ」
「黒の王だろうと誰であろうと、好きな所に行くがよい」
「それが
少し離れた場所で、青の王『ブルー・ナイト』が見ていた。
「はあ!」
コバルト・ブレードの1撃を受け、ステージ上にあるトラップにぶつかり、ダメージを受けてしまう。
「ぐっ!」
「どうした?もう終わりか?」
「もとより勝ち目の無い戦い、今愚考を改めるというのなら...」
コバルト・ブレードが話している途中で、シアン・パイルは立ち上がる。
「こ...こいつ」
「痛覚拡張加えた上で、ここまで耐えられるとは」
シアン・パイルが立ち上がった事に2人が驚いていると、後ろからブルー・ナイトが近づいてきた事に気付き、武器を収め後ろに下がる。
「
「コバル、マーガ」
「「はっ!」」
「ポータルに捨てて来い、断罪は免じてやる」
「「はっ!」」
「ありがとうございます」
☆★☆★☆★
『それで?あの後チユリに会いに行ったんでしょ?』
兎美は運転しながら直結して会話していた。
『ああ、タクと2人で言って全部話してきた。加速世界で戦った事も、タクがバックドアを仕掛けた事も、騙していた事も』
『それで?チユリは何て?』
『凄い怒ってたよ。いきなり辞書を投げ付けられて、涙をいっぱい浮かべてタクが引っぱたかれて』
『そう、だからハルの顔も赤かったのね』
そう言いながら、兎美は顔を赤くして帰ってきたハルユキの顔を思い出す。
『まさか辞書が飛んで来るなんて思わなかったから、もろに直撃を受けてな...それからは話も聞いてくれなくて...』
『まあ、怒るのも当然よね。それでこれからどうするの?』
『これは俺とタクで何とかしないといけないことだからな。タクも言っていたんだ、きちんと罪を償うつもりだって』
『償う?』
『ああ』
『確か、あいつは新宿区の中学校に通ってるのよね?』
『俺やチユリよりずっと頭がいいから、中高一貫の所に進学したんだ。スポーツも万能で』
『そう』
『だから、ネガ・ネビュラスの凄い戦力になると思うんだ。明日も2人でタッグ戦に行こうって誘われてて、すぐに俺をレベル2にするって言ってるんだ』
『好きなのね、あいつの事が...少し妬いちゃうな』
『えっ?』
『裏切られ傷つけられても、なお許し合う事が出来る。そんな友達がいることが...』
『親友だからな、タクは。それにお前には、俺と美空がいるだろう?』
『そうね』
ハルユキの言葉に、兎美は顔が熱くなるのを感じた。
☆★☆★☆★
翌日、ハルユキはタクムと一緒にタッグデュエルを行っていた。
「ハル右!」
「ああ、見えてる!」
シルバー・クロウは相手の攻撃を避けながら、翼を展開し空に飛び上がる。
「あれが完全飛行型」
「感心してる場合か!この野郎!この野郎!」
相手の片割れが、岩をシルバー・クロウに投げるが流れる様な動きで全てかわす。
「あと5秒...」
「4、3...」
シアン・パイルは攻撃するが相手に避けられてしまう。
「2...」
「1...」
TIME UP!
YOU WIN!
