アクセル・ワールド ベストマッチな加速能力者   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「いじめられっこの有田春雪は!母親からハトコのお世話を任されたのだが、何とそのハトコは正体を偽っていた赤の王『スカーレット・レイン』だったのでありました!」

美空「赤の王と対戦する事になったハルユキだが、対戦を通して赤の王に気に入られ黒の王である黒雪姫に会わせるように言ってきたのでありました!!」

兎美「ていうかニコが正体を現したのはいいけど、いきなり口が悪くなったわね」

美空「それにしたってあんなキャラ作らなくてもいいでしょ」

由仁子「あんなキャラってなんだよ。良いじゃねぇか別に」

兎美「また勝手に入ってきて...もういいや、さてニコの目的とは何なのか…どうなる第18話!!」

由仁子「てか誰の口が悪いんだよ!!」

兎美「突っ込みが遅いのよ...」


第18話

明くる一月二十二日木曜日、午後十二時五分。

 

 

寝不足の眼をしょぼしょぼさせながら、ハルユキは梅里中学校の一階廊下を学生食堂目指して歩いていた。

 

 

あの後、悲鳴について兎美達に聞かれたが、ハトコのトモコちゃん――を偽装した《赤の王》

の気転でゴキブリが出たとごまかした事でなんとかなった。

 

 

さすがに兎美達に変態なんて言われた日には、ハルユキは生きていけないだろう。

 

 

昨夜は結局、ハルユキは赤の王に自身の部屋のベッドを明け渡し、ハルユキ自身はリビングのソファベッドで寝ようとした。

 

 

しかし、寝る前のハルユキにとんでもない難敵が立ちふさがる。

 

 

それは一緒に寝ようと誘ってくる、兎美と美空だった。

 

 

お風呂での出来事も相まって、今兎美達と一緒に寝るのは不味いと考えたハルユキは普段使わない頭を何とか振り絞り、一緒に寝る事を回避した。

 

 

その状況で熟睡できるような胆力は当然持ち合わせていないからだ。

 

 

いったい赤の王の目的は何なのか。

 

 

なぜ当初は甘えんぼの妹キャラなど装いクッキーまで焼いたのか、そして黒雪姫つまり黒の王と会って何を話すつもりなのか。

 

 

などとマジメに考えようとしても、脳内ではどうしてもお風呂での一幕がリピート再生され、追い打ちにもし兎美達と一緒に寝たその先を考えてしまい、ああああこれでは僕は本物のヘンタイだ、でもしょうがないじゃん悩める十三歳男子なんだから。

 

 

煩悶(はんもん)しているうちに夜が明け、ハルユキは兎美が作った朝食を流し込んで、早々に家を出たのだった。

 

 

午前中の授業はニューロリンカーの覚醒アラームの助けを借りて何とか乗り切った。

 

 

まだほぼ無人の学食に足を踏み入れたハルユキは、幾つも並んだ長テーブルの間を突っ切り、殆ど駆け足で隣接するラウンジへと飛び込んだ。

 

 

白の瀟洒(しょうしゃ)な丸テーブルが円形に配置された、その一番奥。

 

 

背後の採光ガラスから差し込む真冬の日差しを受け、まるで仄かに発光しているようにすら思える黒衣の人影をハルユキは呼吸を忘れてじっと見詰めた。

 

 

ちょこんと頬杖をつき、卓上の大判の本を見下ろすその人――黒雪姫が、やがて音もなく顔を上げた。

 

 

肩を流れた長い黒髪に、柔らかい陽光がきらきらと滑った。

 

 

降り積もった無垢な雪原み咲く一輪の花のように、美貌がふわりと綻んだ。

 

 

「や、おはようハルユキ君」

 

 

ハルユキはテーブルに歩み寄るとぺこりと顔を下げた。

 

 

「おはようございます先輩、今日も早いですね。僕、先輩より先にここに来られたことないですよ......」

 

「それは当然だろう。1年の教室は3階、2年の教室は2階なのだから」

 

 

澄まし顔で肩をすくめる。

 

 

その隣の椅子を引き、座ってからハルユキは言い返した。

 

 

「そ...そりゃ理屈ですけども。だからって、こうも毎日毎日...」

 

「それにな、私は君を待たせるよりも待つ方が好きだ。この貴重な時間を、君が入り口に現れるその瞬間から全て記憶できるからな」

 

 

再び、黒百合の花びらが開くような微笑み。

 

 

恐らく兎美と出会っていなかったら、黒雪姫に依存していたかもしれない。

 

 

ハルユキは一瞬詰めた息を細く、長く吐いた。

 

 

――まったく信じられない。

 

 

この儚げで優しい上級生と、加速世界に於けるスパルタ鬼教官が同一人物だなんて。

 

 

ハルユキ的には、なるべく前者のほうと長時間お付き合いしたいのだが、しかし今日は恐らくそれは叶うまいと予想された。

 

 

昨夕から現在も継続中である状況の事を説明したら、優しい《黒雪姫先輩》からおっかない《黒き死の睡蓮(すいれん)》に即変身してしまうのは確実だ。

 

 

そんな事をハルユキが考えていた途端、黒雪姫がそう言えば、と口を開いた。

 

 

「昨夜の電話......あれは何だったんだ?話の途中で急に黙り込んだと思ったら、いきなりお休みなさいと切ってしまったろう。確か......《赤の王》がどうとか言っていたようだが...」

 

「あー...ええっと...ですね...」

 

 

その1秒黙り込んだ間に、赤の王本人と対戦してたんです。

 

 

などといきなり言っても信じてもらえまい。

 

 

レベル9の《王》たちは、最早通常の対戦でレベルアップの為のバーストポイントを稼ぐ必要がない為、自ら戦場に現れる事は殆どないからだ。

 

 

已む無くハルユキは、観念して何もかもを喋り尽くすことにした。

 

 

『お帰りなさいお兄ちゃん』の所からの一切合財一部始終――問題のお風呂シーンだけは除外せざる得なかったが。

 

 

数分後。

 

 

呆れ度三割、怒り度七割がミックスされた表情になった黒雪姫は、すううっと息を吸いながら、硬く握った右拳を宙に浮かせた。

 

 

この馬鹿者!ドガチャーン!

