アクセル・ワールド ベストマッチな加速能力者 作:ナツ・ドラグニル
千百合「そこで、事故で1人の女性と一緒に転倒してしまったハルユキだったが、その人物がなんとアクア・カレント本人であったのでありました」
美空「というより、ハルはどんだけおっちょこちょい連発すれば気が済むのよ!!てか!!たまたまぶつかった相手が目的の相手ってどんな奇跡!!?」
兎美「えーと...それなりに人がいたとはいえ、特定の人物に接触できる確率は...」
美空「計算しなくてもいいわよ!!そういう事を言ってるんじゃないから!!」
千百合「さて、ハルユキは無事に対戦を終える事が出来るのか...どうなる第14話」
取り敢えず、済ませるべき事を済ませて男子トイレから出てきたハルユキを、眼鏡の女の子は有無を言わせず元のテーブルに連行した。
幸い壁側の椅子はソファ型だった為、ハルユキは兎美と隣り合わせで座り、女の子は向かい合わせに腰を下ろし、無言でじろりと視線を向けてくる。
とても眼を合わせていられず、ハルユキは肩と首を限界まで縮めながらちらちら上目遣いに様子を窺った。
ハルユキは兎美に助けを求めたかったが、兎美は優雅に紅茶を飲んでいた。
明るい場所で改めて見ると、控えめな服装及び髪型に眼鏡まで掛けていながら、どこかハッとさせられるような、ミステリアスな雰囲気のある女性だった。
瞳の色が深い、とでも言えばいいのか、容易に奥を見通せない、底知れない感じ。
誰かをそこほかとなく思い起こさせる、ある種の圧力...。
あまり見すぎていたせいか、彼女と目が合ってしまう。
「なにか?」
「い、いえ!」
ハルユキは誤魔化そうと、咄嗟にオレンジジュースを一口飲む。
「あら?彼女目の前にして、他の女の子に目移りしているのかしら?」
すると兎美がジトッと見ながら、ハルユキを茶化してきた。
「なっ!別に...俺は!」
「冗談よ」
そう言って、兎美はふふっと笑いながら紅茶を飲む。
ハルユキは顔が熱くなるのを感じ、熱を冷ます為にオレンジジュースを一気に飲んだ。
と、不意に女の子——と言っても恐らく一、二学年は上だろうが——がバッグに手を入れ、円盤状のものを取り出した。
側面から銀色のプラグが2つ飛び出ている。
コードリール付きのXSBケーブルだ。
軽い音を立てながら片方のプラグを引き出し、内巻きにカールしたショートヘアを持ち上げて、眼鏡とよく似たダークレッドのニューロリンカーに挿入。
次いでもう一方のプラグを伸ばすと、ハルユキのニューロリンカーに向かって手を伸ばした。
「うわ!」
いきなりの事で驚いてしまい、思わず大声をだしてしまった。
他の客も何事かと思いこちらを見てきた。
「あっ...いや...すみません。ちょ...ちょっとちょっと!」
「早く」
「こ...ここでですか?あの...」
ハルユキは周りを見回すと、他の客がこちらを見ていた。
「もしかしてここで直結?」
「あの子大胆ね」
案の定、自分達を見て店内がひそひそとざわつき始めた。
パブリック・スペースでの直結行為は、両者がタダナラヌ関係であると公言するようなものだ。
「あ...あの...男女で直結っていうのは普通もっと親密になってからというか...こんな所ですると誤解を招くというか」
恥ずかしさのあまり、ハルユキは早口で捲し立てる。
「会話を聞かれる訳にはいかないの」
——そうか。
この人、どこか黒雪姫先輩に似てるんだ...。
外見じゃなくて、気配っていうか、迫力っていうか...。
圧倒されていたハルユキだったが、不意に右側からカチッという音が聞こえた。
見てみると兎美とハルユキのニューロリンカーに、XSBケーブルが挿されていた。
もう一方のプラグは、ハルユキのニューロリンカーに刺さっていた。
先程の音は、ハルユキのニューロリンカーにプラグが刺さった音だった。
「え!?ちょっ!兎美!?」
いきなりの事でハルユキは動揺していた。
「なに?妻が夫と直結するなんて当然でしょ?」
兎美はわざと、周りに聞こえる声で話した。
「なっ!?」
何言っちゃってんの!?