炎のエフェクトを纏った文字が視界中央に浮き上がり、続けてバーストポイントが加算されるのを、有田春雪は固唾を呑んで見詰めた。
2対2のタッグ対戦だが、双方のレベル合計値が等しいので、獲得ポイントは基本値の10。
何度聞いても心地良い、金属質のサウンドを響かせながら、現在の総保有ポイント数値が上昇する。298から――308へ。
直後、これまで1度も見たことのないシステムメッセージが数字の下に追加された。
曰く、【YOU CAN UP TO LEVEL 2】――《レベル2に上昇できます》。
「やっ...たあ...!」
ハルユキは、銀色のアバター《シルバー・クロウ》の右腕を突き上げ、無意識の内にガッツポーズを決めていた。
対戦相手のレベル2と3のコンビが、忌々しげながらも祝いの言葉を口する。
「おめっとさん!」
「レベルアップ・ボーナスは考えて選べよ!」
直後、揃ってバーストアウトしていく2人に、ハルユキは慌ててぺこぺこ頭を下げた。
周囲のビル屋上に陣取るギャラリー達も、拍手や祝福の言葉を残して次々と消滅する。
最後に残ったタッグパートナー、青い重装甲と貫通型強化外装を持つレベル4の《シアン・パイル》もまた、大きくひとつ頷いてから言った。
「おめでとう、ハル。まあ、ハルの実力だったら当たり前だけどね」
「ははは、ありがとう、タク」
実際、この2週間というもの、ハルユキはシアン・パイルこと黛 拓武に、何から何まで助けられた。
デュエルアバターの装甲色や、対戦フィールドの属性が持つ特徴と、対応する戦略。
対戦が盛んな場所と時間帯、そして各エリアに於けるローカルルールやマナー。
そんな《ブレイン・バースト》関連の情報教示をしてくれた。
いかにハルユキ――シルバー・クロウが、加速世界7年の歴史に於いて初めて出現した《完全飛行型デュエルアバター》だとしても、タクムの親身な手助けがなければこれほど短期間に300ポイントは貯められなかっただろう。
仮面ライダーとして戦っているハルユキでも、相性や属性等が分からなければ負けていた事も考えられる。
なぜ、《親》である黒雪姫が教示していないのかと言うと、タクム本人からの要望があった為、タクムが教えている。
だから、タクムがかつて所属していた青のレギオン《レオニーズ》を脱退し、黒のレギオン《ネガ・ネビュラス》に移籍して一時的な教官役を務めてくれていることには、本当にどれだけ感謝してもしきれないのだ......。
というような気持ちを短い言葉に精一杯込めたつもりのハルユキに、タクムは精悍なフェイスマスクの奥から、静かな声と微笑みを返してきた。
「まだまだ、これくらいじゃ僕の罪はひとかけらだって雪げちゃいないよ」
「...タク...」
口ごもるハルユキから眼を逸らし、タクムは《古城》ステージの満月を見上げた。
「それにねハル、今回は何も無かったけど...僕がマスター...黒の王を卑劣な手段で何度も襲撃して、取り返しのつかない事もあったかもしれないんだ」
「関係ねぇだろ、タク。お前の言う事は只の推測だろ。それに、考えてみろよ、もしお前が先輩に乱入し続けなければ、あの人はローカルネットに引きこもったまま《子》を作ろうとはしなかったはずだし...てことは、俺がバーストリンカーになることも無かった筈じゃんか。つまり、俺が今加速世界で戦えてるのは、元を辿ればお前のお陰って事でもあるんだし...」
フォローと言うには余りにも強引な論理展開だったが、それでもタクムは、青白い月を見上げたままわずかに肩の力を抜いた。
「...ふ、ふふ。君は変わってないね、ハル。小学校の頃から、何ひとつ...」
耳に届いた密やかな囁きに、ん?と首を傾げる。
「それって、褒めてる...と解釈していいんだよな?」
「はは、もちろんさ」
タクムは肩を揺らして短く笑うと、今度は完全に後ろを向いてしまう。
現実世界の彼と同じように大きな背中に、もう一度「ありがとうな」と呟くと、ハルユキは視界上部中央のタイムカウントを確認した。
1800秒から始まったそれは、タッグマッチが案外早く決着したためにまだ200秒近くを残している。