 

 

という怒声とテーブル引っ叩きは、危うい所で発生しなかった。

 

 

ラウンジに、他の生徒が数人、昼食のトレイを抱えながら入ってきたからだ。

 

 

ハルユキと黒雪姫にちらりと視線を向けた彼らは、見慣れた光景ながらどうにも信じられないといった表情をいつものように浮かべたあと、少し離れたテーブルに席を占めた。

 

 

ハルユキとは違い、生徒達の事を意識もしない様子で、拳を5センチほど浮かせたまま大きく呼吸繰り返していた黒雪姫は、やがてその手をすとんと卓上に降ろした。

 

 

「何ともはや...最初に見た時気付け、と言いたいのはやまやまだが...確かにそんな体当たりなソーシャル・エンジニアリングを、しかも《王》当人が仕掛けてくるなぞ想像の埒外ではあるな...」

 

「で...ですよね」

 

 

黒雪姫の大噴火が回避された事に胸を撫で下ろしながら、ハルユキは苦笑いをするしか出来なかった。

 

 

最終的に表情を大きめの苦笑へと着地させた黒雪姫は、何度か頭を振ってから、声を低めて言った。

 

 

「それにしても、私と直接会ってどうしようというのだ?目的は何だ?」

 

「それは会ってから話すって」

 

「ふむ」

 

 

黒雪姫は何かを考えるかのように顎に手を当てる。

 

 

「ま...怪我の巧妙、といった面もないではないしな。《王》との直接対戦とくれば、バーストポイントをいくら積んでも買えない貴重な経験だ。どうだった、二代目《赤の王》は」

 

「無茶苦茶ですよ、一撃で都庁を半分吹っ飛ばしてましたよ...僕んちも丸ごと潰しちゃうし...」

 

 

改めてあの超絶的火力を思い出し、ハルユキはぶるっと身を振るわせた。

 

 

それを見て、黒雪姫はふふっと笑った。

 

 

「それこそが、《一極特化アビリティ》の威力だよ。《スカーレット・レイン》は全てのレベルアップボーナスを、遠距離火力の強化へとつぎ込んだと聞くからな。そうだ...君との対戦中、赤の王は動いたかい?」

 

「へ?」

 

 

一瞬の質問の意味を理解しそこね、ハルユキはぱちくりと瞬きした。

 

 

そして直ぐに、黒雪姫の言わんとする所を悟った。

 

 

そう――考えてみれば、赤の王スカーレット・レインは、ハルユキの眼前でデュエルアバターに変身し、あの要塞めいた重武装を身にまとい、ハルユキの自宅マンションを崩壊させたのち、最終局面の一斉対空砲火までまったくその場を動いていないのだ。

 

 

ぷるぷると首を振りかけてから、ぴたりと止める。

 

 

いや、正確には違う。

 

 

対戦の最後の最後、ハルユキの全速急降下攻撃を避けた時、赤の王はほんの1歩ではあるが確かに――。

 

 

「あ...う、動きました。たった50センチですけど」

 

 

それを聞いた黒雪姫は、ようやくもう一度にっこりと笑い、ぱたんと両手を合わせた。

 

 

「ほう、それは大したものだ!スカーレット・レインの2つ名、《不 動 要 塞(イモービル・フォートレス)》というのは、動かないからではなく動く必要がないゆえに献ぜられたものだ。噂によれば、2代目赤の王に上り詰める過程の大規模戦闘で、彼女は出現座標を一歩も動くこともなく30人近い敵を屠ったそうだよ」

 

「うっへ...」

 

 

思わずハルユキは呻いた。

 

 

そんな奴相手に真正面から突っ込むなんて、無知というのは恐ろしいものだ。

 

 

「そ...そんな噂があったなんて...でも《純色の六王》なんて言うから、てっきり赤の王は《レッド・なんとか》だと思い込んでました」

 

 

すると黒雪姫は、微笑みを浮かべたまま、

 

 

「だから電話で勉強不足だと言ったのだ。加速世界でレッドの号を冠したのは、後にも先にも《レッド・ライダー》ただひと......り......」

 

 

そこまで言いかけ。

 

 

ぴたり、と声を止めた。

 

 

唇に張り付く微笑みの残滓が、たちまち溶けて消えるのをハルユキは呆然と見詰めた。

 

 

白い肌からさっと血の気が引き、氷のように蒼ざめた。

 

 

「せ、先輩...?」

 

 

眼を見開いて問いかけたハルユキに「いや、なんでもない」と答えた声は、しかし完全に乾ききっていた。

 

 

虚ろな表情に支配された顔を、黒雪姫はゆっくりと俯けた。

 

 

テーブルの上に載ったままの右手が細かく震えているのを見て、ハルユキはようやく――あまりにも遅れて、黒雪姫の反応の理由に気付いた。

 