と叫びたかったハルユキだったが、兎美が落した爆弾の大きさに驚き、鯉のように口をパクパクさせるだけだった。
「えー!?今妻って言わなかった!?」
「でも、見た感じ私達と同じぐらいじゃない!?」
「許婚って事じゃないの?」
「だったらもう1人の女の子はどうゆう関係なのかしら!?」
今度は近くの席にいた女子高生グループが、ひそひそと自分達の関係を勝手に想像しながら盛り上がっている。
「あなたは?」
すると、彼女が兎美に質問してきた。
「私はバーストリンカーじゃないから安心して、ハルの保護者代理みたいな者よ」
「解った、それなら構わないなの」
そう言って彼女はハルユキにXSBケーブルを再度を差し出した。
「解りました」
ここに来るのもこれが最後だからな、等と考えつつ、それをニューロリンカーのコネクタに差し込む。
1秒後、脳の中央に、実に繊細で可愛らしい...それでいてピンと芯の通った思考音声が響いた。
『...私は今、2つの可能性を検討しているの。あなたが物凄く演技の上手い食わせ物で、私のリアルを割る為に意図的にぶつかってきたのか...それとも、正真正銘のオッチョコチョイなのか』
『はあ...』
間抜けな第一声を発してしまい、ハルユキは慌てて言葉を追加した。
『それは間違いなく2番目の方なんですけど、どうすればそれを証明出来るか、すぐには思いつけなくて...』
『ハル...、その発言事態が既に相当のオッチョコチョイよ。それにいくらここでハルがオッチョコチョイなのを証明したとしても、彼女の疑いを深めるだけよ』
兎美の言葉を聞いて、ハルユキは両手の人差し指を擦り合わせつつ懸命に頭を回転させ、やっと次の言葉を出力する。
『...えと、これも証拠はないんですけど、僕のポイント残高が危なくなった理由ってのが、その...ポイントが300を超えた感激で頭がポワーってなって、夢中でレベルアップボタンを押しちゃったせいなんですが...』
そこでもう一度、相手の顔をちらりと見る。
少女――恐らく《アクア・カレント》であろう人物はしばらく表情を動かさなかったが、やがて軽く頷いた。
『それが事実なら、ある程度納得できる。この2週間、平均7割以上の勝率を叩き出していた筈の《シルバー・クロウ》が、なぜいきなりニアデス状態になってるのか不思議に思っていたの』
「ぼ..僕の事、知ってるんですか!?」
思わず大きく身を乗り出すと、お腹がテーブルの縁にぶつかり、衝撃でジュースが3分の1ほど残ったグラスがぐらりと揺れた。
兎美がすかさず手を伸ばし、支える。
『口に出してはいけないの』
「あっすいません...」
ハルユキは口を押さえ、席に座る。
『まったく...、少しは落ち着きなさい』
『すみません...』
ハルユキは兎美に指摘され、肩を落す。
『今の加速世界であなたの噂を聞いてないのは本人ぐらいだと思うの』
『え...そそそんな、それほどのモノでも』
照れちゃうなー、などと思いながら頭をかこうとしたハルユキの聴覚に、キュートな思考音声が続けて流れた。
『たった1人の完全飛行型。頭脳派に見えて案外頭に血が上がりやすい。女性デュエルアバターとの近接戦闘が苦手。こすっからい手を使うけど本人もけっこう抜けてる』
『………』
口許を緩めたまま固まるハルユキを、少女は新たに注文したダージリンティーのカップを持ち上げながらちらりと見た。
『どうやら噂通りの子みたいだから、さっきのも真性オッチョコチョイだと判断するの』
『……………』
『ふふふ、良かったわね、ハル』
兎美は口許を押さえながら、クスクスと笑っていた。
——これは喜んでいい場面なんだよな?うん、きっとそうだ。
そう自分に言い聞かせつつも、なぜか眼に汗が滲むハルユキだった。
かちりと音を立ててカップを戻した眼鏡少女は、そんなハルユキの内的葛藤を気にする様子も無く、わずかに背筋を伸ばすと言った。
『イレギュラーな状況になってしまったけれど、とりあえず挨拶をしておくの。私は《アクア・カレント》。契約に基づき、あなたのポイント残高が最低安全圏、50ポイント台に回復するまでガードします』
『あ...は、はい。よろしくお願いします!僕、《シルバー・クロウ》です』
『私は兎美よ。宜しくね』
ハルユキはぺこり、と頭を下げる。
周りから見ればやや奇妙な光景だろう——実際、中高生と思しき少年少女やサラリーマンやOL達がちらちら視線を向けてきている。