いったん対戦を終えてからブレイン・バーストのメニュー画面を操作するとなると、バーストポイントを余分にもう1ポイント消費しなくてはならない。
3分あれば充分だろう。
そう判断し、ハルユキは自分の体力ゲージに手を伸ばすと、メインメニュー―通称《インスト》を開いた。
軽やかな効果音と共に、市販のVRMMO-RPGによく似たデザインのホロウインドウが視界中央に展開する。
初期画面には、自分のデュエルアバターを簡略化したシルエットが表示される。
同画面内のボタンを触れれば、そのシルエットが動いて通常技と必殺技の動作を教えてくれが、ハルユキは以前気付いた事を口にする。
「それにしても...まさか文字化けしてる必殺技がクローズの必殺技だとは思わなかったな...」
「それはさすがに予想できないと思うよ」
前に加速した際に必殺技を確認していたら、ヘッドバット以外にも必殺技がある事に気付いた。
確認してみるとクローズの必殺技『ドラゴニックフィニッシュ』が表示されていた。
上部には、ストレージやポイント操作画面に移動するタブが並ぶ。
ストレージにはクローズに変身する為の『ビルドドライバー』と『クローズドラゴン』が表示されていた。
「まさか加速世界でも変身出来るようになってるなんて」
「本当だよね...」
試しに変身したら、現実世界と同じ様にクローズに変身できた。
「まあ、こっちではいざという時にしか使わないだろうな」
「そうだね」
シアン・パイルと話しながら、ハルユキはストレージからポイント画面に移動する。
途端、窓の上部中央に【308】という数字がでかでかと表示された。
無論、現在の総保有ポイントだ。何度見ても、ヘルメットの下で口許が緩んでしまう。
現実世界での貯金が初めて1万円を超えた時よりずっと嬉しい。
なぜならこのポイントは、文字通り自分の手と足(ときどき翼)で稼ぎ出した物だからだ。
―レベル2になったって知らせたら、先輩、喜んでくれるかな。
いや、きっと澄まし顔で『まだまだヒヨッコだ』とか言うんだろうな。
そんなことを考えながら、ハルユキはポイント使用ボタンに触れ、出現した各種メニューの1番上に明るく輝く【LEVEL UP】のボタンを押した。
英語で、300ポイントを消費してレベルを2に上げていいかという確認ダイアログが聞く。
ユーザーインターフェースが素っ気無いブレイン・バーストにしては珍しいな、と感じつつハルユキはYESボタンに指を―
瞬間、少し離れた場所で夜空を仰いでいたシアン・パイルが、何かを感じたかのように振り向いた。
ハルユキの仕草を視認して、びくりと体を震わせ、一歩踏み出しながら叫ぶ。
「だ...駄目だハル!ストップ!!」
しかし、その絶叫が耳に届いた時には、ハルユキの指はもう【YES】の3文字を押し込んでいた。
クールかつエキサイティングな旋律のレベルアップ・ファンファーレが聴覚いっぱいに鳴り響く。
視覚中央に、レベルが2に上がった事を告げるメッセージ。
そして、最後に。
保有バーストポイント残高が、308から、8へと変化した。
☆★☆★☆★
自分が何をしでかしてしまったのかをハルユキが遅まきながら理解したのは、30分の対戦時間が終了し、ダイブに使っていた新宿区立角筈図書館の閲覧ブースで覚醒した後だった。
リクライニング・チェアに呆然と体を預けたままでいると、すぐにブースの扉が外から開かれ、素早く伸びてきた手が、ハルユキの首に装着されたアルミシルバーのニューロリンカーを強制的に引き抜いた。
視界に表示されていた仮想デスクトップが一気に全消滅する。
他人のニューロリンカーをいきなりむしり取るなど、見知らぬ他人に行えば明確に犯罪だし、親しい友人同士でも最大級のマナー違反と言える。
しかし今、ハルユキのブースに身を乗り入れる黛 拓武―タクムにはどうしてもそうしなくてはならない理由があった。
それをハルユキ自身も今は痛いほど理解できていた。
なぜなら、ハルユキは今、バーストポイントをたったの8しか持っていないからだ。
誰かに乱入され、負けて10ポイントを失った時点で全損、ブレイン・バーストを強制アンインストールされてしまう。