 

先代の赤の王。

 

 

《レッド・ライダー》。

 

 

黒雪姫の口から名前を聞くのは初めてだ。

 

 

しかし、なぜその名を持つバーストリンカーが加速世界から退場したのかは、既に知っていた。

 

 

2年前、黒雪姫が――黒の王ブラック・ロータスが、自らの手で首を落とした。

 

 

しかも尋常な対戦ではなく、7人の王達が集った会談の席上で。

 

 

演説する相手の不意を衝いて。

 

 

レベル9バーストリンカー同士の戦いでは、一度の負けでバーストポイントを全損するという過酷なルールがある。

 

 

そして言うまでもなく、ポイント全損とはブレイン・バーストそのものの永久喪失を意味する。

 

 

テーブルの上で強く握り締められた黒雪姫の白い手を見詰めながら、ハルユキは半ば無意識的に問いかけていた。

 

 

「先輩...。もしかして、前の赤の王は、あなたにとって...」

 

 

――ただの友達じゃなくて、もっと特別な存在だったんじゃないですか?

 

 

そう質問しようとしたが、本人が気にしている事を聞くべきじゃないと思い、ハルユキは言葉の途中できつく唇を引き結んだ。

 

 

直後、がばっと頭を下げる。

 

 

「すみません、僕が無神経すぎました。昨夜の電話も...いまの質問も。ごめんなさい、本当に...」

 

「......いや...、いいのだ、気にするな」

 

 

返った声は、一切の艶を失い掠れていた。

 

 

「自ら選んだ道だ。こんな反応をしてしまう私が未熟なのだ。ふふ......もう随分昔に自分の中でケリをつけたと思っていた...己以外のあらゆるバーストリンカーは対戦者、すなわち《敵》なのだと思い定めたつもりだったのに...不意を衝かれるとこのザマだ、滑稽極まれりだな」

 

 

くく、と低く笑い、黒雪姫は右手を膝に戻そうとした。

 

 

その手を、ハルユキは無意識のうちに伸ばした両手で包み込んでいた。

 

 

はっと息を呑む気配とともに強く手が引かれたが、ハルユキはいつにない頑なさでそれに抗った。

 

 

窓からの日差しを浴びているのに、石の彫像のように冷たい。

 

 

限界まで強張った腱の軋みが、音として聞こえる気がするほどだ。

 

 

凍えたその手を、ありったけの体温を掻き集めて暖めようとしながら、ハルユキは口を開いた。

 

 

「僕は、絶対に先輩と戦わない。絶対に《敵》にはならない。先輩は僕の《親》で、僕は先輩の《子》です。対戦者であるより前に親子なんだ、そうでしょう」

 

 

しばし、沈黙が続いた。

 

 

やがて黒雪姫は、ようやく顔を上げると少し上目遣いにハルユキを見詰め、ゆっくりと頷いた。

 

 

その唇にかすかに浮かんだ微笑は、しかし、どこか哀しげなものを湛えているようにハルユキには見えた。

 

 

「...場所を変えようか」

 

 

ぽつりと言い、黒雪姫は今度こそするりと右手を戻した。

 

 

滑らかに立ち上がり、ハードカバーを抱えて歩き始めたその背中を追いながら、ハルユキは訊ねた。

 

 

「ど、どこへ......?」

 

 

二人きりになれる所へ。

 

 

ではなく、黒雪姫の答えは至って実務的なものだった。

 

 

「《スカーレット・レイン》への対応を、我々だけで決定してしまうわけにはいかないだろう。こういう事は、レギオン全員で話し合わないとな。昼食は、サンドイッチでも買っていこう」

 

「はい、そうですね」

 

 

ハルユキは黒雪姫の物腰が元に戻った事に安堵もしながら、こくこくと頷いた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

黒の軍団(レギオン)、《ネガ。ネビュラス》。

 

 

暗黒星雲という壮大なスケールのネーミングに対して、現在の構成人員わずか3名である極小レギオンの構成員最後の1人は、ハルユキのメールに対して【屋上にいるよ】とレスしてきた。

 

 

鉄扉を開けた途端ぴゅーと吹き込んでくる外気の温度に首を縮めつつ、きょろきょろ見回すと、ずっと離れたベンチに1人座るその姿を見出す事が出来た。

 

 

早足に歩み寄る間にも、黒雪姫とは別の方向性ながら実に絵になるその佇まいにハルユキはつい見とれそうになる。

 

 

細身ながらしっかりと筋肉のついた長身。

 

 

微風にさらさらと揺れる長めの前髪の下の横顔は、日本刀を思わせる和の鋭利さを漂わせている。

 

 

やや俯き、右手の指先を空中に走らせているのはホロキーボードを操作中なのだろうが、その姿すらもどこか座禅を組むサムライのようだ。

 

 

足音に気付き、顔を上げる同い年の少年に、ハルユキはひょいっと右手を上げた。

 

 

「うっす、勉強中だったら悪かったな。でも、何もこんなクソ寒い所でやらなくてもいいだろ、タク」

 

 

すると、ハルユキの幼馴染にして戦友たる黛 拓武――タクムは、フレームレスの眼鏡越しに微笑んだ。

 

 

「今日は日差しが気持ちいいじゃないか。ハルもたまには日光にあたったほうがいいよ」

 

 

そしてきびきびした動きで立ち上がり、ハルユキの後ろの黒雪姫に深く一礼する。

 

 

「おはようございます、マスター」

 