先ほどの兎美の爆弾があったせいか、心なしか嫉妬の視線も混ざっている気がする——が、気にしている余裕はない。
ハルユキにとっては、この不思議な少女だけが最後の生命線なのだ。
加速世界唯一の
『え、あ、あれ』
ここでようやく、ハルユキは真っ先に思いついておくべきだった1つの矛盾に突き当たった。
『あの、僕も、アクア・カレントさんのお噂をかねがね伺ってたんですが...』
『《カレン》と呼んでいいの』
『じゃ、じゃあ、僕も《クロウ》で...いやそうじゃなくてその、僕、カレンさんは男だって信じ込んでたんですけど...僕にあなたの事を教えてくれた友達も、そう思ってたみたいだし...』
そう、確かにタクムは、アクア・カレントに《彼》という代名詞を使用した。
それ以前に、腕利き用心棒と言われた段階でハルユキは、派手なスーツを着たマッチョガイを..——中高生にそんなのいるわけはないのだが——連想していたのだ。
それがよもや、本屋の似合う眼鏡少女だとは如何に。
しかしアクア・カレント略してカレンは、大したことじゃないと言わんばかりに軽く肩をすくめた。
『私のデュエルアバターは、外見から男性型女性型を判別しにくいから。...それに、私まだ、私が女だなんてひと言も言ってないの』
『...へ?そ、それ、どういう』
眼と口をぽかーんと開け、ハルユキはまずカレンの小さな顔と、次いで無礼千万にもその下20センチ辺りを凝視してしまった。
しかし生地の硬いビーコートを着たままなので、視覚情報だけでは何とも言えない。
『何真に受けてるのよ、冗談に決まってんでしょ』
『あ...なるほど』
『予定時間を5分過ぎちゃったけど、それでは今からタッグ戦を始めるの。この千代田エリアだけで目標ポイントに到達できればそこで終了。相手が居なくなったら隣の秋葉原特区に移動して継続。何か質問は?』
『いえ、大丈夫です...宜しくお願いします』
『では、まず互いに相手をタッグ登録。グローバル接続したら、すぐに加速』
『あ、はい!』
こくこく頷き、ハルユキはまずブレイン・バーストのコンソール画面を開くと、『Aqua Current』をタッグパートナーに登録した。
カレンが頷くのを確認し、ニューロリンカーのグローバル接続ボタンを長押しする。
『さっき胸触ってごめんなさいとか言うべきなのかな。でもほとんど感触無かったし、触ってなかったのかも』
『聞こえてるの』
『えっ!』
心の中で考えていたつもりのハルユキだったが、思考音声として発声していた。
「《バースト・リンク》!」
加速した後、青一色の静止世界にピンクのブタで現れたハルユキの前に、眼鏡を掛けたカワウソが仁王立ちしていた。
「しっかり触っていたの」
「う...うわっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
ハルユキは顔を青くして、土下座をする。
「直結した時に、ちゃんと思考を制御出来るようにしておいた方がいいの。全部丸聞こえなの」
「すみません...」
ハルユキは顔を上げて謝る。
「戦いを挑む相手は...」
カレンは、ハルユキを気にする様子もなくリストを一瞥すると、その中間あたりに無造作に手を伸ばした。
「えっ、あの、ちょちょちょままま」
ハルユキは黒いひづめのついた両手を振り回し、懸命に割り込みをかけた。
幸いカワウソはウインドウに触れる寸前で手を止め、現実世界と良く似た赤いフレームの眼鏡を向けてくる。
「あ、あの、マッチングリストの並びってレベル順ですよね?いい今カレンさん、真ん中へんの相手を選ぼうとしてませんでした........?」
「してたけど、何か問題があるの?」
「だだだって、真ん中へんにいるのは、レベル3とか4とかの強いヒトじゃないですか!」
ハルユキの懸命な叫びに、カレンは小さく肩をすくめて平然と答えた。
「ここで同レベルの相手を選ぶ事にメリットはないの。あなたがレベル2、私がレベル1なんだから、相手タッグは最低でも合計レベル6以上の相手を選ぶべき。そうすれば、万が一負けてもあなたのポイントがゼロにはならない」
「そ...それは、理屈ではそうかもですが...」
呆然と呟きながら、ハルユキは改めてタクムの言葉を思い出していた。
凄腕の用心棒《アクア・カレント》。
2つ名は、《
その理由は、かなりの古参でありながら、レベルが1であること——。
だが、考えてみれば、そんなことがあり得るのだろうか。
レベルがたった1なのに、どんな依頼人も守り抜けるほど強いなどということが?