ようやくその事実を認識したハルユキは、愕然と見開いた両眼で、ブルーグレーの詰め襟学生服姿のタクムの顔をただ見つめた。
親友の唇が震え、掠れた声を漏らした。
「...なんてことだ...。ごめんよ、本当にごめん、ハル。君に、一番大事な事を伝えるのを忘れてしまうなんて...。《たとえレベルアップ可能なポイントに達しても、すぐにレベルを上げてはいけない》...教官役を務めるなら、他の何を忘れても、これだけは絶対に教えなきゃいけなかったのに...」
———そう。
ブレイン・バーストというゲームに於ける《レベルアップ》は、他のゲームのように経験値が一定数値に達した時自動的に発生する現象ではなく、獲得したポイントを消費して贖うものなのだ。
レベル1から2に上げるために必要なポイントは300。
ということは、総保有ポイントが308の時点でレベルアップ操作をすれば、残額がたった8になってしまうのは自明の理だ。
だからこそ、《すぐにレベルを上げてはいけない》のだ。
ポイント消費後も安全圏に留まれるだけのマージンを確保する。それが、レベルアップの絶対条件―。
唇を噛むタクムの顔を見上げ、ハルユキは同じく掠れきった声で呟いた。
「...タク...俺...馬鹿だった...。少し考えれば...当たり前の事だったのに...。300ポイント貯まっただけで、有頂天になって...馬鹿だ、俺...」
今更の様に、自分の《バーストリンカーとしての命》が今や風前の灯火であることを強く意識する。
黒雪姫にプログラムを与えられてからの半月で、ハルユキの総ポイントは最も減少した時でも70はあったのだ。
それが、今や8。
もしタクムが強引にニューロリンカーを除装してくれず、前の対戦の直後に誰かに《乱入》されて負けていれば、ハルユキは今頃ブレイン・バーストを失っていた。
「ハル」
不意に、右手を強く掴まれた。
側面のスライドドアから狭い閲覧ブースに上体を乗り入れたタクムは、いつもは涼しげな両眼に熱のこもった光を浮かべ、強く囁いた。
「大丈夫だ、ハル。まだ終わってしまった訳じゃない。ここからでもリカバリーする方法はある。とりあえず、君の家に行こう」
「...タク...」
2週間前の《マンションの決闘》以降、ハルユキの教官役を務めてくれていたタクムだが、昔のようにハルユキの自宅を訪れることは1度もなかった。
何回か誘いはしたものの、微笑みながら首を横に振るばかりだったのだ。
まるで、自分にはその資格がない、と言わんばかりに。
しかし今、急転直下の緊急事態を受けて、タクムの頭からもそんな遠慮は吹き飛んでしまっているようだった。
「あ、ああ、行こう。ここじゃ詳しい話は出来ないもんな」
小刻みに頷き、壁のフックから学校指定のバックを外しながら立ち上がる。
2人が放課後の《対戦》に利用してきた角筈図書館は、フルダイブ可能な電子書籍閲覧ブースだけでも200席以上備えた巨大施設だ。
放課後は近隣校の小・中・高校生がひしめいているために、たとえ対戦フィールドへの出現位置を見られてもリアル割れの危険がない便利な場所だが、さすがに肉声で《ブレイン・バースト》関連の話をし続けるのは無謀すぎる。
と言って周囲に同年代の生徒が山ほどいる場所でタクムと直結するのも躊躇われる。
などと考えながら、早足で前を歩く親友を追いかけていると、ようやく背中に滲む冷汗も乾いてきたようだった。
残りたった8ポイントでも、タクムが大丈夫と言うならきっと何とかなる。
自分にそう言い聞かせながら、ハルユキは自動ドアを潜り、11月の少し冷たい外気を大きく吸い込んだ。
☆★☆★☆★
都庁前から、青梅街道を下るバスで杉並区高円寺北の自宅マンションに移動、居住者用エレベーター前の認証ゲートを通過した時には、空はかなり暗くなっていた。
ハルユキはここまでずっとニューロリンカーを外しっぱなしで、バス代もタクムに立て替えて貰ったので、正確な時刻は解らない。
もちろん、グローバル接続をキャンセルしてから装着すれば他のバーストリンカーに乱入される危険は無い筈だが、《万が一》を考えるとそちらの方が良いと判断した。