「うん、おはようタクム君」

 

 

頷いてから、黒雪姫は大きな苦笑を浮かべた。

 

 

「何度も言っている通り、確かに私はレギオンマスターではあるが、常にそう呼ぶ必要はまったくないんだがなあ」

 

「すみません。でも、僕にはこれが一番しっくりくるんです」

 

 

答え、タクムはさっと1歩動くと、今まで座っていたベンチを左手で示した。

 

 

再度の苦笑と共に腰を下ろし、黒雪姫は黒のストッキングに包まれた細い脚を組んだ。

 

 

そこでひょいと片方の眉を動かし、タクムを見上げて訊く。

 

 

「私とハルユキ君は失礼してここで食べさせてもらうが、君、昼食は?」

 

「はい、もう頂きました」

 

 

見れば、ベンチの隅にきちんと包み直されたランチボックスが置かれている。

 

 

ハルユキも黒雪姫の隣に座ると、直ぐに手に持っていたお弁当の包みを広げた。

 

 

その時、タクムはハルユキが食べようとしているお弁当に目を向ける。

 

 

「それ、兎美さんが作ったんだろ?」

 

「え?ああ、毎朝作ってくれるんだよ」

 

 

タクムの質問に、ハルユキは嬉しそうに答える。

 

 

「でも...良く兎美が作ったって分かったな、タク」

 

「見れば分かるよ、殆どがハルの好物ばかりだし、栄養が偏らないように野菜もきちんと入ってるからね」

 

 

タクムの言葉を聞き、黒雪姫もいつもは気にしていなかったがハルユキのお弁当の中身を見る。

 

 

タクムの言う通り、お弁当にはハルユキが好きそうなおかずが入っており、ハルユキの身体を気にして栄養が高いほうれん草等が入っていた。

 

 

黒雪姫は自分のお昼に買ったサンドイッチと、ハルユキのお弁当を見比べて「私にも女子力があれば...」と苦やしそうに拳を握っていた。

 

 

幸い、ハルユキは気づいておらず、タクムは見て見ぬふりをしていた。

 

 

「それで...話って?」

 

 

フェンスに寄りかかりながら質問するタクムに、再び状況を説明する。

 

 

目を丸くして全てを聞き終えたタクムは、ふーむ、と短く唸った。

 

 

「...どう思う、タク?」

 

「うーん、赤の王がマスターに何を言うつもりなのかは、推測しようにもデータが足りない。ただ、仮に偽装が三日間維持され、君に身元が露見しなかった場合に、何をしようとしていたのかは判る気がするな」

 

「へー!」

 

「ほほう」

 

 

同時に声を上げるハルユキと黒雪姫に向かって、眼鏡のレンズをきらーんと光らせながら、タクムは続きを口にした。

 

 

「ハルの性格からして、3日も暮らせば《妹》にかなり情が移るだろう。そこで、その妹が『実はあたし、バーストリンカーなんです。でも子供だから、頑張って貯めたポイントをレギオンの先輩に無理やりとられてばっかりなんです。お願いお兄ちゃん、あたしのレギオンに来て、あたしを守って!』と言い出したら...」

 

「おいおい、無茶苦茶だ!」

 

 

黒雪姫が呆れ声で叫んだ。

 

 

「あのなタク...いくら俺でもそんな見え透いた罠に嵌るほど馬鹿じゃないぞ。逆にポイントを全部カッ剥がれるのは目に見えてるじゃないか」

 

 

黒雪姫に続き、ハルユキもタクムに意見する。

 

 

「確かに、仮面ライダーとして戦っているハルだったら引っかからないと思うけど、もし兎美さん達と出会っていなかったら分からないと思うよ」

 

「うっ...」

 

 

確かにタクムの言う通り、兎美達に会っていなかったら引っかかっていた自分が目に浮かぶので、反論する事が出来なかった。

 

 

「恐らく彼女の目的は、ハルを《断罪の一撃(ジャッジメント・ブロー)》で脅し、何かさせようとしてるんじゃないでしょうか?」

 

「なるほどな...」

 

「ジャッジメント・ブロー?」

 

 

タクムの言葉に黒雪姫は納得し、ハルユキは聞き覚えない言葉に疑問符を浮かべる。

 

 

「断罪の一撃、ジャッジメントブロー、レギオンマスターのみに与えられた処刑のための必殺技だ。その一撃を受けたレギオンメンバーは即座にポイントがゼロになり、ブレイン・バーストを永久喪失する」

 

「永久喪失...」

 

「もしハルがほんのいっときでも赤のレギオンに参加すれば、その瞬間君の...シルバークロウの生殺与奪権は奴らの手に」

 

「うっへぇ」

 

 

としか、ハルユキは言いようがなかった。

 

 

――しかし、である。

 

 

「......でも、なんで?」

 

 

ハルユキは呟き、黒雪姫とタクム顔を順番に見た。

 

 

「なんで、赤の王はそんなめんどっちいことを......?」

 

「うむ。結局、その疑問に行き着くわけだ」

 

 

黒雪姫は唸った。

 

 

「ンー......、そんな捨て身の芝居までしてハルユキ君を赤のレギオンに加入させ、《断罪の一撃》で首根っこを押さえた所で、ハルユキ君の忠義まで得られるはずはない。そして、レギオンへの帰属意識のないメンバーなぞ百害あって一利なしだ。つまり......」

 

「つまり、たった一度だけ、ハルにさせたい《何か》がある、ってことでしょう」

 

 