だいたいなぜレベル1なのか。
レベルが上がればHPも増えるし、必殺技やアビリティ、武装、能力強化といったボーナスを自由に選択できる。
充分なポイントを残せることにさせ気をつければ、レベルを上げるデメリットなど存在しないはず............。
そこまで考えた時、ようやくハルユキはあることに気づき、ハッと両眼を見開いた。
「あの、もしかして......カレンさん、あなたがレベル1なのは、タッグ戦の合計レベルを下げるため......なんですか?誰かとタッグを組む時......レベル合計が高いほど、勝利時に得られるポイントは減り、敗北時に奪われるポイントは増える。それを防ぐために......つまり、顔も知らない、全損しそうな
掠れ声で発したハルユキの問いに、メガネカワウソは一切表情を動かさないまま、もう一度肩を上下させた。
「それは理由の半分なの。もう半分は......いつか教える時が来る、かもしれないし来ないかもしれない。少なくとも、あなたが今日ポイント全損したら永遠に来ないの」
「...............そ、そうですね」
改めて込み上げてきた緊張感にブタ鼻をぴくつかせていると、カレンは再びリストに右手を伸ばしながら言った。
「この時点で、わたしとあなたの名前はもうマッチングリストに登録されてるの。コンマ何秒の話だけど、それでも誰かが偶然同じタイミングで加速して、わたしたちに乱入してくるかもしれない。そうなったら、あなたの貴重な1ポイントが無駄になっちゃうの」
「あ......は、はい、確かに......」
「ちょうどいいの。《サンド・ダクト》と《ニッケン・ドール》このタッグはレベル3と4だけど、両方良く知ってるの。あなたの苦手な赤系の遠距離狙撃タイプじゃないし、ポイントにかなり余裕があるから、真っ向勝負に出てくるはず。あなたが落ち着いて実力を発揮できれば、きっと負けない。それこそあなたがよく言う『負ける気がしねぇ』なの」
——この人は、本当に僕の事を知ってくれてるんだ。
その上で、本気で僕を助けようとしてくれる。
なんでレベル1なのか、なんで報酬にリアル情報なんか要求するのか、そもそもどんな動機で《用心棒》を請け負ってるのか、まだまだ解らない事ばっかりだけど...それでも...信じよう。
信じて、全力で戦おう。
たとえ負けて、ブレイン・バーストを失おうとも、せめて悔いは残さないように。
この土壇場で、ハルユキはようやく、ささやかだけれどぎゅっと凝縮された覚悟が自分の中に生まれるのを感じた。
大きく息を吸い、ブタアバターの両手を握り締め、ハルユキは頷いた。
「僕、頑張ります」
「気合はもちろん大事だけど普段どおりに、なの。負けられない一戦だけど、大切なのは勝つ事より...」
「楽しむこと」
ハルユキが言葉を挟むと、カレンは眼鏡の奥でほんの少しだけ眼を見開いた。
照れ隠しに鼻の下を擦りながら、ハルユキは付け加えた。
「僕の親が教えてくれたんです。今は全ての対戦を楽しめ、って」
「......そう、なの」
ゆっくり頷き、アクア・カレントはほんの一瞬だけ不思議な――気のせいか、昔を懐かしむかのような表情を浮かべると、マッチングリストに触れた。
「では、そろそろ始めるの」
短く言い、デュエル開始ボタンを押す。
青く凍った世界と2つの動物アバターが光に溶けて消え、ハルユキの意識は見知らぬ対戦ステージへと誘われた。
どうも!!ナツ・ドラグニルです!!
もう3月に入りました!!
日中はあったかいですが、朝晩はまだ寒いですね。
温暖さには皆さん気を付けてください。
私が一番きついのは、寒さよりも花粉ですね。
全然くしゃみが止まらず、マスクをしていないと厳しいです。
今回は、アクセル・ビルドとの変更点は特にございません。
それでは次回、第15話もしくはLOVE TAIL第18話でお会いしましょう!!