いつもは向かい側のA棟に帰るタクムと、何年ぶりかに同じエレベーターに乗る。
B棟23階で降り、自宅のドアロックを、インターホンに内蔵された非常用の指紋・網膜認証で開錠。
「おじゃまします」
そう口にしながら、ハルユキに続いて玄関に踏み込んだタクムは、そこで初めて自分が久々に有田家を訪問しているのだと気付いたかのように、少しだけ微笑んだ。
「...懐かしいな。1年半ぶりだね」
「そうか...タクが最後に来たのは兎美達を拾う前だからな...もうそんなになるのか...」
スリッパを取り出しかけた手を止め、ハルユキは脳内の記憶を辿った。
タクムが最後にこの家に来た――正確には《来なくなった》のは、彼がチユリに告白してしばらくした頃だったはずだから、小学6年の春あたりか。
今が中1の秋なので、確かに1年と半年も経ってしまっている。
「ウチにも、このスリッパまだあるんだぜ」
冗談めかした言い方をしながら、ハルユキはタクムの足下に、今では少し小さくなりすぎた薄黄色のスリッパを並べた。
甲の部分に、緑の糸で可愛らしいゾウの顔が刺繍してある。
自分用にも、普段使っていないお揃いのスリッパを出す。
こちらの刺繍は青いクマだ。
ラックには、これも1年半使われていないが、チユリ用のピンクのウサギつきも残っている。
これらは、確か小学4年生のクリスマスに、3人で同じスリッパを3足ずつ買い、お互いにプレゼントしあった物だ。
つまり、ハルユキの家だけでなく、チユリの家にも、そしてタクムの家にも、緑ゾウ、青クマ、桃ウサギのスリッパ小隊が配備されたことになる。
倉嶋家にも小隊が今なお健在なのは、2週間前に2人で《バックドア・プログラム》の1件を謝罪しに行った時に確認済みだ。
タクムは、ハルユキの言葉にもう一度微笑み、さすがにややきついスリッパに足を差し込みながら言った。
「...ウチのはね、6年生の時に母親が勝手に捨てちゃったんだ。僕が親の前で泣いたのは、あれが最後だったな...」
「そっか。じゃあ、今年のクリスマスはまたこのスリッパセット買いに行くか?」
ハルユキが真顔で言うと、タクムは短く声を出して笑った。
「はは...、さすがにコレはもうサイズ的に難しいよ。揃えるなら、マグカップとかどうかな」
「おお、さすが黛先生はオシャレな事を言いますね」
どん、と背中をどつかれ、大袈裟によろけるふりをする。
2人でふざけあっていると、リビングのドアが開いて兎美と美空が姿を見せた。
「お帰り、ハル」
「お帰り、今日はそいつも一緒なのね」
「ただいま、ちょっと色々あってな」
ハルユキは2人に返事をした後、美空の問いに何とも言えない顔をする。
「それで?レベル2にはなれたの?」
「ああ...なったにはなったんだが、ちょっとトラブルが発生してしまいまして...」
『?』
ハルユキの歯切れの悪い言い方に2人は首を傾げる。
☆★☆★☆★
その後、4人はハルユキの自室に移動した。
ハルユキの自室は、南のベランダに面した6畳だ。
ずっと昔に離婚して家を出て行った父親が書斎に使っていた部屋で、東の壁一面が、今時珍しいビルトインの書架になっている。
父親はそこにコレクションしていた前世紀のハードカバー書籍を並べていたが、ハルユキはもちろんそんなもの1冊も持っていない。
代わりに贅沢な天然木の棚を占拠しているのは、フルダイブ技術が実用化される以前の旧型ゲームハードと、それら専用の光学ディスクやメモリーカードのゲームパッケージ達だ。
中には、当時の
一応、簡単に見つからないようにカモフラージュはしているので大丈夫だと思っている。
タクムは、いっそう懐かしそうな顔で棚に近づくと、パッケージの背中を指先で1つずつ順になぞった。
「――雨で外遊びが出来ない日は、この辺のゲームを3人で夢中になってやったよね。このレースゲームとか...ああ、この格闘ゲームも。大抵のタイトルはハルが1番上手かったのに、これだけはチーちゃんがなぜか鬼みたいに強くて、2対1でも全然勝てなかったよね...」
「あー、そうだったなあ...。もしかしたらアイツ、バーストリンカーになっても超強かったりして...」