タクムは中指でメガネのブリッジを押し上げながら続きを引き取った。

 

 

「赤の王は恐らく《断罪の一撃》で脅し、ハルにさせたい何かがあったって事でしょう。でも妹の偽装がばれたので、今度はマスターと直接対面し、取引を申し出ようとしてきた」

 

「ふうむ」

 

 

もう一度低く唸り、黒雪姫はタクムを見上げて言った。

 

 

「何と言うか...君、実にサマになっているな」

 

「は、はい?何がですか、マスター?」

 

「メガネ君キャラが。これからタクム君をハカセと呼ぶのはどうだろう」

 

ずりっ、とフェンスに預けた背中を滑らせ、タクムはふるふる頭を左右に動かした。

 

 

「い、いえ...せっかくですが、遠慮しておきます」

 

 

笑ってしまいそうになるのを懸命に堪え、ハルユキは言った。

 

 

「僕も、タクの推測は正しいと思います。昨日の対戦で、赤の王は僕に圧勝できるのにしなかった。代わりに、先輩に会わせろと言ったんです。それはつまり、次善の策として交渉を選んだってことで、敵対することが目的ではないという意思表示なんじゃないでしょうか...」

 

「今更調子のいいことを、って話ではあるがな!」

 

 

黒雪姫はふん、と鼻を鳴らし、脚を組み替えた。

 

 

食べ終えたサンドイッチの包み紙をくしゃっと握り潰し、離れたくずかごに見事なオーバースローで放り込む。

 

 

「だがまあいい、話があるというなら聞いてやるさ。少なくとも、《リアル割れ》を覚悟の上で王自らが乗り込んできたクソ度胸だけは大したものだ、子供にしてはな。ハルユキ君、赤の王にコールしてくれ給え。会談は今日の午後4時、場所は...」

 

 

そこで少し言葉を切り、黒雪姫は立ち上がった。

 

 

くるっと振り向き、にやりと笑いながら――。

 

 

「君の家のリビングだ」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

放課後。

 

 

赤の王に連絡した後に、兎美にも連絡を入れ黒雪姫とタクムを連れて帰宅する旨を伝えた。

 

 

お菓子も買い置きがあるので、買って帰る必要も無い。

 

 

でも問題は僕の部屋だ。

 

 

とくに、今世紀アタマ頃のZ指定血みどろゲームコレクションを見られた日には立ち直れない。

 

 

自室だけは死守。

 

 

何がなんでも死守。

 

 

電子キーは絶対に解除しない。

 

 

そう決意し、ハルユキは中央線の高架の向こうに見え始めた自宅マンションをキッと睨んだ。

 

 

タクムといつになく口数の少ない黒雪姫をエレベーターに乗せ、ボタンを押し、23階で降りる。

 

 

あとはもう、共用外廊下を10メートルも歩けば自宅のドアだ。

 

 

お願いですから、何事もありませんように!

 

 

と祈りつつ、ハルユキは視界に浮かんだ開錠ダイアログにタッチした。

 

 

かちん、とロックが外れる音。

 

 

プルタイプのドアノブを引いた途端、ハルユキの耳に飛んできたのは。

 

 

ズバラララララ、というマシンガンの連射音と、ギャア―――ヘルプミ―――という英語の悲鳴と、うおりゃー、死ねー、死にさらせー、という少女の声。

 

 

「うぎゃ――――――!!」

 

 

ハルユキも悲鳴を上げ、靴を脱ぐのももどかしく、どたどたとリビングに駆け込んだ。

 

 

そこで見たのは、壁のパネルモニタに接続された前時代のゲームハードと、床に山積みに置かれたハルユキのZ指定ゲームコレクションのパッケージと、ソファに胡坐をかいてワイヤレスコントローラを握る《赤の王》の姿だった。

 

 

「なっ...なんっ...僕のへやっ...カギッ...」

 

 

リビングに一歩踏み込んだ所で口をぱくぱくさせるハルユキはちらっと振り返り、赤の王は言った。

 

 

「あ、おっかえりー。お兄ちゃん、いい趣味してるねー。あたしこういうの大好き!」

 

 

立ち尽くし、思考停止するハルユキの隣で、少しばかり呆れた声が響いた。

 

 

「...ま、私も嫌いではないよ。この時代の洋ゲーには哲学があるよな、うん」

 

「ははは...」

 

 

ちょうどその瞬間、大型モニタの中で、マフィアの親玉らしきオッサンがどばしゃーと血を振り撒いて吹っ飛んだ。

 

 

「うっしゃ!5面クリアー!」

 

 

ガッツポーズをする女子小学生を見下ろしながら、ハルユキはもう一度、力ない声で呟いた。

 

 

「どうやって...カギを...。ていうか兎美達は...?」

 

 

すると、ゲームをポーズさせた赤の王は、ようやく体ごと振り向き。

 

 

まずハルユキを、次いで隣の黒雪姫を見つめ、赤いツーテールを揺らしてうふふと天使のように笑った。

 

 

「言ったでしょ、お兄ちゃんのママからこの家のインスタンスキー預かってる、って。ちょこっと細工してマスターキーにするのなんかチョロイわよ、でも安心してお兄ちゃん。参考書の裏に並んでた、違う意味でZ指定のソフトには触ってないから♪」

 

 

終わった......。

 

 

握力を失った右手からどさっと鞄が落ちた。

 

 

そんなハルユキを不憫に思ったのか、タクムはハルユキの肩に手を置いて慰める。

 

 