2人で顔を合わせ、同時に「それはない!」という意味のにやにやを浮かべる。
もちろん、3人が毎日一緒に遊んでいた3~4年前の時点で、《ゲーム》と言えばニューロリンカー用の視界投影型、あるいはフルダイブ型が当たり前になっていた。
しかし、ゲームを含むアニメ、コミック等のコンテンツのレーティング基準は年々厳しくなる一方で、小学生が遊べる新作ゲームは軒並み知育系かパズル系、あるいは牧歌的グラフィックのアドベンチャー系がせいぜいだ。
大人に頼んでゲームカードを買ってきて貰っても、子供のニューロリンカーではロードすら出来ない。
そこへ行くと、ハルユキが有田家ホームサーバーに残ったままの父親のアカウントを流用して――さすがに商品代は母親がくれる昼食代を節約して貯めたが――通販で買い集めた旧世代のゲームタイトルは、レースならクラッシュ・爆発当たり前、格闘なら殴るわ蹴るわビームは出すわ、シューティングならゾンビやクリーチャーを銃を使って倒すわ、RPGに至っては竜や獣を倒し、素材を使って武器を作ってさらに強いモンスターと戦うという素晴らしい仕様だった。
たとえ画面が2Dで、コントロールを握る指が痛くなろうとも、子供用のお仕着せゲームとどちらが楽しいかは考えるまでもない。
もちろん、中学生になった今では、レーティング12+の撃ったり斬ったりするニューロリンカー用ゲームをいくらでもプレイ出来る。
ハルユキ自身、約半月前までは、学校でのストレスを殺伐としたFPSやスリリングなレースゲームで発散する日々を送っていた。
だが今や、それらの起動アイコンは仮想デスクトップに存在しない。
なぜなら、知ってしまったからだ。
もう1つの現実を舞台にした、究極の対戦格闘ゲームを。
あの世界の圧倒的情報量、ひりつくようなバトルの駆け引きを1度体験してしまえば、もう後戻りはなんか出来ない。絶対にしたくない...。
「それで?そろそろ状況を説明して欲しいんだけど?」
我慢出来なくなったのか、美空が話しかけてきた。
「ああ、ごめん。つい懐かしくて...」
美空の言葉にタクムが謝る。
その後、兎美と美空にレベル2に達したがポイントが8しか残っていない事を伝えた。
「まったく...ハルらしいわね。どうせテンションが上がって、後先の事も考えずにレベルを上げたんでしょ?」
「はは、良くお分かりで...」
ハルユキ達の話を聞き、美空は呆れていた。
「それで?どうすればハルは助かるの?」
兎美の言葉を聞いて親友の整った横顔を見やり、ハルユキは訊ねた。
「そうだタク、さっき『まだリカバリーする方法ある』って言ったよな。いちかばちかで対戦する以外に、本当にそんなのあるのか...?ポイントはもうたったの8しか残ってないのに...」
「ああ、大丈夫。君を全損になんかさせやしないさ」
深く頷いたタクムは、やや予想外な言葉を告げた。
「ハル、直結用のXSBケーブル持ってるよね?」
「え...あ、ああ」
頷き、左側にある机の引き出しから、束ねた銀色のコードを取り出す。
長さ2メートルのそれを受け取ったタクムは、片方の端子を自分の青いニューロリンカーに挿入しながら、いっそう驚くべき台詞を口にした。
「これから、直結対戦で、君に僕の保有ポイントを半分移動させる。それで、取り合えず即死の危機は去る。あとは、時間と場所を選んで、タッグマッチを1戦1戦死に物狂いで勝ち抜いて何とか安全圏まで戻すんだ」
「......!」
「「......」」
ハルユキは思わず息を呑み、兎美達は黙って見ている。
確かに、直結対戦には《同じ相手への乱入は1日1回》の制限がない。
対戦を何度も繰り返せば、ポイントを望むだけ移動できる理屈だ。
余りにもシンプルかつ即効性のある危機回避策。
呆然としたままのハルユキの手に、タクムはプラグのもう一方を握らせる。
「さあ、ハル」
促されるまま、自分のニューロリンカーの直結用端子にプラグを差し込もうと——したその寸前、ハルユキはぴたりと手を止めた。
数十センチ離れた所にあるタクムの顔がかすかに歪み、次いで何かに耐えるような笑みが口許に浮かぶ。
「ああ...もちろん、僕を信じて貰えるかどうかがこの手段の大前提だけどね。僕が君を騙し討ちして倒せば、君はその瞬間ブレイン・バーストを...」
「ち、違う。違うよ、そうじゃないんだ、タク」
ハルユキは無意識の内にタクムの左肩を右手で掴んでいた。
学生服の生地の下で、逞しい筋肉が強張っているのを感じながら、懸命に言い募る。
「俺、お前が裏切るとかそんな事これっぽちも考えていない。そうじゃなくて、その逆...お前に、そんな事までさせる権利が、俺にあるのかって...」
「な...何言ってるんだ、ハル!」
途端、体ごと向き直ったタクムが、同じ様に右手でハルユキの左肩を強く握った。
理知的な顔に一心な表情を浮かべ、叫ぶ。
「今はそんな事気にしてる場合じゃないだろう!次に、同レベル相手に1敗して10ポイント奪われれば、君はブレイン・バーストを強制アンインストールされちゃうんだ!そしてそれは、大事な事を伝え忘れていた僕のせいだ!だから僕が、ポイントを分けるのは当たり前...」
「でも、お前だってポイントに余裕ないはずだろ!」
端から見ればケンカしているとしか思えないだろう勢いで、ハルユキもそう反論する。
「あなた達、少し落ち着きなさいよ」
2人を落ち着かせる為、兎美が話しかける。
「あんたも少しはハルの気持ちを考えなさいよ。大事な親友にそんな事出来るわけないでしょ」
美空がタクムに対して意見する。
「ハル、あなたも熱くならないの。少しは落ち着かないと言いたい事も言えないでしょ?」
兎美の言葉を聞き、ハルユキはタクムから離れ、深呼吸して熱くなっていた頭を冷やす。
「タク、美空の言う通り親友にそんな事したくないんだ」
「ハル...」
「それに、俺は対戦を楽しくやりたいんだ。だからそんな事をすれば対戦を汚す行為だと思うんだ...俺は1人のバーストリンカーとしてそんな事はしたくない。だから加速世界では出来るだけクローズの力は使いたくないんだ」
数秒間、タクムは何も言わなかった。
やがてその白皙に、仕方ないなあ、というような仄かな笑みが浮かんだ。
「...相変わらず、一度決めたら頑固な奴だなぁ、ハル」
しばらく話し合った後、タクムが考えていた方法の他にアイデアが思いつかなかったので今日はお開きになった。
「じゃあ、他に何か手は無いか考えてみるよ。それまでは絶対グローバル接続はしない事」
タクムは玄関で靴を履きながら今後について話す。
「ああ、悪いなわがままばっかり言って...」
ハルユキは罰が悪そうに頭を掻く。
「それじゃあ、ハルが接続しないようにちゃんと見といて下さい」
「ええ」
「分かったわ」
タクムは兎美と美空にハルユキの事をお願いする。
タクムが帰ろうとした時、タクムのニューロリンカーから着信音が鳴った。
「あっ、チーちゃんからだ」
「え?」
「チユリから?」
タクムの言葉に、ハルユキ達は驚く。
「それで?チユリはなんて?」
美空がタクムに質問する。
「えんじ屋のアイスを全種類おごってくれたら許してくれるって...」
『はい?』
タクムの言葉に3人は言葉を失った。
☆★☆★☆★
その後、ハルユキとタクムはえんじ屋で全種類のアイスを買い、チユリの部屋に向かった。
「買ってきた?」
チユリは玄関で仁王立ちして、ハルユキ達に質問する。
「はい、これだよな?」
ハルユキは、えんじ屋の袋をチユリに渡す。
受け取るとチユリはそのまま部屋に向かい、ハルユキ達は何も言わず後に続く。
「本当に全部食べるつもりかい?」
チユリがある程度アイスを食べた所でタクムが話しかける。
「何も一度に食べようとしなくても...」
「えんじ屋のアイス一度に全部食べるのが夢だったの。それに、これおごってくれたら許すって言ったんだから食べ終わらないと許せないでしょ?」
「で...でも...」
「早く終わりにしちゃいたいのよ。会う度にハルは学校で申し訳なさそうな顔でこっち見てるし、タッ君は顔を見れば謝ってくるし...」
「だってチユ、怒ってるっぽいから」
「別に私だって怒りたくなんかないわよ!私から“もういいの私全然気にしてないから”とか言うのも何か変でしょ?」
「それは確かにそうですが...」
チユリの言葉に、ハルユキは同意する。