「あと美空お姉ちゃんならまだ寝てるよ、起こしたら刻むって言ってたけど。兎美お姉ちゃんなら晩ご飯の買出しに行ったからそろそろ...」

 

 

帰ってくると赤の王が言おうとしたその時、後ろから扉が開く音がした。

 

 

「ただいまー」

 

 

ちょうど、手にビニール袋を持った兎美がリビングに入ってきた。

 

 

「もう帰ってたのね、お帰りハル。そしていらっしゃい黒雪に黛」

 

「お邪魔しています」

 

「うむ、お邪魔してるぞ」

 

 

兎美は手に持った袋をテーブルに置き、赤の王に近づく。

 

 

「ちょっとニコ、ハルが帰ってくる前に終わらせなさいって言ったでしょ」

 

「悪い悪い、集中してたからすっかり忘れてた」

 

「まったく...」

 

 

そんな兎美から視線を外し、赤の王はもう一度黒雪姫をまっすぐ凝視した。

 

 

表情から、あどけなさがすうっと抜け落ちる。

 

 

コントローラを傍らに放り、少女は両脚を振り上げると、勢いよくソファから降りた。

 

 

服装は、昨日の純真無垢な白ブラウスと紺スカートではなくなっている。

 

 

真っ赤なTシャツにやたらとジッパーのついた黒ベストを重ね、細い付け根近くまでむき出したカット―ジーンズを穿いて、膝下までのソックスは赤黒のボーダー。

 

 

そして首には、ルビーのような半透過外装をもつニューロリンカーが眩く輝いている。

 

 

燃え盛る炎の如き色彩をまとった少女は、唇の端に剣呑な笑みを刻んだまま数歩進み、ハルユキの隣に立つ黒雪姫とまっすぐ相対した。

 

 

対照的に一切の色彩を持たない、冷たい闇を凝集させたかのような黒衣の女子中学生も、超然とした視線と微笑で迎え撃った。

 

 

ばちばちばち。

 

 

と両者の間に弾ける青白いスパークが見えた気がして、ハルユキは一瞬リビングの惨状を忘れ、じりじりと後ずさった。

 

 

――まさか、このまま《対戦》するんじゃないだろうな。

 

 

と真剣に危惧しつつ見守っていると、赤の王が両手を腰に当て、尖った顎先をつんと持ち上げて言った。

 

 

声にはもう、先刻の妹テイストは欠片も残っていない。

 

 

「ふぅん、アンタが《黒の王》か。なるほどこりゃあ黒いや、夜だったら目の前にいても見えねーな」

 

 

すかさず黒雪姫が、腕組みをしながら言い返した。

 

 

「そういう貴様も実に赤いぞ、《赤の王》。交差点にぶら下げたら車が止まって面白そうだ」

 

 

スパークが一気に電圧を増し、ハルユキは無音でひぃーっと叫びながら更に一歩下がった。

 

 

「最悪ね...」

 

 

現状を見た兎美がそう呟く。

 

 

「あんた達、やるなら外でやりなさいよ」

 

 

2人の言い合いに兎美が加わった。

 

 

「悪いがこれはバーストリンカーの話だ」

 

「関係ない奴は入ってくるな」

 

 

赤の王、黒雪姫の順番に兎美に意見する。

 

 

「はあ?バーストリンカーとか関係ないわ。邪魔だから他の所でやれって言ってるのよ!」

 

「なんだと?」

 

「なんだ?」

 

「なによ?」

 

 

今度は3人の間にスパークが見える。

 

 

ハルユキとタクムはおろおろしていたその時だった。

 

 

ひゅん!と何かが音を立てて飛んできた。

 

 

その何かは黒雪姫と兎美の間、赤の王の頭上を通過した。

 

 

 

 

ダン!!

 

 

 

 

直後、何かが壁に刺さる。

 

 

全員がそちらに視線を向けると、なんとそこには。

 

 

 

ノコギリ(・・・・)が刺さっていた。

 

 

 

全員の口が塞がらない様子だったが、直ぐに飛んできたであろうリビングの入り口に振り向いた。

 

 

するとそこには、アイマスクを握り締めた美空が仁王立ちしていた。

 

 

「うるさい...刻むよ...」

 

 

美空の顔は笑顔であったが、目にハイライトが宿っておらず凄く怖い形相だった。

 

 

気のせいか、部屋の温度が下がった気がする。

 

 

『す、すみません...』

 

 

恐怖の余り怒らせた兎美達だけでなく、ハルユキとタクムまでもが謝罪する。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「次やったら殺す...」という恐ろしい言葉を残し、美空は部屋に戻っていき、兎美も邪魔をしないように部屋に戻った。

 

 

大型のダイニングテーブルにハルユキと黒雪姫が隣り合って座り、向かい側で赤の王とタクムが座っている。

 

 

揃ってコーヒー――黒雪姫はブラック、ハルユキとタクムはミルクと砂糖入り、赤の王は殆どミルクだけのカフェオレ――を啜った所で、タクムは如才ない調子で言った。

 

 

「まずはともあれ、自己紹介から始めましょう。ここは、貴女から名乗ってもらうのが筋じゃないかな、《赤の王》」

 

 

じろっとタクムに一瞥くれた女の子は、短く鼻を鳴らしてから口を開いた。

 

 

「ま、いいだろう。そんくらいはサービスしてやるよ。あたしは...ユニコ。コウヅキユニコだ」

 

 

続いてぱちんと指を鳴らすと、ハルユキの視界に真紅のネームタグが浮き上がった。

 

 

ちょっと可愛めのフォントで、【上月由仁子】と表記してある。

 

 

これは、初対面の相手に名前の字面を教える為の名刺のようなものだが、同時に簡易的な身分証明書でもある。

 

 

タグの右下には住基ネットの認証マークが輝き、これを偽造するのはウィザード級のハッカーでも困難なため、タグに記された名前はすなわち《赤の王》の本名であるということになる。

 

 

タグには、名前のほかに生年月日のみが表示されていた。

 

 

2035年12月生まれ、ということは11歳になったばかりだ。

 

 

バーストリンカーの精神年齢が肉体年齢とズレているのはよくあることだが、赤の王――ユニコの場合はすぐに判別しかねるものがあった。

 

 

ハルユキよりずっと大人びている気がするし、歳相応の女の子に見える時もある。

 

 

「ふうん、ユニコちゃんか」

 

 

恐らく、先程兎美が名前を呼ぶ際に言ったニコとは名前から来てるのだろう。

 

 

にこっと笑うタクムを胡散臭そうに見やり、トモコ改めユニコは言った。

 

 

「アンタも名乗りな、《シアン・パイル》」

 

 

その台詞は、赤の王がすでに、レギオン《ネガ・ネビュラス》についてかなりの部分調べ上げている事を意味する。

 

 

タクムもそれを察したのだろう、笑みを皮肉げなものに変えたが、素直に本名を口にした。

 

 

「僕は黛 拓武。よろしく」

 

 

す、と指先を滑らせる仕草。

 

 

赤の王にネームタグを送信したのだろう。

 

 

空中に一瞬凝視したユニコは、次に正面のハルユキに視線を据え、顎をしゃくった。

 

 

「僕の本名はもう知ってるじゃないか。有田春雪」

 

「タグ寄越しな」

 

 

言われ、しぶしぶデスクトップを操作する。

 

 

最後に、3人の視線が、しばし無言を貫いていた黒の王に集まった。

 

 

コーヒーカップから顔を上げ、長い睫毛をゆっくり瞬かせてから。

 

 

「ン?ああ、私か。私は黒雪姫だ。宜しく見知り置け、上月由仁子君」

 

「おいコラ、それ本名じゃねーだろ!!」

 

 

即座にユニコが喚くと、黒雪姫は涼しい顔でぴんと指先を弾いた。

 

 

瞬間、赤の王のみならず、ハルユキの視界にも漆黒のネームタグが浮き上がる。

 

 

【黒雪姫】。

 

 

と明朝フォントで大書されたその右下に、しっかりと住基ネットの認証印が輝いていて、ハルユキはため息と共にぷるぷる首を振った。

 

 

この人だけは、本当に解らない。

 

 

赤の王も、名状しがたい表情でぶすーっと鼻息を漏らしたが、やがて激しく舌打ちした。

 

 

「あーもー、いいよ何でも!姫とか自称する図太い女だってことだけ覚えとくよ!」

 

 

仮にここでユニコが本名を教えろと食い下がった所で、黒雪姫がタグの量子暗号鍵をハックしている以上、次の一枚が本物だという確証は得られない。

 

 

黒雪姫はにやっと笑うと、涼しげな声で嘯いた。

 

 

「《王》と自称するより遥かにかわいいものだろう?」

 

「あ?何...」

 

 

またも2人の間にスパークが流れる。

 

 

「止めてください...またノコギリが飛んできますよ!」

 

『うっ...』

 

 

タクムの言葉を聞き、黒雪姫は体を強張らせ、ユニコは頭を押さえる。

 

 

先程、頭上をノコギリが通過した事がトラウマになったようだ。

 

 

全員してリビングの入り口に視線を向けるが、誰も居なかった。

 

 

『はあ...』

 

 

安心した為か、全員揃って安堵のため息をつく。

 

 

「えーっと、それじゃあ早速本題に。まず赤の王、あなたがどうやってハルのリアルを割ったのか、そこから聞かせてくれませんか?」

 

 

予想外の切り口にきょとんとしてしまってから、ハルユキは遅まきながら息を呑んだ。

 

 

そう――、問題にすべきは、何よりもまずはそこだったのだ。

 

 

赤の王がハトコのトモコちゃんの身分を偽装した方法でも、その目的でもなく。

 

 

《リアル割れ》はバーストリンク最大の禁忌――事はハルユキの、現実世界での身の危険にも直結するのだから。

 

 

判りやすく青ざめるハルユキをちらっと見やり、ユニコは軽く肩をすくめた。

 

 

「んな顔しなくてもいーよ。アンタがシルバー・クロウだってことは、赤のレギオンでもあたししか知らない。これは王の名にかけて誓う。突き止めた方法は...」

 

 

にっ、と唇の端を吊り上げる。

 

 

「ここんちに潜り込んだテクと一緒。ソーシャル・エンジニアリングだよ。しかも、小学生のあたしにしか出来ない方法」

 

「へ...?どういうこと...?」

 

「あんたらの領地が杉並なのは誰でも判る。んで、出現時間の傾向からして中学生だってことも推測できる。そこまではいいよな?」

 

 

《生まれた直後からニューロリンカーを装着していなければならない》という第1条件ゆえに、現在最高齢のバーストリンカーでもまだ16歳にしかなっていない。

 

 

厳密に言えば高校1年生の可能性もあるが、学生ならば大部分が中学生、という推測は成り立つ。

 

 

こくりと頷くと、赤の王も軽く顎を引いて続けた。

 