「それよりさ、2人ともそのブレイン何ちゃらって言うのまだ続けるつもり?」
「えっ?いやまあそうだけど...」
「ふーん、黒雪先輩が夢中だからあんた達も夢中なわけ?」
「確かに、きっかけは先輩だけどそれだけじゃないっていうか...」
「僕はあんな事をしてしまったけど、ブレイン・バーストそのものに罪はないよ。特にハルのアバターは完全飛行型で...」
チユリの言葉にハルユキ達は各々答えるが、2人の要領の得ない言葉にチユリは声を荒げる。
「ああ、良く分かんない!要は単なる格ゲーじゃないの?」
「まあそれはそうですが...」
「説明するより実際に見てもらった方が早いかもしれないな」
タクムは少し考えるとチユリに話しかける。
「チーちゃん、ちょっとそこにある辞書を僕に投げつけて見てよ」
「えっ!?タッ君に!?」
タクムの言葉に、チユリは驚く。
「ブレイン・バーストの力が分かる。なっ?」
「あっ!そういうことか」
「何よ2人だけ分かったような話して、良いわよ本気で行くからね!うりゃ!」
そう言って、チユリは辞書をタクムに投げつける。
「バーストリンク」
タクムはコマンド発動後、辞書を容易に避ける。
「あっ...」
「偶然だと思うなら続けていいよ」
「むう」
タクムの言葉にチユリはむきになり、何度も辞書を投げつける。
「バーストリンク、バーストリンク、バーストリンク」
「はあ...はあ...はあ...」
「どう?」
「これでさすがのチユも分かっただろう?これがブレイン・バーストの本当の...」
「ふん!」
「おご!」
ハルユキがかっこつけて話していると、ハルユキ目がけて辞書が投げつけられる。
「チーちゃん...」
「何かむかついた。それにお腹も痛くなってきたし」
「それは...只の食べすぎだろ...」
チユリの言葉にハルユキが突っ込む。
「まだ残ってるけど...」
「手伝って!3人で食べるの!罰でしょ?」
「罰って...」
「痛てて...、タク食べよう」
「ハル」
「早くしてよ溶けちゃうわよ!」
ハルユキ達は顔を見合わせて笑い、アイスを手に取る。
「俺はスペシャルプリンにしようかな」
その時、タクムが思い出したかのように、チユリに話しかける。
「そう言えば、チーちゃんもハル達の事知ってたんだね」
「え?ああ、仮面ライダーの事?前にちょっとね」
「黒雪姫先輩も知ってるぞ。俺が最初に変身したのは先輩の前だから」
「ああ、そうなんだ」
ハルユキ達の話を聞いて、チユリは血相を変える。
「ちょっと待ちなさいよ!ハル、あんた変身したの!?」
「え?ああ、スマッシュになった荒谷が俺と先輩を襲って来てその時にな」
「もしかしてタッ君、ハルが変身した所見たの!?」
「え?いや僕はまだ見た事ないよ」
タクムが見た事ないとした途端、チユリはまたハルユキに詰め寄る。
「ちょっと!!なんで変身した事黙ってたのよ!!!」
「無茶いうなよ!!てゆうか!!会いに行っても無視してたのはお前の方だろ!!」
「だったら、今ここで変身しなさいよ!!」
「スマッシュもいないのに、出来るわけないだろ!!」
「えぇぇぇぇぇっ!!」
チユリは不満そうに、頬を膨らませて拗ね始める。
「まったく...それで?タクはどれにするんだ?」
「ははは、そうだね。えっと、パインボンバー、ベリーベリーチェリー、デンジャラスバナナ、チョコバウンサー、バウンサー...」
「うん?チョコミントか?」
「ハルはまだレベル2」
「え?」
「バウンサーだ!バウンサーという手があった!」
「バウンサー?」
「《用心棒》を雇うんだ!ポイントが、もう一度安全圏まで回復するまで」
どうも!!ナツ・ドラグニルです!!
今回は、ハルユキのオッチョコチョイでポイントが危険領域に入ってしまう話でした。
また、チユリとも仲直りする事が出来、元の幼馴染に戻る事が出来ました。
そして、用心棒を雇う事でハルユキを助けられる事に気づいたタクム。
その用心棒とは何者なのか...
まぁ、アクセル・ビルドを見てる人は分かると思いますが...
それでは次回、第13話もしくはLOVE TAIL第15話でお会いしましょう!!