 

「そこで、だ。あたしは、自分が小学生っつーことを利用して、杉並区内の中学校にかたっぱしから学校見学を申し込んだ。見学者用パスを貰えば、校内ローカルネットに接続できっからな。んで、教師に案内してもらってる間にちょいと《加速》して、マッチングリストを見りゃ...」

 

「――いつかはシルバー・クロウを発見できる、というわけか。ふん、七面倒臭いが理にかなった手段だ」

 

 

少しばかり口惜しげにそう言い、黒雪姫はしかし、と続けた。

 

 

「だが、それでは梅里中の生徒三百人の誰か、とまでしか判らんだろうに。いったいどうやって、このハルユキ君を特定したのだ」

 

 

すると、赤の王はきゅっと唇を結んで、しばし沈黙した。

 

 

そむけた顔から横目でハルユキを睨み、どこか言い訳じみた声を出す。

 

 

「いーか、あたしは別にアンタ自身をどうこう思ってるわけじゃないんだからな。あくまで用があんのはデュエルアバター、もっと言やその背中のピラピラだけだ。

 

――梅里中学校でシルバー・クロウを見つけたあたしは、道路を挟んで校門が見渡せるファミレスの窓際に陣取って、下校する生徒が門から出て来るたびに加速したのさ。

 

マッチングリストにシルバー・クロウが現れた瞬間、校門の境界を跨いでた奴が、このにーちゃんだった時はさすがにちっと吃驚したけどなー」

 

 

いつもだったら軽くグサリときている台詞だが、この時ばかりはその余裕はなかった。

 

 

ハルユキは目を丸くし、何度か口をぱくぱくさせたあと、恐る恐る訊ねた。

 

 

「それ、いったい、バーストポイントどんくらい遣ったの...?」

 

「2百ちょいかな」

 

「に、にひゃく!!」

 

 

ハルユキは叫び、タクムはカップを落っことしかけ、黒雪姫は大きな苦笑いを浮かべた。

 

 

「...なるほどな。つまり、小学生であると同時に、ポイントに余裕がある《王》にしか実行できない方法というわけだ。しかしまあぁ...見上げた執念だな。そんなに惚れちゃったのか、ハルユキ君に」

 

「ちがうっつの!!」

 

 

げしん、とテーブルの下で理不尽にもハルユキのむこうずねを蹴り飛ばし、ユニコは喚いた。

 

 

「言ったろうが!!あたしは中の人じゃなくてもアバターのほうに用があんだよ!!つうか、上手く行ってりゃ今頃こいつを引き抜いて手下にしてたっつうの!!」

 

 

「つまり...」

 

 

微笑みつつも、切れ長の眼に冷静な光を浮かべたタクムが静かな声を発した。

 

 

「その《用》こそが、君が2百ポイントを費やしてハルのリアルを割り、我が身を投じてソーシャル・エンジニアリングを仕掛け、そしてこの会談を望んだ最終的な理由ってわけだよね」

 

 

途端――。

 

 

ユニコの表情から、子供らしさが抜け落ちた。

 

 

細かく結わえた赤毛を揺らし、椅子の背もたれに細い体を預けて、赤の王は低い声で肯(がえ)んじた。

 

 

「そうだ」

 

 

半眼に閉じられた瞼の下から、ダークグリーンの瞳がまっすぐハルユキを射た。

 

 

その圧力は、確かにこの小さな女の子も、黒雪姫と同じく《王》なのだと思わせるに充分なものだった。

 

 

「アンタの背中の翼...《飛行アビリティ》を、たった1度だけ借りたい。《災禍の鎧》を破壊するために」

 

 

「なっ!?おいそれはどういう『バン!!』」

 

 

ことだと叫ぼうとした黒雪姫だったが、いきなりリビングの扉が勢い良く開かれた事により、続きを喋る事が出来なかった。

 

 

なぜならリビングの入り口には、

 

 

 

 

包丁(・・)を握りしめた美空が立って居たからだ。

 

 

 

 

『ああ゛――――――――ッ!!』

 

 

 

 

恐怖の余り、全員が悲鳴を上げた。

 

 

 

その後、全員が土下座して許して貰う事が出来たが、ハルユキが1つ言う事を聞くことになったのは別の話である。

 

 




どうも、ナツ・ドラグニルです!

思いの外、ハピネスチャージの小説の筆が乗らない為にしばらくはアクセル・ワールドとFAIRY TAILの小説を投稿し続けようと思います。


それも去年のゴールデンウィークからトレーニングジムに通い始め、基本土曜日はジムにいる為時間が取れないのが1つと、日曜日は筋肉痛で動けない為に書く気力が湧きません。


恐らくこの小説が投稿してる頃には足が産まれたての子鹿のようにガクガクになっており、階段を降りるのも一苦労になっているでしょう。


ちなみに、5月から始めて7カ月で7キロ痩せました!


さて、リアルの話はここまでで、今回の話はハルユキ、黒雪姫、タクムの話合い、そしてそこにニコを交えた場合の2つの話合いがありました。


二回目の話合いで美空の事を怒らせてしまいましたが…


次回は、今回の話合いで出た『災禍の鎧』について話合いをしていきます。


続きが気になるって方は、リメイクする前のアクセル・ビルドをご覧ください。


まだ、残しているので閲覧できます。


違いはそっちはビルドの世界観の設定が全くなく、さわさんも出てきません


それでは次回、第19話もしくはLOVE TAIL第24話でお会いしましょう!
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